「僕が帽子を深く、深くかぶるようになったのはいつからだろう」
シュヴァルグランにとっての帽子、その役割と変化のお話

※育成シナリオのネタバレを一部含む内容です、ネタバレを避けたい方はご注意ください
 

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”帽子”を深くかぶる

─僕にとって帽子は弱い自分を守ってくれる“盾”であると同時に呪いだった

 

幼いころから華やかな世界を生きる姉と妹、彼女らと自分を比べ…あんな風になれない自分に抱くコンプレックス、周囲からの評価…内外から止めどなく溢れて止まない負の感情、それに押しつぶされないため帽子を深く被り自分からも他者からも目を背けて生きてきた

 

そのおかげで僕はトレセンで走り続ける事が出来たのだと思う、現実を直視するには僕の心は脆すぎたから。でも目を背けた代償は確実に存在していた。僕は自分も他者も正確に評価することが出来なくなっていた

 

キタさんを常に明るくまぶしいだけの存在だと決めつけ、クラウンさんやドゥラメンテさんを自分とは住む世界が違うと決めつけた。勝手に決めつけ、それを見て卑屈になり、自分のキャパシティを超えた無茶を繰り返した

 

自分に適したトレーニングという発想は無く、ただひたすらに教官が教えてくれた万人向けのトレーニングを繰り返した。愚直な反復で伸びる能力もあったがすぐに頭打ちだった

 

所詮は万人が伸びやすい部分に特化しただけの鍛え方である。全国各地から集められた才能溢れるエリートが自身の特性に合わせて専用に組み立てられたトレーニングを行い、鎬を削りあうトレセンという環境で僕はスタートラインにも立てていなかった

 

でも僕はそのことにも気づかず、自分には才能が無いと嘆くばかりで…その現実を突きつけられる度に僕は帽子を深く、深くかぶった

 

まるで“呪い”のように、繰り返し…何度も……

 

 

 

「……んぅ……あれ?……」

 

不思議なほど重い瞼を開くと目の前に広がったのは見慣れた自室の風景

…どうやら昔の夢を見ていたようだ

 

 

「……嫌なこと、思い出しちゃったな」

 

……トレーナーさんと出会う前の僕を思い出すのは久しぶりだ。少なくともシニア級になってからは初めてだった

 

トレーナーさんと出会うまでの僕の記憶は苦々しいものが大半を占めていた。派手で華やか、多くの人の注目と期待を集めるヴィルシーナとヴィブロスとは

 

トレーナーさんのおかげで間違いなく僕は変われた。見えていなかった自分の強みに気づき、それを活かすためのトレーニングを積み、少しづつだけど確実に強くなることが出来た

 

クラシック級までは思うような戦績を残せなかったけれどシニア級になってからは阪神大賞典で初めて重賞に手が届き、GⅠでも入着出来るようになった。まだGⅠに手は届いていないけど…ありがたいことに最近は僕を応援してくれる人も増え、期待されるようになった

 

…誰にも見られず、期待されていなかったあの頃とはまるで違う

 

けれどそれはあくまで“表面上の変化”だ、僕の本質はさほど変わってないだろう。臆病で、卑屈で、自分も他者もまともに見ることが出来なかった、帽子を深く被ることでしか自分を守れなかった…否定したかった、大嫌いな僕だ

 

─でもこれも間違いなく僕だと…今なら自信を持って肯定できる

とうの昔に見失っていた、僕が走る理由を見つけることが出来たから

 

あの日、僕に勇気をくれた偉大なウマ娘のように…辛い現実から目を背けるための“帽子”を必要としている人たちを肯定し、鼓舞してあげることが出来る…そんな偉大なウマ娘になる、そのために僕は今走っている

 

だから僕は…かつての僕を肯定する。この弱さも僕を形作る一部なんだ

 

 

そこまで考えたところで目が覚めてから時刻を確認していなかった事に気づく。幸い朝食の時間を加味しても出発予定時刻に余裕を持って臨める程度の猶予はあった

 

一安心して朝の支度を行う中で改めて先ほどの夢について考えていた。今日という日に昔の夢を見たのは…きっと戒めだろう

 

僕は弱くて、いつの間にかあれほど心に誓った走る理由さえ忘れてしまう

…それを思い出させてくれたのは今まさに過酷な現実に圧し潰されそうになり、目を背けようとしている僕の親友だった

 

今日はジャパンカップ…彼女とかつての自分と同じ苦しみを抱える人たちにそれを乗り越える勇気を送るためのレースだ

 

不安がないと言えば嘘になる、相手は規格外の成長を続けるお祭り娘、国内外のGⅠを制したサトノ家の至宝、前年のダービーウマ娘にGⅠで3度も連帯している歴戦の猛者など、いずれも実績で言えば僕より上の強敵揃い

 

…でも僕は負けない

 

僕はみんなの強さも知っているけど…それ以上に僕は僕の強さ知っている

トレーナーさんが、シャインが強いと言ってくれた僕を信じている

 

だから…絶対に勝つ、勝ってみせる…!

 

準備を終え、制服に着替えた僕はコートを羽織り、勝負服などが入ったバッグを傍らに置き、最後に帽子を手に取り眺めていた

 

─僕にとって帽子は弱い自分を守ってくれる“盾”であると同時に呪いだった

 

でも…今は違う

 

手に取っていた帽子をいつも以上に、深くしっかりとかぶる

…うん、やっぱり落ち着く

それに少し残っていた不安が無くなった気さえする

 

僕にとっての帽子はもう辛い現実から目を背けるための“盾”でも、縋るしかない“呪い”でもない

僕にとっての帽子は辛い現実から目を背けず戦うため、僕に勇気を与えてくれる“相棒”だ

 

だから今日も僕は帽子を深くかぶり、懸命に走る

…“相棒”とともに強敵を打ち破り、偉大なウマ娘となるため

 




シュヴァルグランはいいぞおじさん「シュヴァルグランはいいぞ」

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