南西諸島迎撃戦から約一ヶ月。三大鎮守府、各鎮守府警備府及び泊地は影の艦隊への最後の総力戦に向けて準備を進めていた。
南西諸島迎撃戦により影の艦隊前衛警戒部隊を撃退したことにより、影の艦隊は台湾付近まで撤退。再襲撃には時間を要すると推測された。沖ノ鳥島周辺に潜伏している影の艦隊航空敷設部隊の存在が目障りであったが、海上自衛隊及び海軍、空軍の小笠原諸島展開により爆撃隊の早期発見、撃退を試みている。
最後の戦いは間近に迫っている。
広島県呉市
呉鎮守府
司令室
「うちもだいぶ戦力が低下したな…。数えられるくらいにまで減少したか…。」
「その代わり轟沈被害は最小限にとどまっています。他の艦娘は除隊したとはいえ、まだまだ戦えます。」
提督と栗林が次の作戦指令書を眺めながら話し合っている。次の作戦は影の艦隊主力を全鎮守府の総力をあげて殲滅する作戦、”護国作戦”が行われるのだ。
「僕たちもそうですが影の艦隊も余裕が無いはずです。そこへ総攻撃をかけて一気に殲滅する…。随分運に賭けた作戦ですね。」
「確かにな。だがそれ以外の作戦を行えるほどこちらの余力はもう無い。その作戦に掛けるしかない。」
提督が腕を組みながら答える。そこへドアをノックする音が聞こえた。
「入れ。」
提督が声をかけると、ドアが開き金剛が現れた。
「提督!!資料の整理終わりましタ〜!」
「ああ、ありがとう。そういえば十六夜たちはどうしてる?」
「十六夜なら演習をしてマース!」
金剛が元気に答える。捷二号作戦の帰路に潜母700型からの雷撃を受け、一時は轟沈寸前となった金剛だが、戦闘はできなくなったもののまだ艦娘として呉鎮に残り、任務に忙しい十六夜や響、長門の代わりに提督の補佐をしている。
「また演習か〜。まぁ、最後の戦いは近いしここで負けたら元も子もないけどな。ただし無理はしないでほしいな。」
「それはワタシも同感デース。」
金剛が同意する。確かにここ最近は改四になった十六夜は演習ばかりをしている。最後の作戦に備えてだろうが、ここまでになると流石に心配になっている。
「まだ影の艦隊は奥地までは侵攻できないはずだ。ここまで来るには時間がかかるはずだ。」
提督がそう言った時だった。
けたたましい警報音が響き渡る。提督と栗林は椅子から飛び上がり、司令室を飛び出る。金剛もあとに続く。
「警報!!まさか…!!」
それは紛れもなく空襲警報だった。廊下を走りながら提督たちは外へと向かう。警報に気がついた艦娘たちも外へ出る。
「蒼海提督!!」
提督たちが外へ出ると長谷川が急ぎ足で近づいてきた。
「長谷川さん!空襲です!」
「分かってます!!早く防空壕へ!空軍の偵察機の情報では爆撃機だけでも軽く三百機は超えています!!」
「三百機!?」
三人が驚愕する。まさかここまで影の艦隊が航空戦力を保持しているとは考えていなかった。
するとすぐ脇から高速で海軍の新鋭機F-10烈風改三、空軍のF-15Jが飛び去っていく。富嶽爆撃隊の迎撃に向かっているのだ。
「ここは我々陸軍と空軍、艦娘たちに任せてください!」
航空機の離陸音に負けないくらいの声で長谷川が言う。
「ですが俺は提督です!艦娘たちだけを残して壕にはいけません!!」
「ですが…!!」
「それは僕もです!僕たちは艦娘全員の命を預かっています!ここで逃げるわけにはいきません!!」
提督と栗林が言い返す。周りはすでに弾薬を運んだりする陸軍兵や、イージス駆逐艦に乗り込んでいく海軍兵で溢れかえっている。
「連隊長!!敵爆撃隊到達まで十分ほどです!!非戦闘員を退避させてください!!」
一人の連隊員が長谷川に報告する。長谷川はそちらを一瞬振り返り、すぐに提督たちに視点を戻す。
「それでは艦娘の指揮をお願いします!!しかし危険なときはすぐに防空壕へ行ってください!!」
「分かりました!!ありがとうございます!!」
そう言い、提督たちは露天指揮所へと向かう。露店指揮所では数人の海軍陸戦隊員が情報収集をしていた。
「蒼海提督!現在第七艦隊が演習を中断して軍港へと展開中です!!他の動ける艦娘も迎撃に向かっています。」
「三四三空も現場に急行中!!五分後に到着です!」
様々な会話が指揮所内を飛び交う。提督はヘッドホンを耳に当てて、海軍省へと打電する。
「応援が間に合えばいいんだが…」
三四三空が間に合えば被害を最小限にとどめることができるが、三四三空は四国の松山から向かっている。果たして到達までに間に合うのだろうか。
栗林も第七艦隊へ向けてモールス信号を打ち込む。そこへ金剛が不知火がやってくる。
「提督!!榛名も迎撃に向かうと言っていました!!」
「司令!!警戒部隊の連絡によると富嶽爆撃隊は特殊攻撃兵器を搭載しているとのことです。」
「特殊攻撃兵器…!?」
提督が驚愕する。影の艦隊の特殊攻撃兵器は強力だ。今まで多くの艦娘が特殊攻撃兵器、通称”特攻兵器”により大きな被害を出してきた。
提督は無線機を第七艦隊旗艦の出羽につなげる。
『提督!現在軍港中心部で待機中です!』
「特攻兵器を有している富嶽を優先的に迎撃してくれ!!今回は何をするか分からない!!」
『了解しました!!』
対空砲陣地では陸軍兵たちが高角砲を最高射角まで上げる。富嶽は高高度を飛行するため、高射砲ではギリギリなのだ。
「対空ミサイルの用意はまだか!?」
「今やってます!!」
対空砲陣地に新型対空ミサイル”22式地対空ミサイル”がトラックで運び込まれる。
「ようやく影の艦隊とやり合える兵器が届いたか…。」
長谷川がミサイルを眺める。そうなのだ。日本国防省の兵器部の血の滲むような努力により遂に影の艦隊にも損傷を与えることができる兵器が完成したのだ。
「設置完了し次第ぶっ放してやれ!!」
長谷川が言い放つ。陸軍兵たちが大急ぎで設置作業を始めた。
呉軍港沖
上空では影の艦隊の富嶽爆撃隊が数百機飛行している。周りには護衛の影の烈風後期型が空を埋め尽くすほど飛行している。
『コチラ富嶽。呉軍港上空ニ到達ス。』
影の富嶽は呉鎮守府到達を知らせるため、本部へと打電する。
その時、
目の前の富嶽が突如爆発し墜ちていった。
『!?』
そして次々とあたりが爆炎に包まれていく。呉鎮守府沿岸第一高射砲郡の射程内に入ったのだ。
「撃て!!撃て!!撃ちまくれぇ!!」
陸軍兵が叫び高射砲を乱射する。影の烈風後期型は高射砲の弾幕を避けるが巨大な富嶽は次々と被弾していく。
『進路コノママ。爆撃進路ニ入ル。』
しかし富嶽爆撃隊は物量に物言わせて第一高射砲群の守りを強行突破する。影の烈風後期型も速度を活かして突破していく。
守りを突破された陸軍隊長は無線をつなげる。
「こちら第一高射砲群!突破されました!!第二高射砲群、湾内艦隊は警戒してください!!」
『こちら第二高射砲群。了解しました!弾着観測を願います!!』
「了解!!」
影の艦隊富嶽爆撃隊が遂に呉軍港内へと侵入する。多くの艦艇が停泊している。富嶽爆撃隊は散開し複数の部隊に分かれる。
「敵航空隊確認!!各艦、迎撃始めてくださいっ!!」
出羽が指令を出し、五式弾を発射する。放たれた五式弾は富嶽爆撃隊の編隊の真ん中で炸裂する。数十機の富嶽が火を吹きながら墜ちていく。しかしまだまだ富嶽の侵攻は止まらない。
十六夜たちも対空射撃を開始する。十六夜は高い命中率でどんどん富嶽を撃ち墜としていく。しかし富嶽はまだまだいる。手に負えない量だ。
「くっ、多すぎっ!!」
「ふざけないで!!」
十六夜たちが毒づく。第二高射砲群も射撃を行っている。その時、影の烈風後期型が編隊を組んで高射砲群に近づいていく。
「っ!?撃て!!撃ち墜とせ!!」
陸軍兵の叫びとともに弾丸が影の烈風後期型に向けて撃ち込まれていく。しかし影の烈風後期型は意にも介さず高射砲陣地に銃撃を行う。
「伏せろッ!!!!」
陸軍兵たちが一斉に地面に伏せる。弾丸は高射砲の前に積んである土嚢にめり込んでいく。十六夜はその光景を目撃し、影の烈風後期型に対して攻撃の手を強める。
「なにしてんのっ!!許さないから!!」
砲撃に加え機銃での射撃も加える。銃撃をやり過ごした陸軍兵たちも対空射撃を再開する。
富嶽爆撃隊が呉軍港に侵入してしばらく経ち、遂に攻撃目標が艦娘にも向けられる。富嶽は爆弾倉を開くと、特攻兵器”影の桜花”を射出する。
射出された影の桜花は艦娘たちに向けて突撃する。
「危ないっ!!」
出羽が全力航行で影の桜花を回避する。回避された影の桜花は海中へと沈んでいった。さらに富嶽は爆弾倉を次々に開放、影の桜花を発射していく。
「勝手は!榛名が!許しません!」
榛名も第七艦隊に合流し対空射撃を行っていく。そこに影の桜花を射出寸前の手負いの富嶽が近づいてくる。
「させません!!」
榛名が主砲を砲撃し、富嶽を爆散させる。
「やりました!!」
榛名は富嶽を撃墜し、一瞬気が緩む。そこへ爆炎を切り裂きながら射出された影の桜花がものすごい勢いで突入してくる。
「!!?」
影の桜花は榛名に突入し、爆発する。
「きゃああああああああああああああ!!!!」
榛名が悲鳴をあげる。約一トンも爆薬が仕込まれた影の桜花の爆発には戦艦である榛名も大きな損傷を負う。右脚が海面に沈みかけている。
「くっ、まだ終われません!!」
ボロボロになりながらも榛名は次々と襲いかかる富嶽爆撃隊に砲撃を続けた。
露店指揮所では提督たちが防空戦の指揮をとっていた。露店指揮所の周りでも爆発音が響く。すでに本庁舎にも攻撃が届いている。
「榛名大破!青葉大破!護衛艦数隻に損傷確認!!」
陸戦隊員が叫ぶ。提督と栗林は苦い表情を浮かべる。
「クソっ!まさかここまでの数だったとは…!」
「大破艦は増えています。それに高射砲陣地も爆撃を受けています。」
「頼む!!早く来てくれ三四三空っ!!」
提督が祈る。その時通信が入った。陸戦隊員が慌てて無線を手に取る。しばらく会話をすると陸戦隊員は明るく提督に報告する。
「蒼海提督!!三四三空がまもなく到達するとのことです!!」
「本当か!!?よかった!!」
三四三空接近の報告を聞き、提督と栗林が安堵する。金剛と不知火も少し落ち着いた。その時、二人の目にはエンジンから火を吹き、制御を失い墜ちてくる富嶽の姿を捉えた。真っ直ぐ指揮所へと向かっている。
「提督ッ!!」
「司令危ないっ!!」
二人が提督を押し、塹壕へとまとまって飛び込む。陸戦隊員も栗林を塹壕内に引っ張り入れる。そして富嶽が露店指揮所へと墜落する。そのまま機体は爆発により破壊される。残骸が塹壕内へと散らばっていった…。
富嶽爆撃隊は遂には停泊している艦艇へも攻撃を行う。海面に近づき影の回天を数機投下する。影の回天は高速で航行していき、一隻の護衛艦に命中する。さらに立て続けに爆発音が響く。炎が上がり、護衛艦が傾斜していく。
「クソっ!!好き勝手しやがって!!」
陸軍兵たちが何もできない悔しさのあまり悪態をつく。軍港のあちこちに火の手が上がっている。
「くっ…、噴進砲は弾切れか…」
日向が海面に片膝をつけてつぶやく。遠方では伊勢も必死に富嶽の迎撃を行っている。日向は先程の富嶽による影の桜花命中により大破、航行すら不能になっていた。
「(これでは敵とってはいい的だな…。せめて沈む前に囮くらいは…)」
日向がそう思った時だった。
急に数十機の富嶽が瞬時に爆発した。さらに続けて遠方の富嶽が撃墜される。
「っ!?一体なにが…」
日向が混乱していると、上空をものすごい勢いで何かが飛び去っていった。それは日の丸を描いた新鋭機F-3”心神”の姿があった。
「第三四三海軍航空隊、見参ッ!!」
三四三空隊長が操縦室内で言い放つ。ところどころ炎上している呉鎮守府をみると悔しさが込み上げてきたが今はそれどころではない。
「遅くなったな!!あとは任せろ!!」
隊長機のあとにさらに心神が続く。富嶽爆撃隊は驚愕する。
「目標ロック。FOX-1!!」
心神が対空ミサイルを発射する。発射されたミサイルは富嶽へと命中する。ミサイル攻撃を受けた富嶽は翼を分断され錐揉みしながら墜ちていく。
「ロック!FOX-1!!」
他の三四三空隊員たちもミサイルを次々と発射していく。富嶽は装備されている機銃でミサイルを撃ち落とそうとしているが、抵抗も虚しくどんどん撃墜されていく。
一方的に攻撃している様子を見て、陸軍兵たちが歓喜を上げる。
「好き勝手やりやがって!礼はさせてもらうからな!!」
隊長はさらにミサイルを撃ちまくる。富嶽はもう勝機はないと悟ったのか、全力で撤退を開始した。それを三四三空は追撃する。
「ただでは帰さねぇぞ!!FOX-2!!」
さらにミサイルをぶち込む。数機が墜とされる。富嶽爆撃隊は撃墜されながらも呉軍港沖で三四三空の追撃を振り切った。
「隊長。残りはどうします?」
「放っておけ。これくらい叩けばもう来ねぇだろう。」
役目を終えた三四三空は編隊を組み直し、四国の松山へと飛び去っていった…。
影の艦隊は今回の呉軍港空襲を最後に、三四三空の迎撃を危険視し、空襲を沈静化。四月頃には空襲は行われなくなった。
次回 発令!!護国作戦
現代兵器の改造…艦娘の艤装技術を応用することで現代兵器でも影の艦隊に損傷を与えることができるようになった。しかし大量生産には不向き。