デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 ぴゃー。東方で書き詰まったので、気分転換にこっち書いてました。

 気が付いたら一月以上空いてしまい、申し訳ありません。
 とりあえず七罪編の前半はこれで終わりですかね? 次回から9巻の内容に入るかと。
 ただ、時間を空けすぎたせいで、自分で自分の謎ときに自信が持てていない。あれえ、自分で考えてた筈なんだけどなあ……

 それではどうぞ。



第82話

「そ、そんな、まさか……」

 

 琴里の顔に戦慄が走った。

 

「夕弦じゃなかったっていうの……!? じ、じゃあ一体、誰が……!」

 

 言って、愕然とした表情を浮かべながらテーブルに肘を突く。

 だがそれも無理からぬことである。――この状況で、全てが振り出しに。もう次の指名までも時間が無い。皆の心臓の鼓動が速くなっていくのが、手に取るようにわかった。

 

「く……」

 

 士道は頭を抱え、再び資料に向かう。

 夕弦は七罪ではなかった。となるとよしのんが候補に挙がってはくるが、先程七海が可能性は低いと言っていた。ならば十香や殿町といった、指名された人物と一緒に消された誰かだということだろうか。だとしても、明確に士道の指名を逃れたと思われる人物はいない。まさか、本当にただ楽しむためだけに、七罪は自分を危険に晒していた……?

 しかし、もしそう考えるならば、その前提自体が無意味ということになってしまう。七罪が楽しんでいるだけというのなら、単純に今残っている三人の中に彼女がいるということも――

 頭の中で思考が堂々巡りになる。士道は混乱する頭を落ち着けるようにこめかみのあたりを指先で叩いた。

 七海もまた、顔に焦りを浮かべて資料を読み漁っていた。

 

『ふふ、あっはっはっはっは!』

 

 どれくらい経ったころだろうか、そんな皆の狼狽を楽しむように、七罪が腹を抱えて笑った。

 

『さぁ、さぁ、大変ねえ。名探偵の推理はもう終わり? 早く私を見つけないと、皆仲良く鏡の世界よ? ふふっ、でも安心してちょうだい。貴方達の姿は、お姉さんがきちんと有効活用してあげる』

「この……野郎ッ!」

 

 ついに怒りを爆発させた耶俱矢が床を蹴り、〈贋造魔女〉に向かって足を蹴り上げる。

 霊装を展開させ、風を起こして加速もした全力、手加減なしの本気の蹴りだった。

 だというのに、

 

『危ないわねえ』

 

 〈贋造魔女〉が発光したかと思うと、向かっていった耶俱矢が弾かれてしまった。

 耶俱矢は空中で体勢を整え綺麗に着地するものの、その顔は悔しそうに歪んでいた。

 それでも尚駆け出そうとする彼女の身を、七海が間に入って無理矢理止める。

 

「落ち着け耶俱矢!」

「落ち着いてられる訳ないでしょ!? アイツは夕弦を、十香を、四糸乃を万由里を真那を狂三を! タマちゃんに、亜衣に、麻衣に、美衣に、あと七海と士道の友達を……ッ! 返せ! 返せ……ッ!」

 

 耶俱矢は七海を無理矢理押し退けようとするも、下手に暴れようものなら消えた人達がどうなるか分からない。七海も一切引かずに彼女を止めていた。

 だが、七海も士道も、耶俱矢がそれをきちんと理解していることを、そして、それを分かっていても尚動かずにはいられなかったことは痛いほどに分かる。

 事実、二人は耶俱矢を責めることなどできやしなかった。

 

「落ち着いてくれ、耶俱矢。大丈夫、俺達が絶対に七罪を見つけ出すから……」

「でも、でも……っ」

 

 七海の服をキュッと握り締め、唇を噛み、肩を震わせる耶俱矢。少しして落ち着いたのか、霊装を消した。

 そんな彼らに、無情にも七罪が声を掛ける。

 

『――さ、そうこうしている間に時間よ。まだ指名されていないようだけど、どうするの?』

 

 知らぬ間に、もう十分が経ってしまったらしい。七罪が、皆を見渡すように視線を巡らせてくる。

 

『指名はないみたいね。じゃあ……』

「――よしのんよ!」

 

 七罪が言いかけたところで、琴里が叫び声を発した。

 

「こ、琴里? よしのんが七罪なのか?」

「……正直、当てずっぽうよ。でも、さっきの会話で次に可能性が高いのはよしのんだった。なら、賭けてみる価値はある筈」

『よしのん、でいいのよね? あの四糸乃ちゃんのパペット』

 

 七罪が問うてくる。士道も、思い当たる者はいなかった。七海にもアイコンタクトを送ると、苦々しげながらも首肯を返した。

 すると今度は、美九の身体が淡く輝き――〈贋造魔女〉に吸い込まれていった。

 

「きゃあ……っ!」

「美九ッ!」

『残念。よしのんもハズレよ。――さ、あと十分で午前0時ね。次の指名が最後のチャンスよ。ふふ、さあ、私を当てられるかしら?』

 

 そして再び、部屋に静寂が訪れる。

 だが、それも長くは続かなかった。七海が急に離れたかと思うと、彼の手近にある机を怒号と共に蹴り飛ばしたのだ。

 

「ふ――っざけんなァッ!!」

「な、七海!?」

 

 はー、はー、と荒く息を吐きながら、士道達の元へと戻って来たかと思うと、椅子に座りこんで頭を抱えてしまう七海。

 心配そうな視線を向ける耶俱矢達に気付いたのか、絞り出すように声を発した。

 

「分かってんだよ……八つ当たりしたところで何も変わらないし進展しない。士道だって皆が消えて辛い筈なのに、でもな、俺だけ安全圏にいることがただただ悔しいんだよ……っ」

 

 七海はガリガリと自らの髪を荒く掻いた。

 士道はそんな七海の様子を見ながら、葉を噛み締める。

 ――何かが。決定的な何かが足りない。何か見落としてはいないのか、本当に情報や考察は出し切ってしまっているのか。

 

「そうよ……何かが――絶対に何かある筈よ。この蛇みたいな女が、無手で勝負を挑んでくる筈がない。自分を完全に安全にできる何かが、絶対にある筈……!」

 

 琴里が額に汗を浮かばせながら、荒々しく資料を捲り続ける。続くように、弱々しくも七海が資料に手を伸ばす。

 士道はテーブルの上に並べられた写真に目をやった。

 この場にいた者を犯人から除外するということを前提とするならば、七罪に消され、尚且つ未だに指名されていない人物は、四人。

 だが、本当にこの中に七罪はいるのだろうか。もはやそれすらもも分からなくなってくる。士道は次第に速くなっていく心臓の鼓動を落ち着けるように胸元に手を置きながら、資料と写真を交互に睨め付けた。

 しかし、いくら考えても答えが出てこない。

 

『――さ、お悩みのところ悪いけれど、あと五分よ』

 

 と、七罪がくすくすと笑いながら声を上げてくる。

 士道は息を詰まらせた。時計を確認してみると、確かにもう五分が経過していた。明らかに、先程よりも体感時間が短くなっている。焦りが混乱を呼び、混乱が判断を崩していく。士道は震える息を吐きながら頭を掻いた。

 

「ねえ」

 

 停滞した状況に一石を投じたのは、耶俱矢の声だった。

 

「どうした? 何かあったか?」

「んと、夕弦と四糸乃がいなくなったのって、二日目からなんだよね?」

「ああ。初日と二日目は答える手段が無かったし、だからこそよしのん含めたこの三人が怪しいと踏んでいたんだけどな……」

「何で初日は何もなかったの?」

 

 士道の思考に、一瞬の空白が生じた。

 しかし、いや、という言葉が生まれてくる。

 

「初日に何の動きも俺が見せなかったから、二日目で動いたってことじゃないのか?」

「待って士道、それなら、わざわざ四糸乃達を消した後に姿を現した理由は?」

 

 耶俱矢の疑問から、連鎖的に琴里が不明だった点を突いてくる。

 だが、そんなことを士道に訊ねられたところで、答えは七罪しか知らないのだし、困るだけだ。

 琴里もそこは理解しているのか、士道に質問だけして、すぐに七罪を映した鏡に向き直った。

 

「そこんとこ、どうなの、七罪?」

『んー、貴方達がそう思うならそう思うんじゃないかしら?』

「つまりは答える気はないのね」

 

 予想はしていたのか、特に落胆した様子もなく、琴里は士道に視線を戻した。

 だが、それだけの会話の間に、士道の中にも新たな疑問が生じていた。だから、時間が惜しい今は、琴里の次の言葉を待つことなく士道は七罪に質問することにした。

 

「七罪」

『なあに、士道くん』

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 士道の質問に反応を示したのは琴里だった。

 だが、それを気にする間もなく、七罪が口を開いた。

 

『……と言うと?』

「考えてみればおかしかったんだ。手紙が送られてきたのが発覚したあの日、お前は何も動きがなかった。かと思えば次の日に四糸乃達を消して、やっとこっちが犯人を指名できるようになったのは、さらに次の日だった」

『その辺りは今しがた推測していたじゃない?』

「でもお前は答えは明言しなかった。その推測が間違っている可能性だってある。なあ七罪。思ったんだけど――」

 

 士道はそこで一呼吸挟み、

 

「――この犯人捜し、始まったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

『……さあて、どうかしらね?』

 

 七罪はそうはぐらかしたが、士道はこの推測は間違えていないという確信があった。

 犯人捜しが二日目から始まったと思う根拠を七罪に話すうち、もしこれが真実であった場合、七罪が誰に化けているのかがなんとなく見えてきたのだ。

 そう、彼女は自身を安全圏に置いている筈なのだ。

 

「そう、か……」

「士道……?」

「どうした……?」

 

 自分の頭の中を整理していて無意識に漏れた声に、琴里と耶俱矢が、怪訝そうな顔を向けてきた。

 七海は、反応が無い。

 士道は視界の片隅でそれを確認しつつ、頭の中で、情報を繋ぎ合わせていく。

 ――思えば。

 その人物の動きはとても特殊だった。

 立場が特殊だったからだとか、状況に変化が生じていたからだとか、そういうことかと思っていたが。もしそれがそもそもの間違いで、自分を選択肢から外す為に動いていたのだとすれば。

 でも、それでは、まさか。

 だがきっと、()が――。

 士道は唾液で喉を濡らすと、ゆっくりと顔を上げた。

 

「――分かったよ、皆」

『……!?』

 

 士道が静かに言うと、息を詰まらせる者、眉の端を動かす者と、反応は様々であった。

 

「わ、分かったって……七罪が誰に化けているかが?」

「ほ、本当か、士道」

「ああ。皆のお陰だ。俺一人では絶対に……分からなかった」

「……一体、誰なのよ」

 

 琴里が訝しげな顔を作りながら訊ねてくる。士道は大きく深呼吸してから、続けた。

 

「前提が間違っていたんだよ。七罪は自分をいち早く安全圏に移動させたんじゃない。そもそも最初から……安全圏にいたんだ」

「……どういうこと?」

「いたんだよ。容疑者の中で唯一、最初から安全が確保されてて、選択肢から除外された人物が」

「なんだと……?」

 

 耶俱矢が机に並べられた写真を見やる。だが、最初から容疑者から外れているなら、そもそもここの写真に並べられていいないのでは、と思われる。

 耶俱矢の視線を察し、士道はゆっくりと首を横に振る。

 

「俺たちはまんまと騙されていた。だってソイツは、あくまでも味方の立ち位置にいた。それに、ソイツ自身の特殊性も相まって、そんなことはないと思い込んでいた。だが逆にそれは、俺達の意識の中では既にソイツは違うという安全圏を生み出していたんだ……!」

「……!」

 

 士道の言葉に、琴里がハッとした顔を作った。

 そして、一枚の写真に目を向けた。

 

「まさか、そんなことって……でも、二人とも今ここに――」

「士道、時間が無いよ! あと三十秒!」

 

 耶俱矢が金切り声を上げる。士道は大きく深呼吸すると、ゆっくり右手を上げて――ピンとした指先をある一点に向けた。

 そして、

 

「七罪は――お前だ」

 

 指を向けた()の表情は変わらなかったが、その名前を呼ぶ。

 

「そうだろう、【七海】……!」

 

 言うと、指を指された七海……の姿をした七罪が、ようやく表情を変えた。

 薄く笑みを浮かべ、士道の眼を真っ直ぐに見返してくる。

 

「……理由を聞こうか」

「切っ掛けは耶俱矢と琴里のさっきの疑問。お陰で初日の謎が解けた。裏付けは、今までの七海の行動とそこの七罪の行動に照らし合わせた時辻褄があったこと」

「……続けて」

 

 士道は一つ頷くと、再度口を開いた。

 

「手紙が送られた次の日から七罪探しが始まったとすると、七海の最初の自己証明の意味は一切無くなる。でも俺達はもう始まっているものと錯覚していて、この時点で七海を選択肢から除外してしまっていた。七罪が化けたのは二日目……その次の日からだ」

 

 そうすれば、あらかじめ安全圏を作り上げることができ、あとは七罪がその人物に化けるだけで七罪の安全はひとまず確保されることになる。

 そこで、耶俱矢が士道に訊ねた。

 

「でも、もし七海が〈贋造魔女〉の被害に遭っているのなら、どうして七海は内側から何もしないの?」

「俺も同じところに疑問を持った。だから、もう一つ前提を覆さなくちゃいけなかったんだ」

 

 士道はそこで耶俱矢を見やったが、耶俱矢はその視線の意図が分からず、きょとんとした顔をする。

 そのことに、あまり気は進まないと思いつつ、しかし言わなければ説明が足りないのも確かだと、決心する。

 

「七海と七罪……お前らは、裏で協力していたんじゃないのか?」

 

 今度は、今まで黙ってこちらを見ていた〈贋造魔女〉に映っている方の七罪……の姿をした恐らくは七海に目を向けた。

 以前、七海から七海自身が扱う霊力について説明されたことがある。

 要約すれば、今七海や士道の元に居る精霊達の力を掛け合わせたもので、やろうと思えば個別の力を扱うことが出来る、と。

 そしてもう一つ。七海は自分の性別までもを改変して姿を変えることが出来ると聞いたことがある。

 この二点と、もし七罪と七海が協力関係にあった場合を考えると、今この場に七罪が二人いることにも説明がつくのだ。

 つまり、

 

「成程。七海が七罪だとして、七罪が二人いることをどう説明するのかと思ったけど、もしそうなら、そっちの七罪は七海が天使を模倣、姿を変身させているものって訳ね」

 

 琴里の言葉に士道は頷く。

 それに、協力関係ならば内側から七罪をどうにかしようとしない理由にもなる。

 

「協力関係にあったから、お前は七海らしく居れたんだ。返答も行動も何もかも、七海のそれだった。だって裏で七海が指示を出すなりなんなりしていたんだから、当然だ。何かと情報を持っているアイツなら、全部予想していたっておかしくはないかもな」

 

 それに、と続ける。

 

「だから美九や狂三とのデートの時も、監視されていることが分かってんなら、不自然にならないように出来ていたんだろ」

「……それじゃ、俺からもいくつか質問させてもらっていいか」

 

 七海の姿で、声で、口調で、七罪は声を発した。

 士道は琴里と耶俱矢にアイコンタクトを取り、無言の促しが返ってきたのを読み取って、頷くことで七罪の台詞の続きを待った。

 そうだなあ、と七海は顎に手を当てて考えるそぶりを見せると、まずは一つ目と指を立てた。

 

「じゃあ初日に、ゲームが始まる前に調査した中で指名されてない、十香や四糸乃、殿町はどうなる?」

「その誰だって当てずっぽうでも指名される可能性はあった。一番最初に安全圏が作り上げられているのに、わざわざその三人の誰かに化ける必要は殆ど無いんじゃないか」

「そもそも初日は化けていないのに、どうやって安全圏を確認した?」

「お前の性格なら、どっかで隠れて様子を観察しててもおかしくはない。七海という安全圏が確立したのを見て直前で予定を変えたんじゃないのか」

「十香は? 彼女なら、俺が偽物だって得意の嗅覚で気付きそうなものだが?」

「十香は前、俺と俺に化けたお前を見分ける時、俺らが同時に目の前にいたからこそ気付けた。七海の姿をしているのはお前一人だけなんだから、気付けなかったんだ」

 

 段々と七海の表情が強張っていく。

 頬が不自然に引き攣り、視線が微妙に泳ぎ始める。

 そして、

 

『か……かか、か、か、は、は、はッ! いい加減諦めたらどうだ七罪! もう何を言っても士道は意見を変える気はないだろうさ!』

 

 突如、横合いから聞こえてくるのは聞き慣れた声と笑い声。

 その笑い方にはやはり聞き覚えがあって、ああやはり、という気持ちと共に、自分の推測が正しかったことを際認識した。

 ぐにゃりと空中のある一点が歪むと同時、人影が一人分、飛び降りてくる。

 コートのような霊装を羽織った、変身したものではない真の七海本人であった。

 

「足りないところは俺が説明しよう」

 

 皆の注目を集めた七海は、順に顔を見合わせた後、ニッと口角を上げた。

 

「俺も最初は、手紙を送られてきたあの日から七罪探しが始まるもんだと思っていたんだが、俺が初手で七罪にとっての安全圏を確保してやれば、七罪が接触するって予想は容易に立てられた。たとえ、その時点で誰かに化けていたとしてもな」

「確かに、七罪自身が理解できない超常現象がもしあったら、先にそれを潰したくはなるわね」

 

 琴里の相槌に七海は頷く。

 

「するとまあ案の定その日の夜中に七罪がやって来たんで、交渉を持ち掛けて、俺にすり替わってもらったんだ。ちなみに、最初はよしのんに化けるつもりだったらしいが、手紙の内容を確認している俺らを観察していたら、まあ俺と言う危険分子がいたんで急遽予定変更ってことらしい」

 

 ここら辺から士道の予想通りだ、と七海は続けた。

 

「あとは士道の予想通り、俺と七罪は協力関係を築いて、俺の指示や他の人の行動予測を元に七罪に動いてもらい、俺は俺で他の人の確実な安全を得た訳だ」

「でも、交渉って言ったって、貴方にも自立監視カメラは飛ばしていた筈よ。それはどうやって掻い潜ったの?」

「俺の能力で間違った映像を流させてもらってた。音声も含めてな。あんまりこういう使い方はしたくなかったんだが、バレる訳にもいかなかったしな」

 

 他にも俺に繋がるヒントはあったと思う、と七海は続ける。

 二日目に十香が弁当の匂いを間違えたのは、七罪が十香の超感覚で正体がバレるのを恐れた結果、七海達の弁当の匂いを強めに自分につけていたから。結局は徒労であったのだが。

 美九とのデートの時、撮影されている時に美九を支えきれなかったのは、七罪自身はそこまで力のある方ではなく、あの体勢では無理があったから。俺なら大丈夫だった。

 狂三が〈贋造魔女〉に霊装を纏っても吸い込まれたのは、その使用者が俺だったから。俺の前じゃ霊力による抵抗は意味をなさない。

 

「分かり易く俺に繋がるヒントを残せなかったのは申し訳ない。七罪からの信頼を得るために控えるしかなかった」

「……まあ、言いたいことはたくさんあるけど。取り敢えずは七罪を探し当てたのよね。なら――」

「ああ。もう七罪は突き止めた。皆を返してもらおうか、七罪!」

「くっ……」

 

 士道が強気に七罪を呼ぶと、彼女は言い淀んだ。

 ――瞬間。

 七海が出てきた辺りの空中に、罅が生じ始める。ピシピシと次第に大きくなる罅に、七海だけが平然として、他士道達は狼狽するが、その拡がりは止まる様子を見せない。

 そして、七海が顕現させていた〈贋造魔女〉の鏡から発せられていた淡い光とは異なる、強烈な輝きを発した。

 あまりに強烈な光が、部屋中に満ちる。士道は思わず手で顔を覆った。

 

「く――」

「な、何よ、これ……!」

「うわっ!?」

 

 しばらくして輝きが収まり、軽く灼かれた目がようやく元の明るさに慣れていく。

 そこで、士道は気付いた。部屋の中に、一瞬前まではいなかった幾人もの人間がその場にいることに。

 そう。それらは皆――〈贋造魔女〉によっていなくなってしまっていた仲間達だった。

 

「! みんな!」

 

 士道の声に、何人かが反応を示す。

 

「あら、戻ってこられたようですわね」

「〈贋造魔女〉の鏡界からの離脱を確認……七海と士道、後できっちり説明してもらうから。場合によっては――」

「お、おお……久しぶりの大地の感触っ、ではねーでいやがりますね」

 

 順に、狂三、万由里、真那である。次の瞬間、耶俱矢は状況をすぐに察したのか、辺りを見渡して、眼を瞬かせる夕弦の元に駆けていった。

 

「夕弦! 夕弦!」

 

 耶俱矢が夕弦の身体を揺すり、しきりに目の前で手を振る。少しして夕弦も、耶俱矢を認識したのか、ようやく焦点が合った。

 吸い込まれていた期間が長かったからなのか、どうにも意識がはっきりとしていないようだった。

 

「朦朧。耶俱……矢。相変わらず……騒々しいです」

「! 夕弦……っ!」

 

 耶俱矢が顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、夕弦に抱き付く。夕弦はしばしきょとんとしていたが、すぐに耶俱矢を優しく抱き返した。

 タマちゃん先生や殿町、亜衣麻衣美衣などは、まだ気絶したままらしい。十香や四糸乃も目は覚めているところを見ると、〈贋造魔女〉に囚われた順番というよりは、単純に霊力への抵抗力の差なのかもしれなかった。

 

「よかった……無事で……」

「か、は、はッ。流石に一般人の抵抗力まではどうしようもなかった、命に関わるとか、そういうことは無い筈だが、あとで検査するべきだな」

 

 士道は大きな大きな息を吐くと、へなへなとその場に崩れた。そんな士道の様子を七海が快活に笑う。

 大見得を切って犯人を指名したものの、正直、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていた。七罪の質問に返答する時は一周回って心臓が止まるんじゃないかとも思ったし、七海が出てきたときは安堵でその瞬間に崩れ落ちるかと思った。

 勝手に七罪と裏でつながっていた七海には後できつい詰問と説教とお仕置きが待っているだろうが……自業自得である。

 

「シドー!」

 

 と、十香が士道の元に駆け寄ってくる。

 

「なんとな!? あっちではけーきやぱふぇなるものを七海がたっくさん用意してくれたのだ! む? そう言えばここはどこだ?」

「……はは」

 

 そんなことをしていたのかと七海に視線を向けるが、七海はニッと笑うだけだった。

 加えて、緊張の糸が切れた今の士道に、十香の呼び掛けにきちんとした返事をするだけの余力は残っていなかった。力なく微笑み、その頭を撫でてやる。

 

「ぬ……っ、どうしたのだシドー。……むー……」

 

 十香は最初怪訝そうな顔をしていたが、やがて気持ち良さそうにに喉を鳴らし始めた。

 なんだか楽しくなってしまい、士道は口元を弛緩させた。

 が――その時。

 士道は視界の端に、とあるシルエットを発見した。

 

「! あれは……!」

 

 少女が一人、床に蹲っている。――大きな魔女の帽子を被った少女が。

 

「七罪……!」

 

 士道は身体を再度緊張させると、十香の手を借りながらその場に立ち上がった。そして、件の少女の元にゆっくり歩いていく。

 どうやら周りも、士道の行く先に気付いたらしい。だが耶俱矢に制裁を食らっている七海は、耶俱矢含め、夕弦や美九達をその場に留めておいて、一人だけが移動する。

 結果、士道、七海、琴里が七罪の周囲に立っていた。

 

「――俺の勝ちだ。観念してもらうぞ」

「ん。俺を選択肢にいれちまったのが、そもそものお前さんのミスだったな」

「…………っ」

 

 士道と七海が言うと、七罪はビクッと肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げてきた。

 そして、大きな帽子の鍔に覆い隠されていた七罪の姿を見た瞬間、

 

「……え?」

「ふむ……」

 

 士道は、つい今までの緊張を忘れて、素っ頓狂な声を発していた。

 理由は単純。今目の前にへたり込んでいる少女の姿が、士道の記憶にある七罪とまるで違っていたからだ。

 小柄で細身な体躯に、それをさらに小さく見せる猫背。不健康そうな生白い肌が見え隠れし、卑屈そうに、憂鬱そうに歪んだ表情からは、自身に溢れていたあの姿など想像もつかない。辛うじて髪色だけは士道の記憶と同じ色だったが、それも手入れの行き届いてないわさっとしたものに変わり果ててしまっている。

 あの大人っぽい七罪とは似ても似つかない、小さな少女がそこにいた。

 

「お前……七罪……なのか?」

 

 眉を顰めながら士道が言うと、七罪はハッとした様子でペタペタと自分の顔を触り、愕然とした表情を作った。

 

「あ、あ、あああ……ッ!?」

 

 そして絶望に満ちた声を上げ、帽子の鍔を握って自分の姿を隠すようにさらに背を丸める。

 

「これは……一体……」

「まあ、士道が会っていたのは、霊力で変身した姿だった――ってことさ」

「あ……」

 

 士道は目を見開き、ポンと手を打った。

 

「――――――ッ!」

 

 すると七罪が、声にならない悲鳴を上げたかと思うと、帽子で自分の姿を隠したまま、右手を高く上げた。

 

「〈贋造魔女〉……っ!」

 

 七罪が自身の天使の名を呼ぶと、光と共に現れた真の〈贋造魔女〉が七罪の手に収まる。

 次の瞬間、七罪の身体が発光したかと思うと、その姿が、以前士道が目にした大人な感じのそれに変貌していた。

 七罪を憎々しげな眼で士道を、そして周囲の皆を睨み付けると、重苦しい声を喉から発した。

 

「知った……な。知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知ったな知知ったな知ったなァァァァァァァァァ――――ッ!」

 

 そして、怒り狂うように身体を捩りながら、続ける。

 

「一度ならず二度までも……私の秘密を見たな……ッ!」

 

 すると、今度はキッとある一人を睨み付ける。

 その視線の先に居るのは――七海だった。

 

「お前も、私を騙したな。助力を宣っておきながら、結局は私を敗北へと導いていたんだな……ッ! ゆ、ゆゆ許さない。絶対に許さない。全員、全員タダじゃ済まさないィィィィィッ!」

 

 七罪は絶叫を上げると、手に握っていた〈贋造魔女〉を掲げた。

 

「〈贋造魔女〉――!!」

「な……っ!?」

「ッ!?」

 

 七罪が叫んだ瞬間、〈贋造魔女〉の先端部が再び輝き――部屋の中を眩い光で埋め尽くしていった。

 

「く――」

 

 思わず目を閉じ、顔を顰める。七海や琴里はどうなっただろうか。今の状況では確認できない。

 とはいえ、その光は数秒程度で収まった。すぐに目も慣れ、薄暗い室内が戻ってくる。

 だが。

 

「シドー! シドー!」

 

 いつもより甲高い十香の声が響いてくる。

 士道はそちらに目をやり――身体を硬直させた。

 

「シドー、なんだこれは。身体が思うように動かんぞ……っ!?」

 

 言いながら、だぼだぼのパジャマを引きずって、小学三年生くらいの外見になった十香が、手足をバタつかせる。

 

「七海よ、何があったというのだ!?」

「混乱。夕弦たちが、小さく……?」

 

 どうやら、十香だけではない。耶俱矢と夕弦も同じような外見になっていたし、周りを見渡せば、意識の無い者と、士道と七海を除く全員が、十香と同じように幼くなっていたのである。

 

「なん……っ、これは、一体……?」

「か、は、はッ。あー、まあそうなるよなあ……」

「ふふ、ふふふふ……っ」

 

 士道が眉を顰め、七海が状況を確認していると、部屋の中央で〈贋造魔女〉を掲げた七罪が、暗い笑い声を発した。

 

「いいザマだわ……っ! あんた達はみぃーんな、ずっとちびすけのままでいればいいのよ……っ!」

 

 七罪は高らかに嗤うと、〈贋造魔女〉に跨り、部屋の天井に穴をあけて、空に飛んで行ってしまった。

 

「っ。チィッ!」

 

 七海は追いかけようと脚に力を込めたものの、瓦礫が意識の無い者達に降り注ごうとしているのを見ると、その力を上ではなく真横に変え、霊力で防いだ。

 だがそれにより、完全に七罪を追うことは出来なくなってしまった。

 

「まッ、待て! 七罪! 七罪ぃぃぃぃっ!」

 

 士道の叫び声も、部屋の中に空しく反響するだけだった。




 一応筋は通っている筈。筋が通ってしかいないともいう。そもそも筋が通ってすらいない……?

 他にも
 ・しきりに七海(中身七罪)が自身の安全圏を主張している。
 ・眼については裏で繋がっているのだから、そもそも証明として意味を成していない。
 ・よしのんに化ける予定だったのに、何故士道達の様子を見ていたのか
 など、文中で説明していない所はあるんですが、まあ書かなくてもいい部分かなと思いカット。
 七海は普段通りにしていますが、実はこの後待ち受けているであろう琴里からのお仕置きから現実逃避しているだけです。当たり前ですよね。まさか主人公には一切非が無いと思っている方はいないと思います。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 自分で伏線を把握し入れていないとかいう状況なので、矛盾点等あれば指摘おねがいします。悲痛な声で唸りながら無理矢理理由付けorつじつま合わせをします。
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