マクロス・アロンダイト   作:天龍びし

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マグネティック・フィールド 前編

 

 カミルの喧嘩から一日後。

 訓練生に向けた実演習という装いだったためか、トビアス中尉から個人的に叱られた以外に組織的な処罰はなかった。

 

 週末のその日、ラウンド隊ではさっそくYF-34の実働によるデータ収集が始まった。

 

「トビアス、ここの電気つけてくれ。よし。というわけで、アロンダイト船団の手前にあるガス惑星宙域での稼働テストを行う」

 

 そう言ってヴィリー隊長がホワイトボードにポインターを当てると、白い電子板の表面に作戦宙域の地図が表示される。

 

 ガス惑星の環にほど近いか、全くその内部での戦闘訓練である。

 

 ラウンド・チームは設立されて日が浅く、ほかの部隊に比べてまだまだニューボーンだ。

 

 先んじて、実験機YF-34を動かすうえで前提となる安全性立証はされているため、これからは機体に様々な実験要素を積んで、それぞれのデータ収集を行う形となる。

 

「この惑星は太陽系における木星の環境に近い。で、俺たちはこの位置の放射線帯に突入し、ここでゴーストとの連携を想定した人工クォーツの動作テストを行う」

 

 YF-34の機首先端部分、性格にキャノピーのすぐ前側に配置されている黄ばんだ灰色の石。

 

 これが人工フォールド・クォーツである。

 

 かねてより入手性が悪く、しかし多方面に必要とされるフォールド・クォーツ。

 

 であれば当然、人工的に作り出してしまえばよいだろうという考えに至るはずだ。

 

 このラウンド・チームによる人工クォーツも、その数ある試作品の一つ。

 

 だが、これまでまともに作動したこともなく、ほとんどデッドウェイト扱いされているのが現状であった。

 

「で、使うゴーストだが、こっちもラウンド最新の試作品だ」

 

 地図データの上に覆いかぶさるように現れたゴーストの設計図とイメージ映像。

 

 ぐるぐる回転する3Dモデルをなんとなく見つめていたカミルは、そのリフティングボディから手足が生えた所を見て驚く。

 

「おあ。このゴースト変形するんですか?」

 

「そうだ。といってもガウォークまでだが」

 

 近年、地方自治急増に際して浮上し始めた懸念の一つ、つまり自治体間での紛争問題。

 

 そこではVF同士の戦闘が展開される可能性がぐっと高まるが、そうなれば、同時にゴースト同士の戦闘も行われる。

 

 しかし変形を用いて柔軟な空対空戦闘が行えるVFと違って、純粋な航空機であるゴーストは、そのデザイン上、どうしても機首側前方方向に武装が集中してしまう。

 

 その航空機同士の戦闘でアドバンテージを持たせるため、やはり変形機構──まずはガウォーク形態の導入から検討された。

 

 なお変形するゴースト機体の存在は、ごく稀有な事例でのみ確認されれている。

 

 じゃあそれを使えばよいのでは?と思われるかもしれないが、三段階変形を備えたゴーストこと『Sv-303ヴィヴァスヴァット』はかなり最新のワケアリ(呪物)だ。

 

 様々な技術の投入が黙認されているラウンド・チームでもヴィヴァスヴァットの入手は難しく、統合軍にくださいと言って即日配達してもらえるものではなかったのである。

 

 それはさておき、この仮称ガウォーク・ゴーストだがゴーストV9の基本設計をリビルドしたもので、主翼をクリップトデルタ翼に変更した空・宙両領域対応型である。

 

 ついでに新設計した、大気圏内戦闘も想定の両用スーパーパックを搭載する。

 

 その後一同は、一通りの詳細ブリーフィングを済ませた。

 

「じゃあ質問はあるか?よし、じゃあ行くぞ」

 

 ヴィリー隊長が手を叩くと、カミル、トビアス、リージヤの三人は立ち上がり、それぞれパイロットスーツに着替えるためロッカールームへ向かう。

 

 その後早々に装備を済ませ、ヘルメットを首後ろに引っ掛けているカミルは、ブロックタイプのレーションを咥えながら格納庫(円卓)へ赴く。

 

 栄養価は高いがまずいもので、できればミルクに溶かして飲みたいものだ。

 

 しかし味に疎いカミルは気にしていない様子であった。

 

 そして格納庫に繋がる扉を開き、向かって右側から隊長機、副隊長機が収まるハンガーがあり、大型シャッターを挟んで左側に移るとリージヤ機、そしてカミルの乗機というレイアウトである。

 

 ところで機体はそれぞれのイメージカラーが割り当てられており、前回のワイルドハントとの初戦では黒一色だったリージヤ機は、白地に紫のカラーリングへ変わっていた。

 

 ペンキで塗りなおしたわけではなく、機体の光学迷彩機能を使ったカラー変更である。

 

 機械の騒音とメカニックたちの掛け声、そして熱した電気コードの匂いが充満する格納庫。

 

 その空気を小走りで切るカミルを、リージヤが呼び止めた。

 

「ではブリーフィングで言われた通り、私とカミル少尉とでエレメントです。よろしくお願いします」

 

「互いの癖を確認していきましょう」

 

 ここでのエレメントとは、二機からなるVF編隊の最小単位である。

 つまりペア同士だ。

 

 しかしカミルが自分のYF-34に這い上がると、昨日はなかった銀色の箱がコックピットの後部座席に収まっていた。

 

 長方形で、上部にはスリットと赤い目玉のような光学センサーが見える。

 

 この姿、見覚えがあった。

 

「うぇ!?シャロン・アップル!?補助AIってこれか......」

 

 その外観は、映画『マクロスプラス』で見たバーチャルアイドルことシャロン・アップルの筐体そのものであった。

 

 最近になって資料を見ることができるようになったシャロン・アップル事件。

 

 2040年3月に起きたこの事件では、高度なAIが暴走を引き起こし、地球のマクロス・シティを掌握。

 

 シャロンは当時の最新鋭無人戦闘機『ゴーストX9』を動かし、スーパーノヴァ計画の実験機二機と熾烈な戦闘を繰り広げたとされる。

 

 それ以降、ゴーストとそこへ搭載するAIの開発にはかなりの制限が掛けられ、新型ゴーストの登場はフロンティア船団のバジュラ戦役まで待たされることになったとか。

 

 さりながら資料といっても黒塗りばかりで、詳細な事情は何も分からない。

 

 どうやら後部座席のこれは、そのシャロンAIと同質のものであるらしい。

 

「あれ、AIのこと聞いてなかったの?」

 

 狼狽したカミルに、レオニ技術班長が声をかける。

 

「いや、高性能AIとだけ......」

 

「まあそいつに自己保存本能なんてないから、暴走なんてしないよ。第一、プログラムの塊でしかないAIは暴走なんてしない。もししたとすれば、それは作ったやつが意図的に仕組んだ『犯行』さ」

 

 確かに、と腑に落ちたカミルは、素直にコックピットへ乗り込む。

 

 機体はEXギアからパイロットデータを読み込み、システムコンディションがカミル専用に調整された。

 

 そして、機体カラーがカミルの設定したものに変わる。

 

 黒一色だったYF-34は、黒と白を基本とし、水色の細いラインが走ったカラーリングへと変わった。

 

 すると、そのパーソナルデータを参照したAIがアナウンスを流す。

 

≪おはようございます。メインシステム、パイロットデータの認証を開始します≫

 

 カミルの設定で、AIは余計な会話を行わないようになっている。

 

 アナウンスは残弾の通知や、機体コンディションの警告を行うだけだ。

 

 そのうえ、操縦への干渉も通常のアシストAIと同じかそれ以下にとどめられている。

 

「よし、BDI接続。バーニア動作チェック」

 

 操縦桿を動かすと、これに連動して各所バーニアノズルやメインエンジンノズルが目玉のようにぐりぐりと動く。

 

 それと同時に、カミルの脳内へ機体外部のセンサーが見る風景映像が飛び込んだ。

 

 まるで戦闘機と一体化したような感覚がカミルにはあった。

 

「思ったより違和感がないな。悪くないぞ」

 

 脳神経系に干渉するマンマシンインターフェイス、すなわちBDIというシステム。

 

 もとはYF-21へ試験的に搭載された操縦システムで、略さずに『Brain Direct Image System』というアビオニクスの一つだ。

 

 画期的かに思われたBDIは脳内イメージで機体をコントロールできるものだったが、その代償であるかのように、あまりにも安定性が低かった。

 

 雑念を抱けば機体が鋭敏に反応し、暴走を起こすのである。

 

 やはり2070年代のBDIも根底の不安定性は変わっておらず、その補佐の目的でシャロン・アップル型AIが後部座席へ導入された。

 

 スーパーエボリューションへの搭載は、思考による飛行の挙動安定や、バトロイドの柔軟な機体操作などが目的だ。

 

 使い込んでデータのフィードバックを送れば、いずれ技術班が改修してくれるだろうとレオニは言っていた。

 

 それは、どの装備も同様である。

 

 開いたままのキャノピーから外のメカニックたちへサムズアップサインを送るカミル。

 

 キャノピー周辺に人がいないことを確認し、メカニックの返答を待ってから装甲閉じを行う。

 

 そしてエレベーターの操作が行われ、機体が後方に向けて動き出したところで、オペレーターからの無線がつながる。

 

 ポップアップした小窓にはタフィのピンク髪が映りこんだ。

 

≪おはようカミル少尉!君のことはこのタフィお姉さんがサポートしてあげるから、何かあったら気 兼 ね な く訊くんだぞ!≫

 

 気持ち強調された「気兼ねなく」。

 

 カミルが「わかりました」と返答する前に、アオイからのツッコミが入る。

 

≪あ、別に専属とかないから、サポートは私たち三人でしていくわ≫

 

≪こっちの無線に投げてくれれば三人とも聞こえてるから、個別に切り替えたりしなくていいよ≫

 

 とゲッカの補足が続き、そしてエレベーターに運ばれて上昇していく機体はアイランド1のカタパルトデッキに到着した。

 

 そして機体が発進位置に着くと、同時に人工重力の影響化を抜け、カミルは重力の抑圧から解放されたが内臓が浮きあがるような不快感を腹の底に味わう。

 

≪ゴースト部隊先行発進、続いてフォールドブースター射出≫

 

 アオイのアナウンスに続いてそれらが宇宙に放たれると、ラウンド部隊も順次カタパルトから射出された。

 

 カミルたちの前方に見える航宙推進剤の青白い燃焼光。

 先行発進したゴースト部隊が一斉にフォールドし、目的地へ一足先に向かう様がBDIから読み取れた。

 

 ところでフォールドとは、一種のワープ技術である。

 

 三次元ブレーンを折り曲げ、始点と終点の空間を入れ替えるのがフォールド航法である。

 

 マクロス船団は定期的にフォールドをすることで移住先の惑星に駆け足するが、カミルがアロンダイト船団に追いついたときのように、フォールドブースターを背負えばVFでも単独フォールドが可能である。

 

 だが、編隊規模かつ宇宙船舶を用いずフォールドを行う場合は、やや大型のブースターと編隊飛行を行い、まとめて飛ばすやり方が採られる。

 

 フォールドは空間を入れ替えるといったように、その性質から、フォールド機能を持たない機体も、今から飛ぼうとする物体の周りに寄っていれば一緒になって飛ぶことができるのだ。

 

 その後、発艦したラウンド隊が編隊を組むと、後方から追って射出されたフォールドブースターが迫る。

 

 カミルはコンソールを操作してブースターとデータリンクすると、その情報に従って機体を動かす。

 

 ラウンド全機がブースターを囲む位置に着くと、引き続きアオイによるカウントダウンが始まる。

 

≪全機スタンバイ。ブースターフォールドイン≫

 

 そして、編隊の鼻先に時空の裂け目が輝きと共に現れ、ラウンド隊は光のトンネルに吸い込まれた。

 

 

 

 後編へつづく──





Sv-303なんかもらえるわけないだろ!
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