システィーナ=フィーベル誕生日(12月24日)記念SS

禁忌教典24巻よりも後の話になります。
(本編完結おめでとうございます)

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ファンタジア文庫仕様の縦書き組版は支部においてあります。
こちらは横書きで。

白猫、誕生日おめでとう。


二度目の聖夜祭と、誕生日と。

 

 

 聖暦1854年、グラムの月、24日。

 世間はイエル=エリサレス生誕日の前夜祭――聖夜祭(ノエル)ムード一色に染まり、恋人がいる者は今宵やってくるであろう一夜の甘いひとときに期待し、そうでない者たちも友人や家族と過ごすノエルパーティやプレゼント交換を楽しみにしながらこの日を迎えた。

 そんな中でも、他の誰よりも今日がやってくるのを待ち望んでいたのは、ほかでもないシスティーナだろう。

 

 放課後。

 システィーナは教卓に広げた教材のお片付けをしている彼の姿を、少し腰が引けた様子で眺めていた。

 グレンにちょっとしたお願いがある……のだが、このロクでなし相手に下手に出れば、どんなロクでもない態度を取られるかわかったものじゃなく、どう声をかけようかと悩んでいたのだ。

 そんなシスティーナの様子に気づいて、グレンがにまにまとニヤけた面を向けてきた。

 

「どうした白猫、そんなにそわそわして。もしやアレか? サンタニコラウスのプレゼントでも期待してんのか? お前もまだまだガキんちょだなぁ」

「違いますよ! そうじゃくて。……その、ほら、去年」

「去年? ああ、そういやメルガリウスへ行く前、聖夜祭(ノエル)パーティで俺を鼓舞してくれたっけか」

 

 去年のグラムの月24日。

 世界に最悪の混沌と厄災が降りかかるなか、グレンがたった一人で重荷を背負って戦へと出ようとしたとき、ノエルパーティという建前でクラスメイトやグレンの盟友たちと共に、グレンを勇気づけるための催しを開いたことがあった。

 グレンは一人ではないのだと。システィーナやルミアをはじめ、みんながグレンのそばにいるのだと、その気持ちを使えたくて企画したものだ。

 

「あん時のことは……そうだな。正直、マジで嬉しかった。感謝してるぜ」

(……う。普段スれてるくせに、こんなときだけ素直になるんだから)

 

 珍しく真面目な顔で礼を言うグレンに、システィーナはつい頬を染める。

 ロクでなしだろうがなんだろうが、優しいところも真面目なところももカッコいいところも、誰よりもずっとそばで見てきて知っている。

 やっぱり私、先生のこと大好きなんだな……。なんて思いながら。

 

「顔赤いけど風邪か?」

「違うわよ!」

「おーいお前らー、風を束ね統べる女王サマが風邪ひいたってよー!」

「だから風邪なんてひいてないわよおバカ!!」

 

 ところがやっぱりグレンはこれだ。

 鈍感とかそういうレベルじゃない。

 おバカなのか? おバカなのだろう。

 

「だったらなんだってんだよ。今年もどうせこの後、クラスの連中とノエルパーティやるんだろ?」

「そのつもりなんだけど……。実は、今年こそ祝ってほしいことがあって」

 

 システィーナがグレンに頼みたいことというのが、それだ。

 本題に入ろうとしてがんばって切り出せば、グレンはまったく見当違いな言葉を返してくる。

 

「イエル=エリサレスの生誕祭を祝えってか?」

「……はい?」

「言っとくが俺は別にエリサレス教徒ってわけじゃねえし、お前も『神様』とかそういうの信じてねえだろ?」

 

 確かにシスティーナは、この世界の普通の人々が『神様』と崇拝する類いの存在を信じていない。

 フィーベル家はアルザーノ帝国が成立するよりも遥か古代から途切れることなく続いてきた伝統ある魔術師の家柄だし、ここフェジテを領地とする上級貴族家でもあるので、一応は国教のエリサレス教新教(帝国国教会)の信徒ということになっている。

 しかし、システィーナはごくたまーに気分転換というかお散歩気分で出かけたついでで教会へ行くことがある程度で、これといってイエル=エリサレスという神に誓いを立てているわけではない。

 それにシスティーナといえば、アレである。

 

「ええ、イエル=エリサレスなんて神は存在しないわ。そんなもの人間が都合よく作り出しただけ。そもそも古代魔法文明では――(中略)――が――(中略)――だから――(中略)――で――(中略)――とされているの。それは――(中略)――が――(中略)――で――(中略)――によって――(中略)――の風皇翠将だったシルヴィーサ=フィーベルさんが私のご先祖さまだから、――(中略)――で――(中略)――ってことなのよ! とするならば――(中略)――が――(中略)――ってことなんだから、すなわち私こそが外宇宙の邪悪な神どもを超越せし存在、風を束ね統べる女皇(じょうおう)! つまり私が神だッ!!」

「ああそうすか」

「鼻ほじるな汚いじゃない!」

 

 小指で右鼻をほじほじするグレンの実にどうでも良さげな態度。

 まあ暴走しているときのシスティーナの話はだいたいどうでもいい内容だから仕方がない。

 

「要するに白猫。偽の神イエル=エリサレスじゃなく、真に神域へ到達した自分を神として崇め祀って祝いなさいってか?」

「そ、そうじゃなくて……」

「一応忠告しとくが人前でんなこと言うなよ? お前も一応アルザーノ=レザリア大帝国の上級貴族サマだろ。カノン派の狂信者に燃やされちまうぞ」

 

 アルザーノ帝国とレザリア王国が統一され同じ国家となって半年以上が経ち、既に国民の往来も盛んになった。

 旧教カノン派の影響力はすっかり薄れてしまったが、それでもマリアのような熱心な信徒がいなくなったわけではないし、元々過激だった教信者たちは新教(帝国国教会)をさらに敵視し先鋭化している。

 それゆえの忠告ではあったのだろうが、今のシスティーナは人の身にて神域に到達してしまった正真正銘ホンモノの『風の女神さま』とでも言うべき存在だ。

 

「……私やルミア、ナムルスに勝てる存在なんて、先生以外にいるのかしら」

「できて当たり前じゃないですか~みたいな顔して完全無詠唱で神の力を振るってくるようになったお前に勝つ方法がわからねえ。そうかやっぱりお前が神か」

「そうよ。私が神よ」

「俺はしょぼい人間なんで、それじゃこの辺で」

 

 相手をするのがめんどくさくなったのか、左腕に教材を抱えて右手をふりふり。

 グレンは華麗に立ち去ろうとする。

 

「ちょっとなんで帰っちゃおうとしてるんですか! その、話が変に逸れたのは私も悪かったですけど、まだ本題が終わってないんですけど」

 

 さすがに余計な方向に話が行き過ぎた

 ちょっと反省しつつも、逃げられてしまうのは困る。

 システィーナが慌てて引き止めると、グレンがつまらなそうに肩をすくめた。

 

「だからアレだろ? 『私が神様だから崇め祝いなさい』ってことだろ?」

「だからそうじゃなくて」

「つうかなんでイエル=エリサレスの聖夜祭にお前を祝わなきゃなんねえんだ? 祝うとしたら、お前が神域に到達した日か誕生日……」

「…………」

 

 そこまで言って、グレンの動きがぴたりと固まる。

 やっと気づきました? ていうか気づくの遅くない?? けっこう長い付き合いなのに???

 システィーナは呆れながらグレンを睨む。

 

「……え、白猫、まさかお前、今日誕生日?」

「職員室の先生の机に置いてある3年次生2組の生徒台帳にも、私の誕生日、書いてあるはずですよね?」

「そ、そんなもん職員室にあったっけ?」

「住所・氏名・身分・生年月日・家族構成に、経歴・成績・魔力値その他諸々、個人情報がたっぷり書いてあるのあるでしょ!」

 

 自分が受け持つ生徒の詳細な情報をぱっと見て確認することができる生徒台帳は、職員室の各担任の席に置かれている。

 当然そこにはシスティーナ=フィーベルがグラムの月の24日生まれであるという情報も乗っているのだが。

 

「あー、そういや試験とか魔術祭典の選抜とかのときに、それっぽい帳面に記録付けてたっけか」

「うーっ。もう二年近く付き合いあるのに」

 

 いまの今まで自分の誕生日が知られていなかったことにショックを受け、システィーナは頬をふすーっと膨らませて拗ねる。

 先生のおバカ。ルミアの誕生日はちゃんとプレゼント用意してたくせに……。

 せっかくの誕生日なのに、気分はとにかくしょんぼりだった。

 

「てことは、だ」

「なんですか?」

「去年の聖夜祭も、お前の誕生日だった――ってことだよな?」

「そりゃ私の誕生日は移動しないですから」

「白猫お前、本当なら自分が盛大に祝われるはずの日に、それを我慢して、俺のためにあんなパーティ企画してくれて、あんなすごいプレゼントをくれたって……?」

「ま、そういうことになりますね」

 

 だから、今年こそは祝ってほしかった。

 別に、なにか高価なプレゼントが欲しいってわけじゃない。

 フェジテで最も格式高いホテルのレストランで最高級のシャンパンを開けてくれと求めているわけじゃない。

 サプライズ的なイベントを大々的に開催してほしいわけでもない。

 ささやかでいいから、自分の誕生日を祝ってほしかった。

 

「…………」

「…………」

 

 グレンが引き攣った表情を浮かべながら黙り込む。

 じわりじわりと額や頬に汗が染み出してきて、それが流れ落ちた瞬間。

 

「そーいや期末の採点が溜まってたっけな! じゃあ白猫、グレン=レーダス大先生神様は仕事が忙しいから先に帰るぜ!! はっはっはっは!!!」

 

 脱兎のごとくグレンは教室から逃亡を図った。

 

「この、ロクでなしのおバカぁああぁあっ!!」

「ぎゃああああぁぁぁぁああぁあぁぁあ!! 無詠唱で【CLOAK OF WIND(風天神秘 クローク・オブ・ウインド)】ぶっ放してくるんじゃねええええぇぇぇ!!!」

 

 

 

 ――と、まあ、なんだかんだでその夜。

 ルミア主催で開かれた3年次生2組の聖夜祭パーティで、グレンはそっとシスティーナへのプレゼントを差し出した。

 それは、翠玉色をした小さな石が埋め込まれた、白銀の指輪。

 今日が彼女の誕生日と知って、放課後に慌ててブラックマーケットへ買いに走って見つけてきたもの。

 ホンモノの翡翠かどうかも、ホンモノの白銀かどうかもわからない、アヤシイもの。

 子供でもお小遣いを貯めれば買えてしまう程度の、ささやかなもの。

 

 それでも。

 いや、そうやって必死になってくれたことが、嬉しくて。

 システィーナは涙を零しながら、精一杯の笑顔をグレンに向けた。

 

「ありがとう。私の大好きな先生」

「ああ」

 

 

 

   Happy birthday, Sistine Fibel

   1854/12/24

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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