マクロス・アロンダイト   作:天龍びし

3 / 14
アリィヤ・ブランディ

 

 異形バジュラの襲撃から数刻経った後の夜。

 マクロス・アロンダイト大統領府にて。

 

 新マクロス級船団、特にマクロス・フロンティア船団を始めとするアイランド・クラスター級においては、一種の自然循環構造を持つため最小限の補給で長い航海が可能である。

 

 つまり移住先の惑星が見つからない場合には航行し続ける選択も取れる。

 このため船団内での自治が認められているのだ。

 

 そのことで、船団の行政には統合軍からの監視が付く。

 

 マクロス・アロンダイトにおいてはこの男、エクター・ド・マリス大統領補佐官が監視役に該当する。

 

「──という結果です。つまり、このバジュラと目される生物の死骸からは、フォールドクォーツはおろか、フォールド細菌でさえ検出されませんでした」

 

 大統領執務室では、エクター補佐官が今回の襲撃者について、バン・ベンウィック大統領に報告していた。

 

 ところで超時空生命体ことバジュラの身体には大きく二つの特徴がある。

 

 一つは『フォールドクォーツ』。

 次元断層突破やタイムラグなしの長距離通信など、とりわけ現代のフォールド技術には必須級な貴重物質であり、VFの技術レベルで言えば、耐Gシステム『ISC』の動作に必要である。

 

 バジュラは全体主義のアリやハチのような生き物であり、末端の個体は体内にクォーツの小片を宿して、これを女王バジュラの元へ運ぶ。

 

 そしてもう一つ重要なものが、バジュラの腸内に寄生し、それと共生関係にある『フォールド細菌』だ。

 

 バジュラたちはこれを介してフォールド波の受信を行い、群全体で高度なネットワークを形成している。

 

 そのため、この二つの存在が体内に見つからないはずはなかったが、しかし回収したどの死骸からも発見できなかった。

 

 ちなみにフォールド細菌は、かなり一般周知がある細菌でもある。

 

 およそ3年前に流行した奇病ヴァールシンドロームは、この細菌が一部原因となって発症していたし、その対症療法として音楽ユニット『ワルキューレ』が結成されたことも有名である。

 

「フムン。とは言え、遺伝子的にはバジュラとほぼ同じなのだろう」

 

 報告書を一通り読んだバン大統領は、クォーツと菌が見つからないことが問題になっている、そもそもの原因について言及する。

 

「その通りです。ですから、現在は研究者らによって、この個体がバジュラの亜種や変異体として、考えられる可能性から慎重な調査を行なっています」

 

「ならば、フロンティアからも参考人を召喚したい所だな......」

 

 正直に白状すれば、アロンダイト船団はこの襲撃をある意味で好意的に捉えていた。

 

 人類側はあくまで自己防衛の体裁を保ったまま、今や友好的な生き物となったバジュラを狩ることができ、それらが持つフォールドクォーツを手にできる......。

 

 しかしクォーツが見つからない以上、そんなやや黒めな考えは無用に終わった。

 

 椅子を回し、消火活動が行われる街の風景を見て、バン大統領は続ける。

 

「バジュラとして見れば、まるで屍の様か。ではこの推定亜種個体を以後『ワイルドハント』と命名する」

 

「承知しました。それでは飛散した血液の除染作業を急がせます」

 

***

 

 時を同じくして、その日の夜。

 バジュラが至近距離にいる状況でキャノピーを展開したカミルと彼が救出した女の子は、統合軍によって検査を受けるため、仮設テント内でそれを待っていた。

 

 人間がフォールド細菌に感染する『V型感染症』。

 

 バジュラの血液を浴びることによって発症する危険性があり、検査とは感染の有無を調べるものだ。

 

 一応、街中の血痕からフォールド細菌が検出されることはなかったが、未確認のバジュラであったため確実性はなく、念のためと実施された。

 

 湯気が立ち登るステンレスのコップ。

 毛布を羽織っていた彼女に、カミルはココアを淹れたコップを渡す。

 

 彼女とは、カミルが間一髪救出した褐色肌の女の子。

 前髪を切りそろえたボブカットの黒髪に、やや鋭い目つきは金色である。

 

 その顔は知らなかったが、このボブカットの丸い頭と全体のシルエットだ。

 カミルが彼女に抱いていた既視感は、やがて確信に近づいた。

 

「失礼なんですけど。もしかしてアリィヤ・ブランディさん......?」

 

 テントにはカミルと彼女以外に誰もいなかったが、念のため、かなりの小声で尋ねる。

 

 ココアを啜っていた彼女は、突然訊かれたことに驚き、しかし噴き出すのを堪えた結果激しくむせる。

 

「ゲホっ。命の恩人さんにはバレてたか」

 

 その聴き心地のよいハスキーボイスは、やはり普段から聴いている曲のボーカルそのものであった。

 

 しかしアリィヤは顔出ししないシンガーである。

 顔を見てもピンと来ないのはそのせいだ。

 

 だから今こうして顔を見ていられる状況に、カミルは感動を通り越して一種の神秘性を感じていた。

 

 VFに乗れればなんでもよいとするカミルは、しかし一から百までまったくVF一筋の飛行機バカではない。

 かといってそれ以外に心血をささげている趣味があるかと言われれば、それもなかった。

 

 しかしながら今を風靡するアリィヤ本人が目の前にいる状況をおざなりにせず、その彼女を自らの操縦で救出したことを心中にて誇りにする。

 

「結構曲も聞かせてもらってます。ほら」

 

 カミルはミュージックアプリを開いた端末の画面をアリィヤに見せる。

 彼女の曲がまとめられたプレイリスト、そのすべての曲がダウンロードされており、お気に入りの星印がつけられている。

 

 ちなみに、カミルのアカウントで去年もっとも再生された曲は一位から三位まで全てアリィヤの曲だ。

 

「おお!そう言ってもらえると嬉しいね」

 

 しかし、なぜ彼女がマクロス・アロンダイトに居るのだろうか。

 

 そのことを本人に尋ねると、どうやらコンサートツアーの最終日がここだったらしい。

 

「そういうことだったんですね」

 

 異形バジュラがコンサート会場に飛んだ理由も、もしかしたら彼女の歌に釣られたのかもしれない。

 

「ところでパイロットさん名前は?」

 

「霞・カミルです」

 

「オッケー。カミルくんね。年齢は?」

 

「19です」

 

「おあ、一歳年上なんだ」

 

 毛布の中でもぞもぞと動いたアリィヤは、カミルに差し出した手に端末を持っていた。

 その画面にはでかでかと交換コードが映っている。

 

「連絡先交換しよっ!カミルくんにお礼もしたいし!」

 

「え、マジっすか!?」

 

 有名人に会うことには緊張しないカミルだが、いざ連絡先まで交換となると、さすがにそうはいかなかった。

 

 恐る恐る端末を差し出し、その交換コードを読み取る。

 

 表示されたアカウントのアイコンや名前は、どうやらガッチリのプライベート用であるらしい。

 

 その後、テントの入り口がバサッと開けられ、連絡先を交換し合った二人は盛大に驚く。

 

 驚いたアリィヤは思わずココアの残ったマグカップを手放してしまい、カミルは動体視力と反射神経をフル稼働させてカップの空中キャッチを成功させた。

 

「「セーフ......」」

 

 二人は重ねて息を吐くと、入り口をめくったその人を見る。

 オレンジ髪の若い女の人で、アリィヤと彼女は顔を見合わせると、互いに涙ぐんで駆け寄った。

 

「アリィヤちゃん!」

 

「マネちゃん!」

 

 カミルはココアをテーブルの上に置いて、しばらく二人の抱擁を見守った。

 

 どうやら、バジュラの襲撃から逃げる最中ではぐれてしまったマネージャーのマネリア・ドゥラットであるらしい。

 

 コンサート会場でのライブ中に襲撃は発生し、アリィヤたちは直近のシェルターをファンたちに優先させて、別のシェルターを目指して街中を走った。

 

 その道中で重力異常が起き、アリィヤは飛ばされてしまったがマネリアはビルの裏路地に引っ掛かって事なきを得たようだ。

 

 抱擁を、疲れた頭でぼーっと眺めていたカミルだったが、直後マネリアが彼に急接近し、カミルは激しい握手を交わされた。

 

「アリィヤちゃんを助けてくれて、本ッ当にありがとうございました!」

 

「い、いえ、お気になさらず......」

 

 握手に付き合うカミルは「エネルギーに溢れた人だ」と内心にごち、苦笑気味に腕を上下されつづけた。

 

 

 しばらくして──

 

 

「お礼、絶対するから」とアリィヤ達とは別れたカミルは、検査を無事にクリアしてから自分の機体のもとへ戻ろうとした。

 

 しかし機体へ向かう道中で、今度はラウンド隊の面々が待ち構えていたのである。

 

 金髪の44歳が隊長のヴィリー・バッツ大尉。

 

 剃り上げた側頭と、赤い髪をオールバックにして後ろで纏めているのがトビアス・ハインケル中尉。

 

 輝くような白髪をしているのがゼントラーディ人のリージヤ・リア・ノルヴァ少尉。

 

 リージヤ少尉とカミルとほぼ同期といってよいキャリアだが、全員が高度な技量を備えたエース部隊である。

 

 カミルは異動の際、当時の上官から詳細を聞かされなかった。

 それは、ラウンド隊が法・条約的にグレーな技術まで投入して新型機のテストをしている特殊戦部隊であるからだ。

 

「改めて、俺はヴィリー。この部隊の隊長だ。コックピットでも言ったが、お前の話は聞いているぞ」

 

 隊長が言い終えた後、資料を見ていたトビアス中尉が顔を上げ、そして話を繋いだ。

 

「前の部隊では、戦闘機動のたびに機体を壊していたそうだな」

 

「え、えぇまあ。本当です......」

 

 それは真実であったが、カミルの操縦が下手で機体を壊していたわけではない。

 

 むしろ、常に性能の限界を引き出すカミルの操縦に、VF-25でさえ追随できないのだ。

 

 当時カミルが所属していた部隊では、部隊長やメカニックたちから彼の操縦に似合う機体として『YF-29デュランダル』が所望された。

 

 しかし当然なことに、さして重要ではないエデンの小さな基地に、銀河最高スペックを持つ超高価なYF-29が配備されることはなく、カミルは操縦技術を推薦されてアロンダイトへの転属となったというあらましであった。

 

「そう縮こまらなくていい。お前の操縦が良い意味でヤバイのは知ってるし、だから俺らが引き抜いた。まあ、この夜風が寒い中なんだ。俺らが使ってる『秘密基地』に案内しよう」

 

 ヴィリーからそう提案され、カミルを含むラウンド隊一行は軍用車に乗ってアイランド1の地下を目指した。





ここまで読んでくださりありがとうございます。

読んでいただいてご理解いただけたと思いますが、本作はオリジナルキャラ達で織りなす新たなストーリーで、原作キャラが登場しない完全な外伝作です。

ハーメルンといえば二次創作!という認識ですが、探した感じ、こういうテイストの二次創作は少ない印象でしたので驚きです。

でも原作キャラ未登場と言っても原作バジュラは出すと思うので、その意味では原作キャラか......?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。