まだ残り火の白煙が立ち上るカラハレードの街を、城塞遺跡から見下ろしていたカミル。
エデンに居た頃は、軍隊に身を置いていても、戦争が隣に立っているという感覚はなかった。
ただVFが好きなだけの男でいられると思い込んでいたから、つい数時間前の戦闘が、自覚している以上の負荷となって、カミルの精神にのしかかる。
同じ症状を抱える者がもう一人。
リージヤもよろよろと歩いてきて、転落防止柵へもたれかかった。
城塞の中庭で稼働する防空レーダーと、それに連動する壁上のSAM。
レーダーの隣にはカラハレード所属のVF-25が三機ほどガウォーク形態で待機していて、第二波の攻撃に備えている。
ラウンド隊は、いつもの通常業務に戻っているので、よほどのことがない限り、緊急の出撃命令が下ることはないだろう。
絶景を眺めながら煙草でも吸おうとやってきたヴィリーは、全く同じ姿で柵にもたれかかる二人をみて、思わず笑った。
「お前ら二人してどうしたんだよ」
なんだかんだと言って聞く姿勢を取ったヴィリーは、風下に歩いてから煙草に火をつける。
その隊長に、カミルは少しづつ口を開いた。
「マクロス船団の行く先々って、こういう紛争、多いじゃないですか」
「まぁそうだな」
「みんな仲良くできないかなぁって」
「できるさ。がんばるぞって心意気と、あとは時間がゆっくり洗い流してくれれば」
何だって、そうしようとしなければ、そうならない。とヴィリーは言う。
しばらく風の音が三人を包み、ヴィリーは吸い切った煙草を携帯灰皿に落とした。
それを横目に見たカミルは、ポイ捨てしないんだなと思いつつ、しかし背景にトビアス中尉の鋭い視線が横切って、ひとりでに納得してしまう。
「いつか世界から争いがなくなるでしょうか」
空を見上げたリージヤがしんみりという。
戦闘種としてプロトカルチャーに生み出されたゼントラーディ人が言うと、一層重みが増したような気がした。
「戦争経済って言葉、知ってるか?」
ふと、ヴィリーが口に出した。
民間軍事プロバイダーが本格的に台頭し始めて、その言葉は一般にも広く浸透したように思える。
銀河ネットのSNSを見てみれば、それについて、顔の見えない者同士が、浅ましい論争を繰り広げているものだ。
「まぁ、はい。戦闘が起こって、そこから生まれるお金の流れですよね」
といっても、カミル自身大して詳しくない。だから、簡単に答えた。
「そういうことだ。この先、寿命ってとこでも、お前らの方が未来を生きていく。だから、こういう話はできるだけしとこうと思う」
ヴィリーは次の一本を取り出したが、咥えたまま、なかなか火をつけなった。
「さっきの戦闘でも居た民間軍事企業の奴らな、それにVFやデストロイドを作る企業、銃や弾丸を作る企業。いろんな企業の製品やサービスが戦闘に使われる」
実際、カミルたちが乗っている機体も、着ている耐Gスーツも、そうした企業から生み出された製品の一つである。
「戦闘が行われるたびに、でっかいマイナスが付いて、終わったらちょびっとプラスになる。戦争は思ったより黒字にはならないもんだ。昔がどうだか知らないが、少なくとも今の世の中ではそうだ」
そんな話はたまに聞く。
戦闘でがっぽり儲かるなんて、空想上の話らしいということを。
「じゃあ、なんでやめないんでしょう」
カミルが言おうとして、リージヤが一歩早かった。
「これは、思ったより根の深い問題でな。大前提、誰も戦争なんぞやりたくないんだよ」
ようやくライターを取り出したヴィリーだったが、カチッと着いた火を見つめて、やっぱりやめる。
「兵器の製造ラインは、その維持にかなり金がかかる。企業は民間にセールスしてた方が遥かに儲かるが、製造ラインの停止を許さないのは、何より統合政府だ」
VFだろうが銃だろうが、ほとんどがそうだった。
企業としては、さっさと畳んでしまいたい事業なのである。
だから、S.M.Sもケイオスも会社の本命は軍事ではないし、仮にそうだったとしても、別の事業で補完している。
「一方で統合政府には、市民を守る義務がある。だが、守り通すには武器が必要だ。しかしながら、肝心の“敵”はいつ現れるかわからない」
だから、企業は赤字が出ても兵器製造ラインの停止はできない。
そのことで、統合合併していった会社は山ほど存在する。
かの新星インダストリーやゼネラル・ギャラクシーでさえそうだ。
「そこで“黙認”の流れが発生する」
「黙認......?」
カミルとリージヤは、ほとんど同時に訊き返した。
そしてヴィリーは、ようやく煙草に火をつける。
「戦争が起こりそうって兆候が、どれだけ早い段階から見えていても、あえて見逃すんだよ。今回だってそうさ」
それはある種、政府からの無茶に対する企業の嫌がらせに近いものだった。
生産ラインを維持するための、苦肉の策。または組織規模の自暴自棄。
買い手を問わず、ばら撒かれる兵器。
そしていつかやってくる敵に備えて、兵器の需要を断つことはできない。
だから統合政府は、喉元に迫るもの以外は見て見ぬふりをする。
これが曰く、黙認の流れだそうだ。
「いつかやってくるって、そりゃ来ますよ。そんなことしてたら。敵」
社会を回す有権者は、思ったよりいい加減に生きている。
そんなバカげたシステムなんて、出来上がりっこないと思っていても、実際には完成してしまった。
そして、完成してしまったが最後、簡単には取り除けない。
「で、流れが腐りに腐ると、それはケイオスとかS.M.Sみたいな戦争屋として表面化してくる。そんでバカ共は勉強しないんで、この根に気が付かない。だから、分かりやすいアイドルを批判して終わる」
戦争を無くすためには、何をどうすればいいのか。
可能性に雁字搦めにされた、止まることのないシステムを止める方法。
そんなこと、一介のパイロットが考えることではないのかも知れないが。
「まぁ、こっから先は、インテリ共が考えることだわな。つっても、インテリも極端な奴が多いわけだが」
「うあー!歌の力で解決できないかなぁ!」
頭を抱えたカミルはそう叫んだ。
きっと誰もが同じ気持ちだろう。
「本当は俺みたいなのが、お前らが自由に飛べる空を作ってやんなきゃいけないんだろうが、ちょっと飛行機とばせるていどのおっさんには荷が重くてね」
そんなところに、もう一人がやってくる。
「失礼、何かお話の途中でしたか?」
「んや、いま終わったとこ」
やたら深刻そうな表情をする三人を見て、トビアス中尉は「なんだこいつら」と言わんばかりに、きょとんとしている。
恐ろしいことに、いま平常運転の彼が、カミルとリージヤの癒しと化していた。
「ところでカミル少尉。乗機の目視点検は終わったのか?」
「あっ!すみません!すぐやります!すみません!!あぁ!自分で歩けますから!連れて行かないで!」
トビアスに連行されるカミル。
リージヤもそれについてゆき、ヴィリーはしばらく独り煙草を吸った。
「ふぃー。トビアス君にはカウンセラーもやってもらおっかな~」
冗談の、それも独り言だったのに、誰かに見られているような気がしてヴィリーはとっさに振り向く。
隊の面倒は隊長である大尉の責任です。との幻聴が聞こえて、すんません。と幻聴に謝った。
ちなみにエアコンで有名なダイキンさんですが、ここも元々、軍需産業からスタートしました。
したというか、今も防衛装備製造に携わられていますね。
米国とか、兵器産業を扱ってる会社の懐事情を調べてみると「きつそ^~」ってなると思います。
マジでかわいそうになってきます。