宇宙要塞ソロモンを出港してから早数十分。
二人を乗せたガガウル級駆逐艦は、チュートリアルミッションの撃破目標である宇宙海賊が潜んでいると思しきデブリ帯に接近しつつあった。
「あー、早く出てこねぇかなぁ……」
輝く月を背景に宇宙空間を進むガガウル級駆逐艦の艦橋、艦長席のランドニーが退屈そうにそう呟く。
「焦っても仕方ないよ」
「あー! 早くチュートリアルミッションなんて片付けて、フリーミッション受けてゴールド稼いで、アレ買ったりコレ買ったりしたい!」
「煩悩ダダ洩れだよ」
「はぁ……。チュートリアルミッション、何とか飛ばせないものかな、このチュートリアルミッション」
「早く終わらせたかったら、無抵抗に漂ってるだけでいいんじゃない」
「いや、失敗だけは断固として嫌だ!」
今回のチュートリアルミッション、実はプレイヤー側の戦力が全滅した場合、所謂ミッションが失敗しても、ゲーム進行上問題はない。
しかも、他のミッションと異なり、本ミッション中に撃墜された機体はロストしない等、失敗しても何らペナルティがない特別な仕様となっている。
この為、プレイヤーの中には時間短縮の為に故意に失敗する者もいた。
だが、ランドニーとしては、故意の失敗はプライドが許さない様だ。
「……ま、第046独立部隊が誇るエースパイロットのユーリアン軍曹の腕前を持ってすれば、宇宙海賊なんて鎧袖一触だろ」
「ドクロマークのガンダムを使ってこなきゃね」
「ははは! チュートリアルなのに"クロスボーン・バンガード"か"ビシディアン"が相手ってか! 謙遜だな、お前なら連中が相手でも、ましてルビコン3でも生き残れるだろ!!」
茶化すような笑顔と共に口にしたランドニーの言葉に対して、ユーリアンは小さくため息をついた。
自身の腕前を買ってくれている事は素直に嬉しいが、少々過大評価なのではと、ユーリアンはそう思わずにはいられなかった。
「ま、なんにしてもだ。いい加減敵さん出てきてほしいよな」
「そんな事言って、本当に出てきたらどうする?」
「ははは、フラグってか? 幾らなんでもそう都合よく現れ──」
「艦長! 長距離レーダーに感!
「──マジ?」
レーダー手を務める艦橋乗組員からの突然の報告に、ランドニーは一瞬呆気に取られる。
しかし、直ぐに頭を振るい気持ちを引き締め直すと、反応した物体が本当に目的の宇宙海賊か、デブリを誤認していないかどうか、解析を急ぐように命令を下す。
程なく、艦橋乗組員が解析の結果を告げた。
「解析の結果、対象は民間の宇宙輸送船でした。ですが、船舶コードを照会した所、この船は半年ほど前に海賊によって拿捕されたとの結果が出ました。また、船体の側面には、係留された宇宙戦闘機を複数確認しました!」
「海賊により拿捕された船が宇宙戦闘機を係留ねぇ……。決まりだな、その宇宙輸送船こそ
ランドニーの判断の後、艦橋内が慌ただしさを増していく。
「ミノフスキー粒子の散布急げ!」
「じゃ、出撃準備に入るよ」
「散布を終えたら出撃してくれ」
「了解」
出撃準備の為、慌ただしい艦橋を後にしたユーリアンは、通路を移動しながらヘルメットを装着すると、艦の両弦に設けられているドッキング・ベイにつながる扉を潜った。
原作の設定では、ドッキング・ベイに露天繋止しているモビルスーツへの乗降にはチューブを用いる事になっているのだが。俺の野望ではそこまで再現はされず、扉を潜ればすぐにモビルスーツのコクピットに乗降できるようになっていた。
「こちらユーリアン、こちらはいつでも出撃できるよ」
座席に腰を下ろしシートベルトを締めながら、慣れた手つきで起動に必要なスイッチを入れていく。
刹那、ザクのメインカメラたるモノアイが赤い光を発し、機体が稼働状態となる。
「了解だ。こちらも今し方ミノフスキー粒子を散布し終えた。……
「了解」
「それじゃ、第046独立部隊の正規サービスでの初戦闘といきますか!」
刹那、ユーリアンは操縦桿を握り直すと、一度深呼吸を行う。
「ユーリアン、出ます!!」
そして、ユーリアンの掛け声と共に、ザクIIC型を固定していたアンカーが外れ、彼の乗る鋼鉄の巨人が
ユーリアンはフットペダルや操縦桿を巧みに操り、バーニアやスラスターを駆使して機体の姿勢を整えると、レーダー画面に表示された敵の偽装宇宙輸送船目指し機体を前進させる。
「もしも援護が必要ならいつでも言ってくれ、直ぐに援護射撃を行う」
「了解」
ランドニーからの通信に応対しつつ、ユーリアンはバーニアの出力を上昇させると、機体を加速させる。
障害物の少ない宙域ならばまだしも、ここはデブリ帯。岩石はもとより、破棄された宇宙船等の残骸が漂い行く手を遮る場所である。
その只中を、ユーリアンの操るザクIIC型は臆することなく進み続けた。
「何だ!? 敵だぁ!?」
「ジオンの連中だ!」
「戦闘機は発進急げよ!!」
そんな場所をねぐらとする宇宙海賊達の方でも、遅れて動きがあった。
漸く接近するザクIIC型を捉えたのか、偽装宇宙輸送船の側面に係留されていた宇宙戦闘機が、わらわらと発進を始める。
更に、船体上部のコンテナが投棄されるや、中から拿捕の後に施したと思しき連装機関砲が姿を現し、その砲口がザクIIC型に向けられると、次の瞬間、火を噴き始めた。
「っ! 母艦からの攻撃!?」
偽装宇宙輸送船から火線が伸びるや、ザクIIC型のコクピット内に警報音が響き渡る。
その音に反応し、スラスターやAMBACを駆使して初撃を回避すると、次いで、ユーリアンの瞳が正面モニターに映し出された複数の光点を捉える。
「お出迎えか……」
光点の正体、それは偽装宇宙輸送船から発進した"ゴブル"と言う名の宇宙戦闘攻撃機。
同機は、モビルスーツ登場以前のジオン軍において主力機を務めた機体で、派生型を含めたその総生産数は三千機を超えるベストセラー機だ。
しかし、ベストセラー機故に第一線を退いた後にブラックマーケットに流れる機体も多く、今回宇宙海賊側が同機を運用しているのはその様な経緯で手に入れた物だろう。
機体の側面にでかでかとドクロマークが描かれた数機のゴブルは、拙い編隊を組みながらザクIIC型に襲い掛かる。
「っ!」
刹那、ゴブルの機首に左右三門ずつ、合計六門が内蔵されている30ミリバルカン砲が火を噴き、ザクIIC型の表面装甲を叩く。
だが、30ミリ程度の火器では、ザクの装甲を貫く事はできない。
「お返しだ!」
次の瞬間、被弾など意に介す事無く、ザクIIC型は手にしたザクマシンガンを構えると引き金を引いた。
対宇宙戦闘機を想定した程度の装甲しか有していないゴブルにとって、120ミリ弾は、一発被弾しただけでも致命傷となる。
閃光と共に放たれた120ミリ弾の回避を試みたものの、弾丸は二機のゴブルを貫き、程なく、デブリに新たな仲間が加わる。
「っ!」
半数を片付け、もう一撃で残りも片付けようとしたユーリアンであったが、偽装宇宙輸送船からの攻撃でそれは叶わなかった。
軽々と攻撃を躱し、再び体勢を立て直すザクIIC型。
母艦からの援護を受けて旋回を終えた二機のゴブル。
正面から対峙する両者、先に火を噴いたのは、ゴブルの30ミリバルカン砲であった。
(ミサイルを撃ってこない? なら……)
ゴブルは30ミリバルカン砲の他、機体に六基のミサイル発射管、更に機体各所の兵装ステーションに各種ミサイルを搭載する事が出来る。
しかし、宇宙海賊の運用するゴブルは、一向にミサイルを撃つ気配がない。
宇宙海賊の懐事情でミサイルを調達できなかったからか、何れにせよ、これを好機と捉えたユーリアンは、しっかりと狙いを定め、引き金を引いた。
刹那、コクピットを貫かれたゴブルが、爆発と共に宇宙の塵と化した。
「これで!」
そして、残った一機も。
ドッグファイトではあり得ない、すれ違いざまに相手の"蹴り"が飛び出すという、モビルスーツならではの戦法で仲間の後を追うのであった。
「残るは、母艦だけ……」
こうして四機のゴブルを撃破したユーリアンは、残る偽装宇宙輸送船を撃沈するべく、再び機体を進める。
接近するザクIIC型に対し、船体上部の連装機関砲で弾幕を張る偽装宇宙輸送船。
しかし、そんな弾幕を掻い潜りながら、ザクIIC型はザクマシンガンを構えると、引き金を引く。
刹那、放たれた120ミリ弾は、吸い込まれるように連装機関砲に飛来し、同砲を使用不能にする。
「あとは艦橋を叩けば……」
唯一の武装を失い、最早抵抗する力を失った偽装宇宙輸送船。
同船に近づき、ザクマシンガンの銃口を艦橋に向けようとした、その時であった。
「っ!?」
不意に、偽装宇宙輸送船のカーゴハッチが開き、ユーリアンは身構える。
刹那、それが姿を現した。
「おいてめぇ! 調子に乗るなよ!!」
オレンジ色を基調としたその機体は、ザクと同様の頭部のモノアイ、両肩・両膝のパイプ等、その外観はザクに酷似している。
MS用のマシンガンに携帯式のシールドを装備したその機体の名は、ブグ。
制式量産機の座をかけて、ザクIと競っていた機体である。
「ブグ!?」
「ここまでしてくれた落とし前、つけさせてもらうぞ!!」
口振りからして、宇宙海賊の頭目が搭乗していると思しきブグ。
ブグは有言実行とばかりに、カーゴハッチから飛び出すと、装備したMS用のマシンガンで攻撃を開始する。
一方、ユーリアンはまさかの新手に一瞬面食らうも、直ぐに操縦桿を動かしブグの初撃を躱すと、距離を取りながら反撃を開始する。
「く……、やっぱりシールド持ちは厄介だな」
敵の攻撃を躱しつつザクマシンガンを叩き込むものの、致命的なダメージを与えるには至っていない。
頭目の操縦技術の低さ故に当てること自体は難しくないが、弾丸はブグが装備している携帯式のシールドに阻まれ、ブグ本体までは届いていない。
それから暫く、撃ち合いを続けていた両機ではあったが、このままでは埒が明かないと感じたのか、遂にユーリアンが次なる手に出る。
「こいつで!」
バーニアを噴かせ一気に距離を離すと、次の瞬間、付近を漂っていた宇宙船の船体の破片目掛けて、強烈なショルダータックルをお見舞いした。
「な、なぁ! うわぁぁ! くるんじゃねぇ!」
ショルダータックルを受けた船体の一部は、その衝撃でブグ目掛けて飛んでいく。
迫りくる船体の破片を目の当たりにした頭目はパニックに陥り、船体の破片目掛けてMS用のマシンガンを乱射する。
だが、ある程度の大きさを有した船体の破片を破壊するには至らず、遂に、船体の破片はブグに直撃する。
「へ、へへへ! シールドのお陰で、た、助かったぜ……」
しかし、船体の破片の直撃も、携帯式のシールドのお陰で事なきを得た様だ。
「野郎なめた真似しやがって! 何処に──」
次はこちらの番だとばかりに意気込んだ、その時。
ブグの背後に、ザクIIC型が姿を現した。
「な!!」
刹那、ブグの無防備な背後目掛けて、ヒートホークが振るわれる。
船体の破片を囮にして自機の背後に回り込んだ、頭目がユーリアンの作戦を理解した頃には、既にその命は、ヒートホークの高熱と共に融解していた。
その後、残った偽装宇宙輸送船もきっちりと沈めたユーリアンは、母艦からの帰還信号を頼りに機体を翻し、帰還の途に就くのであった。
母艦へと無事に帰還したユーリアンは、コクピットを後にすると、一目散に艦橋に舞い戻る。
「本日の
すると、艦橋に足を踏み入れるや否や、ランドニーを筆頭に、艦橋乗組員達からの拍手で出迎えられる。
「あ、ありがとう」
脱いだヘルメットを小脇に抱えながら、ユーリアンは少々気恥ずかしそうに応えるのであった。
「見てたぜ。いや~、まさかブグが出てくるとは思わなかったが……。我らがエースパイロット殿の前じゃ、ブグ程度、敵ではなかったな」
「そんな……」
「あ、覚えてるか? ベータテストが始まって間もない頃、推進剤の残量も考えずに動きまくったお陰で推進剤が切れて、危うく相手のセイバーフィッシュに撃墜されそうになった事があっただろ」
「あはは……、そんな事もあったね」
「あの時は、偶々近くにいた親切な他のプレイヤーが助けてくれて事なきを得たけどさ。……あの頃に比べりゃ、随分と上達したよな」
誰だって最初はおぼつかないものだ、しかし、失敗や挫折を繰り返し、人は成長していく。
ユーリアンもまた、そんな失敗や挫折を経験して成長している一人であった。
「それじゃ、チュートリアルミッションも無事に終わった事だし、さっさとソロモンに戻って報酬受け取って、フリーミッションいきますか! まだ時間にも余裕はあるしな」
艦橋モニターの右端に表示されている二つの現在時刻。
一つは俺の野望の世界の現在時刻で、もう一つは、現実世界の現在時刻である。
現実世界での生活との兼ね合いから、ゲームをプレイする時間には限界がある。
しかし、二人は時間ギリギリまで楽しむ様だ。
「よーし、進路を宇宙要塞ソロモンへ!」
ランドニーの号令と共に、二人を乗せたガガウル級駆逐艦は、宇宙要塞ソロモンへと帰還するのであった。
その後、チュートリアルミッションの成功報酬を受け取った二人は、フリーミッションを受領し、補給と整備を終えた母艦と共に、再び
こうして、俺の野望正規サービス初日を時間ギリギリまで堪能し、二人は現実世界へと自らの意識を戻す。
ユーリアンから優へと意識を戻した彼も、新しい生活への活力に大満足しつつ、明日に備えて就寝準備を進めるのであった。