一、至誠に悖る勿りしか
真心に反する点はなかったか
一、言行に恥づる勿りしか
言動に恥ずかしい点はなかったか
一、氣力に缺くる勿りしか
精神力は十分であったか
一、努力に憾み勿りしか
十分に努力したか
一、不精に亘る勿りしか
最後まで十分に取り組んだか
第一話 絶望の始まり 〜横須賀大空襲〜
20XX年 一月
影の艦隊との戦闘が始まってから約三年の時がたった。深海棲艦はほとんど確認することはなくなり、代わりに影の艦隊が大いなる猛威を振るっていた。
捷二号作戦の戦術的、戦略的勝利により影の艦隊に大打撃を与えることに成功したものの防衛の要の鎮守府、”三大鎮守府”も大損害を受け多数の艦娘が轟沈、除隊へと追い込まれた。
さらに沖ノ鳥島海域を占領した影の艦隊飛行場敷設隊により、富嶽爆撃隊が日本本土空襲を開始するのだった…。
二月某日
神奈川県 横須賀市
横須賀鎮守府
空襲警報が鳴り響き、海上自衛隊員や海軍軍人が庁舎内を走り回る。職員室や廊下が慌ただしくなる。
「対空電探が敵爆撃隊を捉えました!!」
「約10分後に到達します!」
通信員や職員たちが司令室や通信室を慌ただしく行き来する。先程、小笠原諸島警戒部隊より影の艦隊富嶽爆撃隊の大編隊を確認した通信が横須賀鎮守府に入ったのだ。
「市民の避難を優先させろ!!陸戦隊客員は対空警戒を厳とせよ!!」
横須賀鎮守府所属の第八特別陸戦隊は、対空砲へと飛びついていく。横須賀が爆撃されれば、首都東京の被害が拡大することは目に見えている。それを横須賀鎮守府が未然に食い止めることになっていたのだ。
「右40°!!高角50°!!射角確認急げ!」
対空砲が旋回し到達高度へと射角を合わせる。対空機銃郡も最大まで高角を引き上げる。
「いつでも来い…!」
全ての準備が終わり、数分も経たずに富嶽爆撃隊は姿を現した。超重爆撃機富嶽に護衛の影の烈風後期型が空を埋め尽くすほど飛行している。
その光景を目にし、陸戦隊隊長は命令を発した。
「撃ち方始めぇ!!!!」
高角砲が一斉に火を吹く。上空に幾多の爆炎が上がっていく。その中を富嶽爆撃隊は平然と飛行していく。狙いは横須賀鎮守府、そして市街地のようだ。
「機銃の各個射撃開始!!」
対空機銃郡も射撃を開始した。雨のように機銃弾が富嶽爆撃隊へと降り注いでいく。しかし機銃程度では装甲で覆われている影の富嶽を撃ち落とすことは容易ではない。
富嶽爆撃隊は炸裂する高角砲弾とミシン縫いのように広がる機銃弾の弾幕の中を飛行していき、数十機が撃墜されたが遂に爆弾倉を開き始めた。
「だめだっ!!間に合わない!!総員退避!!」
隊長が怒声を上げる。「総員退避!!」と大声が響き渡る。 陸戦隊員たちは大急ぎで対空砲陣地内の防空壕へと避難していく。
「急げ〜!!防空壕に入れ〜!!」
隊長がふと上空を見ると、黒い物体が幾多も降り注いでくる光景を目にした。
爆弾だ。隊長はその光景を見た瞬間、勢いよく防空壕へと飛び込んだ。その途端、凄まじい爆風が防空壕内へと吹き込んできた。
「!!?」
陸戦隊員全員が吹き飛ばされないよう、狭い防空壕内で掴まり合う。そうしている間にも爆発音が響き渡っていく。今外へ出たらどうなるのかは誰にでも分かった。
しばらくしてようやく爆発音が止まり、防空壕内にいた海軍陸戦隊員たちが外へ出できた。
そこには…
焼け野原となった横須賀の姿があった。横須賀鎮守府本庁舎は爆撃により半壊しており、工廠、さらには市街地の一部にも火の手が上がっている。
「全員体制が整い次第救助へ向かえ!!一刻を争う、急げ!!」
隊長の命令で隊員たちはすぐに散り散りになり、鎮守府、市街地の残骸の撤去、救出作業を開始した。
「……」
隊長は燃え上がる庁舎を見上げながら、瓦礫の山へと足を踏み入れる。遠くには爆撃を終えた富嶽爆撃隊がわずかに見えた。
「(絶対に許さない…!!)」
隊長は拳を強く握りしめると、足早に半壊した本庁舎に向かった。
同日
広島県呉市
呉鎮守府
「横須賀鎮守府が富嶽爆撃隊の空襲により壊滅状態!呉鎮守府第百一特別陸戦隊は直ちに横須賀へ向かえ!一刻を争うぞ!!」
呉鎮守府では支援物資を搭載した輸送艦が埠頭に多く停泊している。陸戦隊員たちが輸送艦と支援物資待機所の間を行ったり来たりしている。
百一特別陸戦隊のみならず、長谷川正連隊長率いる呉鎮守府駐屯陸軍連隊も出港の準備をしている。
「提督…、大変なことになったね…」
十六夜が提督の隣に座り、テレビを眺めながらつぶやく。うつむき、とても暗い表情を浮かべていた。提督も同じだ。
「あぁ、そうだな…。何もできないのがもどかしい…。」
『本日神奈川県横須賀で影の艦隊による大規模な空襲が確認されました。現在のところ死傷者は百人以上であると推測されており、各鎮守府は横須賀へ支援艦隊を送る表明を発表しました。』
テレビではアナウンサーが現場中継で横須賀の凄惨な情景を背景に解説を行っていた。背景に映る燃える横須賀市の映像は提督たちの心に深く刺さった。
今回の横須賀大空襲では約百人以上が死傷し、鎮守府の主要施設は壊滅。鎮守府としての機能を回復させるにはかなりの時間がかかるようだった。
幸い、艦娘たちは沖ノ島海域へ全員が出撃していたため、空襲の被害を受けた艦娘はいなかった。
しかし、沖ノ島海域に出撃した艦娘の半分が影の艦隊大規模機動部隊、水上打撃艦隊により轟沈または大破へと追い込まれた。そして傷ついた彼女たちが帰る鎮守府は瓦礫の山となっていたのである。
これにより、三大鎮守府と肩を並べるほどの戦力を保持していた横須賀鎮守府は事実上の壊滅を迎えてしまった。
首都東京都 霞が関
海軍省
「沖ノ島海域で敵大規模機動部隊、水上打撃艦隊により横須賀鎮守府所属艦娘の約半数が轟沈または大破が確認されています。」
総長室で元帥が軍令部総長に対して、深刻な面持ち報告する。軍令部総長も珍しく真面目な顔で報告を聞いていた。
「これはまずいね。それじゃあ生き残った艦娘たちは三大鎮守府で一時的に入渠してもらって、十分な修復を終え次第海軍省に来てもらおうか。当時の状況も知りたいし。」
「わかりました。それと三大鎮守府から横須賀に向けて支援物資を載せた支援艦隊が出港したようです。二日もすれば到着するでしょう。」
「そうだね。これは空軍にも応援を頼んだほうがいいね。艦娘の安全を守ることすらできないのは、負けを意味してるからね…。」
軍令部総長は顔を隠すように、軍帽を深々と被った。
次回 南西諸島迎撃戦
最悪な始まり方で最終章始まりました。今回も最後まで読んでくださるとうれしいです!
(投稿は少し遅くなります)