マクロス・アロンダイト   作:天龍びし

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アンノウン・エンカウント 前編

 

 虹色に光り、壁面が高波のようにうねるトンネルの中を、戦闘機が一つ飛んでいた。

 

 戦闘機の名称を『VF-25ブロック2 スーパーメサイア』という。

 

 西暦2070年の現在、新統合軍の主力機に採用されたものである。

 

「うわーん!絶対基地から追い出されたんだー!」

 

 航空機の狭苦しいコックピットの中で、霞・カミルはわめていていた。

 

 戦闘を行うたびに乗機を壊していた彼は、ついに基地を追い出されたのだと思っていたのだ。

 

 上官から仔細を知らされず、カミルは少なくともそうであると確信していた。

 

 虹のトンネルで、機体はコンピューターによって自動操縦される。

 

 暇な時間の中、カミルはスマートフォンを取り出し、あらかじめダウンロードしておいた漫画を読もうとして、ふと壁紙に映し出されたホログラムの画面を見つめた。

 

 カミルと両親が映った写真。

 

 薄青い目は母譲り。髪は両親ともに黒髪であるが、カミルは父譲りの固い直毛を柔くするために一度ブリーチをかけてから暗めのアッシュに染めている。

 

 そんな家族写真を見て、一人っ子なので子供のころはよくわがままが通ったものだ。と思い返したカミル。

 

 パイロットになりたいという夢は、むしろ両親から応援された。

 

 母がパイロットだった父と結婚したから、ほかの親よりも理解があるという事情もありそうだ。

 

 ただ一つ反対された事といえば、民間軍事プロバイダーへの入社である。

 

 当時両親に相談したとき、仕事で家にいなかった父からメールでひと言「S.M.Sはやめとけ」とやんわり軍をすすめられて、いまここに至る。

 

「僕まだ19なのに、もう出世コースはずれるのかなぁ。まあいっか」

 

 そんなことを思い返していれば、もうすぐトンネルから出るころ合いだ。

 

 翼下のウェポンジョイントに懸架しているコンテナがどうしても気になってしまう。

 

 ここには私物を詰め込んでいた。

 なので、こいつを紛失したら悲しい気持ちになるのだ。

 

 これまで所属していた『惑星エデン』の基地で転属を命令されたカミルは、いまエデンから遠く離れた宇宙(そら)を往く超長距離移民船団『マクロス・アロンダイト』を追いかけている。

 

 そこが、彼の転属先だった。

 しかし、実家のあるエデンを離れることは、決して悲観していなかった。

 

 むしろ宇宙開拓の最先端に行くことに、とても昂っていたのだ。

 

 子供のころ、父に連れられて映画館で観た『愛・おぼえていますか』は、今なおカミルの脳裏に焼き付いている。

 

 この古い映画は2009年に起こった、人類と巨人型異星人種族(ゼントラーディ)との闘いを描くノンフィクション映画だ。

 

 のちに第一次星間大戦と呼ばれるこの戦争の終戦20周年を記念して2031年に公開されたものだが、カミルが見たのは、正確にはリマスター再上映である。

 

 歴史の勉強としては、この戦いで地球人類は初めて宇宙人と遭遇し、それらとの闘いを経験した。

 

 結果は辛勝。地球人は総人口の99.99%を失う大惨事となる。

 

 この経験から、人類は種の存続のため、新天地へ向けて巨大な宇宙移民船を飛ばすようになる。

 

 俗に言う、宇宙大航海時代が幕を開けたのである。

 

 新統合政府によるプロパガンダ的な意味を含む映画であったが、カミルの可変戦闘機(ヴァリアブル・ファイター)への強いあこがれは、そもそもこの『愛・おぼえていますか』で見たVF-1という戦闘機の雄姿に影響されたものだ。

 

「正直VFに乗れれば、なんでもいいんだよね」

 

 故郷を離れることに抵抗がないのも、この映画で知った宇宙への未知に対する好奇心があるからである。

 

 計器に映ったタイマーを見ると、もうそろそろトンネルを抜けるころ合いだ。

 

 結局漫画を開いておく時間もなく、カミルはミュージックアプリを開いてプレイリストからシャッフル再生のボタンを押す。

 

 ヘルメットから流れだしたのは、いまギャラクシー・ネットワークで三週連続チャート一位の歌姫、アリィヤ・ブランディの曲である。

 

 特に、社会への不満を痛烈に歌った初のオリジナル曲は若者を中心に人気を集めた。

 

 しかし彼女が人気を集める理由はそれだけにとどまらない。

 

 シャロン・アップルというAIを使った合成音声フリーソフトと、それによって生み出されたバーチャルシンガー音楽はカミルが小学生の頃に流行し、年齢的には当時小学生であったはずのアリィヤもバーチャルシンガーネイティブ世代である。

 

 そのことでアリィヤとバーチャルシンガークリエイターとはシームレスに相乗し、今の時代を生きる若者に絶大な人気を博しているのだ。

 

 計器のモニターが点滅し、同時に警告音が三回鳴る。

 もう間もなく、このトンネルから出るのだ。

 

 虹色のトンネルがいっそう輝きを強め、まぶしさに目を細めた瞬間である。

 

 一帯に広がっていた無数の星々。その運河のごとき光が宇宙の闇を彩る。

 

 手が届きそうなほど目前には、巨大な天蓋を持つ二枚貝型の宇宙船が後方には長いカプセル型の宇宙船を多数引き連れて、上も下もない宇宙の海原を進んでいる。

 

 これが、新マクロス級の最新世代、マクロス・フロンティア船団と形式を同じくするアイランド・クラスター級の星船、マクロス・アロンダイト船団である。

 

「オッケー。無事に着いたね。いやこれは、無事でいいのか......?」

 

 懐疑的だったのは、軍用回線から錯綜する声。

 その緊迫したやり取りを聞いて、旅行気分だったカミルはすぐさま切り替えた。

 

 迷いなくマスターアームをオンに入れる。

 起動した各兵装を確認し、カミルは無線の声に耳を傾けた。

 

 天蓋の向こうには、爆発の閃光が見える。

 つまり、いま現在戦闘が起きているのだ。

 

 船団では、宙域が危険な状態にあると、ふつう防護シェルである天蓋が閉じる。

 

 しかし天窓がむき出しになっているところを見れば、戦闘はたった今始められたもの。

 

 それも予測しえない突発的なものか、先方による奇襲に近い形であるとカミルは推測する。

 

 いずれにせよ、この爆発閃光の規模は海賊との小競り合いなんてものではない。

 

≪司令!アイランド2後方、四時方向にデフォールド反応!≫

 

≪今度はなんだ!≫

 

≪IFFでは味方機のようです!≫

 

 という緊迫したやり取りが、怒号まみれの無線の奥から聞こえた。

 

 すぐさま自分の所属を発信したところ、アロンダイトCICのオペレーターから通信が入る。

 

≪惑星エデンからはるばる? 遠路ご苦労と歓迎したいところだが、今は君の助力も必要だカミル少尉。当艦では現在、コード・ビクターが発令されている≫

 

「コード・ビクター? 敵はバジュラなんですか?」

 

 コード・ビクターとは、とある宇宙生物、つまり『バジュラ』の襲来を意味している。

 

 アロンダイトの二つ前に出航したマクロス・フロンティア船団は、このバジュラに襲撃され手痛い損害を食らったとして有名だ。

 

 惑星エデンでもフロンティア船団のことは連日報道されていたので、カミルもよく記憶していた。

 

 この2059年に起きた事件を『バジュラ戦役』と呼び、だが闘いの末、バジュラたちは人間を敵ではないと認識。

 彼らは人間にとって友好的な生き物になったのである。

 

 しかし目の前の状況をそのまま受け取れば、そのバジュラたちが心変わりを起こして、再び人間に牙を剥いたということになるわけだ。

 

「霞・カミル少尉、オーディン1は戦線に参加します。当機をそちらのデータリンクに加えてください」

 

≪すまないカミル少尉。では頼んだぞ≫

 

 ヘルメットのバイザーに、無数の表示が浮かびあがる。

 爆発閃光ばかりだった視界は、一転して仕事モードになった。

 

 その表示を確認したカミルは、自機の両翼端に装着されている半自律無人戦闘機『AIF-9V』、通称ゴーストV9を起動する。

 

「お前たち、データリンクは受け取ったな。行ってこい!」

 

 ボイスチャットモードで『フギン』『ムニン』と名付けたそれぞれに呼びかけると、二機はミサイルのように翼端から射出され、まるで獲物を追い求める獰猛な猟犬のように爆発閃光のもとへ一直線に飛ぶ。

 

 そしてカミルもゴーストたちに続いて、スロットルを全開に入れた。

 

 

***

 

 

 戦況はまずい状態だった。

 

 マクロス・アロンダイトは、不明な敵性勢力により完全な奇襲攻撃を受けた形である。

 

 まず哨戒機が撃墜され、次いでインターセプトしたゴースト部隊は、敵性不明機が発した強力なECMにより機能を停止、全滅する。

 

 いよいよ有人戦闘機部隊が出撃を掛けたが、今の新統合軍の練度はお世辞にも高いとは言えなかった。

 

 高度化した無人戦闘機部隊によって、パイロットたちの練度は年々低下の一途を辿っていたのである。

 

 そんな不甲斐ない彼らに代わって、今の船団主戦力はケイオス社やS.M.S社といった民間軍事プロバイダー(PMC)の部隊に頼り切る形に陥っていた。

 

 そのPMCはたった今、船団大統領府の要請を受けたため部隊展開はまだである。

 

 少なくともしばらくは統合軍が戦線を維持しなければならない。

 

 しかし、そんな新統合軍内でも、未だエースとして輝きを放つパイロットたちが居た。

 

 二枚貝型のアイランド1、そのカタパルトデッキに上がってくる真っ黒な可変戦闘機(VF)

 

 ゴテゴテの重武装は、VFの最重量オプション装備、アーマードパックに相当する勢いであり、その機首にあるはずのキャノピー窓は見えず、完全な装甲がなされている。

 

 その折りたたまれた尾翼に白で書かれた『YF-34』の文字。

 

 そして英数字の上には、12本の剣が格子状に交差し、上から一本の槍が刺された部隊エンブレムが描かれていた。

 

≪キロ隊、全機発艦完了。続いて、ラウンド隊特殊戦1番機、発艦準備≫

 

 特殊戦ラウンド隊の1番機と呼ばれたその機のパイロットは、急いで装着した装備を確かめつつ、終わり次第部下の様子を確認した。

 

「なんだかんだ、俺たちラウンドの初実戦になるわけだが、胃の調子は大丈夫かトビアス中尉」

 

 ヘルメットバイザーに小窓をポップアップし、隣のカタパルトデッキに接続されるトビアス機の内部を映して彼に呼びかけた。

 

 キャノピーまでを装甲する機体では通常、内張をモニターにする全天周囲モニター形式を基本とするが、この機体にはそれがない。

 

 外の様子は、パイロットのバイザーへ拡張現実方式で映し出される。

 

≪ラウンド隊「での」初実戦です。前の部隊では実戦経験もあります。では続きますヴィリー隊長≫

 

「ふん、そうかい」とごちて、ヴィリーと呼ばれたラウンドの隊長はにんまり笑う。

 

 次第に増していくエンジン出力を、シートから尻に感じ取り、それは武者震いとして身体を伝播していく。

 

 訓練やエンジン試運転では体感できない武者震いは、実戦でこそ初めてわかる震えである。

 

 人々を守るための高潔な兵士。

 

 だがそれは理想を求める民衆に向けた建前的なものであり、兵士とは笑顔で死地に突っ込んでいく狂人を言う。

 

 そうでなければ兵士など務まらないし、第一、市民を守ることなどできないのである。

 

 少なくとも、お茶の間に映る分だけきれいならばそれでよい。

 

≪隊長、私も出撃させてください≫

 

 ヴィリー機に無線をつないだのがもう一人。

 

 凛々しい女戦士(メルトラン)の声がヘルメットに響く。

 

 先週ラウンド隊に入ったばかりの新人である。

 

「リージヤ嬢ちゃんは機体がぶっ壊れてんだから、おとなしく留守番しとけ」

 

 周囲に並ぶカタパルトデッキから、一般部隊のVF-25ブロック2が順次出撃していく。

 

 もとより、VF-25はバジュラとの遭遇を想定して、フロンティア船団で運用がなされたものだ。

 

 ブロック2は本格的な量産に向けて、一部性能を落としたモデルである。

 

 すでにフロンティアで対バジュラ戦術が確立されている以上、奇襲による劣勢もすぐに押し返せるだろうと誰もが楽観していた。

 

「BDI接続チェック。コ・パイロット、起きてるな!」

 

 後部座席に叫んだヴィリー。複座型のYF-34だが、後部は人間が乗っているわけではない。

 

 そこに収まっていたのは、赤い瞳のような光学センサーが取り付けられた銀の箱である。

 

『とある高度なAI』を副操縦士に据えているのだ。

 

≪ご心配なさらずとも、私は居眠りをしません。指定のシステムポジションでドライブ開始。クラックカウンタープログラム作動≫

 

 という機械の合成音声をヘルメット内に聴き、ヴィリーは操縦桿をぐりぐりとまわして、機体各部バーニアの動作を確認する。

 

 その後、ヴィリーの目の前に、カタパルトのホログラム誘導灯が浮かび上がった。

 

 発艦動作はすべてコンピューターによる自動制御だ。

 

 機体が虚空へ吹っ飛ばされるまでは、パイロットは計器上に設けられたハンドルを握っておけばよい。

 

 機首の鼻先に円形のホログラムが現れ、その表示が消えた次の瞬間、ヴィリーの全身に強烈なGがのしかかった。

 

 多数のブースターノズルからいくつもの火柱が噴出し、瞬きの後、機体はアイランド1を離れ宇宙に飛び出していた。

 

 VF部隊が光の尾を引いて戦場へ飛んでいく。

 

「宇宙の加速は、四十の体に堪えるね」

 

 直後、ヴィリー機の四時方向から、ラウンド隊2番のトビアス機がゆっくり接近する。

 

≪隊長。再三確認は不要かと思われますが、自分の反芻を兼ねて念のため≫

 

 と無線から確認を始める2番機トビアス。

 

 この赤髪の若い男は優秀であることに違いないが、頭の固い軍人という典型的なタイプでもある。

 

≪バジュラの、兵器に対する「適応」を防ぐため、戦闘は必ず電子戦機のフォールド波封鎖圏内で行ってください≫

 

「わーってるよ。しかし、とろい電子戦機を待って敵を逃がすのはごめんだ」

 

≪はい。自分も、状況次第では追います≫

 

「行くぞ!」とスロットル全開に入れ、強烈な加速度を全身に受け止めながら前線へ突入していく。

 

 先行した統合軍一般部隊のVF隊は、すでにバジュラの攻撃を受けて統率を欠いている。

 

 無線からは、電子戦機パイロットの愚痴がたびたび聞こえてくるものだ。

 

 彼ら電子戦機は攻撃手段を持たない。

 

 しかしながら作戦上前線に居続けなければならず、いつまでたっても敵を落とせない戦闘機に苛立ちを覚えるのも仕方ないだろう。

 

 敵は青い光の尾を引いて宇宙を飛び回っている。

 

 甲殻はダークブルーで、そのとき違和感に駆られた。

 

 バジュラといえば基本は赤い甲殻である。

 

≪隊長。フロンティア船団のデータと姿が違います。しかし生体反応はバジュラそのものか......≫

 

「亜種かもしれんが、容量は同じだ!」

 

 ヴィリーは追いかけまわされていた一般機のVF-25を見つけ、その後ろに着いていた小型バジュラにビームガンポッドの光線を撃ち込み、さっそく撃墜を稼ぐ。

 

≪特殊戦!? た、助かった!≫

 

「言ってねぇでさっさと態勢を立て直せ! まったく、今時の若い奴はみんなこうなのか!」

 

 発破をかけた後、しかしにんまりと笑ったヴィリー。

 

 目の前に小型を束ねる親玉が現れたのだ。

 

≪ヴィリー隊長。大型バジュラです≫

 

「あれは俺がやる。トビアスはひよっこ共を守りながら、ほかにも親玉が居ないか探せ!」

 

 青いバジュラのケツに食らいつき、激しく複雑な戦闘機動の末にロックオンしたその瞬間、急制動を掛けたバジュラにヴィリー機はオーバーシュートさせられる。

 

 そしてすれ違いざまに、背後に回ったバジュラは、数十発のマイクロミサイルを放ったのだ。

 

「この兵器が『可変』戦闘機と呼ばれる所以を、お前らに見せてやる」

 

 迫りくるミサイルを見て、ヴィリーは操縦桿を横向きに折り曲げる。

 

 すると、エンジンブロックががくんと折れ曲がり、それはまるで足のようにして機首方向へスイングしたのである。

 

 戦闘機に足が生えたようなシルエット、つまり『ガウォーク』形態に変わったのだ。

 

 バジュラに負けじと急制動をかけ、宇宙戦闘特有の超高Gを身に受けながら、かろうじて動く親指で操縦桿のボタンを押し込む。

 

 すると、その足元に装備されていたフレアランチャーからいくつかの筒が発射され、それが一瞬で膨らむと戦闘機の形をした風船になる。

 

 敵のミサイルなどを欺瞞するダミーバルーンである。

 

 マイクロミサイルの数発は風船に吸い込まれて爆発し、ミサイルの誘導が若干鈍ったその隙に、ヴィリーは操縦桿をさらに折り曲げた。

 

 計器のコンソールモニターに、三つのシルエットが三角形で表示される。

 

 それぞれは矢印でつながっており、赤く点滅する頂点のシルエットが()()()()()

 

 そこから矢印の点滅が右下に流れていき、今度はヒト型をしたシルエットを指し示す。

 

 機首とその付け根にあるインテークブロックの間が真っ二つに折れ曲がり、熱核タービンエンジンから供給されるパワーを受け取って、エネルギー転換装甲が赤い閃光を放つ。

 

 各構成パーツがバラバラに動き、みるみる内に航空機の姿からはかけ離れ、人型を形作ったのである。

 

 傍から見れば、瞬きした瞬間に戦闘機が巨人の姿『バトロイド』形態へ変形したのだ。

 

 ヴィリーは迫りくるミサイルを視線で追った。

 

 ヘルメット内側に備え付けられたセンサーがヴィリーの目の動きを追って、ミサイルを個別にロックオンしていく。

 

 すべての敵弾のロックが完了した瞬間、ヴィリーは両足のペダルを目一杯踏み込んだ。

 

 バトロイドに変形完了したヴィリーの『YF-34スーパーエボリューション』は、右手に持ったビームガンポッドを連射しつつ、両側頭に備え付けられたアンテナ型のビームガンも併せて同時に発射する。

 

 撃ち放たれる青白いビームはミサイルを切断していき、宇宙の冷たい虚空に爆発の光が連なって咲く。

 

 サーカスのごとき曲芸でミサイルを迎撃した後、ヴィリー機の動きが止まった瞬間を狙って青いバジュラが迫る。

 

「てめえから来るのを待ってたぜ!」

 

 その虫のような腹に照準をつけて、ミサイルとビームを一斉射。

 

 ビームが腹を穿ち、後追いで殺到したミサイルが大型バジュラを甲殻の一欠けらも残さず木っ端みじんにしたのだ。

 

≪隊長。もう一匹です!≫

 

「よっしゃ!俺に続け!」

 

 巨人は再び一瞬で戦闘機の姿に戻り、ヴィリー機に続いてトビアス機、さらには態勢を立て直して調子づく一般部隊も続いた。

 

***

 

「かなりの激戦だなぁ。出しゃばって邪魔はしたくないけど......。まあいっか」

 

 こっちの部隊の詳細なやり方など知ったことではない。

 

 このような状況では、共通ドクトリンで当てはめて状況を判断するしかないだろう。

 

 まず、天蓋の付け根は船の進行方向にある。

 

 そっちのほうにいる敵はいったん無視しても問題ないだろうと判断した。

 

 カミルが助太刀するべきは、船団側面に回り込もうとする敵に対してだ。

 

「でも奇襲だとして、一番戦力が厚い正面からわざわざ来るかな?」

 

 その懸念は当たっていた。船団右舷の先に、トンネルを抜けた光がぽつぽつと現れ始める。

 

≪アイランド1、三時方向にデフォールド反応多数!敵機増援です!≫

 

≪正面は囮か!?≫

 

 という無線が聞こえ、カミルは考える間もなく新しく出現した敵機のもとへ直行する。

 

 まず正面から仕掛ければ、アロンダイトの主力部隊はそっちの方へ傾く。

 

 このタイミングでわき腹から攻めれば、がら空きの急所を難なく突けるのだ。

 

 明らかに突発的な戦闘ではない。計画された奇襲攻撃である。

 しかし目的が分からなかった。

 

「間違って対空機銃当てないでよ!」

 

 カミルは左手に握りしめたスロットルレバーを限界まで押し込み、マクロス船団側面に展開する護衛艦の列を飛び越していく。

 

≪なんだあの機体は。早いぞ、どこの所属だ?≫

 

 VFは、大気圏内であれば空気を推進剤として燃料を気にせず無限に飛んでいられる。

 

 しかし大気のない宇宙ではそうもいかず、例えるならば、息を止めて走り続けている状態だ。

 

 そもそも燃料の搭載スペースに乏しい航空機であるのに、さらに変形機構まであるので、素のままでは近所の散歩程度にしか飛べないのだ。

 

 そこで、VFにはオプション装備として、追加増槽を兼ねた化学燃料ブースターを背負うことができる。

 これをスーパーパックと呼び、宇宙でもばっちり飛べるわけだ。

 

 カミルの駆るVF-25ブロック2で言えば、主翼を挟んで装着されている尖塔型のものがそうである。

 

 側面艦隊から順次発艦を始めるアロンダイトの統合軍機。

 機体も性能も同じはずだったが、カミル機のスピードは頭一つ抜けていた。

 

 最先端を行くゴースト二機に続き、VF-25ブロック2が猛スピードで敵機に突撃していく。

 

≪なんだありゃ。ゴースト部隊の第2波か?≫

 

≪お、おい。最後端のはVF-25じゃないのか?イカれた加速だ......≫

 

 にわかにざわめく無線を流し聞きにしつつ、カミルはにっこり笑顔で強烈なGを受け続けつづける。

 

 敵機がロックオン圏内に入り、その瞬間無数のミサイル警告表示が視界を埋め尽くす。

 

「フギン、ムニン!お前たちは小型の相手をしろ!」

 

 左右に散開したゴースト二機を視線で見送り、直後正面から追いすがってくる無数のミサイルを蝶のように舞って全弾回避した。

 

 すさまじい相対速度。近接信管の反応が間に合わず、バジュラのミサイルが爆発した頃には、カミル機はすでに抜けていた。

 

「ヘッドオンの瞬間が一番楽しいんだよね!」

 

 小型を統率する大型バジュラは三匹。

 

 それらをロックオンしたのち、カミル機からもお返しにミサイルを全弾発射する。

 

 これを避けようとした三匹はそれぞれの方向へ回避し、自動的に一対一の状況が作り出される。

 

「ん?バジュラって赤色じゃなかったっけ。資料で見たのと姿が違う......」

 

 カミルはまず、上側に逃げた一匹に狙いをつける。

 

 ガウォーク形態で急制動を掛けながら機首を上側に向け、水泳選手が水中を蹴るかのように展開した脚部を折りたたむ。

 

 後ろに着かれたことに気が付いた青いバジュラはミサイルとカミル機を同時に無力化すべく、透明な水飴状の物体を空中に置きながら逃げる。

 

「そんなんで止められるかよ」

 

 放ったミサイルは破壊されてしまったが、その爆発閃光に合わせてエンジンの出力を切る。

 

 当たり前だが、宇宙には大気がないので空気抵抗もない。

 

 よって、エンジンを切っても速度が落ちることはなく、機体は何かにぶつかったりしない限り慣性によって進み続ける。

 

 そして宇宙の暗闇でエンジンを切ったVF-25ブロック2を、バジュラは一瞬見逃した。

 

 そう。一瞬で十分だった。

 

 カミル機を見失い、動きが緩慢になったバジュラを狙って、大口径の実体弾ガンポッドを腰の付け根に叩き込む。

 

 バジュラは腰から折れるように砕け散り、死骸は青い血を宇宙にぶちまけた。

 

「一つ!」

 

≪なんだあいつ、一人でやりあってるのか!?≫

 

≪す、すげえ!どこの部隊だ!?≫

 

 無線から聞こえてくる声にカミルは満更でもなく「いやぁそれほどでも」とごちながら、しかし容赦なく二匹目を追いかける。

 

 その動きは、戦闘機を操作しているというより、まるで生き物のようにしなやかで軽い。

 

 機体を知り尽くしていた動きだった。

 

 二匹目はカミルを危険だと判断し、いったんそばに浮いていた岩石群に逃げ込む。

 

 岩間を縫う複雑で激しいドッグファイト。

 しかし、大型は目の前のを含め二匹である。

 

 カミル機の後ろに、ミサイルからフリーになったもう片方が戻ってきてしまった。

 

 この超高速戦闘、一般パイロットではついていくのも難しい。

 

 だがカミルは、後ろに着かれることも想定の上でドッグファイトに持ち込んでいた。

 

 カミル的には戦場が岩石群に移ってやりやすくなったとも言える。

 

 超硬度の装甲を持つバジュラに対して、やみくもに機関砲を撃つだけでは決定打に欠ける。

 

 ミサイルは先ほど全弾発射してしまったが、VF-25ブロック2には懐刀がもう一本存在していた。

 

 岩石の岩肌すれすれに飛ぶカミル機。

 

 後ろからバジュラが迫ってきていることを確認したら、ぐっと速度を落とし、続けざまにバトロイドへ変形。

 

 両足を岩肌に突っ込んで機体を前転させると、直後、高速で後ろから迫ってきたバジュラを頭から尻尾の先まで一刀両断にしたのだ。

 

 VF-25ブロック2の左腕からは、光る風のようなエネルギーブレードが一瞬だけ現れた。

 

 時空連続体のひずみを利用したバリア、それをブレード状に形成して切り裂いたのである。

 

 従来よりピンポイントバリアと呼ばれる機能を攻撃に転化した武装だ。

 

≪艦長!大型個体が迎撃部隊を突破しました!≫

 

≪全艦対空防御!絶対に通してはならん!≫

 

 護衛艦からの無線を聞いて、先ほど追いかけていた個体が防衛ラインを抜けたのだとカミルは理解する。

 

「やっべ。しくじったな」

 

 レーダーを確認すると、抜かしてきたほかの機体が、小型バジュラの群れと戦闘を開始したようだ。

 

 さらに後続から味方機の反応。敵味方識別(IFF)では、S.M.S社のVF-31部隊であるらしい。

 

 バトロイドから戦闘機(ファイター)形態に戻し変形させ、カミルは逃がした個体を追いかける。

 

 岩間を抜け、味方機の戦線からさらに遡り、護衛艦隊の対空機関砲弾が青白く煌めく宇宙を猛スピードで飛ぶ。

 

 はるか前方に、真っ青な残光を引いて飛ぶ異形バジュラの姿。

 

 重力制御推進を生体レベルで行うバジュラは、VF兵器などよりはるかに高機動だ。

 

 リミッターを解除したとて追いつけないことは分かりきっているが、アロンダイトの市民が避難できているとも思えない。

 

「逃がさないぞ!行けッ!」

 

 ゴースト二機を統合軍IFFに基づくスタンドアロンモードに切り替え、もう押し込めないスロットルへ、さらに力を込める。

 

 悠々と対空砲火を躱し、アイランド1へ飛ぶ青いバジュラは、その背中から突き出た槍のような物体を構えた。

 

 槍がにわかに電流を帯びたと思われた次の瞬間である。発射された光弾が護衛艦に直撃し、それを一撃で粉砕したのである。

 

「その威力マジ!?冗談じゃない!」

 

 直後、アイランド1の透明ドームに緑の光が波紋のように広がる。ピンポイントバリアが展開されたのだ。

 

 天蓋閉じが間に合わない以上仕方ないが、護衛艦を安々と吹っ飛ばす化け物をその程度で抑えられるとも思えない。

 

 青いバジュラがもう二発目をドームに撃ち込む。

 幸いその一射では割れなかったが、とりついたバジュラは前足でドームを殴打し始めた。

 

 相当分厚く、かつ頑丈に作られているはずのドームにみるみる亀裂が入っていき、そしてついに砕け散ってしまう。

 

 バトロイド一機分が入れる穴が開き、内部の空気が勢いよく噴出し始める。

 

 その穴から大型個体が侵入し、小型も数匹が内部に侵入していく。

 

 何の目的か知らないが、このままでは市街地に甚大な被害が出てしまう。

 

 カミルは空気抵抗で邪魔になるスーパーパックを脱ぎ捨て、裸になったVF-25ブロック2を矢のように飛ばす。

 

「転属初日からドンパチしやがって!許さないぞ!」

 

 自動修復システムによってふさがりかけているドームの穴に、カミル機はぎりぎりで飛び込んだ。

 

To be continued──




カミルくん、まだISC起動してないってマ?

追記
変形描写が煩雑になってしまったので、描写を軽量化しました。
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