デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

49 / 93
 お気に入り登録者数350人突破ー!登録してくださった皆様、ありがとうございます!

 ということで、ちょっと更新速度が遅くなりつつある息吹です。絶賛ネタ切れ中です。

 まさかの8話目。10話目までには終わらせたい修学旅行編。
 そんな感じで書いてたら、前回の二倍近い量になりました。びっくり。
 まあ、なんだかんだ言って、エレンさんとのバトルはノって書けるということですね。駄目ですね。あくまでもメインはヒロインとのデートとかなのに。

 それではどうぞ。


第47話 来禅スクールトリップⅧ

 胴薙ぎに振るわれる剣を、七海は〈聖破毒蛇〉を使って、棒高跳びのように上へ跳ぶことで避けた。

 そして、エレンの真上から、刺突と斬撃を加える。

 真上にいる一瞬の間に、刺突から、逆の刃を使った斬撃。逆手にした状態での再度の刺突だ。

 しかしエレンは、それらを全てかわした。

 一撃目は身を翻して避け、二撃目の斬撃はバックステップ。最後の刺突も、紙一重で避ける。

 攻撃が当たらなかった七海が着地する瞬間を狙って、エレンから仕掛ける。

「〈聖破毒蛇〉――――【大鎌】!」

 七海が叫ぶ。

 直後に〈聖破毒蛇〉は、一瞬でその姿形を変えた。

 その姿はよくある、死神の鎌を思い浮かべてもらえれば良い。まさしくそれだ。

 捻じれた柄に、大振りの刃。

 その刃を以って、エレンのレイザーブレイドを受け止める。

 キン……、と、高い音が響いた。

「…………」

 しかしエレンは、ほんの少し目を開いただけで、すぐに対処してきた。

 背中側から、一門の魔力砲を展開させる。

 撃つ。

 近距離からのこの砲撃だ。普通ならば、倒すことは出来なくても、吹き飛ばすぐらいの威力を持つ。

 だが、七海は。

「はああぁぁぁぁぁッ!」

 裂帛のもと、鎌の形の〈聖破毒蛇〉を、立ち上がりながら振り上げた。

 それだけで、最強の魔術師が放った砲撃が両断された。

「ほう……!」

 流石にこれには、エレンも感嘆の言葉を発した。

 だが、これだけで終わりでは、勿論ない。

 すぐに、反動で後ろ側にあった重心を随意領域で前に戻し、突撃する。

 振り上げた動きのまま、七海は後ろに宙返りで距離を開けるが、エレンの前ではそれすらも一瞬の距離だ。

 だが、七海にとっては、その一瞬ですら十分な時間だ。

「〈聖破毒蛇〉――――【撃槍】」

 再度形を変える七海の天使。

 今度は、槍。

 四枚の刃で構成されるそれは、刺突武器である槍の弱点である横薙ぎの攻撃すらも可能にする。

 両手で持ち、右腰で構え、繰り出す。

 まずは、突撃してくるエレンの丁度心臓部分。位置的には、首元に近い。

 体を、こちらから見て左に振って避けられた。

 次いで、一旦引き、エレンの左肩を狙う。構える腰の反対側に避けられたので、ここの方が早い。

 しかし、しゃがんで避けられた。

 時間的余裕として、最後の刺突。上から抉るようにして、捻りを入れた一撃。

 七海の視線の先、エレンは避ける選択を捨て、レイザーブライドでいなした。狙ったのは体の中心線なので、いなすのは左でも右でもなく、上。

 がら空きになった七海の胴体に、容赦無くエレンは攻撃を当てに行く。

「チッ……〈聖破毒蛇〉――――【双刃】!」

 その攻撃に七海は、〈聖破毒蛇〉を二振りの剣と変え、それらを交差させて盾とした。

 響く金属質な音。交錯するのは鋭い視線。

 上にある剣を握る手を振ってブレイドを弾き、もう一方で反撃と出る。

 下がっている身を無理矢理前へと出し、密度の濃い斬撃だ。

「くっ……」

 この攻撃にはエレンも、応戦を余儀なくされた。

 一度防げば別方向からほぼ同時にやってくる刃を、レイザーブレイド一本で捌いていく。

 しかし、防ぐばかりで、反撃に打って出れないのもまた事実。このままでは、防戦一方である。

 そう思うも、隙は訪れない。

 だがそこで、不思議な現象が起きた。

「うぐ……っ!?」

「……?」

 突如、七海がエレンとの距離を開けたのだ。元の両剣の状態に戻した天使を地面に刺し、左腕を右手で掴んでいる。

 まるで、何かを抑えるように。

 疑問に思うも、好機である。

 思い、追撃する。

 それを見た七海は左手を翳すように、腕を振り上げた。

「! ……舐めないで欲しいものです!」

 つまりあれは、自分の攻撃など片腕で止められるという意味なのだろう。

 それならば、随分と甘く見られたものだ。

 今までの攻撃の中で、そう判断されたということなのだから。

 だが、エレンが目にしたのは。

 自分の動作なのに、驚愕に目を見開く七海。

 気がつけば、量の増えた黒の粒子。

 直感で、エレンは大きく体を振った。

 直後のことだった。

 翳した手の先から、開いた手程の大きさの闇色の球が現れ、一瞬前まで自分がいた場所をも巻き込む爆発を起こしたのは。

 見たことの無い攻撃で、今までと違う攻撃だった。

 だがそれは。

 どこか、威力を抑えられているようにも、エレンは感じた。

「あ、あ、あ……」

 エレンが振り向く視線の先で、七海は小さく呟いていた。

 普通の左目と、不気味な右目で、自身の左腕を眺める。

 その左腕は、今の爆発によってだろうか。

 見たことのある、真っ黒の、鋭利な形をしていた。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 堪らず、叫ぶ。

 気付かなかった。

 想定外だった。

 そして、あまりにも怖かった。

 またしても、俺は。

 ――――誰かを殺す可能性を、手にしたのだから。

「何でだよ。何でだ何でだ何でだ何でなんだよ!?」

 答える筈も無いのに、俺は左腕に問いかける様に、言葉を発した。

 その時だ。

『ちょっと、君の身体を借りるからねっ』

 どこか焦った声が、脳裏に聞こえてきた。

 この声……、まさか。

『今はそれはどうでもいいよね七海くん。君の意識が削り消されない内に、ボクが代わるからね』

 お前、楓じゃないか。どうして。

『今は緊急事態だからね。このまま見守っていても良かったんだけど、今日ばかりは、君が救った娘の為にもボクが力添えをしてあげよう』

 言っている意味が、よく分からないんだが?

分かっていない時点で(・・・・・・・・・・)君はもう十分に危ない(・・・・・・・・・・)ということだよ、七海くん』

 は?

『説明する時間も惜しいしね。事後説明でどうかよろしく』

 そこで、俺の意識は暗転した。

 

「……正確には、交代した、というのが正しいんだけどね」

『うおっ!? 勝手に俺が喋って……って、何か変な違和感がする!?』

「変だから違和感と言うのだと思うけど、まあ、今はどうでもいいかな」

『自分の声をこうして聞く機会って、そうそう無いからかな。ものすごく、〈自分じゃない〉感が……』

「そのうち慣れると思うよ」

「……どうかしましたか、〈ディザスター〉」

 む、と七海が振り向く。

「あ、ああ、そう言えば、七海くんってそういう識別名が付けられてたっけ。意味は、災厄、だね」

「?」

 エレンは、首を傾げた。

 今の台詞にどこか、おかしな印象を受けたのである。

 そう、自分のことなのに、あまりにも第三者的な視点で物事を見ている気がしたのだ。

 まるで、外見は変わらないのに、中身だけが変わったというか……。

「うん。その仮説は正しいよエレンちゃん」

「エレンちゃん!?」

「まあまあまあ気にしないで。とにかく、このままじゃ面倒だから、七海くん。君に与えた能力を使わせてもらうよ」

「ナナミ……確か、〈ディザスター〉のことでしたか。ですが、〈ディザスター〉は貴方自身でしょうに」

 ちっちっち、と七海は指を振った。

「ちょっと違うんだよねエレンちゃん。ま、今からの姿を見てもらえればいいかな」

 そう言うや否や、七海の体が光に包まれた。

 攻撃かと思いエレンは迎撃体勢を取るも、どうやら違うらしく、数瞬後には光は消えた。

 その晴れた先にいるのは。

「うん、大方こんな感じかな。いやー、この姿でこの世界に来るのも、何年振りだろうね」

 薄い青みがかった髪に、全体的にほっそりとした印象を受ける体のライン。だが、出るところは出ているというか、女性的な細さというか。

 可愛いと言っても差し支えない顔は今、笑っていた。

 だが、霊装と左腕だけは変わっていなかった。

 そして、エレンは知らないが、今この瞬間に。

 一度死んだ少女が、再度現世に現れたのである。

『うわ、俺が楓に! ……違和感が大きくなった!』

「無理してリアクションしなくてもいいよ?」

『……そうだな。自分でも苦しかったところだ』

 にゃははー、と笑う七海、いや、楓。

 しかしその名を知らないエレンは、問いかける。

「貴方……誰です?〈ディザスター〉ではないようですが」

「ん、そうだねー、君たちに合わせるなら……うん。〈パンドラ〉とでも呼んでね。全ての贈り物だとか、全てを与えられた者とかいう意味があったと思うよ」

 他にも、絶対に開けてはならない物等の意味で、『パンドラの箱』という言葉がある。

 あるいは、最初の女性の名でもあるようだが、これは当てはまらないので、楓は割愛した。

「〈パンドラ〉……もう一度問います。貴方は、一体何者ですか?」

「神様」

 あまりにもあっさりと、楓は答えた。まあ、と続ける。

「今はこの世界に降りて来ているから、スペックとしては七海くんと同レベルなんだけど」

『それじゃあまるで、俺がお前より下みたいだな』

「当たり前じゃないか。たかだか『情報の有無を改変する能力』だけしか持たない君に、この世界の住人でしかない君に、このボクが負ける筈ないね」

『……だけしか(・・・・)?』

「うん。だけしか」

『……つまり、他にもお前は能力を持っているのか?』

 勿論、と楓は言った。

 エレンからすれば、独り言を喋っているようにしか見えないので、なんとも可笑しい。

「色々あるよ。『任意の物を奪う能力』や、逆に『任意の物を与える能力』。用途が限られたもので言えば、『万物を燃やす能力』や『万物を凍らせる能力』などね」

『……ホント、色々あるな』

「あ、他にもね、『喚び出す能力』なんてのもあるよ。まあ、流石に、一京越えの能――――」

『それ以上は止めろ』

「にゃはー」

「……一体、誰と喋っているのですか」

「頭の中」

 は? と思うが、見る彼女の表情は真面目だった。

 つまり、真面目に訳分からないことを言っていた。

 まあ、今はどうでもいい。

「ということで。今はシリアス回の中でも、色々説明することが出来る数少ない機会だからね。訊きたいことがあれば答えるよ」

『お前の言っている内容自体を訊きたいところだが、とりあえず』

 七海はそれも気になるようだったが、最優先として知っておきたいことを選んだ。

『さっき、削り消されない内に、って言ったよな。今の状況といい、どういうことだ』

「そうだねー」

 そこで楓は、指を鳴らした。

 それだけで、世界が変わる。

 いや、世界自体は変わってない。だが、楓以外が変わったのだ。

 全ての動きが、停滞しているのだ。

『んなっ、これは……?』

「見えてるみたいだね。とりあえず、説明の為に『停滞させる能力』を使わせてもらったよ」

『そんなことまで出来るのかよ……』

 驚きを通り越して呆れの色が強くなった声色で、七海は呟いた。

 この能力だけ見ても、自分は楓より弱いと実感する羽目になる七海であった。

「さて、時間は限られてる。説明をしよう。あ、消費されるべき時間は止まってるじゃんとかいうツッコミは無しね?」

『んなツッコミしねえよ……」

 そう? と言ってから、楓は説明をし始めた。

「とりあえず、この腕の話からしよう。その為に、わざわざ残しておいたんだから」

 架空上の竜のような鋭利なフォルムの腕を見ながら、楓は言葉を続ける。

「あのままじゃ君は、暴走した霊力によって精神が消され、無に等しき感情しか残らなかった」

『分かりやすく』

「白、もしくは黒の色紙の上に多彩な色紙を重ねる。それを感情と定義して、一番下の白か黒の色紙以外を全て消された状態」

『……例としては分かりやすいが、例えとして分かりにくいな、それ』

「理解出来ない方が悪い」

 話を進めるよ、と楓は言った。

「君は一度、逆転体になったことがあるよね?」

『逆転体?』

「反転体みたいな状態」

 ああ、と七海は思い出すような台詞を吐いた。

 少しトーンダウンした口調で、言葉を発してくる。

『最初にエレンと戦った時か』

「本来ならばその時の情景描写が欲しいところだけど、時間が無いから割愛ね」

『意味が分からん』

「分からなくてもいいんだよ」

 さて、

「あの時の君を説明するなら、霊力の暴走、ということになる。だから、君の知っている反転体ではなく、ボクが名付けた逆転体となった。明確に違うところで言えば、記憶が保持されたままのところとかね」

『……それで?』

「君の霊力の性質は、十香ちゃんと似て非なる、消失。それが暴走した所為で、君の感情が削り消され、あんなことになった」

 まあボクとしては、面白いから良かったんだけどね、と楓は続けた。

『おい』

「それで、」

 咎めるような七海の声を無視して、楓は口を開く。

「暴走の原因は、負の感情を抱いたこと。あの時は確か、絶望と怒り、そして悔しさってところかな。まあその所為で霊力が暴走。逆転体となったって訳。その暴走した霊力が目に見える形になったのが、この中二心くすぐられる左腕ってことだね」

『……成程』

「今回の場合、怒りと同時に、恐怖の感情を強く持っちゃったんだろうね。それが原因で逆転化する可能性が出てきたんだ」

『何で、助けた?』

「言っただろう? 今日ばかりは、君が救った娘の為にも力添えしてあげようって。それだけのことだよ」

 さてと、と、話題の転換を求める一言を楓は発した。

 停滞した世界の中で、楓は口を開く。

「そろそろ時間を戻すから、七海くんは黙っててね」

『分かった』

「それじゃ、君の意識を今度こそ暗転させるから」

『え』

 そう言って、楓は指を鳴らした。

 

「さてさて、あまり君は放置するのも、尺的にも時間的にも厳しいしね。そろそろ相手してやろうじゃないか」

 何が厳しいのかはよく分からなかったが、最後の台詞だけは理解できた。

 だが、

「貴女に、私の相手が務まるとでも?」

「大した自信だね。まあ、七海くんに合わせて、ボクは一つしか能力を使わないし、スペックもこの世界に準しているからね。今のボクはあまりにも弱い。だけど、君の相手ぐらいは出来るよ」

「そちらこそ、大した自信ですね」

「まあねー。なんたって神様だし」

 エレンとしては、いきなりこちらに意識を向け始めた相手に驚愕と疑問を覚えたが、それを顔に出さないのはさすがと言うべきか。

 対する楓も、今の停滞した分の時間を知覚できていないのに無駄に自信たっぷりなエレンに可笑しさを覚えていた。

「それじゃ、再開しようじゃないか。そっちからかかって来ていいよ」

「!……舐めるなッ!」

 言って、駆け出す。

 相手の挑発に乗った形になるエレンだが、当の本人は気付いていない。

 それに対する笑いを一生懸命堪える楓。その表情は余裕のある笑み。

 それすらも、エレンは癇に障った。

 だが、あまりにも余裕振っている為、間近に天使が刺さったままなのを除けば、体勢は無防備だ。これならば、霊装があるので分からないが、最初の一撃で昏倒させること位は出来るだろう。

 そう思っていた。

「〈聖破毒蛇〉、いや、〈死天悪竜〉かな?……まあ、〈聖破毒蛇〉でいいかな」

 小さく、楓は呟く。

「――――【太刀】」

 ガギンッ、という音が鳴った。

 それは、いつの間にか手にした楓の天使と、エレンのレイザーブレイドがぶつかった音だった。

「な……っ!?」

「簡単なことだよ」

 エレンが距離を開けたので、大振りの日本刀の形をした〈聖破毒蛇〉を左腰に差しながら(鞘付きなので、刺しながら、ではない)、楓は口を開く。

「七海くんは気付いていないみたいだけどね」

 柄に右手を添え、腰を落とす。

「この能力は、名称こそそのままだけど、こんな使い方もあるんだよね」

 一歩踏み出した。

 直後には、エレンの目の前にいた。

「! この速度は……!」

「距離を消す。ここまでは出来ていたっけ」

 言いつつ、抜刀。やや右上がりの剣筋。

「く……!」

 何とか、エレンは防ぐことに成功する。

 エレンは思う。

 これはまるで、

「あの時と、同様……」

「お喋りしている暇は無いと思うけどね」

 またしても、消える。

 次に現れたのは、エレンの真後ろ。

 この戦い方は、〈ディザスター〉が反転した時と同じだ。

 だが、前回と違う所もある。

 今回のエレンは、本気装備だとか。

「ハッ!」

 短い裂帛で、後ろを薙ぐ。

 手応えは、無かった。

「例えば、気配を消したり創ったり」

 振り向いた姿勢のさらに後ろ。先の正面。

 慌てて再度振り向けば、太刀型の天使の刃は目前にあった。

「――――――!」

 後ろに身を引き避けるも、付いてくる形となる自身の髪が数房、切られた。

「例えば、反動を消したり」

 楓が一言呟くと、振り切った右腕が、再度襲来した。

「そんな……っ!?」

 有り得ない。

 本来ならば、振り切った状態であった右腕は、今みたいな速度で角度を変えられない。反動があるので、流れを殺せばどうしても、一瞬の動きの鈍りが生じるはずなのだ。

 だが、それを相手は無視してきた。

 迫りくる刃に、エレンは防御を選択した。

「例えば、相手の防御を消したり」

 直後には、一瞬前の体勢になっていた(・・・・・)

 斬られる。

「ぐ……!」

 防性随意領域すらも消されていたので、相手の刃は、いとも簡単にエレンの体を切りつけた。

 胸元から、左脇腹にかけて、一条の真っ赤な線が残る。

 すぐに止血と痛覚遮断を行い、今度こそと反撃に出る。

「〈カレドヴルフ〉――――!」

「例えば、反撃、攻撃を消したり」

 自身の刃を振るおうとした瞬間、エレンは不思議な感覚を得た。

(え――――?)

 今しがた、自分はレイザーブレイドを前に出ながら振った筈なのだ。

 それならば、何故。

 ――――自分の腕も、視線も、その一瞬前と同じところにあるのだろう?

「存外呆気なかったね」

「……ッ!」

 もう一度、〈カレドヴルフ〉を構え、突撃しようとする。

 だが、その直前で、首元に刃を突き付けられた。

 堪らず、動きを止める。

 ほんの少しだけ食い込んだ刃先が、鋭い痛みを伝えてきた。

「この世界における人類最強なんて自負している割には、こんなものだったんだ」

 いつの間にか楓の表情は、最初の余裕の笑みから、大きな落胆を伝える色となっていた。

 はあ、とこれ見よがしに溜息を吐く。

「そうだねー……【概念消失(ロストイメージ)】と名付けようかな。というか、こんな人に七海くんは苦戦しているんだね。やっぱり、弱いじゃないか」

「…………」

 静かに、気取られないようにして、魔力の充填を始める。

 充填が最大になった瞬間、大きく一歩下がり、それに相手が反応する前に魔力砲を展開、撃てば、少なくともこちらが攻勢に出れる。

「無駄だよ」

「っ!?」

「無駄。視えているよ、その位」

 気付かれていた。

 この瞬間にエレンは、自分の敗北を確信してしまった。

 

「まあ、今回の相手は神様だったからね、やっぱり人類最強の名は君の物だ。あ、あとね、七海くん――――あー、〈ディザスター〉との勝負でも無いから、今回は無効試合ね」

 勝負が終わった後、近くの木に向かって体操座りでいじけるエレンに、楓は笑いながらそう言った。

 つい先程までの表情が嘘のようなその顔に、エレンは益々落ち込んでいく。

「負けた。この私が、負けた……」

「そんなに落ち込まなくても……」

 エレンのこの容態に、流石の楓も、困ったように頭を掻いた。

「ほ、ほら、もう帰った帰った。言っているだろう。やっぱり人類最強は君の物だって。創りだした物だけど、お菓子上げるから、撤退してよー」

 なので楓は、逃げの一手を打った。お菓子を持たせるという子供扱いも込みで、だ。

 その言葉にエレンは、ようやく顔をこちらに向けた。

 笑みを困ったものにする楓の顔をみて、お菓子なるものが入っているであろう箱を見て、もう一度顔を見て。

 そしてようやく、立ち上がる。

「……分かりました。貴女が言ったことを全て、本当の事とします。よって、やはり私は人類最強なのです。異論は認めません」

「いや、本当に本当の事なんだけど。っていうか、そんなに肩書きは大事なの」

「お菓子、ありがとうございます。またいつか、機会があれば、もう一度手合わせ願いたいものです」

 えー、と嫌そうな顔をする楓を無視して、エレンは飛び去っていった。

「……まあ、一件落着、かな?」

 とりあえず七海くんの意識を戻そう、と。

 楓は頭の中に、声をかけた。




 そういえば、デアラのマテリアル買いました。書き下ろしが面白かったです。

 安定の神様ちゃんのメタ発言です。果てには他作品のネタを言おうとまでしています。
 それに、なんであんなに逆転化現象について詳しいんでしょうね?謎です。
 というか、強すぎ。
 エレンさんに勝つとは思いませんでした。
 いや、元々は引き分けにするつもりが、書いてる内に負ける描写が思い浮かばなくなって、最終的に勝ってしまうという……。
 ま、まあ?神様ですし?やっぱりエレンさんは【人類】最強なんですよ!

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 戦闘中のエレンさんの台詞がワンパターン化していることについてはノーコメントでお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。