デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 すっ(次話投稿)

 さっ(逃げる)

 ……ちら(「それではどうぞ」と書かれた看板を掲げている)


第88話

 一気に高度を上げて見渡せば、目標の位置はすぐに分かった。あれだけの巨体だ。わざとそうしない限り目につかないことはない。

 ってか空気薄いなあおい。辛いことありゃしない。あと寒い。

 霊力と能力でなんとかなるとはいえ、そう長居もしたくない。

 落下中の人工衛星に近付く。途中阻まれる感覚があったが、俺の霊力の性質上それらは無視できる。確か、上部に取り付けられたスラスターと、どこかにある敵空中艦の随意領域があるんだったか。空中艦の方は〈フラクシナス〉に任せるとして、俺は人工衛星の方を処理しよう。

 取り敢えず段取りとしては、一応スラスター内部にドッキングされているバンダースナッチ(厳密には形が似ているだけだったか)の破壊、そしてこの人工衛星、正確には爆破術式の無効化って感じか。破壊事態は然程問題にはならないだろう。となると重要なのは、爆破術式をどうやって止めるか、だ。

 一番手っ取り早いのは、霊力を流し込んで内部からの無力化及び破壊だが、その段階で爆発しようものならひとたまりもない。いくら俺とは言え、戦術核級の爆発を間近で食らって無事でいられるかと訊かれれば怪しい所だ。

 だから保険に保険は掛けておこう。大丈夫。七罪の件で俺にソレが可能なのは立証済みだ。

 まあどのみち最初はあの機械人形の排除か。

 人工衛星の上の方を目指せば、記憶通り、不格好な丸いスラスターがそこにはあった。確かこの中にバンダースナッチが存在していて、そいつが随意領域を展開させているのだったか。まあどのみち壊せばいい。こっちの方はそれで問題ない。

 

「来い、〈聖破毒蛇〉」

 

 天使を喚び出す。形はスタンダードに両剣。

 霊力を乗せて射程を伸ばし、一閃。返す動きでもう一度。

 随意領域ごと切り裂いたスラスターは中身を露出させる。中のバンダースナッチ擬きにも当たっていたのか、見覚えのある機械の残骸もあった。一応、霊力をただ弾にして撃ち出し、出来得る限り内部も破壊しておく。

 ん……まだ間に合うな。

 次はこの人工衛星そのものだが、ただ破壊するだけでは危険が過ぎる。

 ので、先に動きを止めてしまおうと思う。

 落下運動だけではない。まさしくこの人工衛星の全てを。

 

「〈聖破毒蛇〉――」

 

 イメージとしては七罪の天使。効果としては、その上位互換にあたるのかもしれない。

 元より俺が扱う霊力は偽物だ。精霊ではなく、精霊の力を扱えるだけの人間に過ぎない。

 だが、だからこそできることがある。

 

「――【模倣・刻々帝(ロール・ザフキエル)】」

 

 狂三の霊力を創り出す。

 俺の霊力は基本的に今まで会ってきた精霊の霊力が混ぜ込まれている。大は小を兼ねるっていう訳じゃないが、その中の特定の霊力を抽出して使うことぐらい、造作もないって話だ。実際七罪の時だって、七罪の天使や霊力を予め理解した上で使った。だからこそ代わりとして機能したのだから。

 いや、今はそれはいい。

 現界するは巨大な時計型の天使〈刻々帝〉。現界というよりは、〈聖破毒蛇〉の変形といった方が正しいのだろうが、どっちでもいいか。

 古式の短銃と長銃をそれぞれ手に持ち、霊力の使用方法を把握、選択。

 目的は停滞。俺にとって霊力は無尽蔵なものである以上、燃費は度外視。最初からこの弾丸を使おう。

 

「【七の弾】」

 

 時計から漏れ出した霊力が銃に込められ、弾丸となって対象を撃ち抜く。

 【七の弾】の効果は対象の完全停止。【二の弾】と違って遅延ではなく停止。その分消費も激しいが、霊力で代用可能の時点で俺には関係ない。

 さて、止まっている内に必要分の攻撃と離脱を済ませなければ。

 〈聖破毒蛇〉を元の両剣の形に戻し、人工衛星に突き刺す。そうした方がイメージしやすいしな。

 突き刺さった刃部分から、霊力を染み込ませる感じ。

 俺の霊力の性質上、それだけで中はどんどん破壊されていく。いや、破壊ですら生温い、完全なる消滅である。消滅した分のエネルギーや物質はどこに行くのだろうと言う疑問過るが……無視だ無視。色んなナントカ理論に抵触しそうな気がするが、気がするだけに留めておこう。

 視界を使い、十分量の消失が済んだであろう段階で一旦離れる。地上側から一応の保険として剣撃を飛ばしておき、さらに離脱。

 さてっどれくらい離れればいいのだおるかと思い始めた辺りで後方から破壊音。どうやら爆発を防ぐことには成功したらしく、伽藍洞になった人工衛星が真っ二つに切り裂かれ崩れ去る光景がそこにはあった。

 視界を再度使えば、DEMの方の空中艦が少し離れた場所に滞空しているのが見て取れる。動き的に、俺を撃墜しようとでもしてんのか? その巨体じゃ無理だろうに。インカムで〈フラクシナス〉の方に連絡し、対応をお願いしておく。

 さて。

 

「今のは囮。本命はこっちなんだったよなあ……!」

 

 二つ目の人工衛星の出現。いや最初から視えていたけどね?

 一つ目と同様に割断してやろうと翼に霊力を込めて急接近。まずは天使をまた変形させて、

 

 

 次の瞬間には、視界が圧倒的なまでの黒に塗り潰されていた。

 

 

 

 

 

     ◇◆◇◆

 

 

 

 

 ソレにとって、その行動は半ば自動化された、反射のようなものに過ぎない。

 Aという事象に対して思考を挟む前にBを返す。ただそれだけである。そこに意思は無い。

 あるのはただ一つの感情。否、感情ですらない。

 

 虚無。

 

 敵がいる。だから排除する。

 まだ生きている。だから追撃する。

 ソレにとっての敵とは? ――精霊。

 故にこそ、彼女はただひたすらに彼の命を狙う。

 いつか誰かが言っていた。彼はこの存在と致命的に相性が悪い、と。

 何故か。

 一切の慈悲も躊躇もなく命を刈り取らんとする者と、たとえ命を投げ捨てることになろうとも決して武器を取ろうとしない者。彼女と彼の相対は、この構図が絶対であるがために。

 相性が悪いなんてものではない。まさしく彼にとって彼女は。

 

 天敵である。

 

 

 

 

「う、おおおおおおあああああああああッ!?」

 

 吃驚した。ああ吃驚したとも! 翼を出しておいて良かった。霊力を込め直しておいて本当に良かった! 咄嗟にそれで身体を覆うように防いでなければ、間違いなく死んでたが!? あ、命の危機を前にして意外と俺慌ててないな。

 ……そんな訳ねえ!

 今までも何度か生死の境を彷徨ったことはあったが、今回は今までとは毛色が違う。

 言ってしまえば、覚悟が出来ていたか否か、ってところか。もしくは事前に来ると分かっていたかどうか。

 今までは命を懸けるという所謂準備みたいなものがあった。だが今回は完全な不意打ち。反応できたのも、ほぼほぼ偶然だ。そりゃ慌てもするさ!

 その場から急いで離脱すれば、俺が破壊しようとしていた人工衛星第二号は跡形もなく消し飛んでいた。なんという破壊力。どちらかというと俺の巻き添えになった形なのだろうが、それでもこの威力。

 そして先の攻撃……霊力による極太レーザーの発生源。

 ああ、そうだとは思っていた。食らった時点で、その霊力を視界にいれた時点で気付いていたとも!

 

「鳶一……!」

「…………」

 

 反応はない。

 こうして彼女と会うのは二回目か? できればこんな形での再会はしたくなかったなあ……! 

 だがこうなってしまったものは仕方ない。想定外の事態だが、完全な『詰み』の状況ではない。筈。そう信じたい。少なくとも一緒に人工衛星二号が壊されたのは不幸中の幸いか。安心して折紙に対処できる。

 問題は、彼女にとって俺への対応の選択肢が敵対しかないこと……危ねえ!

 先程よりは細い、それでも致死レベルの殺傷力と殺意を込めたレーザーの波状攻撃を大きく移動することで避け続ける。下手に位置取りを間違えれば、〈フラクシナス〉や下の街に被害が出る。最悪、先の空間震警報で住民は避難済みの筈なので、街の施設や家屋は犠牲にするかもしれないが、許してほしい。

 

『七海! 大丈夫なの!?』

「取り敢えずはな! お前さんの方は空中艦に集中しとけ! それと、他の精霊は絶対に近付けんな! 理由は言わなくても分かるな!?」

『精霊への積極的な敵対行動……! こっちも急いで片を付けるから、なんとか撒いてちょうだい!』

「了解――!」

 

 くそう無茶を言いやがる。

 この前の戦闘、というよりは俺との鬼ごっこに加え、今この瞬間の戦闘からその場その場で学習でもしてるのか、さっきより何となくヒヤリとする時が増えたような気がする。具体的には、俺の回避先を読んだのか、目の前にレーザーが通過したときは俺の鼻が無くなったかと思った。

 既に天使は消してある。たとえ俺を殺そうとしていようと、俺はアイツに剣を向けられない。故の逃げの一手。ほら、三十六計逃げるに如かずって言うし。違うか。俺を球体の籠のように閉じ込めようとしていた光線を、霊力によるごり押しで突破する。

 ……いやまあ確かに、俺ならどれだけ攻撃されようと防ぎきる、相殺しきることが可能なのだろうが、精神衛生上それはよくない。あと威力にしろ戦略にしろ、不意を突かれてもしも、といった場合もある。避け続けて正解だろう。

 取り敢えずはこの前と同じように視界から外れ、霊力も完全に霧散させることで俺を見失わさせる作戦でいこう。そしてその間に考察だ。

 

「器用なごり押しって何だよそれ……っ!」

 

 俺の周りを平行に放たれたレーザー群が、花弁が閉じるような形で少しずつ先端から窄まっていく。つまりは、俺の進行方向に逃げ場がない。

 レーザーの威力による力押しを、そもそもの放ち方を器用に変えることで俺に当てようとしてやがる。つか思い返せば、先の籠は何だアレ。ファンネルみたいなあの羽を上手く設置できれば可能なのだろうが……いや何で土壇場でそんな使い方が出来るんだ。俺とお前さん、まだ二回しか会ってないだろ。

 レーザーとレーザーの間、まだ身体を捻じ込めるだけの隙間が空いたそこから脱出しつつ、頭はきちんと別のことに使っている。

 即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。ここ、というのはこの場所なんて狭い範囲ではなく、もっと広義で、それこそこの世界線と言い換えてもいい。

 俺の記憶がぎりぎり覚えている範囲に、彼女に関する内容があった筈だ。というか、俺はそこまでしか知らない。さらに言えばデート・ア・ライブ(こっち)の世界に来てもう半年近く。流石に記憶も曖昧だ。変に干渉しないよう、誰かに見られる可能性をゼロにできない以上何か記憶媒体に残しておくこともできなかったし。

 話を戻そう。

 俺の記憶が確かならば、折紙は一度狂三の力で過去に戻り、そこで自らの過去の真相を知り絶望、反転。原作での現在時間軸に戻ってきたところで反転体のままだった為、破壊の限りを尽くす。それをどうにかするために士道と狂三が協力。過去を変えることで未来を、現在を救った訳だ。歴史の強制力がどうのという話はあったが、取り敢えずは置いておいていいだろう。次だ。未来を変えた世界線で折紙は救われたかと思ったが、厳密にはそうではなかった。他の精霊の力を借り、折紙も自身の感情に整理を付け、霊力を封印して大団円……みたいな流れだった筈。四糸乃の覚醒もあったっけか。

 さて。

 

「そもそも、俺が過去に狂三と出会っていたことで、狂三には誰かを過去に戻す程の、【十二の弾】を撃つほどの時間は持っていない筈だ」

 

 そしてあの弾は精霊一人分の霊力程度で撃てるほど安いものでもない筈だ。

 いや、原作では折紙自身の霊力を使っていたのだったか……だとすればいけるのか? いやしかし、俺が反転体の折紙がいる、という事実を知っている時点で俺が狂三に『折紙自身が何と言おうと彼女を過去に飛ばさないでほしい』と言ってしまえばそれで済むだろう。流石にそれを反故にされる程信用されていない訳じゃないとは思いたい。

 だが現に折紙は反転している以上、少なくとも過去に飛ばされているのは確定している。

 ……待て。

 違う。そうじゃない。この場合誰が飛ばしたのかはそこまで重要じゃない。最悪俺が飛ばす可能性がある。というか一番それが有り得そうだ。原作と内容が乖離しないようにーとか言って。

 そうではなく、さらに重要な案件として、『()()()()()()()()()()()()()()()』ことの方が重要なのでは?

 原作では折紙が過去に飛んだ、そして反転したのは少なくとも七罪に関する騒動の後だ。

 だが今その騒動の最中であるというのに、彼女は反転している。

 そうだ。反転しているんだ。既に反転してしまっているんだ。

 そして脳裏に浮かぶ、ある事実。

 もう数ヵ月その状態だったから俺の中では違和感が消えてしまっていた。だが思い返せば初見の時、俺はそこに不自然さを感じていた筈なんだ。

 即ち、『来禅高校に鳶一折紙は在籍していない』という事実。

 原作と比べて速すぎる反転。原作との差異。そして、俺の記憶にある原作の内容と照らし合わせてみれば。

 

「既にこの世界線は改変された後……?」

 

 確証はない。が、否定材料もないだろう。

 ああ、なんでもっと早くに気付けなかった? 確かに折紙との初邂逅のすぐ後から七罪探しの騒動が始まってそれどころではなかったとは言え、もっと早い段階で気付けただろうに。

 ……それに気付けたところで何が出来る訳でもない、か。

 ふむ。となると、本気で誰が鳶一を過去に送ったのか真相は闇の中になってしまうな。流石に俺でも、世界線を超えることは不可能だ。IFの世界で何が起きていようと、今の俺では把握できない。もしかすると推測通り俺が〈模倣・刻々帝〉を使ったのかもしれないし、元の持ち主である狂三が撃ったのかもしれない。そもそもがIFの話だ。狂三は変わらず始原の精霊の抹殺という野望を掲げている可能性だってある。

 まさしく、闇の中だ。

 遠く、目も眩むほどの光が三本、何かを貫きながら天へと昇る様子が見えた。

 DEMが用意した隠し玉が、十香や七罪、そして士道達の手によって撃破されたのだろう。確か七罪は、飴玉に化けて士道のポケットの中に潜んでいたのだったか。

 さて、俺の方もいい加減切り上げたいところだ。

 そして俺はまた、進行方向を塞ごうとする光に飛び込むのだった。




 うーん半年ぶり。エタるつもりはありません。ええありませんとも。

 ポケモンとかペルソナとかモンハンの所為です。大体はこいつらが悪いんです。
 あと単純に世界線辺りの辻褄合わせというか整理がめんどくさかったです……

 折紙からの逃避行はカットですかね。変な終わり方になりそうでしたし。士道視点のお話も気が付けば無くなっていた。何故だ。
 文字数的に丁度良かったのでここで切りましたが、進行度的には本当に全く進んでいないという奇跡。いや地獄。
 取り敢えず士道くん側では、
・爆弾三号
・士道だけの力じゃどうしようもない
・折紙が近くにいることで精霊sが無闇に動けない中、十香が士道の所に敢行。
・でもやっぱ力不足?
・七罪登場。皆で一緒に【最後の剣】。
 です。

 次からは折紙編ですかね。まだまだ続く士道sideストーリー。
 しかし主人公の考察通り、ここは既に世界線が変わっている世界。何はともあれ全ては白髪の転校生から始まるのでした。原作一巻分丸々スキップってマ?
 変わる前の世界線では……的なお話を考えてもいいけど、元が上下巻だった上にさらに投稿遅れそうなので要相談。

 それでは次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 いやここまで間開けておいて次回もお願いしますとか何様だよお前……

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