俺の野望 REBOOT   作:ダルマ

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重力戦線

 宇宙空間に漂う戦闘機の残骸達。

 その近くでは、この残骸を作った鋼鉄の巨人が、一隻の軍艦に対して攻撃を仕掛けていた。

 

 弾幕を掻い潜りながら放たれる120ミリ弾。

 着弾した箇所から火が上がり、近辺の武装が誘爆で吹き飛ぶ中、軍艦、レパント級ミサイルフリゲートは、残る武装を唸らせ続ける。

 

「いい加減墜ちろ!」

 

 だが、そんな健闘も空しく、レパント級ミサイルフリゲートに最後の時が訪れる。

 レパント級ミサイルフリゲートの艦橋上部を位置取った鋼鉄の巨人、ユーリアンが操る"ザクIIF型"が、構えたザクマシンガンの引き金を引いた。

 

 刹那、放たれた120ミリ弾が艦橋上部に直撃。

 更に、一部の弾丸が艦橋部を貫き船体内部にまで到達、無傷の弾薬に火を着ける。

 次の瞬間、内部から放たれた爆破エネルギーによって、レパント級ミサイルフリゲートは船体を真っ二つにするように、文字通り轟沈した。

 

「ふぅ……」

 

 レパント級ミサイルフリゲートの最後を見届けたユーリアンは、無事に敵を倒せたことに安堵するや、付近に敵影がいない事を確認すると、帰還の途に就くのであった。

 

 

 宇宙要塞ソロモンに帰還したユーリアンは、オープン格納庫内にある愛機の足元で、ランドニーとの会話に興じていた。

 

「まさかフィールドエリアの散策中に小規模な偵察部隊と遭遇する事になろうとは……。いや~、これは嬉しい誤算ですなー!」

 

 俺の野望の世界では、宇宙要塞ソロモン等の拠点が存在する特別エリアと呼ばれるエリアの他、フィールドエリアと呼ばれるそれ以外のエリアが存在している。

 このフィールドエリアには、所謂フィールドモンスターというべき存在のNPC部隊が出現する事がある。

 出現する部隊の編成や規模はランダムで、場合によっては、フリーミッションよりも多くの経験値とゴールドを稼ぐことも可能だ。

 

 ただし、フィールドエリアは相手勢力のプレイヤー部隊も進出する事もあるので、場合によっては痛い出費になる事も。

 

「っと、そう言えばユーリアン。お前の機体、もう必要な機体経験値が貯まってるんだろ? 明日のイベントに向けて機種転換でもしとくか? それとも、俺が考えたすんばらしい改造でもするか?」

 

 プレイヤーが保有するモビルスーツは、再塗装や改造の他、戦闘などで機体の経験値を一定数貯める事で、機種転換と呼ばれる機体強化を施す事が出来る。

 例えば、ユーリアンが以前使用していたザクIIC型から現在使用しているザクIIF型というように、より高性能な機体に強化が可能だ。

 しかし、ザクIIからゲルググ或いはギャン等の、系統の異なる機種への強化は出来ない他。機体によっては機種転換が出来ない等、注意も必要である。

 なお、別系統の機種に乗り換えたい場合は、所属勢力が開発完了、或いはコマンダープレイヤーが開発完了した機種を生産・購入するしかない。

 

 一方の改造という強化方法であるが、こちらは機体経験値が必要ではない為、必要なパーツ等があれば、購入したての機体でも直ぐに施せる利点がある。

 ただし、改造を施した機体は機種転換を行えなくなる欠点も存在する。

 

 機体の性能を根本から向上させるのか、それとも引き延ばすのか。

 それは、こだわりや遊び方等々、プレイヤー個々の選択次第である。

 

「うーん。今はまだ、現状のままでいいかな」

「えー、んだよ。折角、名アーキテクトである俺の渾身の改造ザクが華々しくイベントデビューできるかと思ったのによぉ……」

「因みに、どんなモノが出来上がる予定だったの?」

 

 曰く、機動戦士ガンダム サンダーボルトという名の漫画作品に登場するザクタンクを参考にした機体で。

 高出力エンジンへの換装、足回りの強化、装甲の追加、そして目玉となるのが、機体後部に搭載された折り畳み式の30サンチ砲。

 

 その名を、シン・ザクタンク(ガチタン)

 

「あはは……」

 

 改造内容を聞いたユーリアンは、苦笑いを浮かべるのであった。

 

「まぁ、改造の方は兎も角。明日のイベント向けじゃなくてもさ、S型かF2型に機種転換しておくのは悪い事じゃないと思うぜ。折角昇進して乗れる機体も増えてるんだし」

 

 機体によっては搭乗するのに必要な階級が設定されている。その為、戦力アップの為にはプレイヤー自身の階級も重要となる。

 因みに、現在のユーリアンは一段昇進して"曹長"となっていた。

 

「それはそうなんだけど……。判断は、イベントが終わったとでも遅くないかなって思って」

「そっか。ま、お前がそう言うなら、俺はお前の意見を尊重するさ」

 

 因みに、先ほどから二人の会話に出てくる明日のイベントというワード。

 これは、二人を含め、俺の野望のプレイヤー達にとって待ちに待ったもの。

 宇宙世紀の正史に沿う形で名付けられた、その名を『地球侵攻作戦』。即ち、ジオンによる地球への侵攻の幕開け、重力戦線の開始である。

 

 正規サービス開始後初のイベントという事もあり、既にSNS上ではこの話題でもちきり等、如何に注目されているかが窺える。

 

「最初のイベントだし、お互い、悔いのないようにいこうぜ」

「うん、そうだね」

「それじゃ、明日に備えて今日は早めに切り上げるか」

 

 こうして二人は、明日のイベントに備え、いつもよりも早くログアウトするのであった。

 

 

 

 

 そして、翌日。

 俺の野望が正規サービスを開始して1週間程度が経過したこの日、遂に、プレイヤー達にとって待ちに待った瞬間が訪れた。

 

「あと1分で開始だな」

「うん」

 

 宇宙要塞ソロモンのメインロビーにある椅子に腰を下ろしながら、二人は、イベント開始の時を今か今かと待ちわびていた。

 無論、それは二人に限った話ではなく、周囲のプレイヤー達も、メインロビーの時刻表示を目にしながら、今か今かと待ちわびていた。

 

 1分後、壁に設けられた巨大なモニターの映像が切り替わり、とある人物の演説が流れ始めた。

 

「──今こそ、地上が安全だと思い込んでいる連邦の愚か者どもに、我らジオンの強さを思い知らせてやるのだ!!」

 

 それは、ジオン公国総帥、ギレン・ザビによる地球侵攻作戦開始を告げる雄弁な演説であった。

 この演説に、多くのジオン側プレイヤーが奮い立たされる。

 程なく、ギレンの演説が終わると、続いてイベントの開始を告げるアナウンスが流れ始める。

 

「これより、コーカサス地方のバイコヌール宇宙基地及び黒海沿岸部の制圧作戦、第一次降下作戦を開始したします。作戦開始は30分後。作戦に参加ご希望のプレイヤー様は、メインロビーの受付カウンターにて、参加登録を行ってください」

 

 アナウンスが流れ終えるや否や、メインロビーで待機していたプレイヤー達が、次々と受付カウンターに殺到する。

 その中には当然、ユーリアンとランドニーの二人の姿もあった。

 程なく、二人の順番が訪れると、受付嬢の指示に従い参加登録を完了させる。

 

 刹那、二人の体がメインロビーから、別のロビーへと移動する。

 その空間には、椅子はあるが、ドアや通路のようなものは何処にも見当たらない。

 どうやら、イベント参加者達の待機ロビーの様だ。

 

「このイベント、両勢力合わせて、どれ位のプレイヤーが参加すると思う?」

「うーん。最初のイベントだし、結構な人が参加するんじゃないかな?」

 

 設けられた椅子に腰を下ろして、会話に興じる二人。

 それから刻一刻と、作戦開始の時刻が迫る毎に、待機ロビーに現れるプレイヤーの数が増えていく。

 

「しっかし、思ってたよりも参加人数が多いな」

「参加ボーナスの効果かもね」

「あぁ、かもな」

 

 通常はフリーミッションなどで得る事のできる経験値とゴールド。

 しかし、今回の様な大規模イベントの場合、参加ボーナスとして、参加者全員に一定の経験値とゴールドが支給される。

 

 最も、戦場で撃墜されれば、機体の修理や再購入など、最終的に収支がマイナスになる可能性もある。

 ボーナス以上を得ようとすれば、戦って生き残る他ない。

 

「ま、先走って撃墜されちゃ、元も子もねぇけどな」

「はは、そうだね」

 

 当然、それは連邦側も同じ。

 故に、引き際の判断等も重要となる。

 

「定刻となりました、これより作戦を開始します。プレイヤーの皆様は、前方のドアへとお進みください」

 

 再びアナウンスが流れると共に、待機ロビーの一角に、突如として幾つものドアが出現する。

 刹那、プレイヤー達はアナウンスに従い、次々とドアを潜っていく。

 ユーリアンとランドニーの二人も、ドアに足を進めると、躊躇う事無くドアを潜った。

 

 

 ドアを潜ると同時に、ユーリアンの着衣が軍服からパイロットスーツに変更され、直後に全身を浮遊感が包み込む。

 やがて、真っ暗だった周囲が、明るさを伴って鮮明になっていく。

 

 鮮明になった周囲の光景は、格納庫を思わせる場所であった。

 だが、オープン格納庫と比べると、その場所は少々手狭で窮屈に感じる。

 それもその筈、ここは、とある母艦の貨物室なのだから。

 

 その母艦とは、卵のような形に近い円錐形の見た目を有した母艦。

 Heavy-lift Launch Vehicle、頭文字を略して『HLV』と呼ばれる垂直離着陸式の軍事用SSTOである。

 大気圏突入能力を有するこのHLVを用いて、ジオンは地球上の連邦勢力圏に戦力を投入するのだ。

 因みに、大気圏離脱時は専用のブースターを取り付けて大気圏離脱を行う事が出来る。

 

「ヒュー! 壮観だなおい! これだけの友軍がいれば勝ち確じゃん!」

 

 窓から見えるのは、ムサイ級や、ガガウル級駆逐艦に曳航、或いはムサイ級独特の船体配置に挟み込むように係留された多数のHLVの姿。

 更に、それらを内包したジオン公国宇宙艦隊の勇姿。

 

 この光景を目にした同乗者のプレイヤーが怪気炎を上げるのを他所に、ユーリアンは愛機であるザクIIF型のコクピットに乗り込む。

 刹那、まるで見計らったかのように、通信が入る。

 

「よぉ相棒、HLVでの宇宙(そら)の旅はどうだ?」

「今はまだ快適だよ」

「ははは! だな。イベントだから、降下するまでは快適だ」

 

 その相手とは、ランドニーであった。

 

 因みに、ランドニーの意味深な言葉の意味だが、これは連邦側から降下阻止の為の攻撃が行われない事を意味していた。

 イベント時以外の通常の降下作戦では、相手勢力から降下阻止の為の攻撃が可能となっている。

 故に、攻撃を受けたのでHLVから緊急脱出する等、身構える必要がなく、降下するまでは気が楽という訳だ。

 

「ま、降下も快適に着陸できるかもしれないぜ?」

「どういうこと?」

「あぁ、今回の作戦の指揮官を務める事になったマーコック大佐ってプレイヤーが、バイコヌール宇宙基地の対空能力を無力化する為に、スペシャリストを揃えたって話だ」

「それって、期待していいの?」

「さぁな。だが、進んで死地に飛び込む連中だ。多少は期待していいんじゃないか」

「そのスペシャリストの情報ってある?」

「あぁ、あるぜ。今送る」

 

 刹那、サブモニターにランドニーから送られてきた情報が表示される。

 

「軍団名は……『第六六六軌道降下兵団』」

軌道降下兵団(オービットダイバーズ)の名の通り、対地速度マッハ15で敵地のど真ん中に飛び込む命知らず共さ」

 

 曰く、同軍団は再突入殻(リエントリーシェル)と呼ばれる専用の装甲カプセルを用いて、軌道上から敵地のど真ん中に降下する、軌道降下戦術を専門とする軍団。

 その戦法から、当然ながら損耗率は高く、また所属するプレイヤーも態度や性格に難のある者が多い。

 ただしその分、操作技術の面に関しては、平均して高いとの事。

 

 因みに、再突入殻と呼ばれる装甲カプセルは、ガンダム作品には登場しない。

 では、彼らはどうやって再突入殻をこの世界で再現してみせたのかと言えば、その答えは、ガンプラだ。

 俺の野望では、専用のスキャニング装置を使用する事で、現実世界のガンプラを俺の野望の世界で再現する事が出来る。

 これにより、未実装の機体を使用する事も、完全オリジナルの機体を使用する事も可能となる。

 

 ただし、機体に対してガンプラを50パーセント使用しなければならない、等の規定が設けられている他。

 再現されたガンプラの性能は、その完成度で上下する他、基本的にはデータ実装機よりも低く設定されている為、例えプロ並みの完成度でも、その性能がデータ実装されている機体を上回る事はない。

 それでも、こだわりのあるプレイヤーは、ガンプラをスキャンし俺の野望を駆けるのだ。

 

 ついでながら、再突入殻はEXモデルと呼ばれる、ガンダム作品の戦車や艦艇等を立体化したシリーズの内の一つである"コムサイ"をベースに制作されている。

 閑話休題。

 

「間もなく、降下ポイントに到着いたします。パイロットの皆様は、機体に搭乗をお願いします」

「っと、そんな事言ってたら、そろそろ時間か。じゃ、切るぜ」

 

 アナウンスが流れると共にランドニーからの通信が切れる。

 こうしてコクピット内に静寂が戻ったのも束の間、またしても、通信受信を知らせるサインが点滅する。

 スイッチを入れると、正面モニターの右端のウィンドウに、一人の男性プレイヤーが姿を現す。

 

「あーあー、こほん! 自分は、今回の第一次降下作戦の作戦指揮官を務めさせていただくマーコックだ。今回のイベントは正規サービス開始一発目という事で──」

 

 先ほどのランドニーの話にも出てきたダンディな男性プレイヤー、マーコック。

 彼が務める作戦指揮官とは、侵攻或いは防衛作戦時に、文字通り指揮を振るうプレイヤーの事である。

 作戦に参加しているプレイヤー戦力の他に、ゴールドを支払いNPC戦力を投入、砲撃や爆撃などの戦術支援、作戦中の補給物資の手配・投入等々。作戦に関する様々な権限を有している。

 

 因みに、作戦指揮官となれるのはコマンダープレイヤーのみで、パイロットプレイヤーは、例え大佐の階級でも作戦指揮官にはなれない。

 その為、万が一作戦にコマンダープレイヤーが参加していない場合は、NPCが行う事となっている。

 また、今回の様に複数のコマンダープレイヤーが参加している場合は、その中から階級が最も高い者が選任されるが、同じ階級の者が複数の場合は、当人達で話し合いの後に選任される。

 

「──という訳で、勝ち負けにこだわらず楽しんでもらいたい、以上!!」

 

 そんなマーコックによる作戦前の激励の言葉が終わると、新たなアナウンスが流れ始める。

 

「降下ポイントに到着しました。これより、HLVの降下を開始します」

 

 蒼き水の星、地球。

 そんな地球の影から、真っ赤に燃える太陽が姿を現し、地球の影を追い払っていく。

 しかし、太陽の光を一身に受けるのは、地球だけではなかった。

 

 衛星軌道上にその姿をまざまざと曝け出すジオン公国の宇宙艦隊。

 刹那、そんな宇宙艦隊に守られながら運ばれていた多数のHLVが、艦隊を護衛するモビルスーツや宇宙戦闘機に見送られながら、次々と地上を目指して大気圏を突入していく。

 直後、一部のムサイ級の艦首下部から、コムサイと呼ばれる大気圏突入カプセルが切り離され、HLVの後を追うように大気圏へと突入していった。

 

 

 ここに、重力戦線、その火蓋が切って落とされたのである。

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