光となったユーリアンの体が移動した先は、無限に広がる大宇宙にぽつんと浮かぶ星形の小惑星。
資源採掘用に運ばれてきたものをジオン公国が会戦に先立ち軍事用に改装した、その名を宇宙要塞ソロモン。
ユーリアンの体が再び出現し降り立ったのは同要塞の内部にある一角、原作の雰囲気を再現しつつも、オンラインゲームとしての機能も取り込んだ、メインロビーとも呼ぶべき巨大な空間。
近未来的な内装が随所にみられる中、壁に設けられた巨大モニターには、プレイヤー向けに現在の一年戦争の戦況などが表示されていた。
ベータテストのトリを飾ったルウム戦役の後、ジオンは、同戦役での大々的な勝利を好機とし、連邦に対して休戦条約の締結を打診。
連邦側はこれに応じ、会合が開かれた南極の地において、事実上の降伏調印がなされようとしていた、まさにその時。
捕虜の身であったレビル将軍が特殊部隊により救出され、「ジオンに兵なし」の演説を実施。
これによって、連邦は継戦に舵を切り、会合では休戦条約から戦時条約へと変更された"南極条約"が締結された。
こうして当初の計画が破綻したジオン側は、長期戦に向けた地球資源の確保の為、地球侵攻作戦を本格的に始動させるのであった。
「待ってるのもなんだし、先に機体の確認でもしようかな」
他のプレイヤー達やNPC達で賑わいを見せるメインロビーを見回し、お目当ての人物がいないことを確認したユーリアンは、移動を開始する。
彼が移動した先には一つのドアがあり、その脇には、オープン格納庫と書かれた看板が設けられていた。
自動ドアであるそのドアを潜った先で彼が目にしたのは、鉄とオイルの臭い、金属音が鳴り響く、巨大な格納庫の光景。
格納庫内のハンガーに固定され佇む、ザクやブグ等のモビルスーツ達。全高17メートルを誇る鉄の巨人たちが整然と並ぶその様は、まさに圧巻の一言であった。
更に、各機体の周囲で整備などの作業に勤しむ作業服姿のNPC達、所謂整備士たちの姿も相まって、まさにアニメなどで描かれた格納庫内のシーンそのままの姿とも言えた。
そんな、ガンダム好きにはたまらないこの場所は、見た通り、モビルスーツの格納庫である。
ただし、オープンと名が付く通り、この格納庫内に収納されているモビルスーツは全て、宇宙要塞ソロモンを拠点とし活動しているプレイヤー達の愛機なのだ。
因みに、ハンガーに固定されているのは各プレイヤーが搭乗登録している機体のみで、残りの二機に関してはプレイヤーの個人格納庫に収納されている。
このオープン格納庫の利用目的は何かと言えば。
自身が保有しているモビルスーツを他のプレイヤーに見てもらいたい、或いは、自分だけの改造などを施した機体の自慢。
または、チームメイトや他のプレイヤー達とモビルスーツ談議に花を咲かせたい等々。
プレイヤー同士の交流の場として設けられたのだ。
「えっと、僕の機体は……」
運営側の目論見通り、他のプレイヤー達が機体を前にモビルスーツ談議に花を咲かせているのを他所に、ユーリアンは自身の機体を探して歩みを進める。
「あ、あった」
程なく、彼は格納庫の一角にあるハンガーに固定された、一機のモビルスーツの前で足を止めた。
ハンガーに固定されたモビルスーツの名は、ザクIIC型。
本機は、一年戦争の緒戦におけるジオン軍の主力モビルスーツであるが、核攻撃との併用を前提とした設計の為、対核装備を備えた本機の全備重量は72トンを超える。
この為、対核装備を外し軽量強化された後継のF型と比較すると、機動性の点で劣っていと言えた。
しかし、使用する武装等はF型と同じである為、120ミリ口径のモビルスーツ用マシンガン、通称ザクマシンガンの他。
280ミリ口径の対艦並びに火力支援等の多目的バズーカ、通称ザク・バズーカ。
更に近接戦闘用のヒートホーク。
初期状態では上記の三種類しか使用できないが、ゴールドを支払いアンロックする事で、クラッカーやシュツルムファウスト等、豊富な武装を使用する事が可能となる。
因みに保有している機体は、ゴールドを支払う事で好きな塗装や改造などを施す事が出来るが、ユーリアンの愛機であるザクIIC型は、ゲームを始めたばかりという事もあって、標準である緑色の塗装であった。
なお、ユーリアンはベータテスト時、ザクIIF型の改造機を愛機にしていたが、新規参加者との差を付け過ぎない措置の為か、ベータテスト時の機体は引継ぎが出来ない仕様の様だ。
閑話休題。
「武装の追加アンロックは、まだいいかな……。弾薬も……、今はまだこのままでいっか」
そんな愛機の足元で、ユーリアンはタブレット端末を取り出し操作すると、画面に映った情報を目にしながら独り言ちる。
プレイヤー個々人が所有するタブレット端末は、保有しているモビルスーツの各種情報が確認できるようになっており、ユーリアンはその中から、武装関連の情報を確認していた。
先述した追加アンロック以外にも、現実世界の銃火器同様、モビルスーツの火器にも、様々な特徴を持った弾薬が用意されている。
ただし当然ながら、それらの弾薬を使用するには、ゴールドを支払う必要がある。
しかしユーリアンは、それらのアンロックをまだ必要ないと考えているらしく、結局機体の情報を一通り確認し終えると、タブレット端末の電源を切るのであった。
「よぉ! 未来のエースパイロットさん! 新しい相棒の確認は終わったのか?」
「ん? あぁ、今終わったよ」
刹那、背後から声をかけてきた人物に対して、ユーリアンは特に警戒などをすることなく、自然な流れで話を始める。
「ランドニーの方は? もう終わったの?」
「あぁ、俺の方も、一通りの情報確認は終わった」
燃えるような赤い髪をオールバックにし、青と黒のオッドアイが目を引く、端正な顔つきの青年。
ランドニーと呼ばれたその青年は、ユーリアンが着用している軍服とは異なるマント付きの軍服を着用している他、取り付けられた階級章が、彼の階級が"少佐"である事を物語っている。
プレイヤーネーム、ランドニー・ハート。
彼は現実世界でユーリアンと交友関係のある人物、所謂リア友であると同時に、ベータテスターの一員でもある。
そして、その格好や階級などからも予想される通り、彼はコマンダープレイヤーだ。
その証拠に、彼の頭上に示されたプレイヤーネームの末尾には、丸括弧で囲まれたアルファベットのCの文字が表示されていた。
これは、そのプレイヤーがコマンダープレイヤーである事を示しており、パイロットの場合は、丸括弧で囲まれたアルファベットのPの文字が表示されている。
「それじゃ、早速"チュートリアル"に出かけるとするか」
ランドニーの言葉に頷いたユーリアンは、彼と共にメインロビーに戻るべく歩み始める。
「っと、そうだ! そういやまだ、フレンド登録と軍団登録を済ませてなかったな」
「あ、そう言えば……」
「んじゃ、ほいっと」
その途中、二人は一旦足を止めると、互いにタブレット端末を操作し、先ほどランドニーが思い出した二つの登録作業を行っていく。
程なく、作業が無事に終了し、ユーリアンはランドニーとフレンド状態になった他。
晴れて、彼がリーダーを務める『第046独立部隊』の一員として登録されたのであった。
因みに、プレイヤーが設立した小隊及び軍団は、設立者のプレイヤーが自由に命名できるようになっている。
この為、原作に登場した部隊名を名付ける事もあれば、個性が光る名前など、その名はプレイヤーごとに千差万別。
そんな中でランドニーが自身の軍団に名付けたこの名前の由来は、楽しむの当て字である046と、ホワイトベース隊の正式名称たる第13独立部隊から取ったものである。
蛇足ながら、"マーチウィンド"や"エクスクロス"等々、命名に際しては様々な候補があった様だが、最終的には現在の名前に落ち着いた経緯がある。
再び歩み始めた二人は、程なく自動ドアを潜りオープン格納庫を後にすると、そのままメインロビーの一角にある受付カウンターへと向かう。
既に何人かのプレイヤーが受付嬢とやり取りを行っているのを横目に、二人は、空いているカウンターの前で歩みを止めた。
「ようこそ。本日は、どの様なご用件でしょうか?」
「チュートリアルミッションを受けにきました」
「承知いたしました。それでは、参加される方はタブレット端末のご提示をお願いいたします」
受付嬢の指示に従い二人は互いのタブレット端末を差し出す。刹那、受付嬢は手際よく作業を進めていく。
「第046独立部隊の皆様、それではこれより、チュートリアルミッションのご説明をさせていただきます」
刹那、カウンター脇に置かれたモニターにドンっとジオンのシンボルマークが現れると、次いでチュートリアルミッションの資料映像が流れ始める。
それを横目に、受付嬢は淡々と口頭での説明を始めた。
一見すると眼鏡の似合う知的な印象を受けるが、その口振りを加味すると、途端に冷徹な印象を受ける。
そんな受付嬢から説明を聞き終えた二人は、早速現場の宙域に向かうべく、受付カウンターを後にする。
「そんじゃ、さっさと行って終わらせますか」
「その前に、母艦の用意は?」
「ふ、安心しろ。既にガガウル級駆逐艦をレンタル済みさ」
「流石ランドニー、手際が良いね」
俺の野望では、拠点となる場所から別の場所へと移動する際には、モビルスーツ等に搭乗すれば単独でも移動が可能となっている。
しかしこの際、宇宙では戦闘などの際に消耗する推進剤を距離に応じて自動で消耗する為、移動先で戦闘を行う差に活動時間が短くなるというデメリットが存在している。
このデメリットを解消する手段の一つが、母艦システムと呼ばれるシステムにおいて用いられる艦艇等だ。
母艦はモビルスーツ等を搭載する事が可能で、これにより、搭載した機体の推進剤消耗を抑える事ができる。また、母艦の種類によっては、戦闘の際に搭載した艦砲などで火力支援の他、現地で補給や整備を行う事も可能となっている。
この様にメリットも多い反面、母艦と呼ばれる艦艇群は、モビルスーツよりも購入金額が割高というデメリットも存在している。
ゲームを始めたばかりのプレイヤーでは手を出しずらいと思われるだろうが、このデメリット緩和の為の措置として設けられているのが、レンタルという入手方法だ。
使用期間があるものの、購入するよりも少ないゴールドで母艦を手に入れられるこの方法は、プレイヤー側にとって有難い存在であった。
因みに、母艦と呼ばれる各艦艇には、原作での設定を基に、搭載可能な機体数の上限が設定されている。
今回の場合、ランドニーがレンタルしたジオン軍の簡易モビルスーツ運用宇宙駆逐艦、ガガウル級駆逐艦は、搭載可能機数が二機と設定されている為、三機以上のモビルスーツは搭載できない。
しかし、現在搭載できるモビルスーツは、ユーリアンの愛機であるザクIIC型一機のみの為、特に問題にはならなかった。
「それじゃ、いざ出撃だ!」
「うん!」
掛け声とともに、二人はメインロビーを横断し、巨大なドアの前に移動する。
ドアの脇には、フィールドエリア移動の文字が書かれた看板が掲げられていた。
二人がそのドアに手を触れると、二人の目の前に"はい"と"いいえ"の選択肢が出現する。
二人が迷うことなく"はい"の選択肢を選択した刹那、巨大なドアが開くや、ドアの向こうから溢れる光が二人の体を包み込む。
程なく、光が収まると、二人の着衣は軍服からノーマルスーツに変更され、更には先ほどまでとは別の場所に立っていた。
その場所とは、ランドニーがレンタルしたガガウル級駆逐艦の艦橋内であった。
「艦長、管制室より、出港の許可が出ております」
「よーし、それじゃ、直ちに出港だ!」
「了解、出港します」
艦橋乗組員を務めるNPCに対して、艦長席に腰を下ろしたランドニーが出港指示を出すや否や、船体が揺れると同時に、ゆっくりと前進を開始する。
スペースランチやノーマルスーツを着用した作業員達の間を器用に進みながら、バースの出入り口たる第五スペースゲートを潜り、二人を乗せたガガウル級駆逐艦は、
「おぉ、懐かしの
「ランドニー、それってちょっと違うような……」
「いいのいいの! こういうのは雰囲気とかノリが大事だからさ!!」
艦長席でハイテンションな相方に対して、隣に佇むユーリアンがツッコミを入れるのを他所に。
艦橋乗組員であるNPC達は、そんな二人のやり取りに特に反応を示す事もなく、淡々と各々の作業に勤しむのであった。