アサルトリリィ「船田怒編 -The Lily Hills-」 作:アイナll
そして新たな幕が開かれる。
天葉の放ったフィニッシュショットで巣無しのアルトラ級は討滅に成功した。
19人分のマギが込められたフィニッシュショットの衝撃は天まで昇る勢いで御台場を包む暗雲を突き破った。海の森公園で戦っていた第一部隊、青海で戦っていた第四部隊もその爆破を目視できた。
世界最大級のヒュージの討滅により、大ケイブ、付近に沸いていたグンタイアリ種やギガント級を巻き込み光の粒子となり消滅。その散り様は蛍の光を彷彿とさせ、非常に綺麗なものだった。
爆発と爆風により御台場を覆っていた黒い雲は裂け、暖かい日の光が降り注いだ。激戦の終結を実感したリリィ達は笑みが広がり、体の内から喜びが溢れ出る。
「勝ったんだ…。私たち、この戦いに勝利したんだーーー!!!」
貞花が叫びながら冬佳を抱きしめて、周囲のリリィ達も喜びの声をあげる。
御台場を吹き抜ける風が声を運び、歓喜に包まれた。
「…知ってる天井だ」
「もう目が覚めたの?!」
気がついた私は真っ白の、なぜか使い慣れたベッドに横になっていた。
そこへ聞き慣れた声が近づき、カーテンを開く。
「お早いお目覚めね怒さん。体に違和感はある?」
中原・メアリィ・倫夜がいるということは、ここは御台場女学校の医務室だろう。
「体は…問題なく動きます」
「一時間しか経ってないのに、なんで問題なく動くか不思議ねぇ」
ベッドから降りて、ラジオ体操の動きを何個か行い体の調子を見る。
問題なく動く姿を見た倫夜ちゃんはカルテが載っている液晶端末を操作して呟く。
「まぁいいわ。最低でも一週間は訓練・任務を禁止の絶対安静。これは百合ヶ丘女学院の方にも伝えてあるから。いい?“絶対”・“安静”よ。絶対と安静の意味を辞書で調べなさいよ」
「は〜い。わかりました」
倫夜ちゃんが言うには、何がわかったのか知りたいそうだ。本来なら1週間ではなく1ヶ月なのに。
「今は中庭でうら若きリリィが打ち上げをしてるわよ。早く行ってみんなに無事を知らせて来なさい」
「は〜い。あ、倫夜ちゃんも十分若いよ♪」
「腹開くわよ」
ひえー!逃げろー!!
《船田怒の暴走について報告書》
この報告書を書く上で、前提として一年ほど前に発生した船田怒の御台場女学校最後の任務を語る必要がある。
あの任務で発生したケイブ・ヒュージ共に未発見の新種とされていた。
アルトラ級の残骸から採取できた細胞情報を照らし合わせた結果、あの任務で発生したヒュージは巣無しのアルトラ級と
これは仮説だが、元々発生した小さいケイブに巣無しのアルトラ級の一部が合流・融合。強力なマギを受けてケイブは急成長したと思われる。
あの任務で船田怒は巣無しのアルトラ級ヒュージの血液(細胞)を体内に取り込み、サブスキルに〈カリスマ〉を覚醒させる。「成れの果て」とも別の特異な成長を果たした。
御台場迎撃戦(仮称)にて。
船田怒と巣無しのアルトラ級が接触した時、互いのマギが共鳴し、怒の持つヒュージ細胞が覚醒。暴走に至った。
ルナティックトランサーの暴走に類似してはいるが、怒の場合は人の域を外れた言動と大ケイブからマギの供給を得たことからヒュージに近いと言える。
暴走が鎮まった後も故意で大ケイブからマギを奪う、正のマギと負のマギを使い分ける、カリスマを応用しノインヴェルト魔法球に負のマギを混入させるなどの行為から、暴走状態の行動・経験は本人に蓄積されたと見られる。
繋がれるケイブは同細胞の物限定なのか、ケイブならなんでもいいのか、自分の意思で「狂化」できるのか、自分の意思で「狂化」から戻れるのか、他者への干渉は可能なのか、船田怒は「ヒュージの姫」なのか………疑問点は多いため徐々に解明していきたい。
同細胞を持つヒュージとの接触がヒュージの血へ影響を与えたのならば、その逆。リリィのマギを当てることによって「狂化」したリリィを救える可能性がある。
船田怒については今後も様子を見ていきたい。
今回、巣無しのアルトラ級が出現したということで常に御台場全域に観測の目を光らせていた。
確かな実力を示した者、データ以上の能力を見せた者、窮地に覚醒を果たした者、そして想定外の成長を果たした者もいた。
本件で得られたリリィ、ヒュージのデータが研究に役立つことを願う。
報告者
御台場女学校 中原・メアリィ・倫夜
追伸
百合ヶ丘女学院の近藤貞花が発生させたとみられる正のマギのフィールド。
これはどのレアスキル・サブスキルにも属しておらず、新種の可能性がある。
当人もあやふやな認識のため、現段階では再現性は低いだろう。
「さぁ、話してもらおうか」
「ひえー」
打ち上げ会場に到着すると、私を心配していたチームメイトや友達達。そして胸ぐらを掴むアルテアがいた。
「なぜ、あの時魔法球が2つあったのだ」
アルテアが言っているのは最後の巣無しのアルトラと対峙した時に、私がパスカットして勝手に撃った魔法球とは別に梅が持っていた魔法球についてだ。
答えはシンプル。
「怒が暴れてどっかへ投げた魔法球は梅が受け取っていたんダ」
「そうそう」
梅の説明を聞いたリリィ達は、理解はできないが納得はしたという表情になる。
そもそも19人分ですら御台場全域から目視できるほど大きな爆発が起こったのだ。爆発していたらどんな影響が出ていたか…。
「なぜ黙っていた?そもそも、最初のパスカットは故意だったのか」
「あ、それは梅も聞きたいゾ。あの時、まるで梅にパスするかのように飛んできてビックリしたからナ」
「偶然…と言うにはできすぎているよね。暴走していた時の記憶は曖昧だから、私の意思が入っていたとも思えない。多分、肉体に刻まれた動きをしたって感じだと思う。あ、2回目は故意だよ。落ちた掌が変な挙動をしてたから」
ちなみに、これは嘘だ。
暴走時の記憶はある。ただ、もう1人の私が暴れていたのを俯瞰的に見ているような状態で、私の意思が介入できなかったのは本当。
「まぁまぁ。怒のおかげで最後のショットが命中した訳だし、それでいいじゃん。ね」
貞花が怒とアルテアの間に入る。
「…船田怒。貴女の“実力は”認めよう。しかし仲間としての信用は別だ。もし再び共闘する時は、信用できるリリィだと証明して欲しい」
「おまかせあれ」
一息つき冷静さを取り戻したアルテア。
胸ぐらを掴まれた時は乱闘を覚悟したが、互いの実力を認めて握手をすることで収まった。
「さ、怪我人も無事帰って来たし、この打ち上げを楽しもう」
天葉がジュースを差し入れてくれて、私は色んな人と話した。
直接関わりの無かった第一部隊、第四部隊の話しをよく聞いたり、他校のリリィに絡まれたり、治に神宿りについて聞いたり、私が去った後の御台場女学校について聞いたり。
本来開催されるはずだった、ノインヴェルト戦技交流会とはややかけ離れるが、各ガーデンの固有戦術や、今回の作戦で行ったフォーメーションなど、戦術面の情報共有もされた。
中には、ガーデン間の仲を超えてリリィの絆が育まれた者もいた。
依奈が千香瑠を勧誘したり、アルテアが椛に「ミンネの誓い」を宣言したり、それを目撃した楪を慰めたり、天葉が料理を食べすぎたり…こんな時間が続くといいなぁなんて思ってしまうほど、楽しい時が流れていく。
「ねぇ、ちょっと…いい?」
料理も少なくなった頃。
槿に呼ばれて中にはから校舎の廊下に移動する。
「こんな人気のないところに連れて来て…ナニをする気なの〜??」
「ふざけないで」
「あ、はい」
びっくりした。マジトーンで叱られた。
「さっき初から連絡があったわ。もう少しで御台場に帰ってくるそうよ」
「へぇ。そうなんだ」
「怒、御台場でもう一度戦う気はない?初と純と私たちと、今度は正式なレギオンを組もうよ」
それは、とても魅力的な相談だと思う。でも私の答えは決まってる。
「ごめんね槿。私は今の仲間達と戦いたいの。お姉ちゃんと、じゃなくて、お姉ちゃんを超えるリリィになるために」
船田予備隊として戦っていた時は姉と戦えればそれでいいと思っていた。でも、アールヴヘイムに入って、それじゃダメなんだと思った。
私は姉を目指すけど、姉はドンドン成長するし、仲間達も共に伸びていく。
姉を追うだけじゃダメなんだ。私は私の力で成長して、姉を超えるリリィになって、初めて対等に戦えるんだと今は思う。
「そう…なんだ。でも、私待ってるからね。御台場に帰って来たい時はいつでも言ってよ!」
「待たなくていいよ」
振り返らずに告げた私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。この戦いを経験した私達はこれからもっと強くなるという確信があったからだ。そんな私達に立ち止まる時間は無いだろう。
「槿が待ってる間に、超えちゃうから。今回みたいに大ケイブが開いたら泣きつく準備でもしてな〜」
「はぁぁぁあ!!??」
リスのように頬を膨らませて可愛く怒る槿。ちょっと煽りすぎた。
まぁ、これくらいしても問題ないか。槿が必ず強くなって上がってくる。
私もゆっくりしていられないな。明日から訓練再開させようかな?(※最低一週間は絶対安静)
「それじゃ、グッバイ御台場!!」
「またな〜!」
翌日、百合ヶ丘から迎えのガンシップが訪れ、私たちを連れて飛びたった。
御台場女学校の仲間達は私だけでなく、この戦いで新たにできた友へ、手を振って見送ってくれた。
御台場から鎌倉まで時間はかからないのだが、ガーデンに到着した時には全員疲労のあまり熟睡していたという。
そんな私たちは、この先に悪夢のような現実が待ち受けるなんて知るよしもなかった。
何度も書きましたが、改めて書きます。
本作の主人公 船田怒は作者が考える最強のリリィです。
次章、大磯防衛戦。
後悔、失敗、失望、葛藤、分裂…迎撃戦を乗り越えた私達に更なる試練が襲いかかる。