構成員125番の足跡   作:No.125

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中編

◆◆◆

 

 転生してから14年が経った。

 修練はずっと続けている。

 最近はお父さま相手に良い勝負ができるようになってきて、娘の成長に嬉しいやら悲しいやら、よく悲鳴が上がるようになった。

 慣例通り、俺はあと1年でミドガル魔剣士学園に通うことになっている。

 このままなら、在学中にブシン祭優勝を果たせるのでは!?なんて期待を周囲からかけられるようにもなった頃。

 その症状は現れた。

 

「お、お姉、さま。それって……!」

「――あぁ、やっぱりかぁ」

 

 始まりはちょっとした不調だった。

 魔力を練るのにいつもより時間がかかったり、制御が離れたり。

 それが段々と悪化していき、最近では魔力を扱うだけで痛みが走るようになって。

 そして極め付けに……シィナとの修練中に浮かび上がった、黒く腐ったようなあざ。

 ――俺は、〈悪魔憑き〉になっていた。

 

 

◆◆◆

 

 女に転生した、と分かった時から、薄々予感していたことではあった。

 〈悪魔憑き〉という、女にしか発現しない現象が存在する世界に、わざわざ女として生まれたのだ。さらには、貴族という英雄の子孫であってなんらおかしくない血筋かつ、魔力量の多い魔剣士の家系。

 俺じゃなくても察せられるというものだ。

 

 それでも、ただの偶然であって欲しいと、そう願ってはいたけど。

 やっぱり、現実というのは非情なようだ。

 

 

◆◆◆

 

 〈悪魔憑き〉は不吉の象徴であり、発症してしまえば、家族や社会のコミュニティから外され、迫害され、最後は処刑される。

 現代の価値観を持っていて、さらに〈悪魔憑き〉の真実を知る俺からすれば滑稽もいいとこな対応だが、だからといって人々を嗤う気はない。俺だって彼らと同じ立場ならば、きっと同じ対応をするだろう。

 ……でも、俺の周りの人たちはちょっと違ったらしい。

 

「心配するな。父さんが絶対に治療法を探してやるからな!」

「そうよ。だからあなたはここで安静にしていて」

 

 ベットに寝かせられた俺に気丈に微笑む2人。

 なんと2人は、俺を追い出し教会に引き渡すことをせず、匿ったのだ。

 対外的には別の難病にかかったことにして部屋に籠らせ、家の者たちも口止めして、俺が〈悪魔憑き〉であることを徹底的に隠蔽した。

 もし教会に知られてしまえば、問答無用で連れていかれてしまうからだろう。

 

「父さま、母さま……でも」

「だから大丈夫だって!こういう時くらい、父さんたちを頼ってくれ」

「そうですよ、お姉さま。お父さまたちを信じて今は休みましょう」

「……」

 

 ……俺には分かっている。いくら探したって、〈悪魔憑き〉の治療法なんて出てこないことを。

 英雄の血を覚醒させないために、ディアボロス教団が一つ残らず抹消しているのだから。

 父さまたちが有力貴族であるとはいえ、相手は王族すら手の上で転がす世界の支配者、勝ち目なんてない。

 

 そしてそんな裏事情は知らなくても、〈悪魔憑き〉を治すのが絶望的なことくらい、父さまたちも知っているはずだ。

 だからこそ、ことさらに明るく振る舞ってる。当事者である俺が絶望してしまわないように、自分たちの悲しさなんて押し込めて。

 そんな顔を向けられたら、もう口をつぐむしかなかった。

 

 

◆◆◆

 

「っぅ……やっぱり、今日もダメか。ハハ……はぁ」

 

 もう1週間近く過ごしているベッドの上で、腐りかけて原型も分からないくらいに〈悪魔憑き〉が進行した右腕の魔力を操作する。

 しかし、痛みが悪化するばかりで一向に改善の兆しは見えず、諦めてベッドに倒れ込んだ。

 

 俺だってただ漫然と〈悪魔憑き〉になるのを待っていたわけではない。

 〈悪魔憑き〉の本質は"魔力暴走"であり、それを制御しきれれば、治療どころか発症する前に治すのだってできることは知っていた。

 ……そして、知っていながら、制御に失敗してしまった。

 

 ――そもそもが、『シャドウガーデン』においてもシャドウと七陰たちにしか不可能な高等技術であることは分かっていた。

 でも心のどこかでは慢心していたのだろう。俺にだってできるはずだと。

 "知っている"ことと"できる"ことは全然別物なのに。

 その慢心が、今となって俺に牙を剥いてきている。自分の無様さに、笑いすら起きなかった。

 

 

◆◆◆

 

 間違いなく絶体絶命の状況。

 しかし俺が絶望しているかというと、実はそうでもない。

 

 最善策である自分での治療は失敗してしまったが、失敗した時のことを考えての次善策があるからだ。

 まぁ、それは策とも呼べない他人任せの杜撰な計画だけれど。

 

 その策とは、〈悪魔憑き〉として『シャドウガーデン』に保護してもらうこと。

 今の俺は紛うことなき〈悪魔憑き〉。彼女たちの目にさえ止まれば、保護され、治療してもらえるのは確実だ。

 問題は、『シャドウガーデン』がもう活動を始めているのかと、ここメィスオチ領が『シャドウガーデン』の活動範囲か、だったが……。

 

 王国内の領地の位置関係を調べてみて驚いた。

 なんと、カゲノー領がここメィスオチ領の隣の隣にあったのだ。

 そしてそのカゲノー家の長女がクレア・カゲノーであり、去年からミドガル魔剣士学園に通い始めたこと。弟にシド・カゲノーがいること。それらを確認することができた。

 

 これだけ近ければ間違いなく『シャドウガーデン』の活動範囲だろうし、『シャドウガーデン』が本格的に活動を開始し〈悪魔憑き〉を救うようになったのは、クレアがミドガル魔剣士学園に通うようになってからだから時期も問題なし。

 これに関してはもう完璧と言うしかない。……ここまで完璧だと、なにかしら作為のようなものを感じなくもないけども。

 あとは俺が〈悪魔憑き〉として輸送されれば、それを察知した『シャドウガーデン』に助けてもらえるだろう。

 自分の命運を全て人任せにする悔しさもないとは言わないが、命には代えられないし。

 

 

 ――だから。

 正直に言ってしまえば、こうやって匿ってもらわなくても、別段問題ないのだ。

 むしろ、『シャドウガーデン』に知ってもらわなきゃいけない分、隠蔽されている現状は目的からすれば無駄、どころかマイナスであると言ってしまってもいいかもしれない。

 本気で計画通りに事を進めるのならば、どうにかして父さまたちを説得して、追放してもらわなきゃいけないのに。

 心の底から俺のことを思ってくれる、その気持ちが嬉しくて。

 だらだらと、現状維持を続けてしまっていた。

 

 

◆◆◆

 

「〈悪魔憑き〉を教会に引き渡せー!」

「浄化しろーっ!」

 

 〈悪魔憑き〉を発症してから10日ほど。

 にわかに屋敷の周りが騒がしくなった。

 原因は分かってる。

 口止めされていたメイドの1人が、〈悪魔憑き〉を匿ってることに耐えかねて、街の人の前で暴露してしまったのだ。

 彼女や、騒ぎたてる街の人たちを責めるつもりはない。

 〈悪魔憑き〉とは本来、そういう扱いをされるのが当然の存在で、そうしなかったうちの家族が人並み以上に情に厚かった、ただそれだけの話だから。

 

「お父さま……」

「スールを差し出すのは言語道断、しかし、このままでは暴動にすら発展しかねない……どうすれば……!」

「――俺が出ていけばいいんだよ、父さま」

「ッ!スール!?」

 

 激痛の絶えない右腕を押さえ、動かしづらくなった足を引きずりながら3人の集まった部屋に入る。

 

「このままだと、領地の経営にも影響が出るでしょ?俺さえいなくなれば解決するんだから、当主として、領主として、決断しなくちゃ」

「だが!」

「いいんだよ、父さま。……俺は、十分幸せだったから。問答無用で捨てなきゃいけないはずなのに、どうにか俺を救おうとしてくれた。それだけで、これ以上なく」

 

 これはまぎれもない俺の本音。

 転生して生まれたのがこの家で、家族がこの3人でよかった。心の底から、そう思える。

 

「……どうやら、タイミングもいいみたいだ」

 

 窓からは、俺を回収しに来たのだろう、聖教の服をまとった集団が見えた。

 

「スール!」

「スール……」

「お姉さま……」

「父さま、母さま、今まで育ててくれてホントにありがとう。シィナも、剣の修行頑張れよ。お前なら絶対、お姉ちゃんなんて目でもない魔剣士になれるからな。父さまたちと家のこと、任せた」

「っ、はい。はい……!」

「……」

 

 涙ぐむ3人を背に歩く。

 これ以上、喋ってはいけない。決心が鈍ってしまいそうだから。

 

「スール・メィスオチだな?」

「ああ」

「そうか。ではこれより浄化のため、〈悪魔憑き〉を連行する!」

 

 玄関前に待機していた聖教の集団に身を任せる。 

 ――こうして、メィスオチ伯爵家長女、"スール・メィスオチ"は、表舞台から姿を消した。

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