マクロス・アロンダイト   作:天龍びし

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ホリゾンタル・ダイブ 後編

 

 河川を流れる水を掻き分け、前進し続けるデストロイド戦列。

 

 その様は、まるで古の歩兵戦闘が復活したかの様である。

 

 だが、戦列の後方からひときわ巨大な機影が低空をホバリングしながら南区市街に迫ってくる。

 

 統合軍からの攻撃は、すべて展開されたピンポイントバリアに阻まれ、有効打を与えられない。

 

≪クソ、こいつを相手にするのは無理か......≫

 

≪流石にあれは無理でしょう、本部にMDE弾の使用申請を打電します≫

 

 巨大な機影に攻撃を仕掛けたケイオスのVF-31だったが、可変戦闘機の手に余る防御性能を前に、喰らいつくことができなかった。

 

 カトンボの攻撃などかゆくもないと、巨大な機影は、背部から突き出す二つの尖塔から極大ビームを撃ち放つ。

 

 まるで超小型のマクロスとでも言わんばかりの火力が、侵攻方向に展開していた統合軍部隊を吹き飛ばす。

 

 その砲撃の様子を上空から見ていたカミルは、馬鹿げた火力と異様な機体サイズに戦慄した。

 

「なんか、でっかいガウォークみたいな、ちっちゃいマクロスみたいなのがいます!」

 

≪ちっちゃ──、どっちだ!≫

 

 正確に報告しろ。と怒鳴られたカミルは、映像をメンバーと共有する。

 

≪これは、カタフラクトか?要塞撃滅用デストロイドだ≫

 

 すぐに兵器の正体を見破ったトビアス。

 地上で逃げ惑う人々を見て、リージヤは困惑交じりに言った。

 

≪撃滅って、まだ一般人の避難が完了していないのに......≫

 

 デストロイド・カタフラクトは戦列から単独で大きく前進すると、統合軍デストロイド部隊が展開している只中に突撃。

 

 巨大な機体が紫に光ったかと思うと、次の瞬間、光が爆発のように広がって、周囲の部隊を地形ごと削り取る。

 

 全方位バリアを応用した範囲攻撃であった。

 

 これほど“デストロイド”という言葉が似あう兵器も、そうはいない。

 

 そして、周囲からの攻撃がいったん止んだところで、デストロイド・カタフラクトは、ガウォークからバトロイドへ形態移行したのだ。

 

 だがそれだけに飽き足らず、全身からあらゆるビームを発射し始める。

 

 その過剰とも言える攻撃力を見たカミルは、すぐさまデストロイド・カタフラクトに突撃した。

 

「あれを放置していては被害が拡大します。僕が突入するので、リージヤ少尉は援護をお願いします」

 

≪ちょ、ちょっと、さすがに私たちだけでは無茶ですよ!≫

 

 単機で突撃していくカミルを見て、トビアスはまたも憤る。

 

≪カミル少尉!ちっ、カタフラクトは背部に防空戦闘用ゴーストを四機と、多数のハイマニューバミサイルを搭載している。手数の多様さに警戒しろ!≫

 

 ついに諦めて、カタフラクトの警戒すべき要所を視覚情報で共有したトビアスは、しかし目の前から迫るVF-1とドッグファイトに持ち込まれる。

 

≪VF-1とはね。そんな年代物ひっぱりだして、何がしたいんだか≫

 

≪いえ、この推力から察するに、中身はサンダーボルト(VF-11)です≫

 

 冷静に分析するトビアスだが、YF-34からしてみれば、結局はよぼよぼの爺さんだ。

 

≪どっちにしたって化石じゃねぇか≫

 

 大差ない。と撃墜を重ねるヴィリー。

 

 だが、VF-1に交じって飛んでいた機影を見て気を引き締める。

 

≪おいあれ見ろ。Sv-262じゃねぇか?≫

 

≪ドラケンⅢ......?こいつらは一体?≫

 

≪考えるのは後だ。手早く航空優勢を奪い返すぞ≫

 

 一方、突撃を仕掛けたカミルだったが、その存在に気が付いたカタフラクトが、カミル機に対してビームを撃ち放つ。

 

 空に無数の光芒が迸り、ビームの合間を縫って飛んだカミルは、危なげなくこれを回避する。

 

 その時、カミルは覚えのある声──いや歌が聞こえた気がした。

 

(アリィヤ......?)

 

 誰も目の前の戦闘に集中していて気が付かなかったが、コンソール上では、人工フォールド・クォーツの活性率を示す数値が高くなっていたのだ。

 

 しかしそんなことを気にしている余裕はなく、横やりを入れてきたSv-262に邪魔をされ、カミルはカタフラクトへの攻撃をいったん中止した。

 

≪宇宙人共め!我らの星から出て行け!≫

 

 ドラケンのパイロットはそう叫び、カミル機へ果敢に噛みつく。

 

「邪魔をしてっ!まずはお前からだ!」

 

 Sv-262 ドラケンⅢと言えば、三年前のウィンダミア戦争で姿を現した新鋭スレイヤー・バルキリー(Sv)だ。

 

 ウィンダミア人の高い身体性を前提とした高性能機体ということだったが、目の前を飛ぶ灰色アーバン迷彩のドラケンは動きが鈍い。

 

「デチューンモデルか?」

 

 動きの悪い機体とやりあっても面白くないが、なんであれ、今は邪魔をされたくない。

 

 ドラケンを追うカミルを、さらに追いかけるVF-1だったが、これらはリージヤが狙撃で仕留めていく。

 

「リージヤさん、ナイスフォローです!」

 

≪敵VFは極力排除するので、カミル少尉はカタフラクトに集中を!≫

 

 そういうだけあって、直後カタフラクトの背部カタパルトから射出された制空戦闘用ゴーストは、空に打ち上がた瞬間に、四機とも狙撃で撃ち落とされる。

 

 肝心のカタフラクト本体は、連続したビーム発射で疲弊しているらしく、赤熱した放熱装備がそれを物語っていた。

 

 それでも、ビーム出力を絞ってさらに応戦しようとするカタフラクト。

 

 その姿からは、並々ならぬ怒りや執念のようなものを感じた。

 

 カタフラクトの正面から迫るカミル機はバトロイドへ変形。

 

 コンテナに格納していたビームガンポッド二丁と両碗のビームカービン、そしてファストパックのマイクロミサイルを一斉射して、カタフラクトの全身に満載されている武器を潰していく。

 

 最後にリージヤ機の狙撃が頭部を撃ち抜き、カタフラクトは戦闘を停止した───。

 

 その戦場に居た誰もが、ラウンド隊の戦いぶりを目に焼き付ける。

 

 まだ統合軍に、こんな部隊が残っていたのか。と。

 

≪ふん、統合軍め。時代遅れの巨人が≫

 

 傍からYF-34の戦闘を見ていた民間軍事プロバイダーのパイロットは、コックピットの中で独りごちる。

 

 結局、ケイオスもS.M.Sも足早にやってきただけで、大半の戦果はラウンド隊に取られていた。

 

 統合軍と違って、戦闘に雇われただけの彼らは、これ以上機体で戦闘することは許されない。

 

 そんな新鋭機の一団は、すぐさま街の外へ飛び去って行く。

 

 ちょうどそのころ、空の彼方に視線を遣ったカミルは、そこに日の出の柔らかく清涼な光を見る。

 

 それとは反対に、夜の闇に隠されていた街の傷が、生々しく照らし出された。

 

 戦闘から一時間後───

 

 ヴィリーはさっそく、現地の部隊長と打ち解けていた。

 

 人脈はこういう風に広がっていくんだなと、傍から見ていたカミルは感心する。

 

「すまねぇな。酷いもん見せちまって」

 

 そういうと、地上のリガード、クァドラン混成部隊の部隊長(ゼントラン)は、軍帽を脱いで、スキンヘッドを撫でつける。

 

 怨嗟の円環と、それを食い物にする企業。

 

 部隊長の言った「酷いもん」は、万巻の思いで飛び出した。

 

「いや、俺らはマシさ。空から眺めてればいいからな」

 

 ヴィリーの言う通り、VF乗りはそういう意味で気楽だった。

 

 うずくまっている猫かと思って近づいたら、人間のちぎれ飛んだ頭だった。なんてこともあるらしい。

 

 想像しただけで、カミルは吐き気を覚える。

 

 すると、街の向こうで「ドン」と爆発音が鈍く響いて、建物が崩れる音が続く。

 

 その場にいた全員が音の方を向き、現地部隊長は音の正体を理解したようにタブレット端末を操作し始める。

 

「今のは爆弾処理の音だな。ドローン用のな」

 

「ドローンだと?」

 

 部隊長の男が見せたタブレット端末の画面には、積み重なったドローンとプラスチック爆弾の山が、カメラフラッシュの光に照らされて映っていた。

 

 アパートの空き家に、こういう部屋がいくつか存在するらしい。

 

「戦闘が始まってすぐ、羽音と一緒にこいつらが飛んできた。陣地が同時に爆撃されて、デストロイドも起動前のコックピットがやられてな。それで粗雑でヤバそうな爆弾は、爆破処理させている。今のはその音さ」

 

 おかしな話だった。

 

 安価なドローンと安価な爆弾の自爆特攻で、攻撃者はほとんど被害を出さず、それでいて兵士は死傷し、戦車やデストロイドは損害を被る。

 

 宇宙移民最盛期となる現代の対テロ戦争で、正規軍が警戒する最も危険な要素の一つだ。

 

「彼らは何者なんです?こんなことが過去にも?」

 

 そう、トビアスが質問する。

 

「いや、こんな規模は初めてだな。少なくともレミッドでは。奴ら、まぁ移民反対の過激派だろうよ」

 

「過激派つっても、過激ってレベルじゃないぜこれは」

 

 カラハレード自治区は、星外からの移民特区が設けられている場所でもある。

 

 メギヴリア星団の中では端に位置する惑星レミッドだが、それでも現地民からの反発は多い。

 

 ただでさえ火種をまき散らす統合政府とその首輪付き()が、我が物顔で土地に入ってくるのだから、先住民の反発感情も当然である。

 

「その宇宙人反対派の方々が、抵抗のために宇宙人の武器を使うとはね」

 

 滑稽だ。とヴィリーは言う。

 

「全くだ」

 

 と部隊長の男も半笑いに返し、カミルは「熱気バサラにご助力願いたい」と切に願い、ため息をつく。

 

 すると、街にジェットエンジンの鋭い爆音が響く。

 

 全員が空襲かと身構えたが、飛んできたのは追撃に出た統合軍のVF-25ブロック2だった。

 

「追撃部隊が帰ってきたか。じゃ、俺らは防空任務に就くんで」

 

「おう。すまねぇな」

 

 コックピットの装甲が、地獄の空気とを隔絶してくれる。

 

 カミルは一度深呼吸をして、操縦桿を握り込む。

 

 操縦席は、やはり聖域だ。

 

(本当にこんなところで、断層の消滅を待つのか......?)

 

 内心嫌になってきたカミル。

 

 それでも、VFに乗れる機会が増えたと強引にポジティブ思考へ移して、YF-34は空に上がった。





デストロイド・カタフラクト

対要塞攻略用超火力デストロイド。
相当巨大であるが、マクロス級ではない。

その様子は小型のマクロスとでも言うべきであり、デストロイド・モンスターを遥かに凌ぐ火力を備える。

基礎設計はデストロイド・モンスターであり、そこにマクロス・クォーターなどの技術を投入することで完成する。
辺境惑星の新興軍需企業により設計開発が成された。

胸部、口腔に高出力ビーム砲を備え、肩部には簡易型マクロス・キャノンを搭載。
両碗部はモジュール式となり、作戦によって装備換装が可能。

ピンポイントバリアシステムを標準搭載し、敵弾に対してオートで作動、全方位バリアは完全に攻撃用であり、アサルト・ディメンション・エクスプローシブと呼称される。

戦地へはガウォークモードで突撃、敵陣に切り込んだところでADEを発動してバトロイドへ形態移行、搭載火器で一帯の掃討を行うというのが基本戦術。

しかしながら、本機が攻略を想定しているような地上・宇宙要塞は、現代戦闘では無用の長物であり、同時に本機にも需要が発生しにくい。

よって、その買い手のほとんどがテロリストなどに留まり、特攻まがいの攻撃で軍、民間問わず甚大な被害を生み出している。

一方で移民船団ではマクロス級の随伴機として優秀なのではないかとされ、OTM系各社が解析に乗り出している。
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