キヴォトス某所、ブラックマーケット。停学、休学、退学―――様々な理由で学園に居られなくなった者たちが集まる終焉の地、またの名を無法地帯。治外法権まかり通るこの地で生き残るには何が必要か。
金?NO、金だけ腐るほどあってもそれは良いカモである。コネ?それもNO、此処でそんなものがあっても何にもならない。あったところでそれを狙われるだけである、むしろなくていい。では何が必要か?
答えは実に簡単で――――「力」、それに尽きる。
此処で生きるためには何よりも力が必要だ、力づくで交渉し、力づくで奪い、力を見せつけて信用を得る。力さえあれば何でも手に入る、それがこの無法地帯、ブラックマーケットである。
「今日の~獲物は~……んだよただの不良集団じゃん。まあ楽に終わるからいいけど」
時刻は早朝、今日も今日とて収入のために手頃な傭兵依頼を受け、鼻歌を歌いながら目標地点に向かう。確か……あそこだっけ?おーおー見事なまでにわんさかと、牧場かな?まあいいや、仕事は仕事だしさっさと終わらせよう。
「~♪~♪~」
「……おい、何か聞こえねぇか?カンカンうるせぇんだけど」
「さあ?どっかで工事でもやって……いやなんだこの無駄に上手い鼻歌」
「~♪~……あ、褒めてくれてる?嬉しいね、趣味なんだ」
「へぇ、中々じゃねえか……ってなんだお前!?」
「おっと失礼、名乗りが先だったかな?というかこれで気づかないのか」
強者の余裕、とでも言うのだろうか、得物の拳銃を左手の甲にリズムよく叩きつけ、鼻歌を歌いながら不良集団の皆さんにご挨拶。いっつもこれやってるからそろそろ覚えられてもいい筈なんだけど……まあいいか、この調子で仕事をこなして知名度を上げていけば少しは覚えてくれる奴も現れるだろう。とりあえず今は……
「んー、別に名乗るほどの名前でもないっぽし……とりあえず全員倒れてくんない?今月の生活のために」
「は、舐めてんの?倒れるのはそっちだろ、一人しか居ないし」
「そーだそーだ!ヒーローごっこのつもりならぶっ潰してやんよ!」
「おお怖い怖い、でもヒーローごっこじゃないんだよね」
拳銃で手の甲を叩くのをやめ、腰に備え付けていたもう一丁の拳銃をホルスターから抜き、回転させて不良集団向けて構える……割と見栄って大事なんだよね、威圧感があるのとないのって全然違うし。……フードで顔隠してるの、ちょっと威圧感出てるかな?出てるといいなぁ……まぁそれはそれとして。
「生憎雇われの傭兵なんでね、ヒーローじゃなくてアウトローなんだ。というわけでさっさと倒れてくれ、主に僕の時間と金のために」
「倒れるのはそっちだっつってんだろ!」
「如何にも三下っぽい台詞どうも、じゃあ三下っぽく退場してくれ」
「誰が三下ァ!?」
「あっこの馬鹿!単騎で突撃するなっての……!いくぞお前ら!」
正にテンプレと言った感じの台詞を吐きながら向かってきた一人目を頭部へ二発撃ってノックアウト、それをトリガーに残りの皆さんはたった一人に総攻撃……うーん如何にもって感じだねぇ。燃え……はしないけどやる気にはなった、早く終わらせようか。
「たった一人相手に随分と豪勢なことで、ところで有象無象って言葉知ってる?」
「誰が有象無象だ!あたしらはカツカツヘルメット……ごはぁ!?」
「うん、誤射しまくってる奴らのことを有象無象以外なんて呼べばいいんだろうね」
「お前がこっちのど真ん中に来てるからだろうがっ……」
「うん、そうだね。そもそも誤射狙いでわざわざ飛び込んだし。というか一発くらい当ててきなよ、多勢に無勢って言うじゃん?」
「口を開けば煽りやがる……絶対にぶっ潰して身の程わからせてやる……!」
「現在進行形で身の程わからされてる人に言われましても。はいこれ迷惑料の弾丸」
「んな迷惑料いら……な……」
「リーダー!?」
「あら、今のリーダーだったの。乱戦のど真ん中に居るリーダーとは」
開始早々突撃してくる皆さんのど真ん中に飛び込んで誤射を誘っていたらあっさりリーダーらしいのをダウンさせてしまった。それでいいのかカツカツヘルメットなんとか。
「ええいリーダーの仇だ!全力であいつをぶっ潰せ!」
「だから多勢に無勢って言ってんじゃん。たった一人にこの仕打ち、おお怖い怖い。てか仇とは言うけど別に死んでなくない?」
「うるせぇこの煽りカス!」
「失礼な、これでも僕には立派な傭兵名があるんだよ。偽名だけど」
「お前の傭兵名なんざ煽りカスで充分だ!」
「えー酷い、僕の傭兵名そんな安っぽい?煽りカス」
「本当に煽りカスなのか……よ……」
「ちなみに傭兵名煽りカスってのは嘘ね。流石にそんな人間性終わってる奴居ないでしょ常識的に考えて」
「「「お前だ!」」」
「うそーん、僕泣いちゃう」
「どうせウソ泣きだろぉぉぉぉ!?」
「うんそうだね」
「開き直るなぁ!」
「いいでしょ開き直って、どうしようが僕の自由なんだか、らっ!」
「ガハァ!?」
息を吸うように不良集団を煽り散らかしながらグリップで殴って一人気絶させ盾代わりに、あれよこれよと誤射を誘っていたらいつのまにか7割くらい倒れていた。……なんか思ってたより楽だな、これなら弾数を節約できそうだ、今月の生活費少し浮いたかも。
「んじゃ誤射で散々倒れてくれたことだし、最後は僕が終わらせてあげよう。というか今の今まで最初の2発とリーダーさん倒した1発しか撃ってないんだけど真面目に大丈夫?そんなんで不良名乗れる?」
「口を開けば煽りやがって……その余裕ぶち壊してやんよ!」
「いやぁ無理じゃない?」
「だって文字通り余裕だから」
「ふざけ……っ……」
数が減ったのをいいことに囲もうとしてきた残党を拳銃をくるくる回しながら撃ってまとめて銃撃。……おろ、適当に撃った割にはかなり当たったな。今度から囲まれたら使うかこのやり方、お遊びで終わらせるには惜しいな。
「ひぃふぅみぃ……3人?あっれ最初何人だっけ?覚えてないなぁ。まあいいや、とっとと降参してくれると非常に助かるんだよね。主に弾薬費が」
「此処まで舐められて引き下がれるわけねぇだろ!」
「わあテンプレ。ここまで綺麗にやられるといっそ清々しいね。ま、3人くらいなら銃使わなくても充分かな?」
「その舐め腐った面、フードを剥がして拝んでや、るぅ!?」
「悪いね、このフードは接触厳禁なんだ」
拳銃をホルスターにしまい腰に下げていた警棒を右手をスナップさせて展開。馬鹿正直に突っ込んできた一人を質量の暴力でぶん殴ってノックアウト、おー、吹っ飛ばないけど星って出るんだね初めて知った。んでまあ残り……二人?
「あんのバカ……おい!距離取るぞ!」
「わーってるって、流石にあんな舐めプで勝てるわけ……!」
「いや別に使わないとは言ってないけど?」
「は?」
「この……卑怯……者……」
「うん、マジで使わないとは言ってないから信じた君たちが悪いね。こういう時なんていえばいいのかな?あっそうだ思い出した、NDK?NDK?」
警棒を地面に突き刺して距離を取ろうとした最後の二人をホルスターから拳銃を抜いて早撃ち。……これで今日の依頼終わりかな、弾薬は……1マガジン使い切ってないか、ラッキーだいぶ浮いた。
「ふあぁ……帰ろ、ねむ」
地面に思いっきり刺さってしまった警棒を引き抜き、しっかり収納してから死屍累々と化した仕事現場を後にする。前に一回忘れて泣く泣く新しいの購入する羽目になったからこういうのは気を付けないとな……あ、証拠写真撮らなきゃ。
忘れないように死屍累々のカツカツヘルメット何某を撮り、意気揚々と帰路を辿る。……確か報酬金余裕で1か月……いや2か月は乗り切れるぞ、しばらくは寝転んで暮らせそうだ。
「♪~♪~」
思わず鼻歌を歌いながら、後始末など知らないと言わんばかりに僕は報酬金の受け取りに戻ったのであった。
「いちじゅう……おお、太っ腹だなあの人。なんか美味しいもの食べれそう!」
時刻は昼頃、証拠写真を提出して無事報酬金を受け取った僕は封筒の中身を確認しながらしばらくどうしようかと考えていた。たまには休んでしばらくゴロゴロするのもいいよね、とか。評判のために今月あと1~2回くらい依頼を受けておくべきかな、とか。正直ゴロゴロしたいのだが、傭兵という職業は評判と力が全てであり評判が良くなきゃ稼げる仕事も入ってこない。この世界にいつの間にか放り出されて2年、生き残るために傭兵業を営み始めたのはいいが今回がたまたま1~2か月乗り切れるどころかちょっと豪遊しても大丈夫なくらいの報酬だっただけであって普段は1週間乗り切れたらいいなくらいの雑用が主である。そんな現状から早く抜け出すためには依頼をこなして評判を上げるしかないのだ……まあこれからのことはこれから考えよう、最悪便利屋の皆にタカ……話しにいけばいいし。
「よし、なんか美味しいもの食べにいこう……思いつかないけど」
思えばこの2年間栄養食品と水が殆どで食事らしい食事を殆ど食べてない気がする。たまには人間らしさを取り戻してもいいんじゃないかと自分に言い聞かせながら飲食店を漁ろうと……ん?
「……なーんか不良共が走って行ってるなぁ、嫌な……いや、仕事の気配」
ブラックマーケットで不良が走って集まるときというのは基本的に何か騒動が起こっているときである。そういう時は大抵騒動の中心になっている人物が居るはずで、助けたりすればお礼を貰えるかもしれない……じゃなくて、これは評判を上げるため、うん、今後の為なんだ、決して目先の利益に目が眩んだ訳じゃないんだ。
「行ってみるかぁ……おん?」
少し近づいてみればどうもブラックマーケットの外から来た生徒御一行と……なんだあいつ、明らかに生徒でもブラックマーケットの住民でもなさそうな奴が不良共に囲まれていた。……これはブラックマーケットの外にコネを作るチャンスでは?
そうと決まれば話は早い、僕は早朝やったように鼻歌を歌いながら左手の甲に拳銃を叩きつけて不良共の背後に近づく。
「……あ?なんだこの鼻歌?」
「親玉登場……って訳じゃなさそうだねぇ、なんかあいつら困惑してるし」
『不良集団の後ろから誰かが来ていますが……』
おー、流石に不良共の仲間とは思われなかったか、まずは第一段階クリア。
「其処の来訪者諸君、手助け兼道案内は必要かい?」
「実は欲しい」
「こんな状況で何言ってんの先生!?」
せんせい、先生。なるほど、あの生徒っぽくない奴は先生というのか。こっちに来てから名前すら聞いたことないからこの世界に先生という職業は無いものだと思ってたぞ。まあいいか。
「じゃあ初回サービスで格安で助けてあげよう!後払いは認めないぞ!」
「幾ら?」
「んー、5000円とかでいいよ?僕は金にがめつい訳じゃないし」
「やっす!?」
「ええい何呑気に話してんだ!お前らやっちま……え……」
「人が仕事の話してるのに口挟まないでくれる?純粋に邪魔なんだけど」
「……腕前は充分そう」
「うん、決まり。君の名前は?」
口を挟んできた不良を弾丸で黙らせ、先生とやらとの契約をひとまずは口約束で終わらせる。あー……名前、どうしよ。初対面に本名名乗るわけにも……うん、傭兵名でいっか。
「流石に本名は明かせないので傭兵名で「隙だらけだぞおまっ……」誰が隙だらけだって?お前らの方が隙だらけだよ……で、名前だったね」
「僕はメアリー、傭兵メアリーさ、本名も顔も見せれなくて悪いけど契約した以上しっかり仕事はこなすから、信用してくれると嬉しいね」
「……どうしよう、なんかあいつすっげぇ胡散臭いんだけど」
「まぁ悪い子には見えないしいいんじゃない?」
『今はとにかく戦力が足りません、四の五の言っている場合ではなさそうです……!』
「……うん、よろしくねメアリー」
「……あれぇ想像以上に胡散臭いって思われてる?」
どうもファーストコンタクトの印象はそこまで良くなかったらしい、どうしよう。
気が向いたら続きます。