魔法少女リリカルなのはVivid〜深緑の輝きは癒しと未来を創る光〜 作:グリューン
―ライルside
9:26
あれから一週間が経った。
ヴィヴィオは毎日欠かさずノーヴェと一緒にトレーニングをして、アインハルトとの試合の為に既に出かけて行った。
俺もそんなヴィヴィオに触発されて、毎日魔法のトレーニングをしている。
攻撃魔法のコントロールの為の缶を当てる練習、兄さんに教えてもらった魔法の練習、なのはがイメージファイトと共にやっていた『魔導士養成ギプス』など、とにかく魔法に慣れる練習をしているのだ。まあギプスとは言っても、魔力に負担を掛けるリストバンドを両腕に付けているだけだが。
で今はそのギプスをした状態で10kmを走り終えたところ。
タイムは50分ジャスト、本当なら35分とかはいけるんだが、ギプスの影響がやはり大きい。
「ふう、ふう、やっぱり…この状態で動くのはきついな。」
筋トレのように体が重く感じる。
まだ朝日で、外の空気が15度と涼しげなのが幸いだ。俺も兄さんもそうだが、育った環境が寒いか涼しいが多かった為に暑いのが苦手だ。
[それでもこれを続けていれば確実に魔力総量が増えますし、コントロールも容易になります。ただタバコはしばらく控えた方がいいですね。]
実は俺の魔力ランクはC、このままではサバーニャを使いこなせないらしい。
当然か、サバーニャの力を発揮するにはCだと出来ることが限られる。
「まあ、こういうのは地道にやらねえとな。しかし、お前との賭けに負けちまったなあ。」
実はつい数日前、タバコをここにいる間禁止するようにサバーニャから言われていた。
だがストレス解消で吸っていた俺は反対、それでも引き下がらないサバーニャに条件として『10kmマラソンをした時に45分以下ならタバコは禁止する』という約束をしたのだ。
結果は、5分オーバーで俺の負け。この世界ではタバコとオサラバすることになった…。
[では、タバコをダストシュートして下さい。]
さようなら、俺のタバコ…。
そんな別れの言葉を心の中で呟きながら公園の備え付けの金属製のゴミ箱へとダストシュートした。
持っていたタバコに別れを告げてフェイトの家へ入ろうとしたら、なのはが大きく膨らんだお腹を気にしながら自分の家の庭で箒を掃いていた。
「お帰りなさい…どうだった…?」
笑顔だが、どうにも無理をしているように見える。いや、疲労の色が濃いし顔色が悪い。
「ちときついが練習になったぜ。それより大丈夫か?気分が優れないように見えるが。」
女性の妊娠や出産の知識は残念ながら俺にはないが、この様子だけでももうすぐ生まれることが分かる。
[マイスター、レイジングハートから念話です。]
サバーニャからの念話に一言繋ぐことを伝える。
[ここ数時間、お腹の胎児が動いています。その上で腹部からの激しい痛み、つまりは陣痛が始まっています。申し訳ないのですが、私はこのままマスターの様子を見ているので二ールに病院へ連絡してもらうように伝えてもらえませんか?それが出来たら、フェイトにも連絡をお願いします。]
初めてのことで慌てそうになるが、慎重にしなくては最悪彼女の命に関わると思い、落ち着くように深呼吸する。
落ち着いたところで冷静に考える。
レイジングハートの報告でなのはの状態が一刻を争うことが分かった。
そして、今日ヴィヴィオがアインハルトに認めてもらうための試合が廃棄倉庫の一角で行われる。
なるほど、真剣に練習していたヴィヴィオの邪魔にならない為にやせ我慢していたって訳か。
ったく、意地を張りやがって!
「…大丈夫だよ。今日はヴィヴィオにとって大事な日だから少しぐらい…我慢…ううっ。」
俺の心境を察してか、やせ我慢を言うものの、持っていた箒を手放してお腹を抑えだす。
「お、おいっ!」
更に座り込む形で崩れそうになったなのはを、お腹に衝撃が行かないように、そして触らないように配慮しながら脇を持って崩れるのを防ぐ。
流石に二人分の命を宿しているからか、割と重い。が、ガンダムマイスターとしての気概も相まって気合で支える。
ここで抑えなくてガンダムに乗っていられるか!!
それにしたって、フェイトが以前になのははよく無茶をすると言っていたが、これは無茶しすぎだ!
その証拠に泣きそうになるぐらい痛いのか、目に涙を少し溜めている。
[急いで連絡をお願いします。]
レイジングハートも焦っているのか、淡々としながらも急かしてくる。
<分かった、すぐ連絡する!ヴィヴィオにはアインハルトとの試合が終わってから伝えるか?>
[はい。ではケルディムとバルディッシュに繋いでください。]
病院へ運ぶ手配ぐらいは出来る!
<どうした、ライル?>
<まさか、なのはに何かあった?>
ホログラフモニターが出て二人の姿が現れる。兄さんは白い制服、フェイトは黒い制服だ。
兄さんもフェイトも建物、つまりは仕事場の一部であるオフィスにいるのだろう。
「そのまさかだ!陣痛が始まったんだよ!!」
<何!?>
<大変!>
「兄さんは今から病院に連絡してくれ。フェイトは病院に来れるか?」
自分で出来ればやりたいが、残念ながら兄さんじゃないと分からないことが出てくるので断念した。
<分かった、すぐ手配する!その後はそのまま様子を見ていて、救急車が来たら乗らずにヴィヴィオのところへ行ってくれ。俺は仕事がもう少しで…>
兄さんが喋っているところで三つ編みで縛った赤い髪の女の子が割り込んできた。
<仕事の方はあたしの方でどうにかするから、二ールは行って来い!父親になるんだからな。>
<…すまねえヴィータ、恩に着る!という訳だ、俺はすぐにそっちへ戻る。>
「ああ、分かった。ヴィヴィオは試合が終わったらすぐに連れて行く。」
兄さんは仲間の気遣いでどうにかなりそうだ。
<私も仕事中だけど、すぐ病院へ行くよ。シャーリー、悪いんだけど…!>
<大丈夫です、行ってください!なのはさんとニールさんの子供が生まれるところを見てきてください。私は生まれた後に会いに行きます!!>
フェイトの後ろで覗き込んで見ていたシャーリーという眼鏡の嬢ちゃんがサムズアップして、フェイトに行くように促す。
<ありがとう、シャーリー。ライル、ヴィヴィオのことはお願いね!!二ールは焦らないでね!>
俺はともかく、兄さんへの気遣いを忘れないフェイト。
<了解だ!>
「オーライ、任せろ!」
今までとは違う戦いが始まった。
.
ヴィヴィオside
13:20 アラル港湾埠頭 廃棄倉庫区画 試合時間 10分前
本来なら誰もいないこの場所、そこに今、私とノーヴェ、友達のリオとコロナ、チンクとディエチにウェンディ、オットーとディード、ライル叔父さんがいます。
ただ何故かライル叔父さんがいつもよりソワソワしている気がします。右足をまるで相手が待ち合わせに遅れた時のように小刻みに踏み続ける…謂わば貧乏揺すりをしています。そもそも、叔父さんは皆より来るのが遅く、ママの車を借りて来たのです。何かあったとしか思えません。
それでも、試合に集中する為に一度そのことは忘れます。
…今日はアインハルトさんとの再試合。
でもただの試合ではなくて、過去も生まれも関係ない、互いの気持ちを伝えあう試合。
仲良くなりたい、でも私は格闘技(ストライクアーツ)を真剣にやっているんだと伝えたい!
その為の練習を1週間ノーヴェとやってきたんだ。
「お待たせしました、アインハルト・ストラトス参りました。」
スバルさんとティアナさんの後ろからアインハルトさんが来た。
「来ていただいてありがとうございます、アインハルトさん。」
私はお辞儀をしながらお礼を言う。横で浮遊しているクリスも私と同じようにお辞儀をする。
「ここな、救助隊の訓練でも使わせてもらってる場所なんだ。廃倉庫だし、許可も取ってあるから安心して全力出していいぞ。」
「うん、最初から全力で行きます。…セイクリッド・ハート、セット・アップ!」
制服姿から成長し、バリアジャケットを纏った大人モードとなる。
「…武装形態。」
バリアジャケットのような武装を身に纏った大人モードのアインハルトさんは、覇王イングヴァルドが身に纏っていた武装を思わせる格好だ。
「今回も魔法はナシの格闘オンリー、5分間1本勝負。」
いつでも行けるように構えを取る。
「アインハルトさんも大人モード!?」
リオとコロナはアインハルトさんの姿に驚くが、私は集中力を切らせたくないので今そのことは考えない。
「それじゃ試合…開始!」
アインハルトさんは悠然と構えを取る。余裕ではなく、考え事をしながらだからだろう。
それでも、凄い威圧感…。
一体どれくらいどんな風に鍛えてきたんだろう。
勝てるなんて思わない、だけど、だからこそ一撃ずつで伝えなきゃ…
『この間はごめんなさい』と―――――!!
先制しようとするけど、アインハルトさんの出だしの方が早く、右の拳の一撃を両腕をクロスして防御する羽目になってしまった。
危ない、もう少し遅かったら痛い一撃を喰らうことになっていた!
それでも、アインハルトさんの攻撃はまだ始まったばかり。
左のストレートを顔を後ろに下げて回避、次の右ストレートを左腕で流し、左フリッカーをしゃがんで避けて…
左足で踏み込んで懐に全力の一撃!
伝えるんだ私の全力、私の格闘戦技(ストライクアーツ)!!
.
アインハルトさんのお腹に拳をぶつけたものの、咄嗟に後ろに少し下がったので威力はそんなにない。
だから、これで切らずに追撃として前に踏み込み、左のストレートをぶつける。しかし、今度は両腕を交差する形でガードされ、反撃のチャンスを与えてしまった。
パンチのラッシュで畳み掛けられ防戦一方、一発を顔面に受けてしまう。
でも少し大振りで拳を構えたのが見え、右目が痛いのも我慢してクロスカウンターで右拳をアインハルトさんの顔面に向かって突き出す。
結果は、クリーンヒット。アインハルトさんの攻撃を紙一重で避けての一撃。
「やった!?」
リオか誰かが言っていたのを気にせず、再び追撃に出る。
「はあああっ!」
左右のストレートをもう一度顔に向けて放つも、今度は手の甲を使って流す形で捌かれてしまう。
更に右側に隙が出来た事に気付くのが遅れて、右腕でガードするも、まともにガードした事で袖が吹き飛び、後ろに倒れそうになる。
それでも、コンクリートの地面に左手を付けてどうにか堪えて、蹴り上げでの反撃を試みる。
空振りに終わり、体勢を立て直すと胸元を殴られてしまう。
…間違いない、アインハルトさんのベルカ古流武術は手のみを使った武術。この前もそうだけど、足技がない。
というより、足は回避かあるいは、強力な一撃を生み出すための力場として使うということなのだろう。
なら一発一発の威力が高いのも、なかなか攻撃が当たらないのも頷ける。
でも私には、大好きで、大切で、守りたい人がいる。
小さな私に強さと勇気を教えてくれた
世界中の誰より幸せにしてくれた
大きな背中で生きることの意味を示してくれた
…だから生きて強くなるって約束した
強くなるんだ、どこまでだって!!
「ああああああっ!!」
右の拳に全力を込めて、拳の一撃を叩き込む!
その一撃は、アインハルトさんのナックルガードを破壊する。
でも…アインハルトさんの目は焦りどころか、何かに狙いを定めていた。
「覇王…」
アインハルトさんが地面を擦らせながら、足に力を溜め、その力を拳に伝えて打ち出す。
防御は、もう間に合わない。
「断空拳!!」
アインハルトさんの拳は私のお腹を捉える。
「かはっ!」
吹き飛ばされる寸前にアッパーを顎に当てるのが精一杯だった私は、廃倉庫のシャッターまで吹き飛ばされたところで意識を失った……。
.
ライルside
ヴィヴィオとアインハルトの試合の結果は、ヴィヴィオが手痛い一撃を喰らって気絶したことによる惜敗。
何故惜敗かというと、アインハルトがヴィヴィオをノックアウトする際に顎に一撃掠ったことで、今フラフラになっているからだ。
だが、ヴィヴィオが頑張った甲斐もあって、アインハルトが後に以前侮ったことを謝罪すると約束してくれた。つまりは、ヴィヴィオを認めてくれたということだ。
[マイスター、ケルディムから通信です。繋ぎますか?]
「ああ、頼む。」
待機状態のサバーニャを左ポケットから取り出して翳すと、通信用のスクリーンが出て、兄さんの顔が映る。
<ライル、試合はどうなった?>
「ヴィヴィオが負けたけど、ヴィヴィオの目的は達成出来たぜ。なのは…嫁さんの状況は?」
兄さんは一瞬安堵するも、すぐに表情が強張る。
<まだ産まれてない。もう4時間も経つっつうのに…!>
少しだが、なのはの苦しそうな呻き声と、フェイトの「お願い、無事に済んで!」という祈りの声が聞こえる。
切迫した状況なのは明らかだ。
だが、俺にとっても家族が増える訳だから、無事に産まれて欲しい。
「とにかく、俺もヴィヴィオを連れてそっちに向かう。」
<分かった。それと、誰か連れてきてもいいが全員は駄目だ。なのはの家族も来ていて、大人数だと病院に迷惑を掛けちまうからな。>
いつもの兄さんらしくない棘のある言い方だが、なのはのことで頭が一杯だと理解して敢えて言わなかった。俺だって同じ状況なら、余裕はないだろうしな。それに大人数で行くのはなのはと医者の集中力を削ぐことにもなりかねないということだろう。
「分かった、また後で。」
一言言って通信を切ると、全員が近付いてきた。
話を聞いていたのか、戸惑っている。
「なのはさんの出産が始まったんですか!?」
スバルが心配そうに聞いてくる。
「そうだが…まだ産まれてないそうだ。これから俺はヴィヴィオを背負って病院へ向かう。誰か二人付いて来るか?」
「何で言って下さらなかったのですか?言って下されば伸ばしても良かったのに…。」
アインハルトが隠していたことに不服なのか、見上げながら眉を吊り上げる。
見下ろすのもおかしいので、座って話す事にする。
「ヴィヴィオとお前には試合に集中して欲しかったからだ。今日の試合はただの試合じゃなくて、互いを分かり合う為の試合だ。」
それに俺としてもこういうのも対話と言えるんじゃないかという発見があった。
今までスポーツは射撃で競うだけ、戦いは生きるか死ぬかと守れるかどうか、そして失うか失わないかの三つしか知らなかった俺にとって、ヴィヴィオとアインハルトの試合は新鮮で尊いものに映った。
「そう…ですね。無礼なことを言ってすみませんでした。」
理解したことを示して謝るアインハルト。
「分かってくれたならいいんだ。……それで、誰が付いて行く?」
俺が立ち上がって皆に聞くと、ウェンディが手を挙げた。
「全員付いて行けないならチンク姉とスバルとティアナがいいッス。」
ウェンディが提案を出すと、アインハルト以外全員が頷いた。
「そうだな。チンク姉はあたしらナンバーズ代表、スバルとティアナはなのはさんの教え子でニールさんの同僚だし。」
簡単に説明してくれたノーヴェ。なるほど、スバルとティアナはどっちにも関係あるのか。
が、いつまでも時間は掛けられない。
「分かった。ならすぐ行こう。兄さんから車を借りているから、乗って行こう。」
因みに使っている車は、なのはが使っている鮮やかなイエローの小型車。
名前は聞くのを忘れてた。
大人なら4人、子供なら5~6人まで乗れて、小回りも利く。
「えっ、免許持ってませんよね?」
ティアナの疑問に答える為に、右ポケットから兄さんから預かった免許証を取り出す。
「それなら、持っているぜ。顔も似ているから大丈夫だろ。」
二年前の俺が聞いたら信じられないと言うだろうな。我ながら図太くなったものだ。
「はあ……本当は二人とも罰金と減点ものですが、今回は緊急なので大目に見ます。」
頭を抑えるもギリギリ納得してくれたティアナ。
「陛下をお願いします。でも……」
「陛下に何かあったら、ただではすみません。」
「あはは、オットーもディードも落ち着いて。」
「私達もいるから大丈夫だ。」
護衛としてお供したい気持ちを我慢して俺を脅…頼み込むオットーとディードを諌めるディエチとチンク。
[マイスター、いい加減行かないと…。]
「そうだな。……言っておくが、俺も兄さんと同じで車の運転は得意な方だ。だからその点は大丈夫だ。」
そう言ってヴィヴィオを負ぶって車を駐車した場所へと走って行く。
.
二ールside
15:21
あれからすぐに聖王病院に連絡して救急車に来てもらい、俺もヴィータの計らいもあって愛車のランチア・ラリー037のレプリカモデルに乗って病院へ直行した。
当初から「お産が軽い」と言われていて、今回言われた通り比較的困難も少なく出産が迎えられる、つまりは薬を使わない自然な形で産むことが出来るとシャマルから説明を受けた。
で今俺はあらゆる手術を成功させてきたゴッドハンドを持つ全身医(ジェネラリスト)の院長先生がいると有名な聖王病院の産婦人科の奥にある手術室、その扉の前で右往左往している。
その扉の向こうでシャマルが助手に入った医療チームがなのはと産まれてくる子供の為に奮闘している。
そのシャマルに関しては、妊娠が発覚した頃から桃子さん共々なのはから色々相談を受けていたそうだ。そのため、今回のことに関しても主治医と言ってもいいぐらいに主に体調管理などで助言もしてくれたし、気を使ってくれた。しかし本来時空管理局の医務官の資格はあっても、出産に関しては専門外で立ち入ることは出来ないはずだった。
のだが本人は女性として産むことが出来ない自分の変わりに、どうにか現場に立ち会って無事に産ませたい一身で、俺たちが結婚してからクロノとカリム経由でこの病院の院長にお願いして医務官の仕事の合間を縫っては猛勉強していたらしい。そして今回院長の許可で助手として参加している。(この情報ははやてから聞いた)
それでも銃を持って戦うのと違う、自分の妻とこれから産まれる子供が無事で済むように信じて待つという願いと、何かあったらどうしようという不安、そして扉の向こうから感じるなのはの僅かな脳量子波が脳内を掻き回すことでそばにいたいという葛藤となり、俺の心を苛む。
簡単に言えば、落ち着かない。
「二ール、落ち着かないのは分かるけど、あまりウロウロしてないで座った方がいいよ?」
フェイトに注意されるが、今の俺にいつもの調子で返す余裕が無い。
「そう言われたってなあ、落ち着けるかよ!……来たのか、ライル。」
なのでいつもはみっともなくてやらない八つ当たりをしてしまう。
と、そこにライルがチンク、スバルとティアナと共にやって来た。その背にはヴィヴィオが試合に疲れたのか、眠っている。(実は気絶している)
「兄さん、まず座って落ち着け。」
ライルは士郎さんの隣にいる桃子さんに促され、負ぶっていたヴィヴィオを預ける。
なのはは母親に似ているから、すぐ気付いただろう。俺も初めて実家を訪ねた時、驚いたものだ。
「そうだぞ二ール。不安なのは二ールだけじゃなくてなのはも同じ。いや、一番不安なのは、なのはなんだ。父親になるのに君が焦ってどうする!!」
士郎の親父さんの一喝で自分のみっともなさが無性に情けなくなった。
確かにその通りだ。扉の向こうでなのはは産みの苦しみの中で戦っている。俺がじっと待たなくてどうする!
「……すみません、親父さん。」
士郎さんに謝り、なのはが今でも産みの苦しみに耐えて頑張っている手術室の扉に目を向ける。
「そういえば二ール、お腹の子の名前は考えたのか?」
数分ぐらい経ってから、突然チンクが聞いてきた。そして、質問の内容を聞いた皆が俺に目を向ける。
「私もそのことが気になっていたが、決めているのかい?」
今言っていいのか迷ったが、親父さんも聞いてきたため、答えることにした。
「既に決めています。男の子は刹那、女の子はラーナです。」
ライルは俺の意図に気付いたのか、苦笑混じりに呆れた顔をする。
「あいつの名前か。兄さんらしい発想というか何と言うか。」
本当のことを言うと、男の子の名前にライル、ティエリア、小次郎のどれか、女の子の名前はエイミー、このは、エールと候補があった。
アレルヤが入ってないのは、マイスターに選ばれた頃にアレルヤが何でコードネームじゃないのかを聞いた時、由来が自分に名前をくれた女の子の祈り…つまりはアレルヤの想い人の祈りだと言う事が分かり、何だかその名前を使うのは特別な意味を奪うことになる気がしたため、最初から除外した。小次郎は日本の名前で何故か響きを気に入って加えた。だが後に、強い意志で世界と向き合える人間になって欲しいという願いを込めて刹那に決めた。
エイミーは俺とライルの妹の名前。このはは、なのはの名前を一文字変えた名前ならどんなのがいいか考えた時に出た。そしてエールは、俺とライルの出身国のアイルランド語「Éire (エァラ)」から由来するアイルランドの別名から来ている。一時期、このエールが国名になったこともある。
「二ール、まだラーナさんのことを引き摺っているの?」
フェイトが心配そうに聞いてくるが、首を横に振って否定する。
「それは違う。俺もなのはも、ラーナのように心が強く美しい子になって欲しいからその名前に決めたんだ。」
ラーナは、何があっても気丈に振舞い続けてきた。死ぬ間際でも、俺を気に掛けてくれた。
なのはも、そんなラーナを見ていた一人で、「見習いたい」と言っていたこともあった。
フェイトは納得したのか、微笑んで手術室の扉に目を向ける。
話を聞いていた皆も、聞くことがないのか、手術室の扉を見ている。
.
なのはside
「なのはちゃん、もう一度よ、ヒッヒッフー。」
私は今、今まで経験したことのない痛みと戦っていた。既に破水が起こり、いよいよ出産の時を迎えていた。
「うっ、ううっ……ヒッ、ヒッ、フー。」
シャマルさんの指示通りに力を抜くものの、痛くて苦しくて気が狂いそうになる。
でもこの痛みは、自分の子供を産む為に受けているもの。お母さんも私を産む時に受けた痛み。
そして、産まれて来た後にニールや皆と一緒に色々教えたりするのがすごく楽しみ。
お姉ちゃんになるヴィヴィオがどんな顔で迎えてくれるのか楽しみ。
そして、この子たちが生まれてくる事が何より楽しみ!
だから、私は耐える。耐えて、産んでみせる!
「院長先生、赤ちゃんの頭が見えました……!」
シャマルさんから状況が伝わる。まだもう一人いるけど、まずはこの子を…!
「もう少しだ、頑張ってくれ!」
「うっ、ううううううううっ!」
お腹が裂けるような痛みに耐える。汗も涙も出て、泣き叫びたいくらいの気持ちに駆られるけど、ずっと苦しいときも負けない気持ちで日々頑張ってきたこと、ニールと子供たちとの未来を生きることを思い出して痛みに耐える。
「よし、そのまま……そのまま出て来い……!」
「ううううう、あああああああああああああ!!!!」
おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ……。
「院長先生、一人目が生まれました!男の子です!!」
シャマルさんが一人目が生まれたことを告げる。
「はあ、はあ、はあ……!」
でも、もう一人を産む為に、どうにか息を整える。
「高町さん、あともう一分張りですよ。シャマルさん、へその緒を切り取って。」
「はい!」
もう一踏ん張り、頑張ろう!!
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二ールside
皆が黙っている中で、手術室から赤ん坊特有の元気な産声が聞こえてきた。
一人目が生まれたことが扉の向こうから現れた,違う脳量子波でも分かった。
「これが、命を生む、ということなのか……。私にも、もっと解る時が来るだろうか。」
後ろでチンクが驚きと憂いを以って呟く。
そうか、チンクたちはスカリエッティによって人工的に生まれて戦うために育ったから、命の尊さを実感出来ても、どうしても生むこと自体に関しては疎くなってしまうんだ。
そして、そのこと気付いたチンクは誰よりも気にしていた……ということか。
「来るわ、貴女にもいつかきっと実感する時が来る。」
そんなチンクの呟きを聞いていた桃子さんがチンクの両手を取って語る。
こういうことは、体験している母親が一番説得力がある。
命を奪って来た俺には、先ず語れないことだ。
「でも私は戦闘機人で……。」
「それは関係ないことよ。命を生むというのは、花を種から育てることだってそうだもの。花だって生きているんですから。」
桃子さんの言ったことを聞いて、何故かあのアザディスタンの王女様を思い出した。結構刹那と会ったりしていたみたいだからなのだろうか。
「……ありがとうございます、えっと……。」
「高町桃子、桃子さんでいいわ、チンクちゃん。今、小学何年生なのかしら?」
いい雰囲気だったのが、突然の天然キラーパスでぶち壊しになった。
「……桃子さん、私はこれでも20歳なのですが……。」
項垂れるチンクに心の中で合掌する。
すると、赤ん坊の泣き声が二重奏を奏でるようになった。
扉が開き、中から手術服に身を包んだシャマルがマスクを取って笑顔を見せていた。
「おめでとうございます、無事に男の子と女の子の双子の赤ちゃんが元気に生まれました。二ールさん、中へ入って。」
「あ、ああ、分かった。」
ガラにもなく緊張してガチガチな足取りで扉へと一歩、また一歩進む。
「二ール、士郎さんに言われたでしょ。ほら、行って。」
「そうだぜ兄さん。そんなに遅いと、なのはが待ちくたびれちまうぜ?」
「ははっ、悪いな……フェイト、ライル。」
二人に背中を押されて手術室へと入っていく。
「まずは院長先生、シャマル、スタッフの皆さん、ありがとうございます。」
会う前に、まずはこの時の為に尽力してくれた医療スタッフたちに頭を下げる。
「私達は大したことはしてません。本当はすごいのは、高町さんです。一言も弱音を吐かずに耐えたんですから、本当に強い精神力ですよ。ささ、奥さんとお子さんがお待ちしてます。」
院長先生に促されて進むと、床には羊水と血が所々で痕を残している。
これだけでも、いかに命懸けでなのはが産んだのか、いかに生きることが尊いのかが解る。
複雑な面持ちになりそうなのを抑えて、今は家族のことを考えて、歩を進める。
そこで見たのは…なのはが片手でそれぞれ生まれた赤ちゃんを胸元で抱える姿だった。
その赤ちゃんは共に泣き疲れたのか、眠っている。
「二ール、私、頑張ったよ……。」
汗を掻いて疲弊している中で、気丈に笑顔を見せるなのは。
そんな健気ななのはを見て抱きしめたくなるが、負担を考えて我慢する。
「ほら、私達の子供だよ……抱いてあげて。」
生まれたばかりの赤ちゃんを壊れ物を扱うように優しく抱き上げる。
「まさか、こうして自分の子供を抱き上げる日が来るなんて思わなかった。」
父さん、母さん、エイミー、ラーナ、見てるか?
俺たちの新しい家族が、ここにいる。ここにいるんだ。
「でも、今俺はここで生きていることを、この上なく嬉しく思う。」
「うん、私もだよ。」
ああ、何て幸せなんだろう。でも、この子たちにとってこの日こそが始まりなんだ。
「それで名前なんだが、決めた通りでいいだろう?」
「男の子は刹那、女の子はラーナ、だよね?」
だから、誓おう。
「ああ、そうだ。」
「じゃあ、よろしくね、刹那、ラーナ。」
なのはやヴィヴィオと同じように、この子達を大人になるまで守っていくと!日々の生活でも幸せにすると!!
「よろしくな、刹那、ラーナ。」
それもまた、生きることなんだ!!
.
ヴィヴィオside
赤ちゃんの泣き声みたいのが聞こえて目が覚めました。
「ん、んう、ふああっ、ってあれ、ここって病院?それに、何で桃子さんが?」
どうやら膝枕で寝かされているようです。
「ああ、ヴィヴィオちゃん、目が覚めた?」
桃子さんの膝枕から起き上がって辺りを見回すと、男性のお医者さんや患者さんが通っているので病院だと解りました。
「ヴィヴィオ、怪我とかはしてねえか?」
ライル叔父さんがしゃがんで心配そうに聞いてきました。
「大丈夫です。それで、アインハルトさんは?」
「試合はあの娘が勝ったけど、お前のことを認めたぜ。」
ライルさんがサムズアップして試合は成功したことを教えてくれました。
「それと朗報だ。
ついさっき、ヴィヴィオの弟と妹が生まれたぜ!晴れてお姉ちゃん、そして俺は三人の叔父さんって訳だ。」
その言葉を聞いて、叔父さんが何で焦っていたのか合点がいきました。焦って当然だよね。
「そっか……私、お姉ちゃんになったんだ。……やったっ!」
病院の中なので、煩くならないように小声で喜びました。
「ヴィヴィオちゃん、もう少し待っていれば会えるからね。」
「はーい。」
そうだ、ルールーやリオ、コロナにアインハルトさん、ノーヴェたちにも写真撮って送ろう!
会うのがすごく楽しみ!あと、二ールパパやなのはママお医者さんとシャマル先生にもお礼言おう!
そして、産まれて来た赤ちゃんにもお礼言うの。
産まれてきてくれてありがとう、って。
.
アレルヤside
辺境自然保護地区 辺境自然保護隊訓練場
初代ロックオン、ニールに再会してから数日で怪我は治った。
超兵である僕とマリーは常人より回復も早く衰えにくいため、本調子になるのは半日運動するだけで事足りた。老化したら、流石に衰えが早いかもしれないけどね。
その間にアリオスが僕にリンカーコアという魔法を使うのに必要な核の検査をしてくれた。
ランクはC、魔導師としてはそれほど高くはないそうだ。ただし、飛ぶことが出来る。
また、魔法には攻撃は勿論、防御と捕縛に探索、補助に結界などがあるけど、僕が使えるのは攻撃と探索だけしか適性がないそうだ。他は出来ても簡単なものしか出来ない。
しかし、マリーがキャロというエリオのパートナーに魔法を簡単に教えてもらったところ、攻撃と捕縛と補助が得意だということが解った。
しかも、僕がアリオスを起動する際にマリーとユニゾンすることでハルートになることが出来る。
が、アリオスはあっさり成功したものの、ハルートはたった3秒で強制解除してしまっている有様だ。
原因は、僕とマリーがユニゾンする際にアリオスを展開した状態でいなければいけないのだけど、その際に何故かアリオスに搭載されているGNドライヴが機能してくれず、形を保つ魔力が供給されずに不足してしまうことにある。
その原因を今アリオスが全機能を調べることに割いている。勿論、その状態では訓練に使うことは出来ない。
そのため、今僕は元の大きさに戻ったマリーと一緒にエリオが借りてきてくれた槍型の練習用デバイスを用いた模擬戦をしている。
「はっ!」
「当たるものか!」
マリー……いや、ソーマの刺突を左にステップして避け、そのまま片手でフォアハンドの形で横にスイングする。
「当たるものか!」
しかし、そこはしゃがんで避けられる。
「アレルヤさん、マリーさ~ん!」
と空からキャロが大きくなった白い竜のフリードに乗ってやって来たため、僕は訓練中にも関わらず見上げてた。
僕はそれをすぐ後悔することになる。
「……あ。」
ティーン
という擬音が一瞬、僕の股間から聞こえた気がした。
「………アkグtんdhtydfjd、ずmbhんrycべい!!!」
あまりの痛さに芝生で出来た地面に倒れ転げ、言葉にならない声を股間を叫ぶ。
「ご、ごめんなさ―――――――――――い!!」
何とか股間の痛みが治まった。いくら超兵でも強化出来ないんだよね。いや、男なら普通誰でも出来ない。
「おいマリー、俺の息子が使えなくなったらどうすんだ!これじゃ夜に……げふっ!」
ハレルヤがマリーに文句を言うと言ってとんでもない事を言ってマリーからボディブローを受ける。
当然、その痛みは僕も受けることになる。恨むよ、ハレルヤ。
「子供の前で何てこと言うのよ!」
「ご、ごめん……マリー。でも、流石にボディブローは勘弁して欲しかったかな。」
「あ、あははは……ご、ごめんねアレルヤ。」
苦笑しながら謝罪するマリーを他所に、キャロは怪訝そうにハレルヤの発言のことを考えていた。
「エリオくん、ハレルヤさんは何のことを息子って言ったのかな?」
キャロの質問にエリオは引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
僕もその気持ち解るよ、エリオ。ハレルヤのせいで何度刹那やフェルトの疑問に答えを詰まらせることがあったことか……。
「さ、さあ、僕にも解らないよ。あはははは……。」
「ふ~ん……。」
納得してないのか、ジト目でエリオを見るキャロ。この分だと他の人にも聞くつもりだろう。
って話が逸れている!
「それでキャロ、僕たちを呼んだのはどうして?」
「あっ、そうでした!実は大事な話があるんです。」
「大事な話って何かしら?」
僕たちを代表してマリーがキャロに尋ねる。
「実は、
二ールさんとなのはさんの双子の赤ちゃんが生まれたんです!」
ロックオンの赤ちゃんが……生まれた!?
「えっ、えっ、ええええええええええええええええええええええ!?」
人生でおそらく、一番叫んだ瞬間だった。
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ティエリアside
アルピーノ家に居候するようになってから一週間が経った。
僕の仕事は主に露天風呂の掃除、ガリュー同伴の山菜探しとキノコ採り、一日だけだが料理も振る舞った。
料理はロックオンとアレルヤにサバイバルの一環として教えてもらったことがある。その時にビーカーを使っていたが、今思えば少し恥ずかしい。
で今は夕飯の支度をアルピーノの親子と共に行っている。
「しかしルーテシア、君には本当に驚かされる。魔法について教えてもらったこともそうだが、それ以上に君は建築に関してプロとしてやっていける才能がある。」
他人を正直に褒めるのは珍しいと自分でつい思ってしまう。
「ふふん、凄いでしょっ!」
胸を張ってエッヘンと言わんばかりに自慢気にするルーテシア。だが、僕自身も自慢するのは納得出来る。
設備の設計図を見せてもらったが、明らかにプロと言えるぐらい精密で非の打ち所がない構造になるような設計が為されているのだ。
耐震、耐火に優れ、更にそれぞれの部屋に移動する経路も分かりやすく、しかし地形を考えて理に適ったものになっている。
正に使う人のニーズを考えて造られたと言ってもいいだろう。
「あら、どうしたのヴィヴィオ。いつになくソワソワしてるわよ?」
<うん、あのねルールー実は……なのはママの子供が無事に生まれました!!>
「そうなんだ、なのはさんが出産……ええ!?」
<しかも双子でね、二ールパパなんか泣き出しちゃって……もう私もすごく嬉しくて試合の疲れが吹き飛んじゃった!>
「あはははは!おめでとうヴィヴィオ、これでお姉ちゃんだね!!」
<うん、ありがとうルールー。今から写真送るね!>
ルーテシアが送られた画像を見る。思わず気になり、僕もその写真を見たら……
「うわあ、何だか会うのがすごく楽しみになってきた!赤ちゃん、可愛いなあ……。」
そこには、ロックオン・ストラトス、二ール・ディランディが亜麻色の髪の小学生ぐらいの女の子と共に生まれたばかりだろう赤ん坊を嬉しそうに抱きかかえ、そのすぐ後ろには、ベッドで寝ながら笑顔でカメラに目線を送る茶髪の女性が映っている。
生きていて欲しかったのに願い叶わず、永遠に別れるはずだった人がそこにいた。
「ま、まさか、生きて……いた……うっううっ、ロックオン……!」
あまりに突然のことに心の中で混乱が治まらない。ルーテシアが驚いた表情で、後ろにいる僕の方を向く。
「へっ、ちょっと、突然泣いてどうしたのティエリア!?」
ソレスタルビーイングが敗れて以来、流すことのなかった涙が今、頬を伝って流れていた。
To be continued...