メギヴリア星団、惑星レミッドのカラハレード自治区。
そこにある統合軍基地では、敵襲を報せる警報がけたたましく鳴っていた。
格納庫では兵士やパイロット、屋内では士官たちがせわしなく走り回り、各々の配置に駆ける。
「参照点より方位3-2-3からIFFの応答がない不明VF編隊接近との報告あり。すでにレーダーサイト、インディア21および24からの通信が途絶」
オペレーターが椅子を回し、指令室の中央に立っている女性──基地司令に報告する。
「敵の位置と規模は?」
「ふ、不明だと言っています」
その返答を聞いて眉間にしわを寄せた彼女は、オペレーターのヘッドセットを取って、マイクの先に居るレーダーサイト人員へ直接指示を飛ばした。
「不明とはどういうことだ!」
≪し、司令!?いえ、強力なECMとアクティブステルスで、位置や規模などは──≫
「馬鹿者!相手がVFならば当たり前だ!ECM効果範囲からおおよその位置と規模を割り出してデータリンクに乗せろ!」
ヘッドセットをオペレーターに返した司令は「まったく......」と呆れたようにして溜息交じりにつぶやき、すぐさま次の指示を飛ばす。
「VF飛行隊へスクランブル!25部隊をインターセプトに当たらせ、31部隊の武装を急がせろ!各デストロイドとリガードは北側を中心に防空配置だ!」
一通りの指示を済ませた基地司令は、そういえばアロンダイト船団が近くに来ているのだったな。と心中にごちる。
「アロンダイト船団の統合軍部隊にも救援要請を。どうも、ただのならず者集団というわけではなさそうだな......」
***
一方、アロンダイト船団がカラハレード基地からの救援要請を受け取ったとき、運のよいことに、船団からの先遣隊として強襲揚陸艦ダイダロスⅡが惑星レミッドへ飛んでいた。
当初、先遣隊には加わっていなかったラウンド隊も、この救援要請を受けて出撃命令が下り、アイランド1から飛んだラウンドはダイダロスⅡと合流する。
ここからでは、レミッドは点にしか見えない。
これからダイダロスⅡは一瞬の超単距離フォールドでレミッドの衛星防空システム手前まで急接近し、そこから大気圏へVF部隊を送り込む。
≪え、どういうことです≫
ダイダロスⅡのカタパルト作業員がヴィリーに尋ねた。
≪すまんが、射出位置に着かせてくれ。うちにも遅れて命令が下ったんでね。フォールドアウトからうちの隊が真っ先に出る≫
≪了解です。固定しますんで、もっと寄せてください≫
四機それぞれがダイダロスⅡのカタパルト射出位置に固定されると、船の進路上が輝き、ほんの一瞬だけフォールドする。
カミルは思わず驚いて仰け反った。レミッドが高速で前から迫ってきて、目前で急停止したように見えたからだ。
カタパルトデッキの上で、レミッドからの反射光を受けてシルエットが浮かび上がったラウンド隊のYF-34。
これまで宇宙戦闘が主でアーマードパーツを纏っていた機体は珍しく素体だった。
とはいえ、戦闘用のドレスを身にまとっていることは確かだ。
全身の肉抜きを埋めるようにして取り付けられているファストパックがそのドレスである。
様々な装備を取り付けるために設けられた肉抜きは、空気の流れを乱してしまい、飛行に際して余計な抵抗を作る。
YF-34のファストパックには単なる戦闘力補強のほかに、整流を行うための目的もあった。
そして、デッキに誘導ホログラムが浮かび上がると、作業員がラウンド隊を見送る。
≪カタパルトクリア!特殊戦、行ってこい!≫
≪あいよ!≫
ヴィリーがそれに応え、四機は順に宇宙へ打ち出された。
編隊を組んだ四機は、視覚情報に表示されているカーマンライン突入ポイントに沿って機体を微調整していく。
≪各機、エネルギー転換装甲の出力を上げろ。断熱圧縮熱が来るぞ≫
カミルやリージヤは慣れていない大気圏突入に力んでいた。
その様子を見かねたトビアスが無線で呼びかける。
≪レミッドの大気データは入力されている。カタパルト射出と同じく、突入はシステムが自動操縦で行う≫
そうは頭でわかっていても、操縦桿を握る指には無意識に力が入り込む。
ん、と無言のまま操縦桿から手を放して見せるヴィリー。
さすがにそれはやめろと言わんばかりに睨むトビアス。
先輩二人の平常運転に少し力が抜け始めたところで、機体はガタガタと軋み始めた。
視覚情報に表示される緑色のユーザーインターフェースが赤く染まり、様々な警告音が絶え間なく鳴り響く。
足元から背後へ炎と赤熱の雨が流れていき、軋む音は次第に大きくなっていく。
冷や汗が背中を伝うと、視界は涼しげな青に切り替わって揺れも収まった。
大気の海に潜り、十分に減速できたということの証明である。
そして、機体のインテークを塞いでいたシャッターがガッと開く。
穴の奥で高速回転するファンが前から流れてくる空気を掴んで引きずり込み、それを食らう熱核タービンエンジンが唸りを上げる。
その様は、長く潜っていた人間が水面に顔を出し、大きく息を吸っているようでもあった。
開いていたエンジンノズルがグッとすぼむと、宇宙で尾を引いていた青い光は一変して、赤い炎柱に姿を変える。
≪さてカミルくん。久々の天然大気圏はどうかな?≫
大気圏突入を無事に完了させると、間髪入れずタフィからの通信が入る。
「やっぱりいいですね。波に乗ってる感じって言いますか。それで、戦地の状況は」
≪所属不明部隊っていうけど、かなりの大部隊ね。VF-1を中心とする制空戦闘機と、多数のデストロイド部隊が戦列を組んでカラハレードに侵攻してきてる≫
どういう構図か全く見当もつかない。
だがカラハレードの統合軍から救難が入って、そこを襲う敵を迎撃しに向かう。
状況としては単純だ。
視線を空の方へ向けると、流れ星が無数に飛んで行く。
後続部隊の大気圏突入の光にして、ラウンド隊が突入位置から一周回ったことを意味していた。
≪さてお前ら、そろそろカラハレードだ。地獄の観光と行くぞ、マスターアーム!≫
快晴の青空は、朝方の薄暗い空に移り変わり、次第に夜の闇に染まっていく。
眼下を通り過ぎていく大海の波から視線を上げていくと、その先の陸地で、赤い戦火が夜の曇り空を照らしていた。
≪レーダー反応、アロンダイトの部隊か!≫
という声がジリジリという雑音に混じって無線から聞こえる。
おそらく、カラハレード基地からの線だろう。
四機は低空のまま速度を上げた。
そして、戦火に燃え盛る街で───
北区市街から河川を挟み、南区へ降下してくる不明部隊のデストロイド戦列は、統合軍の兵器がいるのだろう、市街の建物に向けて機銃を撃ち放つ。
迎え撃つカラハレード部隊のデストロイドは建物を遮蔽にしつつ、曳航から射撃位置を逆算して反撃するものの、河川から飛んできた荷電粒子砲の光芒に撃ち抜かれる。
しかし南区は古い城塞跡があり、それは山の上に位置している。
統合軍側は地形的なアドバンテージがあった。
飛び行く曳航を目で追っても、肉眼には街並みと立ち上る黒煙しか見えなかったが、パイロットたちには望遠機能で敵の姿がはっきりと視認できている。
そういう交戦距離だ。
だが、そんなカラハレード部隊のデストロイドの真上からミサイルが飛来する。
≪クソッ!なんで爆撃が来やがる!制空権は!?≫
≪戦闘機は何をやっている!≫
そういう声が地上部隊の各所から上がり、しかし先に動き出した戦闘機はケイオス・メギヴリア星団支社のVF-31部隊だった。
≪こちらケイオスVF部隊、制空戦闘に参加する≫
≪半歩遅れて、S.M.Sも現着した≫
地上の統合軍部隊は、むしろ自軍のVFが来るよりも士気が上がった。
各々の部隊長や指揮官は兵士たちの様子に頭を抱えたが、実際問題、練度の低い統合軍の戦闘機部隊が来るよりずっといい。
≪お前たち、ケイオスの奴らに後れを取るなよ。そろそろシェア率を奪い返す時だ≫
≪各機分かっているな。ここがセールスポイントだ。S.M.Sを抑えて給与アップと行くぞ≫
さらに遅れて、そのずっと南の海から、ラウンド隊も戦地に到達する。
「北側が主戦場か。でも統合軍のVFが少ないな......」
≪おそらく基地も敵軍の別動隊に空襲を受けているのだろう≫
≪そういうこった。俺らはまず市街の敵を叩く≫
普段の訓練通り、リージヤとペアを組んだカミル。
左手に握るスロットルを押し込み、火線が交錯する戦場へ飛び込んでいった。
基地司令姉貴好き
酔った勢いで出る仕事の愚痴を聞きたい