光莉と灯莉が教室に着くと、既に他のクラスメートが集まっていた。皆、自然教室の為に大荷物であった。
行き先は千葉の海岸近くであり、その付近の山等が自然教室の舞台である。期間は三泊四日。
席が隣同士の光莉と灯莉が席に着くと、一人の男子生徒がやって来た。
「何だ何だ、夫婦で登校か?」
「慎太郎! 朝から変な事言わないでよ!」
声をかけてきたのは、半村 慎太郎。光莉と灯莉とは小学三年からの友人である。
「だって一緒に住んでいるんだろ?」
「それは灯莉のお父さんから頼まれたからだよ」
「親公認の同棲か!?」
「何でそうなるんだ!?」
光莉と慎太郎が話していると、更に男子生徒が二人やって来た。
「啓介、悟。慎太郎が朝から揶揄ってくるよ…」
うんざりした様子で、その二人に述べる。
「慎太郎。あんまり光莉と灯莉を揶揄うなよ」
落ち着いた口調で言ったのは、篠田 啓介。
「でも二人共、凄く仲が良いよね」
そう言ったのは、飯島 悟。
「そりゃ、僕と灯莉は幼馴染だからね」
と、光莉が笑顔で返すと…
「プラス許嫁じゃないのか?」
と、慎太郎が再び揶揄う。
「慎太郎!」
怒った光莉が、教室内で慎太郎を追いかけ回す。
その様子を灯莉は苦笑しながら見ていると、肩を叩く存在に気付き振り返る。其処には二人の女子生徒が立っていた。
「灯莉! また旦那さんが揶揄われているね♪」
「ちょ、桃華!」
灯莉を揶揄う、可愛らしい女の子。名前は篠原 桃華。
「桃華。そういうのは二人だけの関係だから、あまり口に出さない方が良い」
「…理亜…それってフォローになってないよ?」
眼鏡を掛けた真面目な口調の女の子、相良 理亜。
二人は灯莉の親友である。
「でもさぁ灯莉…光莉君には告白したの?」
桃華が尋ねる。桃華と理亜は、灯莉が光莉の事が好きなのを知っている。
「…してないよ…」
顔を少し赤くしながら、目を逸らす灯莉。
「この自然教室でしたらどうだ?」
理亜が提案する。
「…その内に…」
そうとしか答えられなかった。
久遠 光莉
音神 灯莉
半村 慎太郎
篠田 啓介
飯島 悟
篠原 桃華
相良 理亜
この七人は、自然教室の班であった。そしてやがてこの世界を救う者達を司る存在であるが、この時はまだ知らない。
※ ※
光莉と灯莉達のクラスを乗せたバスは、自然教室の目的地を目指して、高速道路を走っていく。
バスの中はお祭り騒ぎと思わせる程に、賑わいを見せていた。
そんな中光莉は、窓際の席に座り、その隣では灯莉が桃華と話していた。
「……」
光莉は窓の外の景色を見ていた。
「光莉君?」
「んっ? どうしたの?」
何時の間にか桃華は居なくなり、灯莉が話しかけてきた。
「何かボッ―としてたけど…何か考えていたの?」
灯莉に尋ねられて、光莉は少し考えてから答える。
「んとね…今日見た夢の事なんだ…」
「あの夢? 何か気になるの? 何時もと見ていたのが違うから?」
「それもそうだけど…何か言い知れぬ不安みたいなモノがあって…」
「それってどういう…」
灯莉が尋ねようとした時…
「おい見ろよ! 海だぜ! 海!」
クラスの男子の声に、クラスメート全員が光莉達が座っている側の窓を見た。すると窓の外の景色には、海が広がっていた。
目的地が近い事に、クラス中のテンションは最高潮に達する。
「ほら光莉君! 海の景色でも見て、不安な気持ちを吹き飛ばそう!」
灯莉が笑顔を見せながら、光莉に告げる。
「…そうだね」
光莉は灯莉に笑顔でそう答えた…しかし光莉は本心では、海を見た事により、何故か更に不安な気持ちに襲われたのであった。
※ ※
その存在は微睡みを感じながら、何かの感情を感じ取った。それは『不安』という感情であった。
久遠とも言える時間を過ごしながら、初めて感じた感情だった。
その存在は海の中を漂いながら、確実的にその感情を発した存在の居る方へと、静かに移動していった。