魔法少女リリカルなのはVivid〜深緑の輝きは癒しと未来を創る光〜 作:グリューン
―アインハルトside
私、アインハルト・ストラトスは公共の通路に設置されている街灯の上で今日の対戦相手となるノーヴェ・ナカジマさんを見下ろしている。
本当は学校の帰りで見かけて、先回りしただけだけど。…行く途中で街灯で足を滑らせて落ちかけたのは内緒で。
「貴方に伺いたいことと、確かめさせていただきたいことが。」
「質問すんならバイザー外して名を名乗れ。」
ノーヴェさんは試合をする相手として私を見ているのだろう、私に相応の礼儀を求めてきた。
今までの相手は礼儀より私を撃退することを優先していたため、このままで戦っていた。
唯一、昨日私にセ、セクハラをしたあの男が落ちてきた時にバイザーが外れてしまったが。
だが、今日の相手は今までの相手とは違う。
一番の目標は、アリー・アル・サーシェスを倒したことで有名になった英雄で時空管理局員のニール・ディランディ教導官。格闘家ではないけど現在最も有名で、最も強い魔導師。彼女…ノーヴェ・ナカジマを倒せれば彼に近付ける。
「失礼しました。」
その要求に答え、私もバイザーを外す。
「カイザーアーツ正統、ハイディ・E(アインハルト)・S(ストラトス)・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いています。」
「噂の通り魔か。」
街灯から飛び降り、ノーヴェさんと対峙する。
「否定はしません。」
それは目的のためには仕方ないこと。
「伺いたいことはあなたの知己である『王』達とここ数年で有名になった英雄についてです。聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリア、そして深緑の狙撃手ニール・ディランディ、貴方はその両方の所在を知っていると…。」
と二人の王の名を挙げた瞬間にノーヴェさんの様子が変わった。
「知らねえな。聖王のクローンだの冥王陛下だのなんて連中と知り合いになった覚えはねえ。」
私をまっすぐに映す瞳は「お前があの二人の何を知っている、一緒にするな!」と訴えているように感じる。ニール・ディランディについては黙秘されたが今は置いておこう。まだ挑むには早い。
「あたしが知ってんのは、一生懸命生きているだけの子供達だ!」
この件は知っているが喋ってくれそうにない。
「…理解できました。その件については他を当たるとします。ではもう一つ、確かめたいことは…」
ノーヴェさんは解っていたのか、構える。
「一体どちらが強いか…です。」
そして持っていた荷物を放り投げ、牛が走る準備をする時のように地を蹴る。
「防護服と武装をお願いします。」
「要らねえよ。」
それは侮っているのか……いや、初撃でまず私を試すつもりなのか。
「そうですか。」
「よく見りゃまだガキじゃねーか、何でこんな事をしてる?」
バレた!?
私のように子供から大人の姿になる人がいなければ気付かないのに……。
でも動揺を見せないようにポーカーフェイスを保つ。
「強さを知りたいからです。」
ノーヴェさんは足に続いて腕を構える。
……どう来る?
人となりを見るに突撃をしてくる可能性があるが、まず出方を見るほうがいい。
.
「はっ、馬鹿馬鹿しい!」
地を蹴る音を感じて条件反射で左腕を出した瞬間、ノーヴェさんが迫り、飛び膝蹴りを繰り出してきた。
不意打ちだが、勝負をする以上そんなことは関係ない。
それで終わらず、右手に電気のように帯電した魔力を纏って私にぶつけてくる。
左腕では弾かれるとすぐ判断した私は、右腕で左腕を支える。
それでも受けた拳の威力は凄まじく、後ろのフェンス近くまで押されてしまった。
若干左腕が痺れるがすぐに治まるだろう。
ノーヴェさんは凌ぎきられたことが予想外だったのか、悔しそうな表情で右ポケットから六角形のデバイスらしきものを出す。
「ジェットエッジ!」
[Start up.]
光がノーヴェさんを包み、収まるとバリアジャケット姿となった。
つまりは本気で相手をしてくれるということだ。
「ありがとうございます。」
「強さを知りたいって本気かよ?」
「正気です。そして今よりもっと強くなりたい。」
「ならそんな事してねえで、真面目に練習するなりプロ格闘家目指すなりしろよ!単なる喧嘩馬鹿ならここで止めておけ。ジムなり道場なり紹介すっからよ。」
今度はこちらから行くことにした私は直立不動から構える。
「ご厚意痛み入ります。ですが、私が確かめたい強さは……生きる意味は、表舞台には無いんです。」
先程不意打ちのお返しとして突撃(チャージ)を行う。
右腕の脇を閉め、左腕を前に出す。足は膝を曲げ、いつでも突撃出来るように少し前に体重を掛ける。
相手が出方が解らずに思考して少しの隙を作った瞬間…
「って!!」
突進して右ストレートを顔面目掛けて攻撃する。
しかし、ノーヴェさんは受け流すような形で顔を左に動かし、回避する。
いや、少し力を込める方向の違いもあったのか、予想より大きくズレ、後ろに回り込まれてしまった。
だけど、これで終わりではない。
私は体を腰の回転を使って反転、更に突撃の際に曲げた左足を伸ばし、足裏を地に付ける。
そこから生まれるエネルギーを利用して再度突撃する。
「ちっ…!」
相手は右ストレートを繰り出すも、力が篭もってないし、速度も大したこともない!
その攻撃を少し前かがみに体重を落とすことで避け、右フックを勢いを殺さずに相手の腹部にぶつける。
「がっ…!」
相手はすかさず後ろにジャンプして距離を取る。
.
「列強の王達を全て倒し、ベルカの天地に覇を成すこと。それが私の為すべき事です。」
ノーヴェさんは着地し呼吸を整えたところで私に向かって突撃していく。
「寝惚けたこと抜かしてんじゃねえよ!昔の王様なんざ皆死んでる!生き残りや末裔達だって皆普通に生きてんだ!!」
そんなのは私にとって過去を忘れている、今更持ち出しても意味のないこと、そのように聞こえる。
私は突撃から続く連撃を捌く。
その中で拳と拳がぶつかり、互いに距離を置く。
「弱い王ならこの手でただ、屠るまで。」
人の幸せを踏み砕くことになっても成さねばならない、その一言を相手にぶつける。
「この……バカったれが!!」
私の言葉で堪忍袋の尾が切れたようだ。
彼女を中心に魔力の奔流があふれ出す。
「ベルカの戦乱も、聖王戦争も、ベルカって国そのものも、もうとっくに……終わってんだよ!!」
空中に魔力で構成された道を創る特殊な魔法が発動され、私に向かってくる。
それを迎撃しようとまた構えなおし……手足が動かないということは、バインド!?
「っ!!」
回避は出来ない、おそらく強い一撃が来る。
でも、その一撃を受けきれば……大きな隙が出来る!
「リボルバー、スパイクッ!!」
強烈な蹴撃が私の顔に直撃する。
がその前に僅かに脆かった左手のバインドを砕き、蹴りの軌道をずらした。
頬に直撃して口内を歯で切ってしまうが、お蔭でノックアウトを免れ、ノーヴェさんの足を左手で掴む。
「!?」
勢いを止めたところでチェーンバインドで拘束する。
「終わってないんです。私にとっては、まだ何も……。」
足先から練り上げた力を抜き手のままの右手に伝わせ、まるで剣のように振り下ろす。
これは今出来る『覇王流の技法』のうちの一つ、『断空』。
その技法を使った打ち下ろし。
覇王断空拳(はおうだんくうけん)
「弱さは罪です。弱い拳では……誰のことも守れないから。」
声を上げることもなく崩れたノーヴェさんが気絶していることを確認して、私は荷物を置いたロッカーへと歩き出した。
.
ロッカーに着くと、先程のダメージが私の体を襲う。
彼女の一撃、凄い一撃だった……危なかった。
この体は間違いなく強いのに、私の心が弱いから……。
フラフラになりながらも、自分の荷物の入ったロッカーに到着する。
「武装形態、解除。」
成長した自分から、元の……まだ子供である自分へと戻る。
帰って少しだけ休もう。目が覚めたらまた……
「!?」
携帯端末を取り出したら突然強い痛みが走り、力が抜けて床に倒れ込む。
ダメ、こんなところで倒れたら……。
ダメージが思った以上に大きく、動けずに私の意識は途切れていった……。
.
二ールside
翌日になり、スバルから昨夜に例の『覇王』と名乗る者がノーヴェを襲撃したという連絡が入った。
名前はアインハルト・ストラトス、ヴィヴィオが現在初等科で入っているサンクトヒルデ魔法学院の中等科1年生。
……ストラトスという苗字に一瞬反応したのは、皆には内緒だ。
今回の事件は当人同士で喧嘩両成敗という形で穏便に済ませたということで特に問題はないそうだ。
アインハルトは今聖王病院で眠っている冥王イクスヴェリアと、聖王のクローンとは言っても末裔とも言える我が娘ヴィヴィオにも将来勝負を仕掛けるつもりでいたようだが、恨みで狙う訳ではなく純粋に強さを証明したかっただったため、身構える必要はない。
しかし問題はそこではなく、この事件の発端となったその娘の抱える覇王イングヴァルドの記憶だ。
記憶とは言っても一部で、全てではない。
覇王イングヴァルドは古代ベルカ諸王時代にて王族として生まれた。
薄緑の髪、薄紫とアクアマリンのオッドアイが特徴で、アインハルトも同じだというのは確認済み。
そんなイングヴァルドに関係あったのが聖王女と呼ばれるオリヴィエ、ヴィヴィオのオリジナルとなった人物だ。
「あれ、二ールが見ているのって、古代ベルカ乱世時代の王達っていう本だよな?」
ふと16畳分ある休憩室で読書に集中していた意識を声を掛けた人物に向ける。
声を掛けたのは今では同じ職場の同僚となったヴィータだ。
「ああ、ちょっと気になることがあって書斎から引っ張り出して来たんだ。」
書斎は二階にある俺となのはの寝室の隣で、ここに飛ばされて来てから集めた本がズラリと並んでいる。そして俺の家での仕事場でもある。
余談だが、昨夜にライルにその書斎で寝てもらった。しかし、本がいっぱいあるのが気になり寝られないと苦情を言われてしまったため、仕方なく隣のフェイトの家に寝てもらうことになった。
流石に一階のソファにするのは風邪をひくかもしれないためだ。
「大方、昨日ノーヴェとスバルが捕まえた自称覇王のことが気になったんだろ?」
「当たりだ。誰かから聞いたのか?」
「なのはが、教えてくれた……。」
項垂(うなだ)れ、甘すぎて胸焼けして吐きそうな表情をしながら答えるヴィータ。同じ職場で教導官としては同じ年月のキャリアだが、なのは以外で一番相談出来る相手でもある。……同時に、なのはから惚気話含めて俺の話を聞いているようだ。
どうやら今回は惚気話も相当聞かされたようだ。
「すまないな。」
苦笑しながらヴィータに予め買っておいた甘くないストレートティーの缶を渡す。
「サンキュ。ゴクッ、ゴクッ……ふう、生き返る。」
一気飲みしたヴィータは後ろにあったゴミ箱に後ろを見ずに手首のスナップを効かせて投げる。
缶は見事にゴミ箱の……角に弾かれ、ヴィータの後頭部に当たる。
「いたっ!……うう、地味に痛い……。」
しゃがんで頭を抑えるヴィータがドジな女の子に見えて可笑しくなる。
「ははははははははは、横着するからそうなるんだよ。」
まだ痛いだろう後頭部を右手で撫でながら注意する。
「う、うるせえな……。」
ヴィータはさっきのことが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。所謂ツンデレだ。
「どうせツンデレだって思っているんだろ?」
口を尖らせて俺の思っていることを当てるヴィータだが、もうかれこれ7年の付き合いだから解ってもおかしくない。
「まあそう拗ねんなって。……それより、覇王を名乗る女の子の目的も聞いているだろ?」
さっきまでの浮ついた気持ちを切り替えたヴィータは真剣な表情になる。
「勿論聞いてるぞ。聖王や冥王をぶっ倒したいとか聞いたけど、要は自分は強いということを証明したいっつうことだろ?」
こういう洞察力や義理堅いところもあるから、俺もなのはも安心して相談出来る。
「そうだ。だが聞いた限りでは、純粋に強いことを証明出来れば良いようだし、十分に救いようがある。」
只事ではないが、その強さをスポーツとかに向けることが出来れば問題が大きくなることはないだろう。
「けどよ、ノーヴェたちがもう動いているらしいし、お前が心配することもねえんじゃねえか?それにヴィヴィオに会えば気も変わるだろ。」
そう、おそらく今、ノーヴェたちが段取りを組んでアインハルトにヴィヴィオを会わせるということをやっている。
「ははっ、そうだが念のためにライルに様子を見に行かせた。」
まあ、保険という意味で行かせただけだから大丈夫だろう。
だが、俺の一言にヴィータは額を抑えて呆れる。
「……すっかり親馬鹿になってるじゃねえか、アホらし……。あたしは、先に職場に戻る。」
とことん呆れかえってしまったヴィータは疲れた顔をして休憩室を出る。
そんなヴィータに内心謝りながら、俺も本を閉じて新開発のデバイスの試験運用の仕事を始めるためにその場を後にする。
.
ライルside
仕事で忙しい兄さんに頼まれて、アインハルトという女の子とヴィヴィオが出会うところを見届けに指定された場所であるカフェテラスに来ている。って言っても、ウェンディもいる辺り、どうにも護衛が三人だけでないようだから過保護な気がする。
俺がそこに着くと、ノーヴェと一緒に青いショートヘアの女の子とオレンジのロングヘアの女の子が座っていた。兄さんから聞いたスバルとティアナという兄さんの年下の同僚だ。
服装は、流石にソレスタルビーイングの制服は目立つため、私服にした。ライトグリーンのYシャツに黒いストーンウォッシュのダメージジーンズという出で立ちだ。
「二人とも、せっかくの休暇だろ?別にこっちに付き合わなくても……あっどうもライルさん。」
「よう、ノーヴェ。俺がここに来ている訳は兄さんから聞いているだろ?」
談笑していたノーヴェたちが俺に気付いて顔を向ける。ノーヴェ以外の二人は俺の顔を見て驚くが、今更だから放っておく。
「はい、確かに聞いてます。」
ノーヴェは同席に二人の反応を気にせずに挨拶する。
「で、同席している二人は俺と兄さんと顔が同じだから驚いてんだろ?」
俺の言葉に図星を突かれたからか、戸惑う二人。
「えっ、えあっ……。」
「す、すいません、ライル……さん。」
「ぷっくくっ……。」
挙動不審になっている二人。ノーヴェはそんな二人を見て横を向いて笑いを堪えている。
気付いた二人の顔は真っ赤だ。
「笑いすぎだノーヴェ。」
やったのは俺だが、初対面でいきなり恥を掻かせるのは色々まずいので睨みながら注意する。
「ご、ごめん……。」
叱られたノーヴェを見てスバルとティアナも落ち着いたようだ。
「おほん、まあ既に聞いていると思うが自己紹介をさせてもらうぜ。俺の名はライル・ディランディ、見ての通りニール・ディランディ…兄さんの双子の弟だ。」
「さっきはお見苦しいところをお見せしてすみませんでした。私はティアナ・ランスターです。皆ティアって呼んでいるのでそう呼んでください。で私の隣に座っているのが…スバル、挨拶。」
ティアはのんきにジュースを飲んでいるスバルを睨む。
「そんなに睨まないでよティア~。んっく、初めまして、あたしはスバル・ナカジマです。スバルって呼んでください。」
スバルを見て思うのは、犬耳が似合いそうな子だな。
「おう、よろしくな。ところでノーヴェ、兄さんからスバルやティアナの他にお前に姉さんがもう一人来るって聞いていたんだが、人数が多くないか?」
隣のテーブルにいるウェンディを含めた5人のことを聞かれたノーヴェは頭を抱えて唸る。
「確かに、チンク姉だけ誘ったんですが……何でお前らまでいるんだよ!」
そんなノーヴェの叫びも露知らず、ウェンディを含めた4人は和気藹々とお喋りを楽しんでいた。
「えー、別にいいじゃないっすか。」
行儀も何もお構いなしにサンドイッチを頬張りながら喋るウェンディ。っていうか、この子は本当に自由だな。
「時代を超えた聖王と覇王の出逢いなんてロマンチックだよ。あと初めまして、私はディエチ・ナカジマです。ちょっと落ち着きのない形での自己紹介で申し訳ないですが、よろしくお願いします。」
「どうも、ご丁寧に。」
ティーカップを置いて、わざわざ立ってお辞儀をするディエチに対して俺も頭を下げる。この子は本当に良い子だし、礼儀には礼儀で返さないと失礼だ。
「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし。」
「護衛としては当然。」
同じく紅茶を嗜みながら話す長い茶髪でカチューシャの似合う女の子と執事服の似合いそうなボーイッシュな女の子。顔立ちが似ているあたり、俺と同じ双子かもしれない。
その中で一人だけ、長い銀髪で右目に眼帯を付けている小柄な少女が紅茶を飲みながらクールに話を聞いていた。
「すまんなノーヴェ、姉も一応止めたのだが……。あと申し遅れてすまない、私はチンク・ナカジマ。そしてそっちの双子が……」
「オットーです。」
ボーイッシュな女の子がオットー。
「ディードです。」
カチューシャの女の子がディードって訳か。
.
「う~ん、まあ見学自体は構わないけど余計な茶々は入れんなよ?ヴィヴィオもアインハルトもお前らと違って色々繊細なんだからよ。」
ノーヴェがチンク以外の4人に注意する。
「「「「は~い。」」」」
ディエチは大丈夫そうだが、ウェンディと双子ちゃんは妙に元気に返事するから少し心配になる。
あと双子ちゃん、お前らは何故そこでサムズアップする。
心の中で突っ込むが口には出さない。
「ノーヴェ、ライル叔父さん、皆ー!!」
店前の通路から元気な声が聞こえて、俺を含め全員が声が聞こえた方向を向く。
そこには、学校帰りで制服を来たヴィヴィオ、リオ、コロナがいた。
俺の名前をさらっと言ってくれたことが少し嬉しかった。
「こんにちはー。」
「あー、やかましくて悪いな。」
「ううん、全然。」
ノーヴェとヴィヴィオが話している間に、リオとコロナはスバルとティアナに挨拶をする。
オットーとディードは立って頭を下げる。…さっき思ったことは前言撤回、心配する必要はないようだ。
「こんにちは。叔父さんは何でここにいるの?」
「兄さんに頼まれて、ここにいるんだ。」
「やっぱりそっか。いつもじゃないけど、過保護な気がするんだよね。」
呆れと共に愚痴を言うヴィヴィオ。邪険にしている感じではないが、少し不満に思うようだ。
「はははっ、けど兄さんは兄さんで大切に思っているのは間違いないし、それに……。」
それに、聖王オリヴィエのクローンというだけで狙われることもあると兄さんから聞いたし、そんな兄さんも俺以外の家族を一度失ったことで、自分を犠牲にしてでも新しく出来た家族を失うのが恐がっていることが俺には解った。
が、そんなことを今ヴィヴィオに言えるはずがない。
「それに、どうしたの?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ。」
誤魔化しとして、自分の腰ぐらいの身長しかないヴィヴィオの頭を撫でる。
撫でられたヴィヴィオは気にするのを止めて、ノーヴェの椅子の背もたれに寄りかかる。
ノーヴェがこれから来る子について説明している間に、俺はポケットに入っているサバーニャを取り出す。
[何でしょうか?]
<少し暇潰しにイメージファイトをやりたいから兄さんからもらった仮想戦闘データを出してくれ。>
これは兄さん、ひいては兄さんの奥さんであるなのはが9歳頃からやっていた2つ以上のことを同時に思考・進行させるマルチタスクの一環である。
[では、今回は大型ワームが4体でフィールドが砂漠のパターンD315にします。制限は無しですか?]
どのパターンのイメージになるかは基本的にサバーニャに任せている。
<ああ、それで頼む。>
誰も座っていないテーブルの周りを囲む椅子の一つに座って、イメージファイトを開始。
今回のフィールドとなる砂漠が脳裏に広がり、地中から大きさが10mぐらい、ミミズのようで歯が内側に向かって生えた口が不気味なワームが4体、顔を出す。
俺の姿は既にGUNDAMフォーム、つまりはガンダムサバーニャそのものとなっている。
<いくぜ、ライフルビット展開!>
腰の後ろに備え付けられたスラスターから伸びるアームに左右5基ずつ設置されたホルスタービットからライフルビットⅡが10基飛び出す。
そのうち2基からグリップがせり出て、左右の手で掴んで取り出し、前方の2体の頭に向かって撃つ。
本来ならビームの色はピンクだが、俺にも魔力光の色というのがあり、ビームの色がライトグリーンになっている。
そのライトグリーンのビームが2体のワームの頭に命中する。
しかし貫通はおろか、命中した箇所が僅かに焦げただけだった。
[このワームは頭の殻が硬いため、砲撃など威力の高い魔法でないと倒せません。さあ、どうしますか?]
生憎、最終決戦のような砲撃をする暇がないし、そもそもホルスタービットの数も足りない。
弱点があるだろうが、殻の固い4体もいるせいで簡単には見つけられない。なら…
<そんなもん、一点突破あるのみだ!>
そうと決まれば、まずは前方の2体に当てた頭に5発ずつ当てる。
<やっぱ硬えって、危ねっ!>
後ろから1体が突っ込んできたのが影ですぐに気付き、前進して避ける。
<キュアアアアアア!!>
だが、奴らの棘の付いた尻尾らしきものが俺を突き刺さんと地面から突き上げてくる。
しかも鳴き声が黒板を引っ掻いたような音みたいで耳に痛い。
「ちっ!」
更に尻尾の棘がまるでミサイルのようにシャワー状に発射された。
流石にこれはライフルビットⅡがあっても捌ききれないため、上下左右に回避する。
「何だかデジャヴを感じるぜっとお!」
棘の雨が止みライフルビットⅡでワームを全部牽制しながら上昇、ワームが伸びても届かない地点、約100mの高さまで到達する。
[やってしまいましたね、マイスター。あのワームは尻尾の棘から出すガスで100mでも届くジャンプが出来ます。]
サバーニャがそう警告を出すと、警告通りワームが紫のガスを噴き出して一斉に飛んできた。
「へっ、俺をなめんじゃねえぞ!」
それでもサバーニャが裏を掻く性格だということを数日のイメージファイトで理解していた俺はライフルビットを前方に展開、飛んでくるワームに向かって乱れ撃つ。
幸い、ワームが捕食しようと口を大きく開けていたため、口の中に集中的にビームの雨をぶち込んでやった。
お蔭で4体のワームは口から煙を出しながら落下していった。
[イメージファイト終了、スコアを記録しますか?]
<当然記録だ。>
[了解しました。]
そうしてイメージで出来た砂漠が頭から霧散し、元の喫茶店へと意識を戻してみたら、足音が聞こえてきた。
「失礼します。ノーヴェさん、皆さん、アインハルト・ストラトス参りました。」
.
碧銀の髪が印象的な女の子がノーヴェの方へと歩いていく。
………アインハルト・ストラトス?
ま、まさか、あの時の嬢ちゃんなのか!?
ヴィヴィオはアインハルトを一目で気に入ったのか、じっと見たまま目を離さない。
「すみません、遅くなりました。」
「いやいや、遅かねえよ。でなアインハルト、こいつが例の……」
明らかに兄さんやなのはに見せる表情と違う、待ち焦がれていた……そんな感情がヴィヴィオから読み取れる。
「えと…初めまして!ミッド式のストライクアーツをやってます、ヴィヴィオ・D・高町です。」
ヴィヴィオが手を出すと、アインハルトもそれに応じて握手を交わす。
「ベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです。」
などと冷静に分析しているが、何故か嫌な予感がしてならない。そういう予感はいつも当たる。
頼む祖国アイルランドの大英雄、クーフーリン!ゲイボルグで俺に起こる災厄を刺し貫いてくれ!!
「あの、アインハルトさん?」
ヴィヴィオと握手したまま呆けているアインハルトにヴィヴィオが困惑した表情で尋ねる。
「……ああ、失礼しました。」
「まあ二人とも格闘技者同士、ごちゃごちゃ話すより手合わせでもした方が早いだろ。場所は押さえてあるから早速行こうぜ。」
「はい。ですが、その前にその人にも一言言っておきたいことが。」
「そうなのか?」
ということはやはりあの時の嬢ちゃんか。
「ああ、あの時のことは別に気にしてないから、別に謝らなくてもいいぜ。」
「いえ、怪我をさせてしまったことは申し訳なく思っているのですが、その……
右胸を揉んだことは、わざとなのか、そうでないのか教えて欲しいのです。」
和やかな雰囲気が、一瞬にして冷たい空気に変わった。
ゲイボルグは……俺の心臓を刺し貫いた。
「「「…………最低。」」」
ノーヴェ、ティアナ、ディエチの冷たい眼が突き刺さる。
「最低ッス。」
ウェンディが胸を隠しながら睨む。
「ライルさん、それはないですよ。」
呆れるスバル。
「ライルさんの趣味はロリコンか。」
勝手に納得するチンク。
「「ぷふっ………プイッ。」」
眼を合わせようともしない双子。そして、今笑っただろ?
「ヴィヴィオ、アインハルトさん、こっちに来て!」
「その人に近付いちゃダメだよ?」
自分たちのところに来るよう促すリオとコロナ。
「お、おい、それは誤解だ!あの時は気絶していたし、事故だ、不可抗力だ!お前だけでも信じてくれヴィヴィオ!!」
声高々というか、いっぱいいっぱいで必死に訴える俺にヴィヴィオが顔を向ける。
その笑顔は天使のようなスマイルで……
「これからはあまり近付かないで下さいね、ライルさん(・・・・・)」
死刑宣告の悪魔の言葉だった。
「クリス、セットアップ。」
ずっとヴィヴィオの隣で浮遊しているクリスに笑顔で指示を出すヴィヴィオ。心なしかクリスが怯えているように見える。
「スコシアタマヒヤソウ、オジサン。」
ヴィヴィオの後ろに魔王が見えた。
「一閃必中、アクセルスマ―――――――ッシュ!!!」
「あぶろばあっ!」
拳に虹色の魔力を纏ったアッパーが、見事に俺の顎を捕らえる。
「はっ!?ラ、ライルさん、大丈夫ですか!?」
脳が揺さぶられ意識が途切れる寸前、アインハルトが俺に近付いて謝っているのが見えた。
素直過ぎるっつうのも考えものだな、サバーニャ………ガクッ……。
.
ヴィヴィオside
アインハルトさんと初めて会った私ですが、何故か不思議と懐かしいような、心が暖かくなるような感じがしました。
まるでずっと逢いたかった恋人に漸く逢えた、そんな感じです。
でも挨拶の後のアインハルトさんの一言で、つい間接的とはいえ台無しにしたライル叔父さんの顎を捕らえて吹き飛ばしてしまいました。
胸を揉んだのは、事故なのは解ったのですが、雰囲気を台無しにされてつい、キレてしまいました。
その叔父さんは皆と同じように立って見学してます。ただアインハルトさんが自分の誤解ということで場が収まったものの、何人かが今でもライル叔父さんと距離を取っているので流石に落ち込んでしまったようです。
後で叔父さんにちゃんと謝ろう。どんなこともやりすぎはいけないもんね。そしてごめんないさいなのはママ、言いつけを破ってしまいました。
それはさておき、今私は区民センター内のスポーツコートでアインハルトさんとのスパーリングをするため、準備運動をしています。
私は赤いTシャツに白いスパッツと動きやすい格好に怪我をしないように手足に防具を着けています。アインハルトさんはグレーのタンクトップに白いTシャツ、緑色のスパッツで手足の防具は私と同じです。
相手のアインハルトさんは終始無表情で準備をしています。心中でどんなことを考えているのかはまだ解りません。
でも、一度手合わせをすれば少しでも解るはずです。
準備も終わり、互いに構えを取るとアインハルトさんの足元からベルカ、それも古代のものの魔法陣が出てきました。身体を強化する魔法だと思いますが、それよりも今から始まるスパーが楽しみになってきました。
「スパーリング4分1ラウンド、射砲撃と拘束(バインド)は無しの格闘オンリーな。」
審判はノーヴェ、そしてこの場所を取ってくれたのもノーヴェ、本当に頭が下がります。
構えた状態で小さくステップ、いつでも突っ込めるようにする。
「レディ…ゴー!」
開始と同時に距離を詰め、右アッパーで防御を崩しに掛かる。
でもアインハルトさんに防ぎきられてしまう。
左ジャブ、右フリッカー、右ハイキックと隙を作らないようにラッシュをかけていく。
「ヴィヴィオって、変身前でも結構強い!?」
ティアさんが驚いているけど、アインハルトさんは何でもないように捌き、避ける。
「練習頑張っているからね。」
スバルさんの言葉に全然強くないと言いたいけど、今は目の前に集中!
ジャブの連打で牽制して、右アッパー!
と拳を振り上げたところで下に潜られ、懐に入ってしまった。
大きな隙を作ってしまったと思ったところで、胸の中心に掌底を当てられて吹き飛ぶ。
でも壁にぶつかるところにオットーとディードが入ったお蔭でぶつからずに済んだ。
それにしても、掌底でここまで飛ばすなんて……アインハルトさんは、スゴいっ!!
でもアインハルトさんは浮かない表情で私に背を向ける。
「お手合わせ、ありがとうございました。」
さっきまで楽しかった時間が一瞬にして、雲がかかったように重い空気に変わりました。
「あの……あのっ!!すみません、私何か失礼を……?」
「いえ。」
「じゃ、じゃあ、あの、私……弱すぎました?」
「いえ……
趣味と遊びの範囲内(・・・・・・・・・)
でしたら充分すぎる程に。」
私が伝えたかったことが伝わっていませんでした……。
「申し訳ありません、私の身勝手です。」
肝心なことが伝わってないなんて、そんなの悲しいよ!
「あのっ!すみません、今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!今度はもっと真剣にやります。だからもう一度やらせてもらえませんか?今日じゃなくていいです、明日でも……来週でも!」
アインハルトさんが強いのは、強くなりたいのは解りました。だから、私も真剣に強くなりたいんだと伝えるためには一度だけでなく何度でもぶつかっていく必要があるんだと強く思いました。
.
ライルside
23:39 高町・ディランディ家
結局スパーリングはアインハルトが止めたことで中止となり、その場はお開きとなった。
ずっと顎が痛かったが、それよりもヴィヴィオとアインハルトのことが気になったため、気にしていられなかった。
だが、ヴィヴィオの願いで来週に練習試合という形で二人は再び相対することになった。
ヴィヴィオは帰ってからも浮かない顔のままだった。
で俺はというと、兄さんとなのはと共にリビングで今日のことを話していた。
「そうか、やっぱヴィヴィオが伝えたかったことは伝わらなかったか。」
「うん、ノーヴェが言うには長年の積み重ねと当時の動乱も絡んでいるから難しいんだよね。」
覇王イングヴァルドと聖王女とも聖王とも呼ばれたオリヴィエ、彼らの別れが……イングヴァルドが抱いたオリヴィエを救えなかったという強い後悔が、今のアインハルトが強くなりたいという願いと結びついている。
「兄さんたちがどう思うか知らねえが、この問題はアインハルトとヴィヴィオたち本人で解決するしかない。」
「う~ん、私達に出来ることは機会を少しでも多く作ることだと思うんだけど……。」
なのはは俺の意見に対してやんわりと異見を述べる。一つ言葉が足らなかった。
「それはノーヴェたちが真っ先に動いているから心配ない。そういうことだろ、ライル。」
流石に兄さんは俺の考えを解っている。もとい、フォローをさせてしまった。
「にしても、ヴィヴィオって何だか刹那に似てるところねえか?」
何というか、諦めの悪さといい、分かり合おうという姿勢といい、純粋なとこも似ている。
実際、9時まで近所の公園で練習をしていた。
「ははっ、それを言ったらなのはも似ているとこがあるぜ。無茶するとことかな。」
確かに無茶していたな。肩を撃たれたまま戦ったこともあったしな。
それで連戦に耐えきったんだから流石だ。
「むう、イジワル……。」
拗ねたなのはは、頬を膨らませてそっぽを向く。
正直、兄さんも無茶をすることがあるが、今言うとアインハルトの件が絡んでややこしくなるので言わないでおいた。
「そんなに拗ねるなって。さて、そろそろ寝ようぜ。なのはの体に響いたら大変だ。」
なのはに寝るように促す兄さん。実際もう日付が既に変わっている。
「うん、お休みなさい。」
大人しく従うなのはは兄さんと共に寝室がある二階へ続く階段を登っていく。
俺もここで考えることがこれ以上ないため、兄さんたちの家を出て居候中の隣のフェイトの家へと歩いていった。
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ティエリアside
彼に案内されて暫くして、森を抜けることが出来た。
するとそこには、宿泊施設らしき建物と別荘と思われるコテージがあった。
「君は、ここに住んでいるのか?」
虫人間らしき彼は首を縦に振って肯定した。
「あっ、ガリューお帰りなさい!」
そこに薄紫の綺麗な長髪の14歳ぐらいと思われる少女が箒を持ってこっちに来た。
「山菜は取れたの……ってガリューの後ろにいる人は誰なの?」
虫人間、ガリューは少女に向けていた目をこっちに向ける。
眼が自己紹介をしてくれと訴えているように見えた。
「僕の名はティエリア・アーデ。森で彷徨っていたところで彼、ガリューに助けてもらった。」
伊達眼鏡のズレを直しながら名前とどうしてガリューの後ろにいるのかを紹介した。
「名乗ってくれたのならこっちも名乗らないとね!私の名前はルーテシア・アルピーノ。ガリューは知っているから後はママだけね。」
そこにルーテシアによく似た母親らしき人がロッジの入り口から出て来た。
いや、ルーテシアが母親似なのか。
「ルーテシア、お客様が来ているの?」
「うんママ、紹介するね。この人はティエリア・アーデさん。」
「よろしくお願いします。それで、非常に差し出がましいのですが、しばらくここに置いていただけないでしょうか?」
正直怪しまれるのが普通、なら断られるだろう。
「私からもお願い。この人はいい人だってガリューも言っているし。」
彼の言葉が解るのか!?後で訳を聴いてみよう。
それより、まさか好転するとは思わなかった。
「ええ、いいわよ。」
まさかのあっさり承諾。ここまでトントン拍子になるとは思わず、裏があるとつい思ってしまう。
「よかったね。でも、働かざるもの食うべからずとも言うし、しっかり働いてね。」
笑顔で僕に働くよう促すルーテシアだが、その方が僕も遠慮しなくて済む。それに、こういうことを言う彼女に裏があると思うのは無粋か。
「ただで置いてもらうのは忍びないかと思っていたから丁度いい。よろしく、ルーテシア、ガリュー、あと……」
「メガーヌ・アルピーノよ。よろしくね、ティエリアさん。」
かくして、僕はアルピーノ家で居候兼手伝いをすることになった。
to be continue...