アサルトリリィ「船田怒編 -The Lily Hills-」 作:アイナll
『ケイブ発生!ケイブ発生!』
御台場の激戦から1週間後。
私たちアールヴヘイムの1年生はガーデンに戻り英気を養っている時だった。突如、ガーデン中に警報が鳴り響く。
「え?私たちも行くの?」
私は1週間の拘束…もとい絶対安静から解放され、久々にCHARMを握り素振りをしようとヨートゥンシュベルトを振り上げた時だった。
ガーデン側から指示を受けた千華と依奈が訓練室に入り、私の首根っこ捕まえて作戦会議室に引きずっている。
「ガーデンからの情報によれば、今回のケイブは大磯海底谷ネストと繋がっておりヒュージの数が尋常ではないそうだ」
大磯海底谷ネストとは百合ヶ丘女学院の近辺にあるS級ネストのこと。付近の三浦半島には逗子国際女子高等学校があり、普段ならそこが対応に当たるのだが…。
「逗子国際は…ヒュージの侵攻で崩壊したと連絡が入ったわ。それだけ数が多く、急を要するの」
依奈の表情はかなり険しいものだった。
「アールヴヘイムは、これより防衛作戦を始める。総員、降下!」
千華の号令により私たちアールヴヘイムはガンシップから降下する。
御台場の戦闘から引き続き2年生を欠いた状態で作戦に臨んだ。
「うげ、こりゃ酷い…」
「サーチャーを使うまでも無いわね」
「分かりやすくていいナ!」
着地した私たちは驚愕した。データ上では多くのヒュージが出現しているとだけ書いてあったが、実際の光景は地面がヒュージで埋め尽くされるほど溢れていた。戦っているリリィは次から次へ出てくるヒュージに後退をせざるをえなかったのだろう。
こんな絶望的な状況だが私たちは巣無しのアルトラ級との戦闘が脳裏をよぎっていた。「あの戦いで奇跡的な勝利を勝ち取ったのだ。今回も勝ってみせる」と。これは慢心ではなく、自信だと誰もが思っていた。
御台場とは何もかもが違うと言うのに。
「っ!?マジですか…」
最初に気がついたのは怒だった。
ヒュージを少しずつ削いでいたところ、民家の影に1人の少女の姿があったのだ。
「梅!援護して」
「分かったゾ!」
梅の援護射撃により迅速に周囲のヒュージを片づけ、少女の救助へ入る。
「君、もう大丈夫だよ」
「リリィのお姉さん…」
その少女は酷く怯えていた様子だった。
「この子を避難させてきます」
ひとまず少女を抱えて避難所に連れて行こうとした時。
『怒、私の方も頼める?』
聖からの通信だった。指定の位置へ向かうと男性が取り残されていた。
2人を抱えて行こうとすれば、
『次ここお願い』『避難民が残っていた』『ここにもいたよ』
「なんか多くないか?」
逃げ遅れた人が多い。あまりにも多すぎる。
御台場の時は防衛軍と民間人の迅速な避難のおかげで十分に戦えたのだが、今回の場合はヒュージが多すぎて避難どころではない。
『報告!ケイブよりギガント級が出現!計…10体!?』
「10体のギガント級…」
さらに、沿岸部よりギガント級ヒュージが複数出現。
アルトラ級と戦った私なら、1体だけなら相手できる…と言いたいが無理だ。あの時はアルトラ級との共鳴と麻嶺のCHARMのおかげで戦えたが、今は共鳴ができない上にブルガトリングでは出力が足りない。
「各員!避難を最優先としつつ、一体でも多くのヒュージを削るんだ!ギガント級を市街地に入れるな!」
リーダーを務める千華は全体へ指示を出す。要は「各自でやれ」とのことだ。
スモール級とラージ級ならば1人でもなんとか対処できる。幸いギガント級は防衛軍と担当リリィが足止めしてくれている。レギオンに所属していないリリィは市民の避難誘導を行う。
しかし・・・
ドォォォォン!!
「きゃぁ!」
「くっ、」
こんな所にも避難民が…!?
(避難が遅い…)
さらに言えばギガント級の進行が早い。
やはり光壁システムが無いのが大きい。
御台場では早い段階から市民の避難と光壁システムの起動によりヒュージの侵攻を防げた上に、ギガント級も侵攻方向を絞ることに成功した。これにより5隊での迎撃ができたが、今回はヒュージの進行が早い上にギガント級が散るように進行しているため防衛軍もリリィも戦力を分散されて足止めも効果が薄いようだ。
『みんな!1分持ちこたえて!!私が…“やる”わ!』
それは冬佳からの全体通信だった。
「まさか、アレをやるのか?!危険だ!」
「これ以上被害を出さないためよ!」
千華は何かを知っている様子だった。彼女は冬佳とルームメイトの関係だから私が知らない何かを知っているのだろう。
それにしても“アレ”とは…?何がなんだか分からないが、眼前のヒュージを放っておけない。
目の前の群れを片づけた私は背後から迫る小型ヒュージに気づくのが一瞬遅れてしまった。
その一瞬、ヒュージの爪が向けられる。
防御、回避、不可能。
(しまった…!)
「…ッ?!」
突如ヒュージが破裂する。いや、背後から刃に貫かれた。
刃は背後から噴き出るマギを推進力に次々とヒュージを切り裂いて行く。
『危なかったね怒』
「冬佳…これは…」
『精神直結型CHARM エインヘリャル。まだ試作段階だけど…大丈夫!』
冬佳が言っていたのはこれのこと。百由から話だけは聞いた事はある。
元来、CHARMとは化学と魔法の融合兵器。第1世代では剣・銃にマギを込めたもの。第2世代では変形機構で形状と戦術の多様化。第3世代では分離・合体・三段階変形と個人に合った機能を盛ったもの。
そして第4世代とは脳と直接して操る。脳で動かすため稼働範囲が広く、機能速度が速い。
(週刊百由に向けて研究しているとは聞いてたけど、これは…)
『スモール級なら対処できるわ!ラージ級以上を任せた!』
空を駆ける刃が小型を裂き進む。おそらくヒュージサーチャーをかなり広域に広げ、複数の刃を全体へ広げている。
冬佳はお姉様達に並ぶ特異点と呼ばれるほどの才能を持つ。
けど、嫌な予感がする。根拠はない。
今は刃と共に走り進みヒュージを斬り進む。
一体でも多くヒュージを倒せば、その分冬佳が楽になり、その分早く避難誘導が進む。
グラッ、
今まで直線的な動きをしていた刃が揺らいだ。
そして、堕ちた。
ビットの刃が私の元に来て10分経とうとした時の出来事だった。
「冬佳?!」
第4世代CHARMは脳と直結して操作する。それがなんの連絡もなく堕ちたという事は、
『報告!長谷部冬佳
防衛軍の人から通信が入る。
脳と直結しているCHARMは使用者の意思がある限り動き続けれるが、本人が倒れた場合はその限りではない。
『っ、……冬佳の勇気ある行動を無駄にするな!敵の数は確実に減っている!今のうちに畳み掛ける!』
直後、隊長でありルームメイトの千華は感情をグッと呑み込み、隊長としての判断を下した。
アールヴヘイム各員にギガント級の位置だけが送られる。どうやら、作戦をやや前倒して10体のギガント級の討伐を決断した。
千華から送られた位置へ各々向かい、集合する。
彼女から放たれるノインヴェルト魔法球を到着した人からパスを回し、最後に来た夢結がフィニッシュショットを打ち込み、なんとか1体を討伐した。
「みんな、大丈夫か」
「うん。冬佳が助けてくれたから」
やはり冬佳は計4機のビットを四方に放ち、同時に遠隔操作していたのだ。
彼女がスモール級を引き受けてくれたおかげで、ミドル級・ラージ級に専念できた。
「避難は十分とは言えない。だが、ヒュージをこれ以上放って行くわけにはいかない。よって避難は防衛軍に一任し、我々アールヴヘイムはギガント級を討滅するぞ」
「待って、」
千華の作戦に待ったをかけたのは夏帆だった。
「まだ市民の避難は終わってないわ。その中でノインヴェルト戦術をするのは危険よ!万一弾が逸れたら大惨事になるわ!」
ギガント級の全長は10m〜20mそれ以上など大きさにばらつきはあるものの巨体である事は変わりない。この大きさの怪物が一度腕を振っただけで周囲の建物は崩れ、一歩踏むだけで地形は歪んでしまう。そんな化け物だ。
当然、それを倒す完成したノインヴェルト魔法球は相当の威力がある。破壊力だけならギガント級の攻撃に引けを取らない。
そんな化け物と市民がどこにいるかも分からない市街地で戦闘を始めようと言うのだ。
攻撃すれば反撃される。まともに受ければ死ぬから避ける。避ければ街が壊れて、運悪く人がいれば………
「私は反対よ。リスクが高すぎるわ」
夏帆に便乗するように茜も反対の意見を推す。
さらに、
「…冬佳の意識が戻らない。第四世代CHARMのマギ負荷に体が耐えられなかったそうだ。もうこれ以上、奴らに何も奪わせてなるものか!!」
ルームメイトを失い、静かに燃える千華。
「私は賛成よ。これ以上失わないために、戦いましょう」
普段は無口な夢結が口を開いた。
彼女も甲州でシュッツエンゲルを失ってしまい、ヒュージには人一倍敵意を持っている。
燃え盛る復讐の火を目の当たりにしてしまえば、もう誰も反論できない。だって、この場の全員が各々の大切なモノを守るために戦っているのだから。
基本、一隊にノインヴェルト特殊弾は複数支給される。よって理論上10回連続ノインヴェルトも可能ではある。マギと体力とCHARMの消費を一切考えないのであれば。
「アールヴヘイム、作戦開始!」
千華の号令で魔法球を回し始める。
標的は一番近いギガント級。能力の詳細は不明。私達の持っている情報はただデカい事と周囲の建物を壊して歩いている事。
「全員避けろ!」
それはパスを回した
間も無く、ギガント級の体皮が無数の砲台を形成。そしてギガント級を中心に全方位へレーザーが放たれる。
和香の一言で気がついた面々は回避行動を取り、レーザーを躱わす。
声を上げた当人はレーザーを直撃してしまったが、地面を踏み込みCHARMでレーザーの軌道を逸らしていた。超パワー系リリィの彼女ならではの手法だった。
和香が文字通り踏ん張った事でギガント級の能力が大まかに理解できた。体皮から砲台を形成し発射。追撃がないのを見るに、再度砲台を作るのに時間がかかるようだ。
その隙にアールヴヘイムは一気に近づき、連携して足を止める。
そしてラストパスを受け取った夢結がフィニッシュショットを放ち、撃破した。
「次、行きますわよ」
撃破後、休む間もなく二体目のギガント級を狙う。
この種のヒュージはかなりの高頻度で出現するため能力や弱点が判明していた。ギガント級というサイズ差の暴力はあるものの、なんとかノインヴェルト戦術で討伐した。
続く三体目。
これは特型でシールド能力と再生能力を有していた。
1体にあまり時間をかけられないため、いきなりノインヴェルト戦術を叩き込むもシールドと相殺。2発目の準備をしている間にダメージを与えるも回復能力でシールドを生成する部位を再度生成されてしまう。
依奈が作戦を考案する。一斉射撃でシールドを展開させて身動きを止め、その隙にレアスキルを発動させた怒が居合斬りでシールド部位を破壊。間髪入れずにフィニッシュショットを叩き込む。
作戦は概ね予定通りに進んだ。
部位を破壊するところまでは。
「こちら怒、部位破壊完了!」
『シールド消滅確認。フィニッシュショット、いきます!』
斬り、あとは逃げるだけ。という時だった。
急に体の動きが鈍り、ヒュージと十分な距離をとることができなかった。
フィニッシュショットの爆風に当てられた瓦礫に衝突。左腕を負傷してしまった。
「怒?!」
「あ、ソラ…。ごめん、しくじった。けど、まだやれるよ!千華!」
「…無理はするな」
左側がジンジンと根を張るように痛むが、なんとか戦闘は継続できる。
この時からだった。歯車が狂い始めたのは。
続く四体目のギガント級との戦闘でメンバーの小さなミスが出始めたのは。
梅の足が鈍り、夢結は不意打ちを受け、茜は得意のジャストガードを外し、天葉はCHARMが折れ、依奈は作戦が機能せず焦り………
辛くも撃破はしたものの、心身共に大きく消耗をしてしまった一戦だった。
残るギガント級は6体。
「…仕方ない。責任は私がとる!真島百由と
メンバーの負傷により、隊長の千華は決断を下した。
百合ヶ丘女学院の校舎屋上に真島百由が設置した砲台。
「ダメよ!まだ避難が完全には済んでないのよ?!」
「だからこそだ!我々で避難完了した区画に誘い出し、高出力砲で攻撃すればいい!」
「それは、そうだけど…」
依奈が反論をするも千華に言いくるめられる。
他のメンバーは反対意見を持つ者もいたが、これ以外にギガント級と戦える戦法が無いのも事実なため、意見を口にする者はいなかった。
数分後、高出力砲台の使用が特定的に許可されたと連絡が入る。引き金を引くのは開発者の百由自身らしい。
御台場迎撃戦のような状況ではなく、民間人の安全は保証されない。だが、このままでは仲間は消耗し心無いヒュージは仲間や人々を無慈悲に奪うだろう。もう美鈴のような後悔をしたくない。
民間人の安全とヒュージの討滅を天秤にかけた千華。そして決断を下した。
誰もが“あんな結果”を望んでいたわけはないのだ。
「突如開いたケイブ、およびギガント級10体の討滅をよくやってくれた」
あれから数日後。
理事長室にて、理事長代行を務める高松咬月より招集を受けたアールヴヘイムの面々。
用件としては、あの作戦、大磯防衛戦と呼ばれる戦いでアールヴヘイムの報告的なものと聞かされている。
「皆、体調の方はどうだ」
「はい。メンバーのほとんどは回復へ向かっております。…ほとんどは」
「長谷部クンのことは聞いている。生きのびてくれて何よりだ」
重々しい空気がこの場を支配する。
30作戦無敗。アールヴヘイムは期待されるに足る実績を上げてきた。しかし、メンバーのほとんどは浮かれる事はなかった。
今作戦は、成功と言うには多くを失いすぎた。
1、長谷部冬佳の昏睡
2、高出力砲運用による多くの負傷者
3、竹腰千華のジーグルーネ引退
冬佳を連れて帰った時の貞花とルイセの表情はその場に居合わせたメンバーに深く突き刺さった。
高出力砲の死者・負傷者の報告を聞いた時、幼馴染を失った祀の魂から溢れ出る叫びは私たちに一生消えない傷を残した。
「理事長代行…私たちは」
「そう判断を焦る事はない。しばらくゆっくりするといい。話は改めて聞こう」
理事長代行は、報告書から目を逸らさなかった。千華の震える声も、夢結の冷え切った眼差しも、全てを受け止めるように深く、静かに椅子に身を預けている。その沈黙は、彼女たちを責めるためではなく、語られぬ痛みを共に分かち合おうとする、大人としての深い慈しみだった。
「はい…」
この日、千華が何を言おうとしたのか。全員気がついていた。
控室に戻った私たちの雰囲気はまさしくお通夜だった。いくら百合ヶ丘の制服が白と黒のモノトーン色だからと言って通夜は似合わないだろう。………なんて、言えたらどれだけいいだろう。
「皆はどう思う」
口を開いたのは千華。
「どうって、何が?」
続く依奈。勘づいているが、聞かずにはいられなかった。
「アールヴヘイムは犠牲を払いすぎた。今回のことだけじゃない。美鈴のことも…。私は、アールヴヘイムの解散を提案する」
誰も言えなかった一言が、吐き出された。
異空間リーディングステージを観劇しました。
色々思うところはありますが、やっぱりアサルトリリィっていいな。と再確認しました。
この熱を冷めない内に形にしたくて続きを執筆しました。
次回「10話 第一次大磯防衛戦ー休息」
天使は羽を休める。