マクロス・アロンダイト   作:天龍びし

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読者の皆様には誠に申し訳ないことに、前編では、可変戦闘機の変形描写や戦闘シーンが続いてしまい、煩雑で読みづらい文章になってしまいました。

今後の戦闘シーンでは多少マシかと思われます。(希望的観測)


アンノウン・エンカウント 後編

 

 異形の青いバジュラたちを追って、天窓の穴へ一目散に飛ぶ。

 

 直後、カミルの乗るVF-25ブロック2は大気の海と衝突した。

 噴き出す大気の荒波に揉まれ、激しく揺れる機体を制御しながらカミルは慎重な操作で穴へ突入する。

 

 機体OSが周囲環境を大気圏内と判断し、真空中では閉じていたエンジンのインテークシャッターが開く。

 

 水を得た魚、大気を得たVF。

 そもそも航空機として空力を意識したVFにとって、やはり大気圏内であることは一種のアドバンテージであった。

 

 複雑な六角形をした、特殊なデルタ翼が大気の波に乗り、バーニアに代わってパタパタと動き始めたフラップとエルロンが機体の行く末を決める。

 

 冷たい宇宙からは打って変わって、暖かな夕暮れを演出する人工太陽がマクロス・アロンダイトの街を照らしていた。

 

 しかし観光遊覧飛行に耽ることは、まだカミルには許されない。

 

 ゴシック様式の街が立ち並ぶ旧市街エリアに、蝶のような羽を生やした巨大な青いバジュラが降り立つ。

 

 背部に背負っていた槍状のものを右腕に持ち、全体的な体系は人間のそれに近い。

 

 むしろ、VFのバトロイド形態に近しい姿をしていた。

 

「亜種ってそういうものなのか......?」

 

 バジュラの着地位置にあった乗用車が爆発し、取り巻きの小型がわが物顔で中空を飛ぶ。

 

 地上では、両腕が荷電粒子になっている鉄の巨人たちがバジュラを囲む。

 かねてよりマクロスの陸上戦力であるデストロイドというロボット兵器である。

 

 そのデストロイド『シャイアンⅡA1』が、踵に装備されたローラーで地面を滑走し、街に降り立ったバジュラと相対する。

 

 しかし、迎撃行動に感づいた小型バジュラたちがデストロイド部隊に殺到したのである。

 

 四本の足で不気味に地面を這い進む小型バジュラは、その槍状に尖った頭の先から機関砲を連射し、素早い回り込みでデストロイドの背中から攻撃を加えていく。

 

≪ちょこまかと!≫

 

≪く、くそ!誰か援護してくれ!≫

 

 無線は阿鼻叫喚。最新世代のアップグレードが施されたデストロイドでも、機動性はバトロイド形態のVFに劣る。

 

 さらに注視すれば、足元では逃げ遅れた市民たちが走り回っている。

 そもそも市街地に無用な損害を出せないデストロイドでは戦いようがなく、よってその場から移動もできず、ただやられるのを待つ機体が過半である。

 

 できるだけ助けなければ。そう思うカミルだったが、市民が残っている段階で上空からの機銃掃射はできない。

 

「何とかして奴を空中におびき出さないと!」

 

 だが、大型バジュラの動きは妙だった。

 デストロイドの攻撃を気にせず、目は瞬きをしているかのように明滅し、視線は逃げ惑う市民をそれぞれ確認するようだった。

 

 ふとバジュラが何かに気づいたかのように顔を上げる。

 

 その動きにつられて都心の方を見たカミル。

 カミルはバジュラの視線の先に、湖に近いコンサート会場を目にする。

 

 そしてバジュラは蝶の羽を広げて旧市街エリアから飛び立ち、都心に向けて飛行を開始したのである。

 

「落とすならここしかない!」

 

 ガウォークからファイター形態に切り替えたとき、HUDに味方機の反応が出る。

 アロンダイトの統合軍、ラウンドという部隊の3番機であるようだ。

 

 分厚い雲を抜けてバジュラを追いかけると、その3番機が都心エリアの方から飛んできているのが見えた。

 

 接敵はあの3番機さんの方が早い。

 

「あの機体はなんだ?見たことないぞ」

 

 カミル機のデータにもなく、機体情報には『UNKNOWN』としか表示されていない。

 統合軍のデータベースに登録されていない機体である。

 

 それを見たカミルは、船団での独自カスタムか何かだろうと推測した。

 

 その見知らぬVFがバジュラとのドッグファイトに持ち込む。

 

 後ろからミサイルを放たれたバジュラは、これは無視できないと判断してか、コンサート会場から進路を逸らして都心エリアに向かい始める。

 

 そのまま追いかけていたミサイル。

 都心部に持っていくのはまずいと判断してか、3番機のパイロットは放ったミサイルを自爆させる。

 

≪くっ!意図的に市街地を盾にしているのか?≫

 

 初めて傍受できた3番機パイロットの無線音声。

 珍しく女性パイロットであるようだ。

 

「ラウンドの3番機、オーディン1は貴機を援護する」

 

≪了解オーディン1。こちらはバトロイドで格闘戦に持ち込む≫

 

 射程を抑える目的で出力を絞ったビームガンポットの光線がバジュラを追う。

 

 しかし、逃げるバジュラを追う3番機の動きは、どこかぎこちないというか、機体に振り回されているような挙動をしていた。

 

 新米パイロットには見えなかったが、よほど機体がじゃじゃ馬なのだろうとカミルは察する。

 

 エンジンリミッター上限値を緩和したカミルは、VF-25ブロック2の速度をさらに上げる。

 

 機体を使い潰してでも敵を仕留めるつもりであった。

 

 旧市街エリアと異なり、市民の避難が進んだ都心エリア。

 

 大型バジュラがビル群の大通りに降り立つと、ラウンドの3番機もバトロイド形態になって応戦する構えを取る。

 

 3番機のふらふらした動きは、反応が鋭敏すぎると言った風で、AIアシストを全てオフにした際の動きに似ていた。

 

「なんでふらふらしてるんだ。不具合でもあるのか?」

 

 3番機はビームガンポッドを槍のようにして構えると、その銃口付近にピンポイントバリアを展開する。

 そして千鳥足のままガンポッドを振りかぶり、バジュラに向かって懸命に攻撃を繰り出した。

 

 しかしそんな動きは簡単に回避され、お返しに尻尾を使った強烈な横薙ぎが3番機の脇腹へ直撃する。

 

≪うっ!≫

 

 尾の一撃を喰らったバトロイドはビルに叩きつけられ、直後関節から火花を散らして動かなくなってしまう。

 

 その様子を見、エンジンを限界まで燃やしてバジュラへ迫るカミル機は、勢いのままバトロイド形態へ変形し、ガンポッドを連射しつつ飛びかかる。

 

 金属の塊同士がぶつかったかのような鈍い衝突音が鳴ると、カミル機はバジュラに組み付きながらガンポッドを投げ捨てる。

 

「3番機さん!動けるんだったら、エネルギー転換装甲にパワー全振りしてじっとしてるんだ!」

 

 実際、すぐそばでバトロイドが暴れている状態では、機体に篭っておく方が安全である。

 

≪面目無い......!不調機では足手まといになってしまった≫

 

 暴れ回るバジュラがこれ以上ビームを撃つ前に、左拳からピンポイントバリアを発生させたカミル機は手刀でバジュラの頭部を切り落とした。

 

 ピンポイントバリアが頭に触れると、まるで破裂するかのように爆発して、あたり一面に青い血が飛び散る。

 

 バジュラを押さえつけていた右腕を話すと、巨大な死骸は都心大通りに地響きと共に倒れ込む。

 

「3番機のパイロットさんは、無事ですね!」

 

≪ええ、なんとか。助力に感謝する≫

 

 カミルは機体をガウォーク形態に移すと、ビルにめり込んだ3番機に近づき、キャノピーを開く。

 

 だが、カミルが機体を降りようとしたその時であった。

 

 首無しのバジュラがよろよろと動き出し、再び立ち上がったのだ。

 

 手首から生えた機関砲を手当たり次第に乱射し始めたバジュラだったが≪くたばれ!≫と3番機のパイロットが叫び、かろうじて動いた彼女の機体がビームガンポッドを発射。

 

 最低限出力の光線がバジュラの腹を貫いて、ようやく死んだようであった。

 

「そうだ、バジュラの弱点は腹だったか......」

 

 エデンの基地で読んだ資料を思い返したカミル。

 

 バジュラの頭部には脳らしき脳は存在せず、彼らは腸で思考する生き物である。

 

 よって人間の延長で捉え、頭部を急所と見る戦術は悪手となるのだ。

 

「助けられました。僕は霞・カミル少尉、惑星エデンからこちらの部隊へ転属になった者です」

 

≪私はリージヤ・リア・ノルヴァ 。同じく少尉です≫

 

 コックピット内にホログラムでポップアップさせた小窓。

 そこでの通信でカミルはリージヤ少尉がヘルメットを外す姿を見た。

 

 真っ白な髪に、灰色の瞳。

 尖った耳を見るに、純血のゼントラーディ人であるようだ。

 

 一方、爆発の光で空を見上げたカミル。宇宙ではまだ戦闘が続いているようだった。

 

 レーダーを見ると、VF部隊がアイランド内部にも迎撃に来て、小型バジュラの掃討を行なっている様である。

 

 カミルはこれ以上戦う気になれなかった。

 そもそも戦闘をしに来た訳ではない上に、アロンダイトの指揮系統には属していない。

 

 ミサイル系の武装はすでになく、ガンポッドも弾切れ寸前である。

 

 カミルはリージヤ少尉が怪我をしていないことを確認したら、自機のコックピットに深く座り込む。

 

 モニターしている自分のバイタルサインが荒ぶっている。

 分泌されたアドレナリンに当てられて、心臓の鼓動が早まっていた。

 

「その機体、どうかしたんですか?ふらふらしてましたけど」

 

≪中破して修理中の試験機体を引っ張ってきたんです。アビオニクスの設定がされていなかったので、ほとんどマニュアル操作になってしまったが≫

 

 カミルも訓練生時代は教官にコンピュータアシストを全てオフにして操縦させられたことがある。

 

 なので、完全にマニュアルで動かすことの難しさはよく知っていた。

 

 例えばバトロイドを歩かせるだけでも、ベテランが4人で分担するような作業量を要求されるのだ。

 

「試験機かあ。道理で初めて見──」

 

 その時であった。

 街が揺れ、人工太陽が消灯したのである。

 

 道に停めてあった車や、崩壊した建物の瓦礫がふわふわと浮き始める。

 アロンダイトの人工重力発生装置が停止したのだ。

 

 しかし完全停止といかなかったのか、重力をかける方向性がめちゃくちゃになったらしく、浮き始めたものが横に落ち始めたのである。

 

 湖の方向から都心エリア、つまりマクロス船団の鼻先の方へ瓦礫が流れ始めていた。

 

 そんな中キャノピーを閉めたカミルだったが、落ちて行く車や瓦礫の中に人影が混じっていたのを見逃さなかった。

 

「人が!? まずい!」

 

≪カミル少尉!? どうしたのです!?≫

 

 放置しては、何かに衝突して死んでしまう。

 すぐさまガウォークを動かして、奇妙な重力の中を飛ばす。

 

 道路に対して平行であるはずなのに急降下を行う形となり、機体が浮きあがらないように操縦桿を微調整し、フラップがダウンフォースを発生させる。

 

 機体が道路標識をなぎ倒しながら、すぐ目の前を落ちていく人影に近づく。

 

「女の子か......!?」

 

 黒い服の間から褐色肌が覗いていた。

 

 彼女ががれきに衝突しないよう祈りつつ、ガウォークの腕部をそっと前方に差し出す。

 

 巨人サイズの機械碗が目の前を落ち行く彼女を囲い、カミルは右手に握る操縦桿を、人だと思って握りつぶさないように軽く握る。

 

 すると、操縦桿の握りこみに連動してバトロイドの手指が稼働し、手中に囲った彼女をやさしく握りこんだ。

 

 彼女の負担にならない程度で制動を掛け、その瞬間、マクロスの人工重力システムが正常に復旧する。

 

「あ、あっぶな。ふぅ」

 

 あそこまで重力加速がついた状態で地面にたたきつけられれば、果たしてどうなったか。

 少なくとも、重力異常にさらわれた人間が彼女だけであってほしいものだ。

 

 カミルは機体の手のひらを水平にし、こぶしを開く。

 

「大丈夫ですか──、あっ、気絶してるか」

 

 VF-25ブロック2の救命システムを一部稼働させ、手のひらの彼女の脈を図る。

 気を失っているだけで、バイタルはしっかり生きていた。

 

 一段落ついたか。とカミルは深く息を吸ったが、その時ビルの影から小型バジュラが4匹ほど顔を出す。

 

 武装が一切ない中で、抵抗手段である拳も封じられている。

 これにはカミルも青ざめるしかなかった。

 

 だが、上空から現れた重装備のガウォークがカミル機とバジュラの間に割って入り、その機体は小型バジュラを一瞬で殲滅する。

 

 ヘルメットバイザーに表示された情報では『ラウンドの2』とある。

 

 真っ黒な機体色に、左翼が赤色に塗られていた。

 

≪前方の戦力は囮だったとは。そこのVF-25。無事だな?≫

 

 ラウンド2番機からの無線に応え、コックピットの後方座席を展開。

 そこへ、救った彼女を乗せた。

 

(この女の子、どっかで見たようなシルエットだなあ。どこだっけ......)

 

 抱えたときに感じた既視感を探っていたが、ぞろぞろと集まってきた黒いVFのプレッシャーに引き戻される。

 

≪トビアス。バジュラどもが撤退した。俺たちラウンドも、これをもって戦闘終了とする≫

 

≪了解しました。自分はラウンド3を回収します≫

 

 彼らはほかの統合軍人と雰囲気が違った。

 真っ黒な機体が物々しいという点もあるが、操機からにじみ出るプレッシャーのようなものは、ベテラン特有のものであるとカミルは感じていた。

 

 その中でも若干灰色に近い機体色に、黄色のラインを入れたものが隊長機であるらしい。

 

≪そこのお前、側面からの奇襲を迎撃したようだな。一般部隊に入れておくには惜しい存在だ。名前と階級は?≫

 

「霞・カミル、少尉です」

 

≪ん?霞に少尉......≫

 

 何かを確認しだしたラウンドの隊長は、そのあと≪ああ、お前だったか!≫と手を打った。

 

≪お前の上官から聞いていたぞラウンドの新入り。『マクシミリアンの再来』だってな≫

 

「え、ラウンドの新入り? じゃあ、貴隊が僕の転属先ですか?」

 

 その通り。と付け加えられ、カミルの波乱の初日は幕を閉じたのであった。

 

≪霞・カミル少尉。我が特殊戦ラウンド隊へようこそ≫





『VF-25ブロック2 スーパーメサイア』

西暦2070年現在、新統合軍の主力可変戦闘機『VF-171ナイトメアプラス』に代わる次期制式量産機。

バジュラ戦役でのフロンティア船団による運用により、その堅実かつ優秀な性能が証明されたVF-25の近代化改修仕様となる。

2070年に迫る中での配備にあたって、若干旧式化しつつあったアビオニクスをVF-31相当にアップグレード。
エンジン出力の強化にあたる余剰出力の増加により、改修前のモデルからさらに強力なエネルギー転換式装甲を採用された。

エンジン強化による出力向上から機体は必然的に高速域での戦闘が多くなる傾向にあったため、改修前に見られた可変翼を廃止、『VF-22シュトゥルムフォーゲル』の主翼に似たステルス戦闘機的な変形デルタ翼を有する。

さらに、VF-25において特徴的な格闘兵装であった『ガーバー・オーテックAK/VF-M9 アサルトナイフ』は、バトロイドが右手でガンを持つ都合上、とっさの近接戦では抜刀が間に合わないというパイロットからの意見を受け、純粋な救命活動用ツールとしてモデルチェンジした。

そこで、格闘戦に際しては余裕のある出力を利用して、スーパーノヴァ計画での実験機に見られた『ピンポイントバリアパンチ』機能を復活させている。

このバリア機能は、マクロス・クォーターでのピンポイントバリア制御システムを流用し、エネルギーをサーベル状に展開することも可能となっている。

YF-24系機体の最大の特徴である耐Gシステム『Inertia Store Converter(慣性蓄積コンバーター)』は、入手性困難な「フォールドクォーツ」を必要とする点からブロック2ではより安価なフォールドカーボンでの代替がなされており、同時にISCの機能は大きく低下している。

指揮官機や一般機における頭部・内装バリエーションも改修前モデルからコンセプト的にそのまま存在しており、ドッグファイト格闘戦仕様のF型、および指揮官機仕様のS型では、主翼にVF-22と同様の有機的動作を行うたわみ翼を選択できる。


ただし配備が始まったばかりであるため惑星エデンなどではあまり目にする機会がなく、当機はマクロス船団など危険地帯に赴く部隊に優先配備されている。
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