ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性 作:メリルメリルメリル
ゲートから姿を現した幼さの残す少女。
その少女は骨まで震えてしまうような大歓声を前に足を止め、誰がどう見ても緊張に飲み込まれているのだとうかがえる。
うつむき、足を止めた。
その時間は1秒ほどだろうか
強い熱を宿した瞳を好敵手へと向け、迷いを断ち切り覚悟のまま歩み出す。
「久しぶりやな!イブキ!」
「驚いた……あなたにも緊張なんてものがあったのね」
「なんやそれ?馬鹿にしている?」
「いや、そうじゃなくて……そう言えばあなた、リーグ初出場だったわね。
ここから先は人が桁違いに増える。けど、ソレが理由で力が出せないなんて許さないわよ?」
「当然!今度は勝たせて貰うから覚悟せい!」
互いにボールを構え、割れんばかりの会場に静寂が訪れる
「これより3対3による試合を行います!始め!!!」
「いけぇ!サイドン!」
「やりなさい!ハクリュー!」
同時に投げ空へ放たれた2つのボールから互いのポケモンが姿を現し会場に熱が再び宿る。
「サイドン!じわれ!!!」
「跳びなさい!」
サイドンが足を大きく上げ力の限り踏みしめると同時にフィールド全てに亀裂が入り割れ押し潰そうとするも、カミラの指示を先読みし、宙へと跳び、視界の広い上空から「れいとうビーム!」とイブキの指示に答えるように鋭く放たれる。
『れいとうビーム』の指示よりもカミラの「瓦礫を盾にせい!」という声の方が僅かに早く、『じわれ』により無数に創られた割れたフィールドの瓦礫を盾にするのが間に合う。
「凍った瓦礫ごと粉砕しなさい!ドラゴンダイブ!」
「なげつける!」
「っ!たつまきで回避!」
『ドラゴンダイブ』の体勢に入っていたハクリューはそのエネルギーを『たつまき』へと変え素早く空中移動し通り過ぎていった瓦礫は場外にまで行く勢いであったが観客席前のバリアーに阻まれ砕け散る。
「ドラゴンテール!」
「れいとうビーム!」
『たつまき』を纏い素早く移動したは良いモノの、技のコントロールが難しいのか大まかにしか読めない挙動で移動することになった結果、イブキにとって予想以上に近すぎ、カミラにとって予想以上に踏み込まれたとお互いに苦虫を噛み締めるような表情で同時に技の指示を出した。
結果『ドラゴンテール』が先に顎へとぶつかるものの、『れいとうビーム』の発射は許してしまい肩の辺りに命中する。
素人には互角の攻防に見えただろうが、勝敗は付いた。
「しまっ!」
「はかいこうせん!!!」
ほんの一瞬、しかし決定的な一瞬。
顎にドラゴンテールが命中してしまい一瞬ハクリューの意識が飛び、気が付いた時には『はかいこうせん』が放たれる直前であった。
「ハクリュー!戦闘不能!」
「……知ってはいたけれど、その子のパワーは凄まじいわね。
効果抜群とはいえ意識が飛ぶなんて……ありがとう、戻ってハクリュー。
けれど、タスキはつないだわよ」
ハクリューを倒された筈のイブキは不敵な笑みを浮かべ、対してカミラは追い込まれたと表情を歪める。
ぽつり、ぽつりと、それに気付いた次には本格的な雨になる。
ほんの一瞬、意識が回復し己の敗北を悟ったハクリューによる勝利への執念、意識を取り戻し自身の敗北を目にしチームの勝利のため僅かな時間で発動した『あまごい』は、イブキのポケモン達を祝福するかのように強い雨という形で結果を残す。
「以前言っていたわね……
『当たったらじゃない、当てるんじゃ』だったかしら?
ええ、大いに同意見よ!いきなさい!キングドラ!」
空へ投げ出されたボールからキングドラが姿を表すと同時に指を鳴らす音が鳴り響く。
しかしそれを聞き取れたのはみずタイプ複合であるキングドラだけ。
「すなあら「ハイドロポンプ!」
特性、『すいすい』にボールから出た瞬間に使われた『こうそくいどう』、雨による視界の悪さも相まってサイドンにはまるでキングドラがテレポートでも使ったのではないかと錯覚させた。
目の前にいきなり現れたキングドラに対して咄嗟に腕でガードしようとしてしまったのは誰にも責められない。
咄嗟に腕で防ごうとしてしまったのは、生物として当然の反応なのだから。
それもガードに使おうとしたその腕は……
利き腕は、運の悪いことにハクリューのれいとうビームにより肩が凍り付いていた。
だからこそ、イブキははかいこうせんの硬直が済むのを待ってからキングドラを出した。
硬直していたからなんて甘い言い訳ができないよう、自分とカミラでは年期が違うのだと防ぎようのない近距離ハイドロポンプをカミラのエースクラスポケモンの1匹へと情け容赦なく撃ち放つ!
「サイドン!戦闘不能!」
割れんばかりに観客の声が響き渡る。
それもそうだろう。確かにポケモンバトルは激しく派手だが初手が『じわれ』、続けて『はかいこうせん』に『ハイドロポンプ』とここまで派手で大味な試合はそうそう無い。
お互いの体力を削り合うのが鉄則であるというのに、お互い隙を作ってはエネルギーをゴッソリ消し飛ばす大技の連打だ。
「ありがとう、サイドン。
いけ!レアコイル!ほうでん!」
ボールから飛び出たレアコイル、それは姿を現すと同時に3方向へ分離し一定の距離を動きながら『ほうでん』を使用する。
キングドラを近づけさせないという狙いが簡単に見えてくるが、この時のイブキとキングドラはとにかく攻めっ気が強かった。
「キングドラ!なみのり!」
「かみなり!」
『ほうでん』など関係無いと大質量をもって『なみのり』が全てを押し流そうと迫り、それに合わせ雨によって必中同然となる『かみなり』を放つもキングドラは止まらない。
単純にレベルの差が離れている事に加え、イブキとキングドラは初めからいかなる電撃による攻撃が来ようが絶対に止まるつもりは無かった。
これで確実に、何の小細工も許さずもう1匹持っていくという圧倒的闘争心によりレアコイルを飲み込み「続けてたつまき!」という指示により海流の竜巻を引き起こす。
カミラも「ほうでん!ほうでんよ!」と力の限り叫ぶもレアコイルには届かず、海流の勢いにより分離していたレアコイルがまとめ上げられ、「りゅうのいぶき!」とイブキの代名詞と呼べる技によりまとめて弾き飛ばされる。
「レアコイル!戦闘不能!」
あまりにもあまりな怒濤の攻め。
イブキの魅せるそれは、この時のカミラが目指している理想的な戦い方。
ポケモンだけで無く、トレーナーとしての経験が圧倒的に離れていると認めざるを得えない。
「ありがとう、レアコイル……ごめん、何もさせてあげられなかった……」
それでも、マントをなびかせ涼しい顔をしキングドラを従えるイブキを睨むカミラの瞳は死んでいない。
むしろ熱く燃え上がっている。
そして、カミラ達がこの試合映像を選んだ理由が映る。
「頼むで……ランクッ!?」
ランクルスのボールへと伸ばす手が止まる。
「……………」
入場してきた時のようにカミラが微動だにしない。
かと思えば「何が起きたかわからない」
そう物語る唖然とした表情で自身が選び手に取ったボールを見つめ………
胸の辺りで固くボールを握りしめ魂を込め
燃え上がる意思で居抜き貫き通せるよう、
狙いを合わせるように力の限りボールを突き出したのだ。
見栄のためにこの動作をあらかじめ練習していたとかではない。
自分でも何故そんな行動をしたのか理解できない。
だが、そこには力があった。
少なくとも、笑みを浮かべていたはずのイブキがその笑みを引っ込め、極限の集中状態に入ったかのように、一段格下のカミラが、イブキからその状態を無理矢理引き出させる程の力が。
「貫き燃やせェヤ!リザードン!!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
最後の1匹、コレが最後。
「……正気?最後の1匹、この雨の中で普通リザードンを選ぶ?」
「なんでやろうね?何でか、自分を出してくれってウチのリザードンが叫んでいるような気がしたんよ」
当然この時キーストーンなんてモノは持っていない。
だというのに、共に、必ずやあの強敵を越えるという熱い闘志が通じ合っているのがわかる。
どうしてもランクルスやフタチマルは家族という印象が強い。
あの旅立ちの日
あの時選んだヒトカゲ、リザードンこそが1番最初の戦友なのだと決定付けた瞬間。
「キングドラ、なみのり!」
「高くとべぇ!リザードン!」
再び雨により強化された『なみのり』が襲いかかり、完全にはできなかったがそれを飛んで回避する。
なみのりに体当たりする形になり全身を濡らしながらもなんとか沈められる事から回避し空へ逃れた。
「甘い!」とイブキが口にすると同時にキングドラはその超スピードでリザードンの背後にピタリとつき、リザードンにその首をわしづかみにされる。
「なに!?」
「甘いのはそっち!」
リザードンはキングドラを見ていなかった。
ただただカミラのみを見ており、カミラの指が指し示す場所へと手を伸ばし、カミラを信頼し掴んだ。
「ちきゅうなげ!!!」
わしづかみにしたキングドラへ『ちきゅうなげ』を仕掛け地面へと叩きつけるがそれよりも早くイブキによる「地面にハイドロポンプ!」という指示が飛び、その指示は間に合い『ちきゅうなげ』のダメージはほぼ無く終わるもののそれも想定通り。
相手はイブキなのだ。不意を突かれたとはいえそれくらいはやってのける。
「ぼうふう!」
これも雨により必中と言って良い規模になっている『ぼうふう』であり、そうでなくてもあの状態のキングドラになら当てられていただろうが今はそんなことどうでも良い。
重要なのは、時間を作れたという事実のみ。
「にほんばれ!」
リザードンが叫び、キングドラが『ぼうふう』から解放されると同時に強い日差しが1本、雨雲を貫き、完全に雨の恩恵が完全に失われる前に押し潰すという強い意志を込め「なみのり!!!」と、イブキはこの試合が始まってから1番大きな、試合中初めて叫ぶような声で指示を出す。
迫り来る『なみのり』はやはり強く、大きく、恐怖を駆り立てるのに十分なモノだ。
未熟な過去のカミラなら、焦って指示を出すのが普通で、実際に何で自分は指示を出さないのか疑問に思っていた。
心はこんなにも焼け焦げるように熱いのに、頭はなんでこんなにも冷静なんだろう?
そして、天気が完全に晴れ渡り、雨の空気から晴れの空気へと変わる。
「ブラストバーンッ!!!」
天候の力がひっくり返り、ギリギリまで引き寄せた『なみのり』を貫きキングドラを弾き飛ばす。
「キングドラ!戦闘不能!」
一瞬とはいえ一度目のなみのりを受けた事で特性『もうか』をも発動した晴れのブラストバーンは驚異であったなみのりを真正面から打ち破った。
「お疲れ、キングドラ。
……はぁ、まさかこんなにも早くこの子を出すことになるなんて思わなかったわ。
誇りなさい、カミラ。この子を見せるのはアナタが初めてよ!いきなさいボーマンダ!!!」
ボーマンダは姿を現すやいなや「やっと出番が来た」とばかりに大きな咆哮を上げる。
「ボーマンダ。確かホウエン地方の……初めて見た」
「互いに最後の1匹ね。反動技の硬直で何もできず終わりなんてつまらない事はしないわ。
なんせ、雨の中ならキングドラの方が強いけれど、雨さえなければこの子が最強だからよ!」
2度目の咆哮。ビリビリと肌が震え、ウチの笑みが深まり熱も更に熱くなる事を感じる。
だが、熱くなりすぎて幼いカミラは気付けない
笑顔を浮かべているというのに
映像越しでもハッキリとわかるほど、自分が涙を流しているということに。
「ブラストバーン!!!」
「りゅうせいぐん!!!」
お互いの最強技という強大なエネルギーのぶつかり合いでフィールドの全てが震え
やがて
リザードンの『ブラストバーン』がボーマンダの『りゅうせいぐん』を貫き消し去る。
「やっ「すてみタックル」
りゅうせいぐんを貫いた『ブラストバーン』を突き破りボーマンダの『すてみタックル』がリザードンの腹に直撃した。
「あっ……」
「リザードン!戦闘不能!よって勝者、ドラゴン使いのイブキ!」
観客の声が爆発するかのように響いて当然の場面。
実際映像を見ている人達からすれば観客の声しか聞こえない。
「来年、あるいはもっと先になるかもしれないのだけれど……」
その声は周囲の声に比べるとあまりにも小さな声だというのに、幼いカミラの耳にはイブキの言葉以外は届かない。
「先に、チャンピオンリーグで待っているわ」
その時の言葉を今でもカミラはよく覚えている。
イブキは本当に優勝し一足先にチャンピオンリーグクラスの挑戦権を獲得して、
負けて悔しかったけれど、それでもこの敗北はカミラのポケモントレーナーとしての実力を飛躍的に高めた。
・
「あ。そうだった。この纏め途中だったな……別に誰かが読むわけでもないし、いらないかな」
机の上に置かれたメモ書きを手を取る。
「ラーン?」
「ううん、無駄ではないよ。ウチ自身の事とはいえ書くことで忘れてた事を思い出して整理できることもあるからね。
さて、面倒だけれど取材を受けに行こうか。
あ、今日は取材というか撮影がメインか。
撮影って事は………はぁ~。あ~あ。本当になんであの時流すための映像としてイブキに負けた時のモノなんて選んだんだろう?
確かにウチにとって大きな糧になったけどさ、好き好んで何度も何度も自分の負け試合を見たいなんて思うわけないじゃんかさ~。
どうせ今回もじっくりコトコトお茶の間放送で自分の負けを解説しなくちゃいけないんだよ?
何の罰ゲームなのさコレ?自分が悪いのはわかってるんだけどさぁ~あ~あ~足重い~。
お兄ちゃんサイコキネシスで運んで~……旅に出たい~冒険がしたいよぉ~」
「グレイシィ」
「……うん、そうだね。
マスコミの情報網があればポケ災の場所いろいろ細かく手に入るもんね。頑張ろう!
気ぃ引き締めいやウチィ!」
勝手なイメージなのですがイブキやワタルはシロナより歳下だと思っているので対戦相手に同性のイブキさんを選びました。
そう思うのはたぶん作中の言動が影響してるんだと思う。
本編で20歳そこいらならかなりの負けず嫌いで社会経験が慣れてきた頃というのもあってあの言動もあるんじゃないかと思える。
ふきとばし等が応用することで攻撃技として作用するなどの描写がアニメで昔あったような記憶があるのでドラゴンテールも直撃させたり応用する事で強制交代をさせずにすみます。
だいたい週1に1くらいのペースで投稿するつもりでしたが年内に切りの良いところで終わらせられると判断してまとめてドバッとあげたんで書き溜めが無くなりました。
皆さん良いお年を~