アサルトリリィ「船田怒編 -The Lily Hills-」   作:アイナll

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狂化であり、凶化であり、強化である。


6話 御台場迎撃戦ー狂化

 視界が紅い。

 

 身体が熱い。

 

 音が聞こえない。

 

 何も無い世界。

 

 ただ、その手にあるのはCHARMのみ。

 

 CHARMが指先のようによく馴染む。

 

「さァ!ハジメましょうカ!」

 

 眼前には巨体だけが映る。ヤツと戦おう。理由はない。

 

 邪魔する者は誰であれ(リリィもヒュージも)ユルサナイ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ねぇ怒!どうしちゃったの?!ねぇ!!」

 

 近藤貞花は困惑していた。

 生まれて初めてアルトラ級ヒュージを前にしているから、ではない。

 

「アアァァァッ!!」

『GYUOOO!!』

 

「うっ、」

 

 友達が急に豹変してしまったからだ。

 少々荒っぽいところがあるが、根は優しく仲間想いだった大事な友達。そんな彼女は決して仲間に刃を向けるような真似はしない。

 ましてやヒュージの大群を前にして仲間の足を引っ張るようなリリィでもない。

 

「アァァァ!」

 

 そんな思いとは裏腹に、目の前にいる彼女は荒れ狂っている。

 大剣になったCHARMからはマギがエネルギーウェーブとなって放たれている。アルトラ級は彼女の攻撃を巨大な掌で受け止め反撃する。

 まるで一騎打ちをしているかのように彼女とヒュージは戦う。周囲へ舞い散る衝撃波や斬撃、瓦礫、それらの流れ弾を食らうヒュージやリリィには一切目を向けない。

 

「怒、しっかり」

 

「天葉!」

 

「くっ、」

 

 天葉は怒へ手を伸ばすが、彼女は天葉を斬ろうとCHARMを振るう。

 アルテアの警告によりグラムで受け止めるが、勢いはそのままに飛ばされてしまう。

 

「軽率だぞ天葉」

 

「でも…あのまま怒を戦わせるのは危険だよ!」

 

 天葉の言う事は間違っていなかった。

 一騎打ちのように戦っているが、女の子とアルトラ級ヒュージでは質量が文字通り桁違いだ。同じ一撃でも怒の方が確実に削れている。このまま放っておけばジリ貧になるのは怒の方で間違いない。

 

「船田怒のレアスキルはルナティックトランサー。ひとたび暴走すれば敵味方お構いなしと聞く。軽率な行動は控えるべきだ。彼女の攻撃で巣なしのアルトラが削れているのが幸いという他ないだろう」

 

「でも、今の怒は危険な状態よ。早く正気に戻さないと…」

 

 傷ついたグラムを握り、再び怒へ手を伸ばそうとする天葉をアルテアは止める。

 

「だから手を出すなと言っている。彼女を止めるのは巣なしのアルトラと彼女自身が消耗してからでいいだろう。それまではマギを温存しつつ立ち回るべきだ」

 

「アルテアは…怒を見捨てるつもりなの…!」

 

「…すまなく思う。だが、仲間へ刃を向ける者を信じて背を任せるわけにはいかない」

 

「っ…!」

 

 アルテアの主張は決して間違っていない。現に第二部隊の障害はヒュージの大群のではなく、敵味方構わず暴れ回る船田怒なのだ。作戦失敗は御台場の陥落・東京エリアの危機に直結この状況において、一見非道な判断は恐ろしいほど正しい。

 仲間を失いたくない気持ちと、作戦失敗のリスクを正確に測れる天葉は返す言葉が浮かばなかった。

 

「ねぇみんな、怒がなんかおかしいよ…」

 

 最初に気がついたのは冬佳だった。BZとして後方から全体的に戦場を見ていたから、怒の変化に気がつけたのだろう。

 怒は非常に低く構え、もはや四足で動いていた。そして、赤いオーラを纏っていた。

 

「あれはまるで」

 

「神宿り…?」

 

「治?!」

 

 怒の変化とほぼ同時にやって来たのは混成部隊。治のCHARMには19人のマギが籠った魔法球があった。

 

「でも…何か違う」

 

「え?」

 

「あれは、マギの暴走?」

 

 神宿りを扱う治だからこそ怒の変化の正体を見破れたのだろう。

 治が扱う“本来の”神宿りはCHARMの機体色と同じオーラを身に纏う現象を指す。しかし、今の怒が扱うCHARMは灰色一色なため赤いオーラの説明がつかない。

 次に治が注視したのは体の傷だった。戦闘に入って間もないが、怒の体には戦闘前よりも小さい切り傷が倍以上に増えていた。

 

 この時の怒は全身を駆け巡るマギを斬撃にして飛ばしていたが、時間と共に増えるマギが身体の許容量を超え、内側から溢れ出ていた。赤いオーラはその時ついた傷から漏れた血液が体温で蒸発・気化した物だった。

 

「このままじゃ本当に怒が保たない!早くフィニッシュショットを決めるよ!」

 

『了解!』

 

 貞花の号令でこの場に集まった28名は結束する。

 暴走した怒という不安要素があるが、アルトラ級をいち早く討滅できるならそちらの方が良いとアルテアも参加する。

 

「貞花!」

「都々里!」

「冬佳!」

「天葉!」

「夕七!」

「恋町!」

 

 治から貞花へ託された魔法球を第二部隊の面々で回す。

 

「椛!」

 

 恋町から椛にパスが回った。そしてマギを込めて最後の一人へパスを出す。

 

「アルテア!」

 

 パスアーティストと呼ばれるほどパス回しが上手い椛。BZから一気にAZへ運ぶロングパスは非常に綺麗で正確だった。

 

「っ?!」

 

「何…だと…」

 

 だから簡単にパスカットできてしまったのだ。

 

 

 

「ジャマダ!!」

 

 

 

 暴走し、自我を失った怒。アルトラ級との戦いを楽しむ彼女にとってノインヴェルトの魔法球は邪魔でしかなかった。本能で察知した彼女はアルテアが受け取る前にパスを奪い取りどこか、適当な方向へ投げ捨てた。

 パスカットを行い、怒は両手両足で着地し唸るような声をあげている。もはや(リリィ)ではなく(ヒュージ)に近かった。

 

 

 

 

 

『一時撤退するぞ』

 

 アルテアはこの場の前隊に指示を出す。いくら通信障害があろうと、これほど近ければギリギリ問題ない。

 

「そんな…」

 

『私は“今”の彼女をヒュージと判断する。彼女が消耗次第、アルトラ級を討つぞ』

 

 合理的。そう言い表す他ない、完璧な作戦だった。

 

「ふぅ〜ん、私は残るよ」

 

 唯一の誤算があるとするなら、このリリィは合理的や正論が大嫌いで仲間を第一に動くリリィだということだ。

 

「み、貞花?」

 

『…正気か?今の彼女と共に戦えるとでも?』

 

「それは分からない」

 

 一同、え?という表情をする。矛盾してないか?と思う者もいた。

 

「ただ、今を必死に戦っている仲間に背を向けたくない!」

 

『…。』

 

 全員の心にチクリと刺さる一言だった。

 この中に船田怒というリリィを知っている人は半数くらいしかいないが、1人で戦う辛さは全員が知っている。

 

「あぁーあ。貞花に先越されちゃったな〜」

 

「天葉も?!」

 

「私も戦う。あんな状態の怒を放っておけない」

 

 天葉も貞花同様に手を挙げた。

 

『こちらとしては、アルテアの案に賛同する。アルトラ級の動きが止められている内に、体制を立て直し、機を見て改めて討滅すべきだ』

 

 天葉の意見に対立するように通信に割り込んだのは御台場女学校。遠方でこの状況を見て、口を挟んできたのだ。無名の近藤貞花はともかく、天野天葉という世界的エースを失う危険があるのだから。

 

「それでも私は残ります」

 

 天葉は学園の意図を汲み取った上で揺るがなかった。

 それを察した椛はこの場に適した作戦を立案する。

 

「では、こうしましょう。貞花と天葉はこの場に残り、一歩引いて戦線維持と監視をして下さい。巣なしのアルトラ級と怒の。私達は一時撤退。若洲グランド周辺に下がり、ヒュージが若洲から出さないよう若洲橋を死守します。怒の機を見て再びノインヴェルト戦術で討滅します」

 

『その作戦に任せよう』

 

 椛の作戦を学園側は承認した。アルテアも椛の作戦に賛同した。

 第二、第三、第五部隊は貞花と天葉をおいて一時撤退した。

 

「よし、気張るよ!天葉!」

 

「うん!貞花!」

 

 

 

 

 

「GYUUOOOOO!!」

「ウオオオオオオオ!!!」

 

 巣なしのアルトラ級の巨大な掌と怒のCHARMから放たれる斬撃が衝突する。

 アルトラ級の手はマイナスマギを発生させる効果があり、リリィのプラスマギを打ち消してしまう。つまり、銃弾が効かないのだ。しかし、アルトラ級との共鳴とルナティックトランサーで負のマギを持つ怒の攻撃は通用した。

 

「GYUUUUU!!」

 

「グッ、」

 

 通用するものの、やはり圧倒的質量を誇るアルトラ級とリリィ1人ではやや部が悪い。が、

 

「アアアアアアァァァァァァア!!!!」

 

 今の怒はアルトラ級と共鳴している。無意識的に行なっているが、怒はアルトラ級が巣くっているケイブから半強制的にマギを引っ張り出せる状態にあった。

 これによりケイブから一瞬だけ質量を上回るほどの膨大なマギを奪う。そして、その全てをCHARMに込めて斬り放つ。

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 紫色の斬撃がヒレを裂き、アルトラ級に命中。ヒュージの痛々しい叫びが若洲公園一帯に響く。

 

「マダ、、、」

 

 アルトラ級が怯んだ間にCHARMを構え、マギを溜める。自身のマギとケイブから奪ったマギを全注入し構える。

 

 今までの狂った戦いが嘘のように静まり、CHARMの鞘に手をかける。

 

 そして、無名のCHARMが悲鳴をあげるかの様に軋む寸前。

 

 溜め込んだマギを爆発させるように、抜刀する。

 

 放たれた激しく鋭い一閃は2本の掌の一本を斬り落とし、その先にある東京湾の波を荒立だせる。

 

「GYAAOOOOOOO!!」

 

 腕を斬られたことに激昂するアルトラ級。怒も納刀して大剣で踏み込もうとするが、全身に力が入らずその場に倒れ込む。

 

「ブハッ、、、」

 

 口だけではない。鼻や目からも血を吐き出す。

 赤いオーラも消え、二度、三度、繰り返し吐血する。全身の血管が燃えるように熱く、赤く浮かび上がる。

 

 個人が放てる観測史上最大の斬撃の反動。そして人間の限界だった。

 この戦闘で無数の傷を負い、無理なマギ運用と無茶苦茶な体の動かし方をしたツケが回ってきたのだ。

 

「怒!大じょ、ッ?!」

 

 身動き取れない怒が激昂したアルトラ級の掌が襲い掛かろうとした時、天葉が駆けつけ肩を貸しながら後方へ撤収しようとする。が、怒は正気に戻っているわけではない。

 弱々しい力だが、天葉の持つグラムを蹴落とす。そしてマギの通っていない無名のCHARMを、天葉へ振り下ろす。

 

「させない!」

 

 ソハヤノツルギから放たれる弾丸が、無名CHARMを弾き、怒の手から漏れる。

 

「ハナッ、セ!」

 

 怒は天葉を蹴り、地面に突き刺さったCHARMを握り抜く。

 そして目の前に立つ2人のリリィを襲う。

 

 

 

 

 

「私は、頭にキてるんだよ」

 

 

 

「転入する前から噂は聞いてて、どんなリリィか楽しみだったの」

 

 

 

「アールヴヘイムに入隊して戦ってる姿を見て悔しかった。だって、私が思ってたよりずっと強かったもん」

 

 

 

「力だけじゃない。揺るがない心も、本当に尊敬してる。だから第二部隊に来てくれた時は初めて一緒に戦えるって、内心すごく舞い上がったんだよ」

 

 

 

「だから、頭にキてるんだよ!!」

 

 

 

 貞花の内に秘めていた思いが漏れ出し、爆発する。

 天葉も同じ意見だった。だからこそ、今の怒に向けてCHARMを合わせ、叫ぶ。

 

 

 

「「いい加減目を覚ませ!船田怒ーッ!!」」

 

 

 

 怒のCHARMと貞花と天葉のCHARMが衝突した時、不思議なことが起こった。

 

 

 貞花のマギクリスタルコアから広がるナニカが、3名、巣なしのアルトラ、ヒュージ達、混成部隊、若洲中を包み込む。




僕の考える最強のリリィ(暴走ver)
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