ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性 作:メリルメリルメリル
癖が少なく他人が読みやすいよう気配をしていると感じられる筆跡で書かれたメモ帳が開いたまま置かれている。
山口カミラ、26歳。
イッシュ地方出身の母とシンオウ地方出身の父との間に生まれ、母の血が濃いのか青い瞳と髪の色が抜けやすい特徴を強く受け継いだのが私だ。
父が転勤族と呼ばれる会社員であり、私はイッシュで生まれたらしいが暮らしていたのは3歳の頃までらしくその頃の事はよく覚えていない。
転勤族と言うだけあって引っ越すことが多く、友達を作っても数年でその土地を離れることが多くて悲しい思いをするだけだという考えを持つようになり、ある程度成長してからは自分から友達を作ろうとはしなくなった。
その分の時間を大好きなポケモン達の事を深く知ろうと生態や歴史について学ぶ事が多くなっていった。
初めてリーグ参加資格を得るための旅を始めたのは14歳の時だ。
その頃に住んでいたカントーでは早ければ10歳で旅に出るのだが家庭の事情で大分遅い旅立ちであった。
しかしフタチマル、ユニラン、ヒトカゲというカントーでは珍しい2匹を初めから手持ちに入れていた為情報アドバンテージの差もあって自分よりも強いトレーナーにだって勝てる事が多く順調だった。
ユニランを初めて見て何故かどくかゴースト、あるいはノーマルタイプだと思う人が多いのは今考えても謎だ。
基本的に旅で苦戦したことは無い。むしろ寄り道をしてその地の歴史ありそうな部分を探索する余裕もある。
しかしチャンピオンへ至るための大会は別だ。
18歳の時に準決勝、残り4人というところが私の最高成績で限界だった……
「あ。そうだった。この纏め途中だったな……別に誰かが読むわけでもないしいらないかな」
「ラーン?」
「ううん、無駄ではないよ。ウチ自身の事とはいえ書くことで忘れてた事を思い出して整理できることもあるからね。
さて、面倒だけれど取材を受けに行こうか」
この世界にはポケモンがいない。いや、いなかったらしい。
急にポケモンが現れ、ウチは気付かない内に急に現れたポケモン達と一緒にこの別世界に流れ込んでしまったようだ。
気付いたのはフィールドワークを終えた日だから2週間くらい前になるね。
・
○月×日
船でホウエン地方へ行く日。
最後にホウエン地方へ訪れたのが10年以上前だったか。
到着が近付くにつれて空のキャモメの数が増えていく。
その数があまりにも多く、船の先頭で前後左右どこを見ても空のどこかしらにキャモメがいる光景はホウエンの人にとってキャモメがポッポやムックルなのだなと再認識させるのに十分なほどの衝撃を与えてくれた。
○月○日
今日はシロナさんの紹介状もあってチャンピオンのダイゴさんと話をした。
別のではあるものの、この人もシロナさんと同じで伝説をその目で見ていると考えると複雑だ。
何故ギンガ団の活動と、今後の考古学者としての運命をかけたシルフカンパニーとの戦いが重なるんだ。
おかげでシンオウ神話に出てくる神々のお姿を見ることは叶わなかった。
この心境を書き続ければ論文ができてしまうほど書きかねないのでここで区切る。
ダイゴさんが大の石好きという話しは有名なので母方の実家から送られてきたはねのカセキを渡したらお礼にといろいろ候補を出してくれたのでココドラのたまごを貰うことにした。
×月×日
キッサキ神殿にある古代文字と酷似している文字が使われている海底洞窟に辿り着いた。
今日からまた長いキャンプの始まりだ。
×月◯日
まさか野生のアーマルドがいるとは思わなかった。
それもウチの知るアーマルドよりもあきらかに大きい特殊な個体だった。
そのアーマルドからしたら広い縄張りの端っこだし出ていくなら放って置こうというつもりだったのだろうけど、あまりにも長く入り浸っているものだからこの場所が自分の物だと主張しに来たのだろう。
なのでドサイドンで薙ぎ倒した。
ウチのドサイドンは強いから「何の訓練も受けていない野生のポケモンなんかにタイマンで負ける訳無いだろ」という本ポケの主張も普通に受け入れられるのだけれど、身内贔屓を抜きにしたトレーナー目線だとあのアーマルドは間違いなくチャンピオンリーグへの挑戦資格をかけた通常のリーグ参加者レベルならば苦戦を強いるだろうと思わせるくらいには高い実力の持ち主だった。
この場所は辿り着く事が非常に難しいので危険地帯とされていたのだけど、あのアーマルドを見る限りシロガネ山と同じ意味でも危険地帯認定しても良いかもしれない。
レポートの提出の際にその事も学会と協会に報告しておこう。
×月□日
貰ったたまごから元気なココドラが飛び出したのはとても喜ばしいことなのだけれど正直ゴメンね、こんな薄暗いジメジメとした場所で。
と、最初は思ったのだけれど、よく考えれば野生のココドラが生息している場所的にこの場所はわりと普通なのかもしれない。
コレがサイホーン等なら話しが変わってくるがココドラは鉱山に生息しているのだからね。
産まれたばかりのこの子の面倒を見ながらになるから調査のペースは落ちるけれど、ウチの子になって良かったと思ってもらうためにしっかりと愛を注ごう。
×月△日
今日も今日とてアーマルドが懲りずに来るのでリザードンとドサイドンに相手をしてもらった。
ボコボコにしたアーマルドにオボンの実を食べさせながらいつも通り戦闘のアドバイスをしようとしたのだけれど、それを遮り「付いてこい」と言ってきたので背を追いかける。
普段であれば自分の中で決めてるここまでという場所を余裕で飛び越えその先まで連れて行かれ、どう見ても現代の技術では再現が難しい極小のエネルギー炉で稼働しているだろう人工の自然広場のような場所に辿り着いた。
おそらくはウチが専攻として調べている巨人が創ったであろうその場所は海底洞窟の奥だというのに苔に覆われたエメラルドグリーンの美しい谷のようにも見える場所で、緩やかな流れで透き通るような美しい川も相まってここが海底洞窟内だという事実を忘れそうになった。
その川にはアノプスの姿も確認できたので間違いなくここがこの巨大なアーマルドがボスとして君臨している場所なのだろうね。
しかしこうなってくるとこのフィールドワークで得た情報の発表は慎重にならないといけないね。
来ることも危険だし生息するポケモンも物凄く強いとわかっている場所でも身の程知らずの密猟者はやってくるからなぁ……
個人的な心情を言えば自己責任だし密猟は普通に犯罪だから密猟者が何人ポケ災や自然災害で死のうがどうとも思わないのだけど、そうなると巡り巡ってこの場所を公表したウチが悪いって何の関係もない人が騒いでいくら気にしなくても協会が気にし出して聞き取りになると面倒臭いんだよね。
△月×日
この海底洞窟に来てから一月が経過する頃であり、もう手待ちは腹にも溜まるクソ高栄養価ポロックを除いたまともな保存食が尽きてしまう。
まだまだ見たいところは多いが次は111番道路の方を調べる事になっているのでそれはそれで楽しみだ。
その前にフエンタウンで温泉に入ろう。
毎日体を拭いてはいるもののやはりお湯につかりたい。
・
その事件は連日ニュース番組に取り上げられていた。
突如として海に未知の生命体が大量に発生した。
その生物達により漁業は完全にストップし、季節は夏であり海水浴場も本来あるべきではずの賑わいが失われ現在は報道や警備の者の姿しか見受けられない状態である。
連日繰り返し報道される謎生物の報道は海水浴場の事も取り上げられていたが1週間も経てば海水浴場を取り上げる局は姿を消していき漁業界隈に関する経済的影響といった内容が殆どになる。
さらにその数日後には海だけでなく空にも未知の生命体が発生し始める。
空に発生した影響で謎の生物達が身近になり、そちらをニュースとして取り上げるのは当然なのだが一部の局はごく僅かな時間でも海水浴場の状態を流そうとしている。
そんな中でその光景を撮影できた局の関係者は幸運だっただろう。
「(ダイケンキ、メガホーン)」
もう少しで砂浜にたどり着くというところでサメハダーが追い付く方が早いと判断し、海中で声が出せないため僅かな視線の動きとハンドサインにより指示を出し、サメハダーを打ち上げ空高く飛ばす。
それだけで十分。
必要以上に傷つける必要は無く、ダメージを与える事以上に高く空へと飛ばす事に力を注いだダイケンキは素早くカミラの元へと戻り先へ進む。
「ふぅ~……本当お疲れ様だねダイケンキ。
一月も籠もってから海水浴したら流石に臭いスゴイ事になっていそうだね。
ふむ、どう?ウチ臭う?……何も言わないは偉いけど、露骨にそっぽ向くのは答えでしかないよ?」
あの日から海に増えたサメのような謎の生物が大きな音を上げて空へと打ち上げられ、その数分後これまで目撃された謎の生物とはあきらかに姿の異なる大型の生物を引き連れ、1人の女性が海から上がる。
光の加減で金色に見えなくもない茶髪をしたその女性はゴーグルを外し疲れた様子を見せながらもその謎の大型生物に親しげに話しかている。
「すみませーん!」
そんな女性の様子を目撃していた報道陣や警備の人達は当然混乱し動けずにいたが、正気に戻り一番最初に彼女との接触を試みようと行動に移したのはそれなりに経験を積んだ男性カメラマンだった。
彼が大声で呼びかけるも女性は自分が呼ばれているとは思っておらず、タオルで軽く手を拭き、続けて謎の生物に背負わせたバックパックをあさりはじめた。
するとバックパックから浮遊する説明しずらいオモチャのような物が飛び出し、彼女のその動作から浮遊するスマホの類似品だとわかる。
「すみませーん!」
最初は大声で呼びかける事しかできなかったが、2度目は呼びかけながら近付く事ができた。
その時男性の仲間である報道陣メンバーは5人いたのだが、後に続こうと動けたのは1人だけだった。
報道陣だけではない、警備の人も存在を認識しながらも動けない。
単純に怖いから動けない。
本来なら止めに入らなければならないところなのだが、2メートルありそう(オヤブン個体と普通の個体の中間くらいの大きさ)な生物に近づこうとしている男性を止める事ができない。
2度目の呼びかけ、それに近付いてきて周囲に自分以外の人物がいないとなれば気付かないわけもなく女性が振り向くも男性を見て表情を曇らせる。
「ん?……カメラマンさんかい?
すまないけれど、ウチは今疲れているから取材にしろ撮影にしろお断りさせてもらいますね」
「いえ、はい、取材では、いえ、取材といいますか、質問を……「グウゥ……」ひっ!?」
「ありがとうダイケンキ、行こっか。
……(初対面だし向こうから声かけてきておいて何なのあの目、気に入らないね)」
間に入り守ってくれたパートナーへ軽くお礼を言いシャワーの設置されているであろう場所へと向かう彼女に声をかける者は誰もいない。
正直に言えばカミラは砂浜に上がった直後にはこの場の違和感を強く感じていたのだが、唐突に側に来て自分のパートナーへ向けてきた目、何度も見たあの目。
自分の実力に絶対の自信を持つトレーナーが一方的に敗北した時に稀にする事になる恐怖の色の目。
受け入れ難い現実を目の当たりにして同じ生き物ではない、バケモノとでも言いたげなその目と同じ色の目を、自分から話しかけにきておいて心当たりも無いのにそんな目を向けてくる失礼極まりない男性。
普段の彼女なら「(ボールも持ってないしポケモン恐怖症なのだろうね、今時珍しい)」と流したかもしれないが、今は一月にも渡るフィールドワークの疲労が重なった状態。
そんな状態で普段ですら思うところのある嫌な色の目を向けられ、自分の中で小さいながらも確かな怒りを感じ余計なトラブルを起こさないためにも即座に会話を切り捨てた。
本来であればすぐに気付けたであろう違和感の正体を思考するだけの余裕と一緒に。