アサルトリリィ「船田怒編 -The Lily Hills-」 作:アイナll
その日、甲州は一夜にして激戦区となった。
「ここが山梨か〜!」
背後の丸窓から外の景色を眺める。
私、
「まずは甲斐聖山女子高等学校へ挨拶に行きますよ」
そんな私と愉快な友達は今、甲州へ合宿に来ています。
中等部3年の私たちと引率の高等部1年生の先輩が若干名の14人。
「甲斐聖山女子ってどんなガーデンなの?」
「見たことは無いけど、ディフェンスとカウンターに優れたガーデンらしいよ」
ガンシップでの移動中、私の質問に同級生でクラスメイトの
「そーなんだ。カウンターか…私は無理そ」
「ははっ!怒は、『攻撃ー!突貫ー!』って感じだもんね」
「そこまで愚直じゃないよー!」
なんかバカにされた気がする。
「う〜ん、ソラの言葉に付け足すなら、かつてはヘリオスフィアとテスタメントの専門教育で名を馳せた甲州きっての名門ガーデンだよ。戦法としては盾型CHARMを持つ“タンク”が攻撃を受け、マギを溜め、味方に分配して攻撃する感じだね」
「守備と戦術の専門家ということですね。お姉様」
「あぁそうだよ夢結。君は偉いね」
「解説ありがとうございます夢結、美鈴様」
対面に座る2人、
シュッツエンゲルとは百合ヶ丘の特殊な風習で、上級生と下級生が結ぶ擬似姉妹制度。御台場にも血誓という似た制度があるが、そこまでベタベタはしない。…はず。多分。そうだよね?治?
『着陸態勢に入ります。みなさん、振動に注意して下さい』
操縦士のアナウンスから程なく、静かな振動でガンシップが着陸した。
「ありがとうございます。帰りの時もよろしくお願いします」
『了解しました。皆さん、合宿頑張って下さい』
無事私達を送り届けたガンシップは百合ヶ丘へ帰って行った。
「ようこそ甲斐聖山女子へ。私は案内役を任されました、
校門に移動すると1人のリリィが待っていた。
マーチングバンドを思わせる華やかな制服に、髪を結んでいる大きな白いリボンが特徴なおっとりした人だった。
「お世話になります。私は今合宿のリーダーを務める、百合ヶ丘女学院高等部1年
「ご丁寧にありがとうございます。皆さん、こちらへ」
千香瑠さんによる丁寧な案内で甲斐聖山を見学する。
私としてはやはり戦法が参考になる。ヘリオスフィアとテスタメントの専門教育とだけあって“守備”に関しては穴がない。ありとあらゆる敵と状況を想定した防衛姿勢は見習わなければいけない。
「では、こちらの旧校舎を使って下さい。設備としては新校舎と遜色無いので十分な訓練ができると思います。何かあれば気軽に言って下さいね」
「ありがとうございます」
校内をぐるり一周案内されて着いたのは少し離れた場所にある旧校舎。
数年前に設備強化のために新校舎を建てたのだが、旧校舎の設備としてはまだまだ現役の物が多い。強いて問題点を挙げるとしたら端の部屋が稼働休止しているので暗くて不気味という点くらいで、甲斐聖山のリリィも時々訓練に使用していることもあり機械は問題なく稼働する。
「さて、今回の合宿だが、やることは大きく3つ。1つ目は各々の地力強化、2つ目はノインヴェルト戦術の訓練、3つ目は新戦術の実験だ。ここにいるメンバーは私が選んだ、中等部でも頭一つ抜けている“実力者”だ。ハードな訓練だが、皆なら着いて来れると信じている」
半日が過ぎた頃、ようやく私たちの訓練が始まった。
射撃や走り込みのような基礎訓練はもちろんのこと、仮想戦闘シュミレーターを使用したより実戦に重きを置いたトレーニングもしている。甲斐聖山は防御が長けているとだけあり、仮想ヒュージはどれも攻撃的なものが多かった。まぁ、私の敵ではないけど。
「さて。そろそろ互いの動き方が分かってきたので、このメンバーをレギオンと想定し本格的な訓練に入る。各員はこれから言うポジションについてもらう」
訓練を始めて一週間が過ぎた。それまでは各々の地力を測る訓練だったが、全員お眼鏡にかなったのか合宿の真の目的「可変フォーメーションでのノインヴェルト」の訓練に入った。
可変フォーメーションとは攻撃時・防御時でそれぞれのフォーメーションを変更し、臨機応変に戦うフォーメーションのこと。これにはほぼ全員が複数のポジションに対応しなければならないため、実現は難しい机上の空論となっていた戦術。
「それでは、まずAZを担うのは『ブーーーーーーッ』…ヒュージ警報か。甲斐聖山のリリィが対応するだろうが…万一ということも考えられる…。この話は一旦置いて、いつでも出撃できるように待機しよう」
…“今”になってはこの時が運命の分岐点だと思う。
もし、ここで待機ではなく甲斐聖山のリリィと合流していれば、あるいは…
『百合ヶ丘のみなさん!』
待機していた私たちに一通の連絡が届いた。
その鬼気迫る一声で事態の重大さを知るには十分だった。
『現在、甲州を中心に大ケイブ発生。私たちで防衛にあたっていますが…もう…。どうか、みなさんの力をお貸し下さいっ!』
隊長が危惧していた通り、事態は予想以上に深刻らしい。
「…分かりました。百合ヶ丘には私から伝えます。幸いここにいるのは中等部でも骨のあるリリィ、そちらの指示に従います」
『ありがとうございます!みなさんには、市民の避難をお願いします!』
合宿のリーダー林薫様は、即時にガーデンに事態を報告。
私達は中等部でありながら仮レギオン「アールヴヘイム」となった。
「っ!これは…」
CHARMを持ち各自戦場に飛び出した。
戦場は既に劣勢だった。
「エリアディフェンスが機能してない?!」
「甲斐聖山のリリィの救援要請も次々と来ている」
「……よし、我々アールヴヘイムは2チームに分かれる。Aチームはリリィの救援、Bチームは避難民の誘導と退路の確保だ。行くぞッ!!」
私、梅、天葉、依奈、夢結、美鈴様はBチームとなり、2人組で各地へ散り避難民の救助を行なった。私の相方は梅。
「怒!そっち行ったゾ!」
「任せて!」
私たちの仕事はヒュージの殲滅より市民の救助。梅の縮地による高速移動でヒュージを撹乱し、動きが止まった一瞬に私が斬る。
「…サーチャーに反応なし。みなさん、こっちです!…梅!」
「あぁ。先に見てくるッ!」
住宅街に取り残された人、逃げ遅れた人、約10名ほどを連れて避難場所へ向かう。
現地の人たちに地形について聞き、なるべく戦闘回数を減らして行く。
無事届けられたらまた救助へ向かう。
「夢結、美鈴様。橋の方へ遊びに出かけた子供2名が戻ってきてないそうです。見に行ってもらえませんか」
『分かったわ。行きましょうお姉様』『避難民は怒、梅』
避難させた人、おそらく母親だろう。子供の情報を聞き、最も近いリリィを向かわせた。
スモール級は1人、ラージ級は2人、それ以上と出くわした時には足を削ぎその隙に撤退する。
避難民の発見、救助をしつつ、斬れるヒュージは斬り甲斐聖山のリリィを援助する。
「百合ヶ丘のリリィです!救援で参りました!」
入ったのは小さな町役所。電気を切り、カーテンを閉めて息を潜めるように隠れていた。
救助リストに載っていた場所なのだが…誰も出てこない。警戒しているのか?
「甲斐聖山のリリィです!みなさん、もう大丈夫です!」
「…ほんとだ…みんな、リリィが来てくれたぞ!」
1人のおじちゃんが棒を持って顔を覗かせる。そのリリィを見て、おじちゃんの不安な表情は一気に晴れた。
「芹沢さん…」
「千香瑠でいいわよ。それより、こっちは任せて」
私の後から入ってきたのは校内案内をしてくれた子だった。まるでチアガールのような甲斐聖山の制服を見てあのおじちゃんや避難民達は笑顔になったのだ。
その場は千香瑠に任せて、私達はAチームへ合流することにした。
「あれは、ギガント級?!」
「相手は大ケイブよ。ギガント級がいてもおかしくないわ」
「
私と梅、天葉と依奈が合流した。これで12人。ギガント級相手にノインヴェルト戦術するには十分だ。
隊長が打ち出したノインヴェルトの魔法球は副隊長、冬佳、
「任せたゾ!ソラ!」
「任されたよっ!」
梅からBZにいる天葉へパスが出され、フィニッシュショットがヒュージを貫く。
「よし。アールヴヘイムはこのままヒュージを撃退し、撤退の手助けをする!」
「了解」
甲州を縦横無尽に飛び跳ね、ヒュージを片っ端から片づける。私達が足止めできた時間分、甲斐聖山のリリィが動きやすくなる。厄介な特型は全て引き受けた。
あれから1時間ほど経ち…
「変だな…」
ヒュージの数も僅かだが減り、民間人のほとんどが避難完了した頃。隊長はふと口に出した。続けて、
「あの夢結、美鈴からの連絡が全く来ない」
はっ!とした。あの時分かれたっきり2人からの連絡が途絶えたのだ。美鈴様に関しては優秀なリリィと聞く。そんな彼女が何の合図も出さないことが不可解だった。
「怒、美鈴達が向かった場所は分かるな?」
「はい!なんとなく!」
「よし。探すぞ」
美鈴様と夢結が向かった場所へ向かう。
「こ、これは…何があった!?」
「夢結!!」
捜索を頼まれていた子達が避難していたのは知っていた。その子がリリィを見たと言う場所の周辺を探した。
目の当たりにした現実は何とも言い難いものだった。
「・・・」
彼女は地面に座り込み、全身から力は抜け失意のどん底にいた。
「隊長、これは流石に…」
「あぁ。一度撤退して態勢を立て直そう」
梅が夢結を背負う。念の為、美鈴様を探すべく
拠点では病室を一部屋借り、夢結はそこで横になった。そうとう魘されており、彼女がここまで精神ダメージを負うとはどんな戦況だったのだろう。
美鈴様の捜索に残ったメンバーも戻ってきており、夢結のCHARM ダインスレイフは発見・回収できたものの美鈴様は見つからなかったと言う。
ダインスレイフにも不可解な点が多く、ヒュージと人の血が付着している、契約者が美鈴様になっている、その他にも色々。工廠科が見ればもっとあるだろう。
幸いにも同時期にヒュージの進行が一旦止んだ。警戒を解くことはできないが、少しの間休む事ができた。
夢結は目を覚ました。が、彼女が部屋から出る事はなかった。
川添美鈴様は、戦死した。
様々な状況証拠から『白井夢結が暴走し川添美鈴を刺した。』としか言えない状況となった。
リリィは、
ただでさえ芳しくない状況なのに、仲間を殺しかねない不確定要素を容易に受け入れる事はできなかった。
「さて、状況を整理しましょう」
甲斐聖山の会議室にそれぞれのレギオンのリーダーが集められていた。
長いテーブルに甲州を中心としたマップが広がり、この場をまとめる甲斐聖山の生徒会長
「まず、ここが大ケイブだ。その周囲に細々としたケイブがある」
地図上に大きな赤いバツが書かれていた。その他にも周囲に細々とした赤いバツもある。
「幸いにも住民の避難誘導は大方完了した。私としては撤退を支持したい」
ザワ…ザワ…
室内が騒めく。
「どうしてですか!敵の本拠地が分かっているなら攻めるべきです!」
中等部予備隊に所属する
彼女が言っている事は間違いではない。だが、
「これを見ても同じ事を言うのか?」
佳寧様は窓の外を指差す。そこには消耗したリリィ、傷まみれのCHARM、そして中等部であり危険な戦場へ送らねばならない現状を指していた。
「今では戦えないリリィも多い。一度撤退し、再起をかけるべきだ」
「私は、このガーデンを、この地をヒュージに一時でも渡したくありません!私達は、最期まで戦いますっ!」
花音達は部屋を出ていった。どのような状況でも彼女達の目は死んでいなかった。彼女達の目が黒い内はこの地が真に陥落する事はないだろう。
「ふぅ〜。…損な役回りだな。生徒会長というものは」
アールヴヘイムと数名が残る会議室で、佳寧様は椅子の背にもたれ肩の力を抜く。
誰だって自分の住む町を守りたい。ヒュージに汚させたくない。リリィなら誰だってそう思っている。生徒会長だろうとこの気持ちは変わらない。だが、戦いたい反面、生徒会長はリリィを護らなければいけない。
生徒会長だからこそ、誰もが反対すると分かっていても判断しなければいけないのだ。
「…この会議を見せるために集めたのか?我々
この会議に集められたのはレギオンや予備隊のリーダーばかり。それに対して我々アールヴヘイムは全員集められていた。
「ここに大ケイブがある。…あるが…今の甲斐聖山ではとても倒せない。我々、聖山四柱としてはこのケイブをアールヴヘイムに任せたいと思っている」
甲斐聖山の弱点。防御・カウンターに特化するあまり、決定打を打ち出す事ができない。攻め込む事ができないのだ。
それに対して我々アールヴヘイムは攻撃に特化したレギオンと言って間違いないだろう。しかし…
「ただ、現状判明しているのは位置“のみ”。どんな親玉ヒュージが何体いるのか。規模も危険性も何も分かっていない。現状、百合ヶ丘の連絡がつかい状況だ。判断は、君たちに任せたい」
「少し持ち帰らせてもらう。答えはまた改めて」
「攻め込むべきだよ!」
「・・・」
アールヴヘイム全員が四角のテーブルを囲み議論する。
天葉を始めとする私達アタッカーは進行を推した。
しかし、隊長・副隊長達は撤退を支持した。
「今攻め込めば、解放出来ずともヒュージの進行を抑えられます!」
「私は、このまま進行するのは危険だと思う」
天野 天葉と竹腰 千華が意見をぶつけ合う。
もう十分以上こも状態が続いている。
「隊長達は何を恐れているのですか?敵本陣が割れ、我々は士気・戦力共に十分あります。それなのに、何を尻込みしているのですか」
「川添美鈴を死なせてしまった」
「っ…」
進行派はその一言で口が閉じた。
全員の記憶にも新しい事実。それだけに全員が“何を言いたいか”を理解した。
「戦うべきよ…!お姉様の仇が!そこにいるのだからッ!!」
そして美鈴様のシルト、白井夢結の姿が想像できる未来の自分に重なってしまう。
合宿が始まった時はリリィとして身だしなみを整えて凛としていた彼女は、まるで落ちた椿のようにぐちゃぐちゃになっていた。激しく煮えたぎる情動に衰弱しきった体が追いついていないのだ。
今だって、梅が軽く押さえるだけで動きが止まってしまう。
「薫様っ!私にお姉様の仇をとらせてくださいッ!!」
抑えられてもなお、くまのできた刃のような眼光で隊長を睨む。
「…アールヴヘイムは撤退案を支持する」
たった一言残して隊長は会議室を後にした。室内には夢結の涙と悲痛な叫びが響き渡っていた。
「怒は、へーきカ?」
「梅…」
その晩。妙に眠れず夜風に当たっていたところに、ルームメイトの吉村・Thi・梅が水を持ってきた。
「へーき…ねぇ…」
梅は避難誘導が完了してからずっと夢結につきっきりだ。明るく気丈に振る舞う彼女にも来るものがあるのだろう。
「私、初等部最後の年に死にかけたの。知ってる?」
「まぁ…話には」
「その時、最悪な未来が見えたの。ファンタズムみたいに。大切な人たちが次々と死んでいく1つの可能性。けど、そうなり得る未来」
「怒はその時どうしたんダ?」
「戦ったよ。それ以外に選択肢が無かったから」
もしあの時逃げていれば、姉様達がどうなっていたことか…。
「…今の夢結はあの時の私と同じだと思う。夢結には私達が死ぬ未来でも見えてるのかな。だから未来に争おうと戦うのかも」
「未来に争うカ…」
あの時の私には戦うしか無かった。だが今は違う。撤退という選択肢があるのだ。
「梅。絶対生きて帰ろう。夢結を1人にしないために」
「あぁ。そうだナ」
翌日。
アールヴヘイムは撤退することを選んだ。ケイブはこれからもっと活性化するだろう。が、これ以上失わない為に。守る為に撤退するのだ。
撤退作戦に移行するにあたって、薫様は仲間を死なせた責任として隊長職を辞任し、後任に竹腰千華、副隊長は天野天葉を任命した。
あの会議以降夢結は作戦には加わらず、周辺警備を手伝うことになった。一段落つき、百合ヶ丘へ帰る頃にはどこか心の整理がついたようだった。ついてしまったのだ。
このようにして結成されたアールヴヘイム。
本来の趣旨とは大きくずれてしまったが、この甲州合宿では各々力を磨くこととなった。
後に語られるアールヴヘイム不敗神話の始まりだった。
このまま順調にいく…のかと思われたが、世界はそれを許さないほど残酷だった。
アールヴヘイム、次の舞台は、、、
「嘘…あれは…アルトラ級?!」
「さぁ!どんな逆境もかかっていらっしゃい!」
「斬る!キル!きる!ブッタ斬るッ!目の前の、全てヲッ!」
「「いい加減目を覚ませ!船田怒ーッ!!」
「まったく世話の焼ける妹ですわ」
「手、貸しましょうか」
お待たせしました。2話目です。
甲斐聖山に旧校舎があるかは知りません。
甲斐聖山の設備とか知りません。(工廠科があるから相当だと思う)
合宿の内容も知りません。
初代アールヴヘイムは分からないことが多すぎる。
9割以上妄想で埋めました。
ーお知らせー
現在ストックを色々書いていますが、なんか長くなりそうなので『短編小説→連載小説』に情報を変更しました。