坊ノ岬沖
かつてこの海域は先の大戦で大和以下10隻の艦隊が沖縄に向け移動中、アメリカ海軍空母機動部隊の攻撃隊と死闘を繰り広げた「坊ノ岬沖海戦」が起きた海域である。
そして今、曇り気味なこの海域に大和以下数十人の艦娘たちが航行していた。とはいえ、航行と言うよりもジグザグ航行といったほうが正しい。
「ここが坊ノ岬…」
十六夜が周りを見渡しながらつぶやいた。終戦直前に竣工した十六夜は坊ノ岬の姿を見たことがなかった。
その艦娘たちの遥か後方には、イージス護衛艦やまとを旗艦とする海軍の艦隊が航行していた。提督と栗林、そして元帥はそのやまとに乗艦していた。
「CIC(戦闘指揮所)から艦橋へ。対空レーダーに反応あり。探知数、約200。」
CICから提督たちがいる艦橋に連絡が入る。影の艦隊の空母機動部隊の攻撃隊だ。すでにこちらの接近を探知していたようだ。
「この海域は油断ならない。全艦、警戒態勢。」
元帥が命令を下令する。やまとについてきているイージス艦や護衛艦も散開して、対空警戒の輪形陣へ陣地変換をする。艦娘たちも同じように輪形陣へと陣地変換を行う。
「イージス艦やまと司令部より第二艦隊旗艦、大和と通達。敵攻撃隊の接近を確認。各艦、対空警戒を厳とせよ!」
元帥が先行している第二艦隊旗艦の大和に連絡を入れる。
『こちら大和。了解しました。皆さんも十分お気をつけてください。』
「ああ、ありがとう大和。」
元帥がそう言うと、通信を切った。すると提督が口を開いた。
「ついに始まるんですね。第二次坊ノ岬沖海戦が…」
提督は深く息を吸っていた。長年海軍の最高位として多くの提督たちを見てきた元帥は提督のこの行動をなにか知っていた。
これは、緊張と恐怖だ。
作戦が成功するかという緊張感と、艦娘を失ってしまったらどうしようという恐怖がいる混じっている感情だ。
元帥は提督に近づき、肩に手をおいた。提督は驚き、元帥の顔を見た。元帥はいつも以上に真剣な顔で問いかけた。
「蒼海君、君は。二度とこの青い海を、鉄の残骸と血と命で埋め尽くしたくないな?」
その質問に一瞬提督は驚いたが、すぐに力強く答えた。
「はい。もちろんです。もう一人も失いたくありません。艦娘はもちろん、故郷のみんなもです。…僕と同じように悲しむ人をもうみたくありません!」
その言葉を聞いた元帥は、少し微笑みを浮かべた。
「その言葉が聞きたかったよ。ありがとう。」
「いえっ、こちらこそありがとうございます!」
提督が緊張を解いてくれたお礼を言うと、元帥は「もういい頃合か。」と前置きしてから、提督に向き合った。
「蒼海君、十六夜のことなんだが…」
その話の途中にけたたましい警報が艦内に響き渡った。
「敵攻撃隊確認!!まもなく短SAMの射程圏内に入ります!!」
「全艦、対空戦闘用意。これは演習にあらず。繰り返す。これは演習にあらず。」
元帥はなにかを言いかけたが、走って航海長のもとへと向かった。提督も栗林を合流し、ブリッジへとでる。双眼鏡を覗き込むと、向こう側にわずかに米粒のような点が見えた。
「ついに来たか…」
「ついに最終決戦ですね。」
すると上空を海軍の戦闘機、烈風改三が飛行していった。そして遅れて三四三空のF-3が飛行していく。
「防空隊が敵攻撃隊迎撃に向かいました。」
「敵攻撃隊、短SAMの射程圏内に入りました!」
CICの隊員たちが口々に声を上げる。砲雷長が目標をロックして、命令を出した。
「短SAM攻撃開始!!シースパロー発射!」
「発射用意…、撃てぇ!!」
砲撃員が発射スイッチを押す。やまとの前甲板のVLSミサイル発射装置が開き、個艦防空ミサイルのシースパローが発射された。 上空に打ち上げられたシースパローはそのまま敵攻撃隊の方向を向くと、猛スピードで飛翔していった。
「全艦隊、対空戦闘用意!!」
第二艦隊の旗艦の大和が指示する。十六夜たちは主砲を構える。すると遠方で爆炎が見えた。それはいくつも急速に増えていった
「シースパロー全弾命中。」
やまとのCICではやまとの放ったシースパローが敵機に全弾命中したとレーダーが表していた。
「続けて撃て!!敵に隙を与えるな!!」
砲雷長の命令でさらにシースパローが発射されていく。艦娘艤装技術を応用して開発したシースパローは問題なくダメージを与えているようだ。攻撃隊は理由もわからず撃墜されている。
「敵攻撃隊、CIWSの射程圏内に入りました。」
「CIWS起動、撃ち方始め!!」
やまとのCIWSが作動し、急降下爆撃を行おうと高高度を飛行する影の彗星艦爆に銃弾を浴びせる。毎分4,500発の弾幕が影の彗星艦爆に襲いかかり、次々と艦爆は火を吹いて墜ちていった。
「前衛艦娘艦隊、敵攻撃隊と交戦開始を確認。」
艦橋内では様々な声が飛び交う。攻撃隊はイージス艦と護衛艦隊の対空迎撃でまばらになっている。艦娘たちもそれぞれ艦載機たちと交戦状態に入っている。
「主砲五式弾、射撃始めぇ!!」
出羽が叫び、51cm連装砲が火を吹く。轟音とともに放たれた五式弾は影の艦隊攻撃隊のど真ん中で炸裂した。艦載機は次々に被弾、撃墜されていくが、対空砲火をかいくぐった数機が戦艦などに向かっていく。
「くっ、相変わらず数だけは多い…!」
十六夜は長10cm高角砲を射撃しながら悪態をつく。
戦争の長期化と捷二号作戦の影響があったにも関わらず、影の艦隊はその物量を今だに保持していた。
影の彗星艦爆が一斉に急降下を開始する。それとほぼ同時に影の流星艦攻も雷撃進路を取った。
十六夜は影の流星艦攻に狙いをつけて高角砲、機銃を射撃する。空から迫りくる影の彗星艦爆に対しては出羽と大和たち戦艦が凄まじい対空火力で応戦する。
凄まじい弾幕の中、一部の彗星艦爆、流星艦攻が突破していく。影の流星艦攻はイージス艦に向けて飛行する。
「敵機接近!!近接対空戦闘用意!!」
狙われたイージス艦あたごがCIWSを射撃する。流星艦攻は銃弾に蜂の巣にされ、魚雷を投下する前に撃墜された。
「まだまだ来るぞ!!気を抜くな!!」
爆炎に包まれる空に影の彗星艦爆が迫ってくる。それをシースパローとCIWSが迎撃する。まさに一進一退の攻防が繰り広がられていた。
その頃、前方の空域では三四三空と影の艦隊戦闘機との間で激しい戦闘が繰り返されていた。烈風改三がガンポッドを展開し、バルカン砲で影の烈風後期型を狙い撃つ。流石の影の烈風もジェット戦闘機の速度と機動力には敵わず、次々と撃墜されていく。
「三四三空を舐めるなッ!!」
三四三空隊長は操縦席で叫びながら兵器発射スイッチを押し、対空ミサイルを発射していく。影の烈風後期型は回避行動を取るが、ミサイルからは逃れられない。ミサイルに右翼をもぎ取られ錐揉みしながら海に墜ちていった。
「隊長!!7時方向から新手です!!」
部下の声が無線機から響く。隊長はすぐさま操縦桿を引き、機体を上昇させる。後方に付いていた影の烈風後期型は機銃を射撃していく。その銃弾を隊長のF-3は軽々回避していく。
「お返しだ!!喰らえッ!!」
兵器発射スイッチに指をかけ、対空ミサイルを発射する。またもや影の烈風後期型はF-3に傷一つ付けられず炎に包まれながら撃墜された。
その様子を艦載機越しに空母十一型が見ていた。そして隣の戦艦影姫に報告する。戦艦影姫は頷くと、少し後方の影姫たちに囲まれた影の艦隊の指揮官、影浦に報告する。
「影浦提督、奴らは艦娘のみならず多くの戦闘艦艇、航空機を投入して進撃しております。このままでは第一陣突破は時間の問題です。」
影浦は腕を組んでしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。
「問題ない。今は奴らの好きにさせてやれ。どうせ海の藻屑となる奴らだ。沈んだ奴らは後で取り込めば良い。」
影浦は軍帽を少し上げると、その冷たい瞳を不気味に光らせた。
次回 絶望への刻限
長らく投稿を休止していて申し訳ありませんでした!現在忙しい時期になってきたので、不定期投稿になります。