「……だれ?」
掠れた、弱々しい少女の声だ。ビクリッとしてハジメと恵里は慌てて部屋の中央を凝視する。すると、視線の先には四角い鉄製の檻に黒い注連縄を巻かれている物があった。そしてその中のぺたん座りをしている何かがユラユラと動き出した。
「人……なのか?」
その何かは人だった。
長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。
流石に予想外だったことにハジメは硬直し、紅の瞳の少女もハジメをジッと見つめる。そして、ハジメは少女の悲しい顔を見て、気付いた時にはハジメは……
迷いもなく少女のところに駆け出して、恵里はそれを追いかけていた。
「南雲ハジメ!貴様を追放する‼︎」
時は少し遡り──オルクス大迷宮から帰還し、多少の傷は残るものの今回のトラップのことについて早々に説明しないと問題になると謁見の間に通された瞬間、玉座に座っているエリヒド王の横で立っていたイシュタルから間髪入れずそう宣言された。
「どうしてですか⁉︎南雲は………俺たちを救ってくれた‼︎」
自身の攻撃があまり効かなかったことについて光輝は帰還している間嫉妬していたが、救けられたことに変わりはないのでイシュタルの宣言に異を発した。
「それはですなぁ勇者様、この男は魔人族の手先の疑いが掛かってるのですよ」
イシュタルの言葉に動揺するクラスメイトを無視してイシュタルは説明を続ける。
「実はエヒト様より『手先が一名混ざっている』『神の使徒の一人と対処せよ』との神託がありましてな」
「で、その神の使徒の一人が俺だってことだ」
そう言いながらクラスメイトの中から出てきたのは、檜山大介だった。檜山は歩を進め、イシュタルとは反対側に立った。
「ッ⁉︎どういうことだ檜山‼︎」
「南雲が怪しいってイシュタルさんに告げ口したのは俺だ。それに南雲は大迷宮でボロを出しただろ?」
そう檜山が口にすると極一部のクラスメイトがハジメに疑惑の視線を向ける。
「つまり、もうネタは上がってるんだよ‼︎」
「という訳で、南雲ハジメを人類に対しての反逆者として追放を致しますので、皆様は御退室ください」
そうイシュタルが言うと側で警備をしていた騎士達は、ハジメを除く光輝達の肩を掴み退室させようとする。
「待ってください⁉︎話はまだ‼︎」
「御退室ください」
「そうだぜ‼︎まだ終わってないぞ‼︎」
「御退室ください」
「ちょっと!離しなさいよ⁉︎」
「御退室ください」
「南雲くん‼︎」
「御退室ください」
「義兄さん‼︎」
「御退室ください」
「皆‼︎退室してくれ」
壊れた機械のように同じをことを口にするイシュタルにハジメは悪寒を感じ、ハジメは抵抗しているクラスメイトに声を掛けた。
「南雲………」
「大丈夫、僕は死なないよ」
覚悟を決めた目を向けられた光輝は、香織と恵里を龍太郎と雫と協力して謁見の間から退室した。その際香織は泣きながら『待ってる』と口にしたが、恵里は俯いていた。
扉が閉まり中にはエリヒド王とイシュタル、檜山にハジメだけになった。
「では今から貴様を追放する、何処へ追放されるかはわからないがもう戻ってくることはないでしょう」
そうイシュタルが言うと詠唱を始めた。詠唱が始まりハジメを中心として召喚されたのと何処か似ている魔法陣がハジメの足元に現れた。それを無表情で見るエリヒド王、そして下卑た表情でハジメを見る檜山。
ハジメは三人をジッと観察し、鼻で笑った。
「あぁっ?何がおかしい?」
「いや、なんでもないよ」
檜山との短い会話の間に詠唱を殆ど終えたのか魔法陣は輝きを増し、いつでも追放できる準備が整った。
「そうそう南雲、俺からとっておきの言葉のプレゼントをやるよ」
「………何?」
「……香織は俺のモノにするから安心しろよ‼︎」
「どつき回してやる‼︎」
檜山の言葉が合図だったのかイシュタルは最後の言葉を紡ごうと口を開いた────
「義兄さん‼︎」
「っ⁉︎恵里⁉︎」
突如として扉が開かれ恵里が入ってきたことに動揺し、イシュタルは詠唱を中断してしまいそうになるが最後の言葉を紡いだ。
「──〝追放〟!」
魔法陣から溢れる光の粒がハジメを包み込む。それを見た恵里は走っていたスピードを上げる。ハジメは「来るな‼︎」と手を横に振り叫ぶが恵里はスピードを落とさない。そして恵里が手を伸ばしハジメの手を握ったタイミングで追放の転送が始まった。
「恵里‼︎」
魔法陣の中には恵里の腕の部分だけあり、身体自体はまだ魔法陣の外、地球に無限修復人形があるとしても恵里の身体がどうなるかわからないハジメは咄嗟に恵里を引き寄せ────
──何処かへと転送された………