カラハレードの戦闘から十二時間──。
長大な船団は地上に下ろすことも、そこから再上昇させるのも手間であるため、マクロス・アロンダイトは惑星レミッドの月、その月面基地へ寄港した。
宇宙に戻ったラウンド隊も、一度アロンダイト船団へ帰還する。
「私と、少尉の御父上、霞・チトシは、昔同じ部隊に居たんですよ」
「え、そうだったんですか?」
船団に戻ったカミルは、フランク・ゾンボルト大佐と話していた。
カミルは、自身の父親がVF乗りだったことは知っていても、父は家族にほとんど何も話さなかった。
機密性の高い部隊に身を置いていたのだろう。
物心ついたころには、暗に察していた。
「今だからちょっと言っちゃうんですが──」
「大丈夫なんですか?」
「まぁ一応、内密に......」
わきまえていますと言い、それを信じたフランクは「ちょっとした昔話で聞いてほしい」と話を続行する。
「カミル少尉は、VF-Xを知っていますか?」
「VF-X......?」
自身の知る中で、そのような可変戦闘機はないはず。
少なくとも、試作VFはラウンドの機体のように「YF」ナンバーが割り振られるからだ。
そこで、そうではないと気付く。
「確か、対テロ可変戦闘機特殊部隊でしたか?」
「ええ、よくご存じですね。手早く言ってしまうと、昔の私とチトシはVF-Xを構成する部隊のひとつに所属していました」
彼が隊長で、私は二番機だった。とも言い、同時にフランクの底知れぬ実力に、カミルは少し恐怖した。
VF-Xと言えば、各地から集められたエースで構成された部隊なのだ。
「あぁ、今はもうバルキリーなんて飛ばせません」
半笑いに言ったフランクだったが、とてもそうは思えなかった。
「ここからが面白いのですが、当時の戦術指導教官が、ヴィリー大尉の御父上なのですよ」
ピンと来なかったか、カミルは少し考えてから驚く。
ヴィリーの父親がカミルの父親を指導し、数奇なことにその息子が、今はヴィリーの下に居る。
「腕の良いパイロットが居るとエデンから情報が入って、その性が霞なので、驚きましたよ」
そして、彼の娘であるレオニの手によって、カミルの翼が用意される。
めぐりあわせとは凄いものだと、カミルは運命の存在を実感するのだった。
***
それから一週間後。
細々と実験データの採取を行っていたラウンド隊に、大統領府からの命が下った。
いや、正確には、大統領補佐であるエクター・ド・マリス補佐官からの命だ。
フランク大佐が出頭した時の補佐官曰く。
「つまり、君の預かっている部隊には、プロトカルチャー遺跡の調査をやってもらいたいのだ」
とのこと。
会議室に集まっていた面々は、フランク大佐から概要を聞いていた。
「プロトカルチャー遺跡ですか。大概ろくでもないので、あまり気乗りしませんが......」
リージヤの言うことは最もだった。
しかし大統領ではなく、あくまで補佐官からの命ということは、事実上、統合軍本部の意向という意味でもある。
大型フォールド断層の消滅は、短く見積もっても三か月後であると予想される。
これでも早い方で、下手をすれば数年消えないことも十分にあり得るものだ。
軍縮もあり、辺境惑星から撤退した統合政府と軍ではあるが、それはそれとしてフォールドクォーツの可能性は諦めきれない。
この待ち時間を有効に使おうという判断だろう。
「調査のついでにYF-34の実地テストができるという意味では、ちょうどいい機会でしょう」
トビアスの言うことも一理ある。
長く宇宙を往くマクロス船団である以上、必然的に大気圏内の活動データは不足していく。
だが、そのことに一番うなずきそうな技術班が誰もいない。
「まぁしかし、調査部隊はカラハレードからのがメイン。俺らはその護衛ってところかな。人工クォーツのテストもしたいだろうし──」
そう言おうとして、ヴィリーは「あいつらどこにいるんだ」と技術班員の所在を気にする。
「カミル、探してきてくれないか」
「わかりました」
テーブルから離れて会議室を出たカミルは、とりあえず格納庫へ赴く。
とりあえずだったが、いきなり正解だった。
しかし、どうも騒がしい。技術班員たちが、カミルの機体に群がっていた。
「あの、会議──」
「おっ、本人登場!カミル、これ見てよ!」
そういわれては、と、レオニに誘われて自機のコックピットを覗いたカミル。
コンソールが点灯していて、そこには人工クォーツの活性化数値が表示されていた。
「時期的にカラハレードの戦いのときかな、その時にコイツが活性化してたみたいなんだよ!」
「え、ほんとですか?戦闘に精いっぱいで気づかなかったっすね」
「なんか嬉しそうじゃなーいー」
不満気に頬を膨らませたレオニだが、パイロットとしては当然だった。
この人工クォーツのせいで、機体のISC性能は極端に低くなっている。
まだフォールドカーボンに換装した方が、性能としてはマシになるほどだ。
「ほかの機体は?」
「いや、カミルの機体だけだね、で、なんか心当たりない?」
心当たりなんて、と当時を思い返していたとき、それらしいものはあった。
一瞬だが、アリィヤの歌声が聞こえた気がしたのだ。
そのことを言おうとして、しかし押し黙る。
「うーん。っぽいのは特にないっすね」
と言ったのは、アリィヤを庇うために他ならない。
ここで彼女の歌が聞こえたと言えば、フォールドクォーツにがめつい統合軍は、確実にアリィヤを軍事利用しようとする。
そうなる未来が容易に想像できて、だから押し黙った。
「とするとメギヴリアか、あるいはレミッド特有の何かに触発されたんだね」
「そのこともあるんで、会議に出てください」
「アッハイ」
その後、三十分ほどの会議を終えて───
ラウンド隊の機体は、本格的な大気・重力圏内活動に備えて装備換装が始まった。
特にレミッドは分厚い雲が多いことで有名である。
そんな環境下にビーム兵器を持ち込むと光線が拡散しやすく、威力確保のため余分なエネルギーを消費してしまう。
出力を上げれば、当然ビーム砲本体の損耗も大きくなってしまうのだ。
例えば水中で撃つ銃弾が全然飛ばないように、大気圏内で撃つビームは拡散しやすい。
大気そのものが障害だが、加えて砂塵や雲などがあると、標的に接射しなければならいほど拡散してしまう。
ビーム兵器にとって分厚い雲は、遮蔽物と言っても過言ではない。
荷電粒子砲はデストロイドの十八番だし、旧来のガンポッドは高速化する現代の空中戦において弾速の遅さが問題になる。
そこでカミル機は、最近取り外したばかりの腕部レールマシンガンを復活させるほかなく、四機共に新たな手持ち式レールガンポッドを開発するという流れになった。
後日───
カミルとリージヤはレオニに続いて、腕部レールマシンガンことLM-25sおよびLM-27sを開発したラミントン社のところへ向かう。
一行は車に乗って、アイランド1下層部にあるアロンダイト工廠へ赴いた。
カミルは下層にやってくると、その迷宮ぶりに心を躍らせる。
一方で体格の大きなリージヤは狭い通路に悪戦苦闘していたが、配管の森をかき分けて進み、ようやく目的の場所へたどり着く。
「レオニ班長、これ正規のルートじゃないですよね?」
さすがにおかしいと気付いたリージヤが言及して、どうやらその通りのようだ。
一行は、工廠内部の通路、その天井から現れた。
辺りを見回したカミルは、通路の壁面にはラミントン社のロゴを見る。
「レオニさん、また侵入してきたんですか?」
一行に気づいて声を掛けた男、どうやらラミントンの開発主任であるらしい。
「またってどういうことですか?」
怪訝な顔で尋ねるリージヤの圧に、レオニは少し冷や汗をかいた。
「いやぁ、頻繁に出入りすると、アクセスが悪くて......」
そんな彼女に主任は言う。
「ちゃんと正面から入らないと、あとで問題になっても知らないですから。で、何用です?」
「実はね──」
要件を説明したレオニ。
主任は新装備の必要性を理解しつつも、少し考えた。
「それはそうですが、VF-31の武装構成は、腕部のレールガンと、コンテナのビームガンポッドでバランスが取れてるんです。手持ち式レールガンの開発許可が下りるかどうか──」
「大丈夫大丈夫!どうせ近いうちに耐ビーム装甲が出てくるんだからさ!」
レオニの説得だが、あながち冗談でもない。
エネルギー転換装甲の性能向上で実体弾兵器が通用しにくくなっていくと、VFの基本装備はビーム兵器に移り変わっていく。
ビームがトレンドになる中でその対策方法が登場すれば、その軍隊は一瞬でも覇権を握れるだろう。
そして、大抵そういう装備は、反体制勢力が切り札に出してくるものだ。
ならば、今から対策をしておけば、現実そうなったとき、他社より一歩リードできるのはラミントン社になるだろうし。
そんな実験装備を優先的に扱うラウンド隊は、企業にとって相当都合のいい存在だった。
機密性が高く、それでいて高品質な運用データが採れる。
一方で部隊は、採用前の新装備を好き勝手に使える。
まさに共生関係とでも言うべきか。
「そうですね、それなら──」
「じゃあ、お願い!」
「許可が下りてからです。横領なんて話になったら世話ないですから」
「ウッス......」
最もなことを言われ、レオニはさすがに押し黙った。
とはいえ、新兵装開発に着手して、最低限実用に足る試作品が完成するまでそれなりの時間がかかる。
結局、レールガンとビームガンポッドの組み合わせでレミッドへ降りることとなった。
Sv-262De ドラケンⅢ
ディアン・ケヒト社製Sv-262ドラケンⅢの一般部隊向けデチューンモデル。
ほぼウィンダミア人専用機としてSVワークスにより開発されたハイスペック可変戦闘機Sv-262ドラケンⅢ(Ba/Hs)であったが、ウィンダミア戦争終結により、その需要が低迷してしまう。
そこで、ディアン・ケヒト社を抱えるイプシロン財団は“新たな需要増加”に伴い、特別な身体能力を持たない人種でも扱えるよう、性能を落としたものが本機となる。
しかしながら、VF単体でのハイスペックを突き詰めるという開発思想を持つゼネラル・ギャラクシー社および、過去同社に在籍していたSVワークスチームが、このようなデチューンモデルなどを設計するとは考えづらく、実際どのメーカー、どの部門が設計したモデルなのかは不明。
テロリストなどが使用した機体に関して、ディアン・ケヒト社とイプシロン財団は関与を否定、そのうえで同社は「我が社はそもそも同モデルの設計に関与していない」としている。
フォールドクォーツ由来のリヒート・システムは撤廃され、操縦のほとんどはコンピューターアシストにより行われる。
機体の高い剛性と合わさって扱いやすいモデルとなり、ほとんどVFの操縦経験がない者でも容易に扱える仕様である。
外装の光学塗装システムには複数の迷彩パターンが登録されており、運用環境によって変更可能。
武装は製造元が変わった以外にほとんど同様。
ただし、ウィンダミア空中騎士団を象徴するロングソード型格闘兵装、DAS-03k アサルトソード(ドラケンファング)はデザインが変更されており、サバイバルナイフをそのまま長くしたかのような外観となっている。性能は据え置き。
美術品のような要素を持ち合わせる元モデルと比較して、全体的にミリタリーな意匠が前面に押し出されたモデルだ。