マクロス・アロンダイト   作:天龍びし

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トレーニング・ブレイカー

 

 ラウンド隊への正式な編入から後日。

 

 カミルはリージヤ少尉に付き添われて荷物受け取り場へ来ていた。

 

 アイランド1外周に沿って設置されたVF格納庫。

 一般部隊が使う機体はここに収められるが、カミルたちは一般パイロットからの視線を集めた。

 

 ワイルドハントの側面奇襲に対し、真っ先にインターセプトした迅速のVF-25。

 

 その戦いぶりは一般部隊でもすでに噂になっていた。

 

「すみません、霞・カミル少尉です。荷物の受け取りに来ました」

 

 と言って、IDを差し出すカミル。

 ああ、君がカミル少尉か。と言った受付はIDを照会しつつ、血の気の多い奴には気をつけろよ。とも警告された。

 

 それも束の間である。

 

「あんたがカミル少尉殿だな?『マクシミリアンの再来』とは大層なこって」

 

 そう呼びつけられ、カミルは何事かと振り返る。

 

 そこにはやや人相の悪いFVパイロット三人組が立っていた。

 

 カミルを呼んだモヒカンのパイロットの一声を機に、他のパイロットたちの視線はより強くなる。

 

 つね、カミルが二つ名的に言及されるマクシミリアンとは、マックスの愛称で知られるマクシミリアン・ジーナスのことである。

 

 第一次星間大戦では初陣から天才的な操縦技量を見せつけ、YF-29になってようやく彼の操縦に機体が追いついたほどの正真正銘怪物だ。

 

 VFパイロットにおいて名を知らぬ者はおらず、その再来という曰くが付けば、注目を集めるのは仕方ない事だった。

 

 カミルはさっそく面倒なのが来たなと、一度はやわらかく受け応える構えを見せる。

 

「いやぁ、ほんと大袈裟ですよ。前の上官の親バカみたいなもんでして」

 

 だが、三人組は引き下がろうとしない。

 

「あなた達、どういう要件か」

 

 とカミルとの間に入ったリージヤ少尉。

 彼女のふわふわした雰囲気は一変し、刹那「戦闘民族だ」とわかるプレッシャーを放った。

 

「なんだよ。邪魔すんなゼントラン」

 

 まだリージヤとは知り合ってまもないカミルだが、彼女の人柄の良さはなんとなくわかったつもりである。

 

 カミルはその差別的な発言で、すでに心決めた部分があった。

 

 モヒカンのパイロットはさらに続けた。

 

「我々一般パイロットに、是非とも戦闘機動をご教授いただきたいですなぁ?」

 

 引き下がらないならばそれで良い。

 リージヤが止めようが、この時点でカミルはやる気でいた。

 

 一方で、カミルの実力をはっきり見たい。

 そう思うのは何も三人組だけでなく、この格納庫にいる全員が同じく思っていた。

 

 それはカミルを庇うリージヤとて同じである。

 見てみたいという欲もあって、少し引き下がってしまうリージヤ。

 

 引き下がったリージヤを開戦の合図として、にこやかだったカミルの表情は不気味な含み笑い切り替わった。

 

「じゃあ良いっすよ。やりましょうか」

 

「ちょ、ちょっと。カミル少尉......!」

 

 あわあわとするリージヤをよそに、カミルと三人組の間で火花が散る。

 

 その後三人衆とカミルはマクロス・アロンダイトのパイロット養成学校に殴り込んだ。

 

 VF-25は流石に使えないだろうという判断で、ならば学生達に向けた教養演習ということにすれば、表向きは健全な喧嘩になる。

 

「え、171を使いたい?」

 

 その建前を持って受付に駆け寄った。

 

 この瞬間だけは、よほど愛想が良かったのだろう。

 アポ無しだったにも関わらず、目論見通り模擬戦には訓練機のVF-171が使用できる事になる。

 

 即日、養成学校の持つ格納庫へ走ったカミルたちは、訓練機を飛ばす準備を始めた。

 

 この騒動に養成学校の学生たちはスポーツ観戦気分であり、正規パイロットはおろかリージヤに報告を受けたヴィリーとそのリージヤ当人、果てはラウンド・チームのメカニック全員までもモニターにがっつく。

 

 ただ一人、トビアスは「昨日言ったばかりで」と、ため息と共に頭を抱えた。

 

「まあ良いじゃねぇか。若いってこういうもんだろ」

 

「トビアス中尉も観ませんか?カミル少尉の操縦、凄いんですよ」

 

 と言われて、なんだかんだトビアスもキレ気味に観戦する事になった。

 

 この「中継」は、アロンダイト統合軍のほとんど、そして果てはS.M.Sやケイオスの戦闘部隊にまで広まった。

 

 もう大事件である。

 

 そして養成学校格納庫では。

 カミルたちの機体が準備を完了した。

 

 基本スペックは新統合軍の前主力機体そのまんまVF-171ナイトメアプラスであり、訓練機として操作アシストが強めに設定できるぐらいの違いだ。

 

 当然レギュレーション上、コンピューターアシストは実戦式に従うものである。

 

 機体は白色で、訓練用ビーム弾を受けると蛍光ブルーに染まる。

 同時に被弾箇所を参照して機体性能は制限されていき、致命傷であれば訓練プログラムが撃墜判定を下すというものだ。

 

「僕はアクティブ・ステルスをオフにします。戦闘の口火は、そちらが好きなように切って頂いて結構です」

 

≪ああ?どういうつもりだ≫

 

 アクティブ・ステルス機能は、何気に三段変形と同じくしてVFを代表する機能の一つだ。

 

 機体形状でレーダー波を受け流すものをパッシブとするならば、アクティブは欺瞞データを敵機に送りつけることでレーダーから隠れる技術を言う。

 

 その歴史は長く、原初のVFこと『Sv-57』から実戦搭載された機能である。

 

 それを切ると言うことは、常に相手に位置を把握されると言うことだ。

 

 VF-171は元が特殊任務用機体であるためパッシブ・ステルス性も盛り込んだデザインである。

 とはいえアクティブ・ステルス機能を切った状態では丸裸に相違ない。

 

 しかも切るのはカミル機のみ。完全なハンデのつもりである。

 

「だってこうしないと勝てないじゃ無いですか」

 

≪んだとッ!?≫

 

 半笑いで放たれたカミルの煽りは破壊力が高く、三人衆は今にも冷静を欠こうとしていた。

 

 しかし腐ってもパイロットである。

 その辺のブレーキはまだ効いた。

 

≪インディア6、出るぞ!≫

 

 続いて二機、三機目も出撃し、カミルはタイマーがゼロになるのを待ってから出撃する。

 

「ラウンド4、行きます」

 

 EX-ギアシステム非搭載機に乗るのも久しぶりだと、カタパルト射出のGを全身に受け止めるカミル。

 

 もともと特殊部隊用途だった原型機のVF-17からは大きく操作性が向上しており、確かに訓練生にはうってつけの機体だろう。

 

 そして仕方のないことだが、VF-25に比べてあからさまなパワー不足が感覚レベルで体感できた。

 

 機体のレスポンスを確認しながら、どう動けば機体の性能を最大限発揮できるか脳内で組み立てる。

 

 エンジン出力のリミッターを引き上げたかったが、どうやら教員でなければその辺の操作はできないようだった。

 

「さて、あとは向こうの攻撃を待つだけか」

 

 推力を落とし、慣性に機体を流してしばらくした頃、左右下側と直上から警告が鳴る。

 

 下から迫るミサイルを潜り込むように動いて回避しつつ、直上から追ってきた機体に後方を取られる。

 

 背後を取ったのは、カミルに声を掛けたモヒカンのパイロットだ。

 

≪ケツはもらったぜ!≫

 

 後方から黄緑のビームが飛ぶが、これを小刻みに動いて全弾を躱す。

 

 同じ機体であるはずなのに、カミル機の運動性は全く別物かと思われた。

 

 その動きの鋭さは、ゴーストの姿勢制御の如きである。

 

 しかしカミル機は意図的に離脱しようとはしなかった。

 

 後方から食いついてくるのを待っているかのようである。

 

 当時、カミルが訓練生時代だったころからの癖であり、敵機がどのような動きのレパートリーを持っているのか観察する動きであった。

 

 そして、確定的な隙を晒した瞬間を見計らい、致命的な一撃を打つ。

 

 カミルは敵機の攻撃を誘に、あえて直線的な隙を晒す。

 

≪動きが甘ぇ瞬間!もらった!≫

 

 だがカミル機は、瞬間バトロイド形態へ変形し、仰向けの姿勢を取る。

 

 そして後方へ向かってガンポッドを一射撃った。

 

 演習出力のビームは一直線にキャノピーへ飛び、攻撃体勢にあった敵機はこれを避けられなかった。

 

 当然キャノピーに刺されば一撃死判定である。

 

≪マジかよ......≫

 

 カミルがキルを取った瞬間、画面の向こうは湧き立った。

 

 特に養成学校では、咄嗟に教官が生徒達に向けて解説を始める。

 

 可変戦闘機は様々な意味で、オーバーテクノロジー以前の戦闘機と異なる。

 

 その最たる例では、まず見てくれの通り変形できることだ。

 

 至極当然のことだが、それが可能な以上、通常の航空機には不可能な挙動が可能だ。

 

 先ほどの変形宙返りで言えば、バトロイド変形移行時の脚部スイングを利用して、作用反作用による回頭を行った。

 

 それだけでなく、バトロイド形態でのカウンターであればコックピットは装甲に覆われていて、そのうえエネルギー転換装甲による防御力向上により、仮にカミル機が被弾しても擦り傷に止まる。

 

 何より変形しながら反転したことで、シルエットの先鋭化を図り、そもそもの被弾率を抑えたのだ。

 

 極論、宇宙空間であればファイター形態でも宙返りが可能だが、そうすると背面を向けることでの被弾面積増大するし、ヨー運動で回頭したとしてもコックピットを敵機側に向ける形となり、最悪刺し違える結果になりかねない。

 

 機首同士が向かい合う形、つまりヘッドオンのシチュエーションで危険だと感じれば、とりあえずバトロイドになっておくことも生存率を高めることに繋がる。

 

 この動きはVFにとって単純なもので、凄みは感じられないが、VF乗りに求められる素質は飛行機の操縦だけではないのだと、教官は学生達に説く。

 

 わざわざそう言うのは現代VF乗りの殆どが変形を扱えないからだ。

 

 これは、ゼントラーディとの戦いが昔話となった後、バトロイドの必要性を疑問視したパイロット達がVFを単なる高性能戦闘機として扱い始めたからである。

 

 無論、変形が役に立たないシチュエーションは存在するが、これを扱えるようにならなければ、逆転のレパートリーが増やせない。

 

≪インディア6がやられた!?調子に乗りやがって!≫

 

≪俺とお前、二人で落とすぞ!≫

 

 カミル機はバトロイド形態のまま戦闘を続行する。

 敵機が近いのならば、むしろこの方が戦いやすい。

 

 旋回した敵機がカミル機に狙いをつける。

 

 しかしカミル機は慣性に乗せながら大きく弧を描くように機動し、敵二機が一直線に重なる位置を取る。

 

≪クソ!味方を盾にしやがって!≫

 

 カミルは手前の敵を射抜き、その陰に隠れられているうちにミサイルを放つ。

 

 敵機は迫りくるミサイルに対してダミーバルーンを放出。

 ミサイルの回避に成功する。

 

≪へっ!こんなんでよ!≫

 

 カウンターにと照準をつけたが、カミル機がいる筈の位置にはすでにダミーバルーンしかなく、どこに行ったと探すうちに、カミル機は直上からガウォークで強襲。

 

 またもコックピットを射抜いて戦闘終了となった。

 

「じゃあ。もっと精進してください」

 

≪クソがッ!≫

 

 その後帰還したのち、三人衆はインディア隊の中隊長にこっぴどく叱られていた。

 

 しかしながら、それはカミルも同様であった。

 その日は20分間、トビアス中尉に叱られたのである。





『VF-171ナイトメアプラス』

一般パイロット向けに操縦性を高めたモデルであり、元の『VF-17ナイトメア』からの再設計機。
元モデルからは様々な機能がオミットされつつも、堅実な設計を維持している。

VF-17が現役で運用されていた当時、高コスト高性能機であったVF-19およびVF-22は高い操縦難易度も合わさって配備が遅れ(一説には政治的な問題もあったとされる)、結果的にVF-17を再設計したもので統合軍制式採用機の座に収まることとなる。

何より、常に先進設計を行うゼネラル・ギャラクシー社の製品である点は貴重であり、同社のVFが統合軍制式採用機の座に就いたことは稀有な例と言って良いだろう。

2070年現在ではVF-25ブロック2への更新が進んでいるものの、さらにアップグレードを重ねたVF-171ブロック4が現役である。

高い操縦難易度の元モデルから一般部隊向けに再設計したと言う意味では、VF-25ブロック2もコンセプト上の後継機であると言える。
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