デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 ヒエッ。半年近く経ってる……

 大体これの所為にすればいいってばっちゃが言ってた。おのれころなめ。
 というのはまあ冗談にしても、単純に妙に筆が乗らないんですよね。原作リーク多めだからかなあ……?

 それではどうぞ。


折紙編
第89話


 必然だっただろう。

 この世界線は既に士道が過去を変えた後の世界。今この場に鳶一折紙の姿は無く、俺達は彼女を精霊〈デビル〉という一面でしか知らない。そもそも〈デビル〉=鳶一であるというのを知っているのもごくごく一部だし、他の面子が鳶一のことを知っているのかも怪しい。

 故に、彼女との三度目の邂逅は、こうなるのも必然だった。

 

「――鳶一折紙です。皆さん、よろしくお願いします」

 

 人形のような顔立ちの清楚な雰囲気を持つ彼女は、あまりにも普通にそこに居た。

 

 

 

 

    ◇◆◇◆

 

 

 

 

 十一月八日。

 その日士道は、いつになく慌ただしかった。

 いや、慌ただしいというよりは、どうにも不自然だったと言うのが正しいかもしれない。もっとも俺は理由を知っているのだが。

 具体的な日付までは覚えていなかったが、こうも分かり易く妙な態度だと察せるというものだ。

 

「――てことは、七海も世界線が変わる前のことは覚えてはいないのか?」

「ああ。知識としてそういうことがあったってのはあるんだが、実際に体験した訳じゃない。少なくとも俺らにとっては『いつも通りの日常』が昨日も過ぎていったよ」

 

 登校中。皆には聞こえないように少し小声で。

 と言っても四糸乃や七罪は留守番、十香は元気に狂三に話しかけ、八舞姉妹はなんだか気になることを残して走り去ってしまった。ベッドの下がどうとか、我が闇がどうとか。

 ……夕弦の方がむっつりだから、深度で言えば夕弦の方が凄そうなイメージだが。

 ともかく。

 流石に様子があからさまだったし、俺ならばという思考でもあったのか普通に士道からその話題を持ち掛けられたから鳶一や時間遡行に関して俺の持っている情報との交換会である。

 ……反転体に関しては、まだ黙っていた方が良いだろうか。

 

「結局、士道を飛ばしたのは俺なのか」

「ああ。あの状況で俺を過去に飛ばせるだけの余裕を持っていたのはお前だけだったからな。その後も一人で頑張ったんだぞ?」

「あー……それに関しては申し訳ない。いや俺に実感は無いんだが。しかし、俺が居たにも関わらず時間遡行後のフォローが出来なかったとなると、元の世界は相当に危険な状況だったんだな」

 

 自惚れるつもりはないが、俺なら【九の弾】を【模倣】して士道のフォローに回ることも出来ただろう。

 だが、実際にはそんなことはなく。

 ならばそれは、しなかった、ではなく、できなかった、が正しい訳で。

 ……俺一人が相対しているだけなら、できたのかもしれない。

 そう考えれる自分に嫌気が差す。

 

「そう、だな……凄く、危険な状況だった。すっごく……」

 

 そう溢す士道の表情は安堵と悲痛が入り混じっていて、言葉にするには難しかった。

 

「これを態々忠告するのも酷だが、歴史の変動で現在時間軸にどういう変化が起きたのかは実際に直面しないと分からない。もし何か想定と違うことがあっても、お前はそれを受け入れないといけないことを忘れないようにな」

「バタフライ効果ってやつか。ん、そうだな」

「アレは本来時間遡行に関しての理論ではないんだがな……いやまあ時間遡行を前提にした理論なんて存在するのか知らんけど」

 

 話してみた感じ、昨日までの士道と今日の士道はほぼ同一人物に近い別人だ。前の世界線の記憶をそのまま引き継いだからか、昨日までと言っていることに抜けが有ったりしている。それが何か不都合に繋がることはないだろうが、暫くはその差異に不審な点を覚えることは増えそうだ。主に琴里とかが。

 そうしてお互いの記憶の祖語を擦り合わせている学校に到着した。

 そして俺は、士道にこれだけは伝えてなくちゃいけない。

 記憶はなくとも、知識はある者として。

 

「士道」

「ん?」

「……先に言っておく」

 

 教室の前、一向に扉に手を掛けようとすらしない俺らに十香達が怪訝そうに首を傾げる。入らないのか、と訊いてくる。

 曖昧な笑みで誤魔化しながら。士道にだけ聞こえる小さな声で。

 

「――この教室に、鳶一折紙という少女は在籍していない」

「…………え?」

 

 別にまだ朝礼まで時間は残ってる。クラスメイト全員が全員登校済みな訳ではない。

 それでも。

 俺らは自分の席に座る。そこに迷いなどないし、毎日目にする光景だ。

 早速雑談に興じる者、一限の準備をする者、そして動かぬ士道を不思議そうに見遣る者。

 俺らにとってコレは普通であり、日常である。

 だが、五河士道にとっては。

 

「嘘、だろ……?」

 

 近くに空いてる席は一つ分。士道の席だけである。

 そこに余剰分なんてない。

 

「シドー?」

「あ、ああ悪い、ちょっとフラッとなってな」

「ぬ、それは大事ないのか?」

「大丈夫大丈夫。多分寝ぼけてただけだから」

 

 十香の呼び掛けにハッとしたのか、暫し呆然としていた士道もそそくさと席に着いた。

 ……この世界線が、正史なのかどうかの判断は俺にはつかない。少なくとも俺という異分子のせいでどこかしら狂っているのは確かな筈なんだ。

 そして、折紙が今この場に居ないというのが正しいのかどうかも、俺には。

 俺の知識にある鳶一折紙という人間の人物像は色々とトチ狂った暴走列車のようなものである。より端的に表すのなら変t……これ以上は彼女の沽券のためにも黙っておこう。

 無表情でストイックな、あまりにも一途な依存にも似た恋情を士道に向ける少女。

 しかしこれはあくまで知識だ、原作という名の上っ面のものだ。俺の、いや俺達の思い出に彼女の存在はない。

 

「……シドー?」

 

 ぽつ、ぽつ、と。

 自覚すらないのだろう。涙を流す士道を十香に任せ、俺達は見てないフリをする。

 ――たとえそれがどれ程辛い喪失であっても、彼はそれを受け入れなければならないだろう。

 原因の一端が俺にあるにしても、酷く身勝手だが、残念ながら俺にその記憶は無い。

 そして、彼女に関してもう一つ。

 彼女はこっちの世界ではこう呼ばれているのだ――と。

 

 

 

 

    ◇◆◇◆

 

 

 

 

 翌日。

 昨日の夜中、士道から電話があった。

 即ち――精霊狩り〈デビル〉について。

 彼女に関して俺は〈ラタトスク〉よりもいくつか多めに情報を握っている。〈デビル〉ぼ正体が鳶一折紙であることとか〈デビル〉という存在の発生理由等々。

 七罪の騒動の所為でなあなあになっていたが、琴里に〈デビル〉について話し合うみたいなことを言ったような言われたような気がしないでもない。曖昧。

 しかしまあ、士道が〈デビル〉改め折紙について俺に話を聞いて来たのも俺の立ち位置を考えれば頷ける。実際その選択は正しい。

 だから俺達は夜通し語り合った。士道は〈ラタトスク〉のデータベースを参照して過去を振り返りながら。俺は既に掠れかけた知識を掘り返しながら。

 そしてやはり、俺の持つ折紙に関する知識、士道の持つ前の世界の折紙の記憶はおおよそ一致していた。

 士道は言った。

 彼女が幸せだったのなら良かった。穏やかに暮らしているのなら自分が手を出していい筈がない、と。

 だけど。

 ――もし折紙がまだ救われていないのなら、自分の使命が果たされていないのなら、このままで良い筈がない、と。

 良い時間だったので暫くして俺達は一応の睡眠は取ったが、放課後辺り、士道は琴里達に時間遡行や世界線の変更について説明するつもりらしい。

 まあたかだか俺らだけで出来ることなんてそう多くない。どのみち〈ラタトスク〉の協力は必要不可欠だっただろう。

 

「ふぁふ……」

 

 欠伸を溢す。

 タマちゃん先生が何かを言っているが……空が眩しいぜ。

 

「あ、そうだ。今日は皆さんに新しいお友達を紹介しますよぉ。――さ、入ってきてくださぁい」

 

 目が覚めた。

 そうだった、知識と記憶の共有にばかり目が行って、肝心な折紙本人登場のタイミングを完全に失念していた。士道も大きく眼を見開いて驚愕を露にしている。

 珍しい時期の転校生である。人形のように端正で精巧な、線の細い少女である。全体的に色素が薄く、まとう雰囲気も相まって深窓の令嬢だとか異国のお姫様なんて言葉が似合う。

 

「鳶一折紙です。皆さん、よろしくお願いします」

 

 深々と礼をする彼女に、教室中が色めき立つ。

 これは完全にこちらのミス……という程でもないか。だが伝えておくべきことではあった内容の筈だ。俺もついさっき思い出したばかりだから大目に見てくれねえかな……駄目だ。めっちゃ士道が見てくる。

 つか今見れば士道の隣、十香とは逆側になにやら見慣れぬ空席が。眠気と放課後の事ばかり考えていて注意力散漫になっていたようだ。

 タマちゃん先生の指示でその空席へ向かう途中、凝視していた士道と折紙の目線が合う。

 

「あ――」

「……え?」

 

 何か、含みのある反応。立ち止まってしまったものの、そのままでは不審であると気付いたのが、軽く一礼だけして彼女は席に着いた。

 ふむ。朧気ながら残っている原作知識と大体一緒だ。この後士道は折紙と密談して、最終的に連絡先の交換と休日に会う約束を取り付けるだろう。もしかするとその途中で俺にも話が回ってくるかもな。まあその時はその時だ。

 

「むむ」

「嫉妬。ん……」

 

 HRの内容を聞き流しながら、これからのことを考える。

 士道はなんだかそわそわと落ち着きなくなっているし、一限が始まるまでのちょっとした空いた時間に琴里に連絡を取るだろう。士道は〈デビル〉=折紙だときちんと分かっているのだから。

 俺は取り敢えず士道の行動待ちでいいだろう。何か告げるべき士道があの様子じゃな。

 脇腹にそこそこ強い衝撃が。

 

「ふぎゃ」

「? どうかしましたかぁ? 東雲くん」

「い、いえ。何でもないです。お気になさらず」

 

 思考が現実に戻ってきた。

 今の下手人は分かり切っている。だから小声で抗議する。

 

「何すんだよ耶俱矢、夕弦」

「ふん。我が御主を拐かす魔性から目を覚まさせてやったのだ。寧ろ感謝してほしいものだな」

「悋気。別に、なんでもありません。つーん」

 

 いやぜってえ嘘だろ……何かありますって全身で物語ってんじゃねえか。夕弦に限ってはつーんてお前。つーんて。

 後ろからは狂三の面白がるような抑えた笑い声が聞こえてくるし、どうやら分かっていないのは俺だけらしい。えぇ……。

 こういうのは後で何かしらフォローしないと暫く引き摺るってのは経験上分かってんだが、その理由が分らないと余計に長引くことも分かっている。そして今回状況的には後者寄りだ。

 こういう時は素直に訊くに限る。すると何かしらヒントが零れてくる。そこから上手く察せれるかどうかだが。

 じきにHRも終わるようだし、少し聞いてみるとするか。

 だから二人共、第二撃の準備をするのはやめて?




 静粛現界の八舞姉妹や狂三には反応しないということで。

 ということで折紙編第一話ですかね。思ったより七罪編が長かったですね。元が上下巻だし、自分の筆が遅いしで。ダイアグラム2:8くらい。
 今回は折紙登場まで。最後我慢できなくて少しだけ八舞姉妹登場。もっと餅焼いてけ。
 文字数的にはまあ普段より多少短いくらいですかね。プロローグみたいなものだし、こんなものでしょう。他二作が妙に長いだけですね。

 大分病気事態は落ち着いてきた印象ですが、それでも影響は深く痕が残ったままですね。自分も色々とありました。具体的にはお金。まねー。
 十万とは言わず五千兆円くれ。ください。

 それでは次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 主人公の記憶周りの扱いめんどくさ。軽率に戻ってくれねえかな……(一応案はあるけど、そも戻せば楽か? という問題も)

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