四人を乗せた車は、その『秘密基地』とやらに繋がる薄暗く大きめなトンネルを走っていた。
後部座席、カミルの隣に座るリージヤは純血のゼントラーディ人というだけあって肩幅も広く、身長180センチの逞しい体格をしていた。
しかしながら、両手をそろえて座っている姿はかわいらしく、そんな彼女を横目に見たのと同時に、リージヤはカミルに顔を寄せた。
「カミル少尉。先ほどの戦闘では、援護ありがとうございました。重ねてお礼申し上げます」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。もともと僕がインターセプトで逃した一体ですし、むしろ僕の方が謝らなきゃいけません」
ゼントラーディの人って、もっと荒々しい感じなのかと思った。と内心にごちたカミル。
ヴィリー隊長が彼女のことを『リージヤ嬢』と呼んでいたことにも納得した。
上品さに内包された可愛らしさが、話しぶりや動作の端々から時折露見する。
まるで良い育ちのご令嬢のようだ。
いやもちろん、実際に良い育ちかもしれないが。
車はしばらくトンネルの中を走った末、地下駐車場にたどり着く。
とはいえ、マクロス船団内部の街である。
そう長い移動時間ではなかった。
駐車場の最奥には、なにやら物々しい巨大なシャッターが鎮座している。
ラウンド隊が使っている格納庫がこの先にあるのだとしたら、おそらく物資搬入口なのだろうとカミルは推測した。
一同は車から降り、ヴィリー隊長がそのシャッターを開く。
ラウンド隊の使う格納庫は、その先に広がっていた。
中心に円形の広場を持ち、それを囲うように機体格納ハンガーが設置されている。
可変戦闘機は基本形態をファイターとする。そのため、格納状態でも戦闘機として扱われる。
そもそもバトロイド形態は、対巨人戦闘を想定して生み出された人型陸戦格闘形態であり、ガウォークはその変形プロセス中に偶然発見された中間形態となる。
先の戦闘で出撃していたすべての機体は、メカニックたちにより整備が行われている真っ最中であった。
特に、最も損傷が激しかった三番機は集中治療室的な状態である。
「さて到着だ。ここが俺たちラウンドが使う格納庫になる。どうだ?秘密基地っぽいだろ」
「言わんとすることはよくわかります。なんかわくわくしますね」
ところで、整備中の三機に交じって静かに置いてあるだけの戦闘機がある。
一切の擦り傷もなく、新品の外装であった。
「そうだカミル。その置いてあるのは、お前がラウンドで使う機体になる。先に確認しとけ」
「了解です」
そういって、ラウンド隊の三方は広間北側にある自動ドアをくぐって行った。
人間用の部屋はその先にあるらしい。
カミルは浮き立つ心を抑えきれず、若干駆け足で新たな機体に駆け寄った。
梯子に足を掛け、見知らぬ機体のコックピットへ上がる。
するとそこには先客が収まっていた。
金髪の長い髪の上に、キャップを逆向きにかぶっている。
鼻筋に貼っているテーピングを含め、メカニックという風貌だ。
「ん?おっ、君が新入りか」
すくっと立ち上がった彼女はクリップボードを左脇に挟み、グローブを外した細くて白い右手を差し出した。
「アタシはレオニ・ゾンボルト。このラウンド・チームの技術班長だ」
「霞・カミル、少尉です」
「カミルね。よろしく」
見てくれはカミルとそう変わらないか、ほとんど同年代だろう。
それで技術班長とは恐れ入ったと、カミルは心中にごちた。
「ところで技術班長」
「レオニでいいよ」
「じゃあレオニさん。この機体はなんです?見たことないんですよね。VF-31に似てはいるけど......」
ふっふっふ。と笑い、レオニはアビオニクスのシステムを起こす。
そこに表示されたのは『YF-34』という文字と、この機体を上から見たシルエットだ。
全体的な形状はVF-27とYF-30を足して割ったような外観で、エンジン数は両足分の二つ。
変形機構は31系特有の腕部をエンジンブロックの外側に配置したレイアウトであり、マルチパーパスコンテナ搭載機である。
翼端を大きく切り欠いたクリップトデルタ翼が特徴で、OTM自由変形素材を用いた柔軟な動きをするものだ。
「うちの機体は隊長さんと副隊長さん、あとリージヤちゃんでそれぞれ仕様が違うんだ。それでカミルのはドッグファイト向きのF型ね。VF-25をぶっ壊せるぐらいの技量があるって聞いたからウッキウキで仕上げたよ」
詳しいことは隊長さんから説明を受けて。と言われ、同時にヴィリーから呼び出しを受けたため、カミルは北側のドアを抜けた先にある会議室へ向かう。
カミルは「失礼します」とドアをくぐり、電光ホワイトボードと長机が置かれた簡素な会議室へ入室する。
そして、手を後ろに組んで長机の前に立った。
「まあそこに座れや。じゃあ、新入りカミル少尉に、俺たちラウンドの目的を説明しよう」
トビアス中尉から「資料だ」と渡された紙束を持って、カミルはヴィリー隊長の話を待つ。
「さっきお前も見たと思うが、ラウンドの目的は、次世代VF開発のためのデータ収集を行うチームだ」
次世代VF。
かつてYF-24が誕生して以降、拡張やカスタマイズ性に特化した同機からは、実に様々なVFが誕生した。
例として、フロンティア船団のVF-25、ギャラクシー船団のVF-27、果ては超高性能機YF-29や、S.M.Sウロボロス支社誕生のフォールド技術ブラックホースYF-30などである。
正直誰も、ここまで立て続けに姉妹機が爆誕するとは予想しえず、現行最新量産主力機のVF-31Aも、そもそもはYF-24系の子孫である。
「だが、この34が将来的にVF-35になるという計画じゃない」
「ん?どういうことですか?」
四ページを開けと言われ、資料をめくるカミル。
そこには、このラウンド・チームが発足したそもそもの経緯がまとめられていた。
2050年代、新統合軍ではある内戦状態があった。
この時期、マクロス船団と地球を主軸とする新統合政府の間には物理的に長大な隙間があり、徐々に統合政府による中央集権体制は弱体化を始めていたのである。
結果的に統合政府内では
最終的にはVF特殊部隊を投入したビンディランスが戦いを制し、当時の新統合軍は各惑星から撤退した。
この影響で各地の治安悪化は避けられず、このあたりからS.M.Sのような民間軍事プロバイダーが勢力を伸ばし始めた。
ここまでは現代史の下地だ。
地方自治が可能になったことで、各惑星はもとより、航行中のマクロス船団でさえ独立国家状態になっている。
そのうえでバジュラのような宇宙の脅威も厳として人類に立ちはだかった。
最もバジュラとは和解したが、今回で言えば青バジュラこと『ワイルドハント』だ。
VF同士の戦いも当然にあり、まだ見ぬ強靭な宇宙生物への対処もしなければならない。
それら新たな脅威が現れるたびに、現場ではVF-25やVF-31のような新型機が欲される。
そこで、激動の時代を越えた、あるいはその渦中の最先端にある2070年現在において、銀河系のVF技術を統合し、新たな地盤とする「新世代技術基盤確立計画」が立ち上がった。
これまでの、または各地で乱立したVF技術を一点に収束し、全く新たな世代の踏み台を作る。
こうすることで、未知の脅威が立ちはだかっても、すぐさま特化型の上質なVFを生み出せるだろうという計画であった。
その一翼を担うのが、このマクロス・アロンダイト所属「ラウンド・チーム」であるのだ。
「なんで、このYF-34にはBDIをはじめ、シャロン・アップルAIや人工フォールドクォーツ、完全なVF用キメリコラ慣性制御装置まで詰め込んでいる」
と、ヴィリーは自慢げにカミルへ説明した。
つまり、いろんな技術が詰まっている夢の箱が34という数字にはあると、カミルは理解する。
なかなか上等なプロジェクトにこれから関わっていくんだと、にわかに浮き立ったカミル。
その彼に、トビアス中尉が注釈を入れた。
「計画の実質的な主導者は統合軍だ。バジュラの出現以降、フォールドクォーツを全く入手できない統合軍の、各民間企業躍進に対する焦燥の表れでもある」
人工クォーツの開発は、そのためのものだとも付け加えた。
「まぁ、そういうことだ。お前さんは勤務時間中、思う存分VFをぶん回してくれればいい」
これからの様子を想像してにこやかになるカミルだったが、トビアス中尉が釘を刺す。
「だが、あまりはしゃぐなよカミル少尉。我々は統合軍人なのだからな」
「真面目だねトビアス君は」
茶化した隊長だったが、トビアス釘の切っ先は、今度はヴィリーへ向いた。
「隊長もです。我々は態度的にも戦術的にも、一般部隊の模範とならねばなりません」
「へーへー。わーってますよ」
一見したときから厳しそうな人だとカミルは感じていたが、その感性は当たりだったらしい。
一方で、先ほどの説明を流れで聞いていたリージヤ少尉は目をぱちくりさせていた。
彼女は果たして、今の説明を理解できていたのだろうか......?
カミルは訝しんだ。
「ああそうだカミル。お前のVF-25はアロンダイトの一般部隊に流すことで上が決めたが、問題はないな」
「はい。問題な──」
と言いかけようとしたところで、カミルは「持ち物」に関して思い出す。
「そういえば、僕の私物ってどうにかこうにかなりました?」
「コンテナだろ?スーパーパックと一緒に球になっていたから、回収しておいたぞ」
そのあと「ほらよ」とヴィリー隊長から渡されたメモ用紙には、荷物受け取り場所と荷物番号が書かれていた。
「連れていたゴーストをこっちでも使いたかったら、荷物と一緒に受け取っておけよ」
「了解です。じゃあ今から行ってきます」
「おう。気をつけろよ」
カミルが席を立ち、会議室を退室しようとしたとき、スライドドアのすぐ向こうに女性三人組が立っていた。
三人は扉が開いたことに驚き、そろって尻もちをつく。
「だ、大丈夫ですか?」
しかしすごい勢いで立ち上がった三人は、カミルに興味津々だった。
三人とも白いタイトスカートの制服姿に、小ぶりなギャリソンキャップをかぶっている。
「へぇ!キミが新入り君ね!結構かわいいじゃん!」
と言ってカミルをまじまじと見回したピンク髪の人がタフィ。
そのタフィを「あんまり困らせちゃだめよ」とたしなめる黒髪ロングヘアの人がアオイ。
無言でうなずくボーイッシュな薄緑髪の人がゲッカというそうだ。
ラウンド隊のオペレーティングをする三人であるらしく、普段から無線やシステムでのサポートが仕事である。
結局カミルは彼女たちに捕まってしまい、その日は荷物を取りに行けなかった。