戦艦レ級になりまして。   作:灯火011

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夕闇迫り

 昼飯を食らってしばらく。おっちゃんがなかなか帰ってこないので、掃除が捗ること捗ること。

 

「時間かかってんなぁ。仕方ねぇけど」

 

 ま、こんな女が家に転がり込んでるんだし、そもそも船が沈みかけたって話もするんだろうし、まー、そら終日話し合いはかかるわなぁ。と思いながら手を動かしていると、気が付けばシンクにぶち込んであった油まみれの皿は見事に磨き上げられていた。

 

「うん。ま、こんなもんだろ」

 

 シンクにも小麦粉を吹っかけて、新聞紙でこそぎ落とすこと10分程度。そのあとでクレンザーと中性洗剤で油を落とせば、新品とは言わないけれども見れる状態にはなっていた。これで、食器と調理器具はまぁ、ある程度良しとする。

 というか、良しとしないと粗が目立ってどこまでも仕舞いがつかないんだよなぁ。焦げついた汚れとかはなかなか落ちないし。あとでおっちゃんに重曹と金たわしの新しいのを買ってきてもらうか。

 

「あとは…換気扇回りか、それとも床の片付けか」

 

 じろりと台所を見渡せば、まぁ見たくないものが視界に入る。上を見れば、換気扇回りが油汚れで真っ黒だ。これは、正直小麦粉とかそういうレベルじゃあない。それこそ、重曹やら油用洗剤やら、色々用意しないと苦労するだろうな。

 下を見れば、これまた悲惨な散らかしっぷり。乾いたネギやら、芽の生えたジャガイモ、半分つぶれているカボチャなんかも見える。幸いにして生ごみは定期的に出されているようだけれど、それにしてもなぁ。ただ、こちらは幸いにして片付ければいいので、労力がかかるだけで道具はさほど必要はない。

 

「床の片付けから、だな」

 

 頷いて、早速台所の床へとしゃがみ込む。あー、雑誌がまたこんな場所にぶん投げてあるよ。全く。げ、しかもやっぱり成人向けかい。欲求不満だねぇ。お、こっちは漁の道具のカタログか。ふむ。色々と付箋やらメモが貼られてんな。これは捨てちゃいけない奴だろう。居間に移動させるとしておこう。

 

「うーん」

 

 に、しても本当、乱雑すぎだねぇ。本当に今まで誰とも住んでいなかったのだろうなぁと思う。いやはや、本当、よく匿ってくれたものだ。と、余計な事考えてたら手が止まってら。えーと、ゴミ袋は結構枚数があったから、とりあえず、駄目な野菜とかはこっちに詰め込んで、と。

 

「あー、微妙な奴もあるな」

 

 さっき見つけた芽の出たジャガイモ。しおれてはいるけれど、芽を取ればまだいけそう。カボチャもつぶれているかと思ったけれど、上半分はまだ食えそう。

 

「…いや、こんな微妙な選別してっから乱雑になるんだ。駄目なものは駄目だな」

 

 そこらへんのものもゴミ箱に放り込んでおく。あー、一応は、大丈夫なのもあるか。ならば、それはこっちの袋にいれておいて…と。

 

「ふふふー。これはなかなかやりがいがあるねぇ」

 

 燃えないゴミはこっち、燃える奴はこっち、資源はこっちに、金属や瓶はこっち。そうやって、夢中になって台所の掃除をしていると、気が付けば台所の床は大体があらわになっていた。

 

「にしてもだ、おっちゃん遅くねぇ?」

 

 再び腹は空腹を訴え始め、そして、ふと、窓の外を見てみれば、夜の帳が落ち始めていた。

 

 

 すっかりあたりは暗くなり、気が付けば時計の針は7の数字を差している。うーん、おっちゃんの寄り合いとやらは相当かかっているらしい。

 

「…いや、もしかすると」

 

 寄り合いは終わって、宴会の類で騒いでいるのかもしれないな。船が戻ってきたお祝いとか言って。なんせ、初対面の私とも酒を交わすのだ、この島の人間は。

 

「おっちゃんとか寄り合いしていた連中で、旨いもの喰いながら酒でもやってんのかなー」

 

 見知った顔で酌み交わす酒ってのも、なかなか捨てがたいのは確かだ。私はちょいと苦手だが、それでも、あの雰囲気は眺めていたいと思う。と、まぁ、それはさておきだ。

 

「腹へった、よなぁ」

 

 ひとまず、台所の片付けは終わったので、昼よりは良い食事を作ることは出来るだろう。ただ、食材がない。残りのキャベツ、調味料、小麦粉、しなびた大根、芽がでているけれどかろうじて生きているジャガイモ、奇跡的に腐ってないネギ、あとは袋めんが数個に、古い米が数キロに、乾燥昆布。

 

「おっちゃん、帰ってこないかなー」

 

 なんせ食材は買い出しに行けないわけで。地理にまず詳しくないし、それにこの姿では外に出るわけにもいかんしね。…一応、地図アプリで近くに商店があることは把握しているけれど、いや、やっぱり買い出しは無理だな。

 

「尻尾が邪魔よねぇ」

 

 幸い、なんか顔は整っている。体も結構いいスレンダーボディ。しかし尻尾がいかんせん化け物であると訴えている。まともに人と会話は出来んだろうねー。

 

「…ま、言ってても仕方ねぇか。となれば…」

 

 結局、見つけ出した食材で飯を作るしかあるまいて。それと、ま、ついでに、おっちゃんが酒をかっ食らって買ってくると考えて、腹に優しいもんを作っておくかね。

 

「となれば、まぁ、キャベツと大根、あとは米に調味料あたりで粥にでもすっかなぁ」

 

 うん、とりあえず決めた。それでいこう。腹に優しいお粥を作るとしよう。さてさて、とりあえず米を研いでっと。

 

「ああ、そういえば土鍋あったから、これでいいか」

 

 適当な土鍋に、米を適当にぶち込んで、水を多めに入れて火にかける。ま、30分ぐらいクタクタ煮込めばいい粥になるだろう。で、私の場合はこれにひと手間を加えるわけだ。

 

「キャベツ、あと大根。大きく切って入れてもいいんだけれど、なるべくみじん切りにして、と」

 

 ピーラーでキャベツと大根を薄く切っていく。そして、ある程度の量が出来たところで、それをみじん切りにするために、細かく刃を入れていく。目標としては、米と同じぐらいのサイズになる感じに。

 

「こうすると、食感が統一されて、旨いんだよね」

 

 ただの粥よりも、野菜の甘みとうま味が加わって非常に美味しいのだ。ついでに、昆布もひとかけ入れておこう。ダシ変わりだ。

 

「よーし、このぐらい細かくすりゃいいだろう」

 

 しっかりとみじん切りにされた大根とキャベツを、煮立ち始めた土鍋に投げ入れる。さて、あとは30分ぐらい煮込むだけだ。

 

「さて…暇になっちまったなー」

 

 一人で過ごす家の中。ちょっと寂しいなぁなんて思うけれども、贅沢は言うまいて。ひとまずはそうだ。テレビでもつけて時間を潰すとしようじゃないか。

 

「さーて、今の時間は何をやってんのかなっと」

 

 携帯文化によってテレビが少し衰えた昨今。とはいえ、テレビの番組は面白い事は間違いないわけで、こういう時には一番最適であろうね。まぁ、そうだなぁ…。

 

「そういえば今日は携帯も見ていないし、ニュースでも見てみるか」

 

 こういう時の便利な1チャンネル。ちょうど7時を回った時だ。今日のニュースなんかは間違いなくやっていることだろう。と、思いながらリモコンを操作する。

 

『…やはりあの新生物はゲーム、艦隊これくしょんに出てくる戦艦レ級に酷似しているという話がありますが』

「おっふ」

 

 急に現実に引き戻された感があるわ。今日一日、あんまり考えないようにしていたことが目の前に飛び出してきたわ。正面衝突だよこりゃ。

 

『ええ、そのような話がありますね。ただ、我々としてはそのような情報には惑わされず、新たな枠組みを今現在策定している最中であります』

『新たな枠組み、と申されましたか?』

 

 学者っぽい人と、アナウンサーが対談してらぁよ。しかも、ご丁寧に、私の写真を真ん中においてさ。…この写真、やっぱり、最初に助けた連中が撮った奴だよなぁ。救命具が見覚えあるし。幸いにして顔はそこまではっきりは映っていない。ただ、でっかい尻尾に白い髪の毛、輪郭もばっちり。見る人が見なくても、尻尾のせいで一発で私だと判るだろうねぇ。

 

『ええ、幸いにして今回の接触についての資料は多いです。写真、動画、あとは新生物に救助された人々の衣類についていた皮膚片、髪の毛、あとはおそらく唾液と思われる液体、などの生物学上の資料もいくつか回収されております。現在、解析を進めておりますが、おそらくは現在の生物の分類に属さない存在であることは明らかでしょう』

「ええ…?」

 

 思わず声が出てしまった。写真や動画はまぁ取られていただろうなぁ、と思っていたけれど、皮膚とか髪の毛、その上に唾液まで回収されてるってか。…あー、確かに肩に担いだり、尻尾で引き揚げたりしたもんなぁ。

 

『それでいて、会話も成立している動画もございます。新人類…とは申しませんが、過去に人間と進化のたもとを分けた生物の可能性もありますからね』

『ほー、それはまた夢のある話ですね』

 

 確かに夢あるわ。っていうか、私自身がよくわかってねぇんだけど。うーん、この学者さんに平和的に接触出来たら、よくよく調べてほしいもんだけどな。

 

『そして、この新生物と合わせて、時折観察されている現象についてのお話も…』 

 

 ボケーっとそのままテレビを眺める。なんか結構重要なことを言っているような気もするけれど、頭に入ってこないや。うーむ。というか、そうなるとだ、遺伝子とかも解析されちゃうやつ?なんか、わかんのかなぁ?

 

『―それで、今回乗員を助けた理由などはどのように推測されておりますか?』

『それについてはまだ何も。ただ、シャチ、イルカ、クジラなどといった哺乳類ですね。彼らが人を助けたという話を聞いたこともありますので、そのたぐいの話、という可能性もあります。ただ、現在は敵対行動をとっているわけではありませんので、判断は慎重にせねばならないと考えています』

 

 ほー…そりゃあ有難い話だね。じゃあ、出会っていきなりつかまったりとかはしない、かな?と、その瞬間だ。耳に、カタカタカタカタという音が届いてきた。おっと、そろそろ土鍋が沸騰してきている感じだな。

 

「ふむ。ちょっと気になる話題だけど、ま、腹の虫には変えられないってね」

 

 足早に台所へと移動すると、予想した通り、土鍋のふたから今にも吹きこぼれそうなお粥がいた。いかんいかん。

 

「危ねぇ危ねぇ」

 

 急いでふたを取り外して、お玉でお粥をかき混ぜる。幸いにして焦げ付きはしていないようだ。えーと、香りも結構立っているし、そろそろ完成かな?少しだけ口に含んでみる。

 

「うん…米もいい感じに柔らかいな」

 

 キャベツ、大根もしっかりと日が通って、米と同じ食感だ。ということで、最後に〆のあじしおを適量吹っかけてっと。

 

「よし、完成。あー…戦艦レ級風味、キャベツと大根のおかゆー。なんてな?」

 

 自分で言っててどうなんだ、と顔に苦笑が浮かぶ。ま、テレビでも言われているぐらいだから、自分で名乗っても違和感はないだろう。にしても、戦艦レ級ねぇ。

 

「ま、とはいってもゲームの中のレ級とは違うけどな。人を傷つけるつもりもないし」

 

 なんてったって中身はふつうの人間だからねぇ。うーん、出来れば、どっかに連絡を取りたいけれど…。

 

「…いやはや、変なところに連絡したら間違いなく変な扱い受けるしな。難しい話だわよ」

 

 ま、頭を回すのはここまでにしよう。ひとまずは飯食って、おっちゃんの帰りを待ってからでいいかな。

 

 ただ、戦艦レ級かぁ。

 

「…通販のサイトとか使えっかな?」

 

 せっかくならば、ちょっと、戦艦レ級の格好をしてみようかね?それで、携帯も生きているからショートなんかでちょっとづつ表に…。

 …いや、いや、まてまて。誰も得しないぞそんなの。いかん、テレビを見て変に興奮しちゃってるわ。押しとどまれ、私の心。

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