構成員125番の足跡 作:No.125
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霧の龍によって守られた、幻の都アレクサンドリア。
かつて小国があったこの地は、現在はシャドウガーデンの拠点として改造されています。
シャドウガーデンの本部とも呼べる城に、新技術を研究する開発室、カカオなどを栽培する農園。そして――訓練所。
その闘技場において、
「……では、始め!」
臨戦態勢を取っていた5人が、合図で一斉に向かってきます。
近すぎず遠すぎず、お互いが邪魔にならずに、しかし咄嗟の援護が望める距離感を保っての攻撃。日頃の訓練の成果がよく現れている、良い連携です。
その連携に隙は見えませんが……突破口はあります。
「――シッ!」
「!?」
他4人には目もくれず、狙いを定めた1人へと最短で突撃。
鍔迫り合いに持ち込むと――そのまま、場外へと弾き飛ばしました。
彼女は5人の中で最も魔力による身体強化が甘い。それを補うべく技を磨いているのは知っていますが……力押しに持ち込んだ時点で、身体強化を得手とした私の優位は絶対となります。
「くぅッ……」
「うひゃぁ!?」
完璧な連携は、完璧であるがゆえに、一角でも崩れてしまえばわかりやすく穴ができてしまいます。
そうなれば、あとは1人ずつ、丁寧に切り伏せていくだけ。
「――そこまで!」
結果として、3分も経たぬうちに模擬戦は私の勝利で幕を閉じました。
「仕上がっているな、125番」
「ラムダ教官」
「お前なら挑戦も成功するだろう。健闘を祈っている」
「ありがとうございます!」
模擬戦の立ち合いをしてもらっていたラムダ教官からの激励に、深いお辞儀で返します。
授けられた肉体の性能に呑まれずにここまで成長できたのは、彼女のおかげに他ならず、感謝してもしきれません。
「116番たちも、付き合ってくれてありがとうございます」
「いいっていいって~!私たち仲間なんだから!」
「そうそう。頑張ってね、125番ちゃん」
シャドウガーデンのメンバーは、境遇という共通点からか基本的に仲間意識が強く、それはまるで家族のようでもあります。
その中でも、任務での共闘やアレクサンドリアでの生活を通してより関係を深めたのが、模擬戦の相手だったこの5人です。
彼女たちは、私がラムダ教官に最終調整をお願いしたという話を聞いて、手伝いを買って出てくれました。
本当の家族とは、もう離れ離れになってしまいましたが……あまり暗くならずに日々を過ごせるのは、こういった交流あってこそです。
◆◆◆
模擬戦を終えた私は、体を休めるため与えられた部屋へ歩みを進め……
「――」
見間違えようのない、後ろ姿を見つけました。
「シャドウ様っ!」
「ん?」
振り返った彼は、シドとしての姿であるため凡庸とした印象ですが……それでも、こんなに胸が高鳴ってしまっています。まさしく、惚れた弱みですね。
「ご無沙汰しております。……私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「あー、もしかして、森の中で助けた子?」
「!はい!」
――覚えていてくれた!
彼と会ったのは、3ヶ月前、救ってもらった時と、アレクサンドリアで目を覚ました私の様子を見に来てくれた数回だけ。
忘れられても仕方ないと、覚悟してたのに……!
「そっか、元気そうでよかった。……」
「ど、どうかいたしましたか?」
なにかを探るような視線が注がれています。
私の恰好に、気になるところでも……?
ハッ!もしや、先程まで動き回っていた分、汗臭かったり!?
「いや、喋り方とか、そんな感じだったっけ?って思って」
「あ、あぁ。なるほど」
そのことでしたか……。粗相をしてしまった訳ではないことに、胸をなでおろします。
「……少し心境の変化がありまして。このような形に」
シャドウ様と会った時には、まだ芽生えた気持ちを呑み込みきれておらず、前世由来の男としての言葉遣いと言動のままでした。
けれど。
シャドウガーデンに入り日々を過ごしていく中で、私は自分の想いを自覚しました。
救われたあの日、私はシャドウ様に、恋をしてしまったのだと。
前世で男として生きた私が、男性であるシャドウ様を好きになるなど、おかしいのではないか。
そんな風に葛藤もしました。
しかし、一度燃え上がった想いはもう、鎮めることなどできません。
私はその想いを受け入れ――同時に、それまでは拒み続けていた、女として生きていく覚悟を決めたのです。
一人称を"俺"から"私"へ、言葉遣いや仕草も女性らしいものへ、この3ヵ月間で必死に矯正してきました。
時にガーデンメンバーへ指南を仰ぎ、時に聞き流していた母様からの小言を必死に思い出し。
その成果が、今の私です。
何も知らぬ人が見れば、数ヶ月前まで男のような振る舞いをしていたなど、到底信じられないはずです。
全ては、シャドウ様の横にいても笑われないように。シャドウ様に好きになっていただくために。
「……明日、ナンバーズになるための挑戦を行うんです」
「へぇ?」
「挑戦を成功させ、ナンバーを頂けた暁には。改めてご挨拶に伺ってもよろしいですか?」
「別にいいよ。断るようなことでもないし」
「ありがとうございます!……それでは、失礼したします」
「うん。またねー」
シャドウ様に背を向け、目的地だった自室へ向かって歩きます。
……もし。今ここで、私が死んだら。シャドウ様は、悲しんでくれるのでしょうか?
ふとそんなことを考えて――きっと否だろうと、結論付けます。
彼自身を除けば、恐らく私は、この世界で一番彼のことを理解しています。
陰の実力者たる"シャドウ"ではなく、常の顔である"シド"の方が本性に近いことも。ディアボロス教団の実在をまったく信じておらず、シャドウガーデンについても自分のごっこ遊びに付き合ってもらってるだけと思っていることも。
そして……世界のほとんどを"どうでもいいもの"として切り捨ていることも。
彼にとって、今の私はまさしく"どうでもいいもの"でしょう。
死んだとして、一瞬ばかり意識を向けたり、あるいは哀れんだりくらいはしてくれるかもしれません。
しかし。立ち止まり、悲しみに暮れるようなことはしないと、言い切れます。
今の私には、それが我慢ならない。
彼の目に映りたい。彼に想って欲しい。――彼の
私が望むのは、そんなこと。
あの苦しみから救われて、心を奪われた私のように。シャドウ様の心を、私も奪ってやりたいのです。
……もちろん、それが途轍もない苦難の道であることは理解しています。
言ってしまえば、シャドウ様の心は既に『影の実力者』に奪われ尽くしているのですから。
けれどその程度のことで諦めるのならば、そもそも望んでなどいません。
その第一歩が、明日のナンバーズへの挑戦です。
まずは、
そうなればシャドウ様に覚えて貰いやすくなるでしょうし、いくらかはシャドウ様と接触する機会も増えるはずです。
そしてゆくゆくは、七陰と同列の地位へと。
シャドウ様に助けられた、という点では同じなのですから、不可能ではないでしょう。
仮に同列になれたとしても、重ねた時間ではどうしても負けてしまいますが……先程も言った通り、シャドウ様のことをより理解しているのは私ですから。負ける気はしません。
シャドウ様の心を奪うために。
――さぁ、頑張っていきましょうか!
本作はこれにて完結となります
アニメを1期から一気見した熱に、自分の癖を盛り込んで生まれた作品でしたが、想定以上の方に読んで頂き、初めてランキングにも載らせていただきました
本当にありがとうございました!
PS.劇場版が本当に待ち遠しい……もう来月くらいにやってくれないかな……?