呉軍港空襲の翌日
救護テント内
「イテテ…。頭がいてぇ…。」
「司令。大丈夫ですか?」
包帯が巻かれた頭を抱えながら顔を歪める提督に、不知火が心配する。
「あぁ、大丈夫だ。お前と金剛がいなかったらこれより酷いことになってただろうな。栗林も陸戦隊員に助けられてたから軽傷ですんでる。」
「そうですか…。」
提督が立ち上がり、救護テントから出る。外にはところどころ炎上している護衛艦や建物があり、陸軍兵や陸戦隊員たちが消火活動にあたっている。
昨日の空襲から一日が経ち、今だに復興作業が行われている。
基本的な被害としては、工廠複数が被弾炎上、本庁舎が軽く被弾。対空砲陣地は八箇所中二箇所が壊滅した。
艦艇の被害としては海軍所属のイージス駆逐艦やまとが小破、海上自衛隊護衛艦いずもが中破。航空機は空軍F-15J戦闘機八機、海軍F-10烈風改三四機が損傷。
艦娘の被害は榛名大破、青葉大破着底、伊勢大破、日向大破着底、出羽小破、大永中破、立春小破だった。
死傷者の総数は艦娘と陸軍、海軍、空軍の決死の戦いで最小限に留められたが、四十人が犠牲となった。
「結構手ひどくやられたな…。」
提督がつぶやく。そこへ栗林と弥生がやってきた。栗林は左腕に包帯を巻いていた。
「提督、頭の怪我は大丈夫ですか?」
「ああ、栗林の方は?」
「僕は捻挫程度だったので大丈夫です。弥生の方も軍医に診てもらいましたが大丈夫です。」
「そうか。よかった。」
その会話の中、すぐそばをトラックが走り去っていく。陸上自衛隊の設営隊が支援に来たようだ。さらに上空には支援ヘリも飛んでくる。
「国防省は本気になってきたみたいだな。」
「そうですね。三大鎮守府が半壊されて流石に頭にきたんでしょう。今週中には護国作戦が実施される予定ですし。」
護国作戦…。提督は脳内にその言葉が浮かぶ。この作戦がおそらくこの世界、日本の命運を決める。この作戦が失敗したらこの国に未来はない。何としてでも成功させなければならない。
そこへ十六夜たちが走ってきた。
「提督!!頭大丈夫!?」
十六夜の言葉に提督は少しムッとする。
「それふざけてるのか?それとも心配してるのか?」
「も〜、心配してるに決まってるじゃん!」
十六夜が足をバタバタさせる。とりあえず十六夜は元気そうだ。出羽は小破していたが、すでに入渠を済ませており、第七艦隊は全員が無事だ。
「そういえばサルベージのほうはどうなっている?」
提督が栗林に問いかける。最近ようやく艦娘のサルベージ技術が確立されたのだ。提督の問いに栗林は弥生から書類を受け取り答える。
「はい。現在着底した日向のサルベージを行っています。しかし時間がかかるため護国作戦には間に合いません。」
「そうか…。まぁ、無理をさせるわけにはいかないからな。サルベージ後はゆっくりさせよう。」
そう言い提督は地下の司令所へと四人で向かう。この地下司令所は本庁舎が機能障害を起こした際に使用する。地下司令所では多くの海軍関係者、陸戦隊員が行き来している。道中の電信室ではひっきりなしに電話が鳴り続けていた。
そして司令室に到着する。司令室にいた作戦関係者たちが提督たちに気づき、敬礼をする。提督も敬礼を返す。
「蒼海提督。今回の作戦の最前線基地として佐世保鎮守府に全艦娘を動員するようです。呉鎮守府は補給、監視基地としての役割を持つようです。舞鶴鎮守府は日本海側の警戒を行うようです。」
「そうか。佐世保なら三大鎮守府だし南西諸島にも近い。ただ敵の機雷原が厄介だな…。」
提督が海図を眺めながら言う。現在佐世保鎮守府の近海には影の艦隊敷設部隊により機雷原が構成されており、海上の航行が自由にできなくなっていた。
「その機雷原は海上自衛隊の掃海部隊が撤去するようです。敵の潜水艦郡も海防艦隊で制圧済みです。」
「さすが国防省。本気になってるな。」
そこへ気になったのか海図を見ながら十六夜が問いかける。
「そういえば敵の編成はどんな感じなんですか?」
十六夜の問いかけに栗林が答える。
「現在偵察機での情報によれば前衛警戒部隊は全滅。代わりに駆逐艦部隊を配備しています。その後方に大規模機動部隊、戦艦主力の水上打撃艦隊、そして複数の影姫と影浦提督がいます。」
「影浦…」
栗林の答えに提督が口を開く。
…影浦流星。旧海軍の軍人であり影の艦隊司令長官。日本を亡き国にすることに執着し、一度は十六夜を轟沈寸前にまで追い込んだ。
「やつが司令官だとしたら絶対に倒さないといけないな。指揮者を失えば影の艦隊の統制も乱れるはずだ。」
「そうですね。しかしそれを分かってるように厳重な防御網が敷かれていますね…。対潜特化の軽巡影姫、対空特化の防空影姫、そして強大な戦闘力を誇る戦艦影姫や空母影姫…。近づけさせる気ゼロですね。」
栗林は冷静に分析している。確かに強力な編成だ。改二艦娘が連合艦隊を組んでやっと倒せる影姫が数隻もいるのだ。それに火力、装甲、速力、対空、対潜。あらゆる能力が強化されている。これでは影浦どころか影姫を相手にするのに手一杯である。
「そのために作戦を考えた。」
後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには元帥の姿があった。全員が元帥に向けて敬礼をする。元帥は一礼して、提督のそばまで歩いてくる。
「元帥、なぜこちらに?」
「さきほど輸送機で到着した。私が前線に出ないと作戦ができないだろ?」
そう言いながら元帥は海図を眺める。そしてペンを持ち海図に書き込みを行う。
「確かに影浦と思われる人物の周辺は守りが硬い。だがそれを強行突破するには兵力が足りない。そこで危険ではあるが艦娘に影姫たちを誘引させる作戦を考えた。そうすれば影浦の周りも兵力が手薄になる。」
提督たちは黙って元帥の話を聞いていた。元帥は続ける。
「そして艦娘の援護として陸海空軍が総動員で艦娘のサポートを行う。我々も守られっぱなしではいかないからな。」
「確かこの前、対深海棲艦用兵器が開発されたと…」
提督が口を開くと元帥は答える。
「その通りだ蒼海君。数はまだ心もとないが無いよりマシだ。これで我々も多少は戦える。」
元帥が海図を指さして話す。そこは影の艦隊の侵攻部隊中心部だった。
「この艦隊を呉鎮守府で攻撃してもらいたい。進入路は我々海軍が切り開く。お願いできるか?」
元帥は提督に向き合うと、そう問いかける。提督はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「もちろんです。この作戦には僕も前線指揮として参加します。これが最後の戦いになります。絶対に影の艦隊を倒しましょう!」
提督の答えに元帥は笑いながら返事をする。
「頼もしい限りだよ。お願いするね。ともに世界の夜明けをみよう。」
元帥は言い終わると敬礼をした。提督たちも敬礼を返す。そして元帥は続ける。
「作戦開始は三日後。各自しっかり準備しておいてくれ。」
そう言うと元帥は地下指揮所をあとにした。
それから呉鎮守府、佐世保鎮守府、舞鶴鎮守府では護国作戦に向けて最後の準備が行われた。艦娘たちにありったけの重油、弾薬を補給し、練度を最大まで向上させた。そして海軍のみならず陸軍、空軍、そして自衛隊も日本を守るべく最後の戦いに挑む。
皇国ノ興亡コノ一戦ニアリ
次回 第二次坊ノ岬沖海戦
ついに最後の戦いが始まる…。