ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性   作:メリルメリルメリル

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少年とココロ

 

 考古学者なポケモントレーナー

 

 それは超有名動画配信サイトに登録されているアカウント名であり、チャンネルに登録している人達は当然のようにそのアカウントこそが異世界人であるカミラ本人のものだと知っている。

 

 ネット上でのカミラの印象はやはりというか、あまりよろしくない。

 本人は慣れているのか特に何の反応もしないし気にした様子も無いのだが、いくら本人が気にしていなくても事態が収まる事はなく、カミラに対する暴言やある事無いことの心無い発言はSNS内でいくらでも出てくる。

 

 出てくるのだが、そういった発言を目撃すると大炎上している光景もセットで見ることになる。

 

 何故炎上するかと言われれば、その悪意ある発言に便乗する者と、姿は変わってしまったものの家族同然であるペットに対してどうすれば良いかと親身になって答えてくれるカミラに救われた者達で対立が起こるからだ。

 

『素晴らしい、良い判断だったよ。その習性はアナタに対する親愛の証だから受け入れてあげて。

 確かに後片付けが大変なのはそうだけど、してくれるソレ事態がアナタに対する信頼の証し。

 逆に何年経ってもしないようならその子に何かしてしまったんじゃないかと考えた方が良いかもしれないね。

 個体にもよるけれどと前置きが入るのだけど、その子が嫌がりそうな事となると………』

 

『その子はでんきタイプだから何もない公園なんかでゴムボール等を与えて発散させてあげると体も動かせるから良いんじゃないかな。

 何度も言っている事だけれど、その力はずっと押さえ続けられるものじゃないから月に一度でも構わないから発散させてあげることが重要だよ。

 逆に不足気味な様子なら乾電池なんかを与えると良いかもね。

 注意点としてはあげすぎると太ってしまうからコンセントから直接は駄目なのと…………』

 

『その子は毒を持っています。

 アナタはその子のパートナーなのだからその事をしっかり本人に教えて自覚させなさい。

 それを知らないでいつの日か甘えた拍子にアナタの事を毒で苦しめてしまう時が来てしまうかもしれない。

 苦しむと言ってもアナタは軽いめまいや嘔吐で済む問題で、その子の事を愛しているなら許してしまえる程度の苦痛でしょうね。

 でも問題は苦しめてしまった本人の心だよ。

 本人が受ける心の傷は、アナタの事が好きであればあるほど大きなものになるでしょう。

 所詮は軽い病気のような症状ですので時間と共にアナタの記憶から抜け落ちていくかもしりません。

 しかしいくらアナタがそのことを忘れようとも、その子はアナタにしてしまったその時の事を忘れることは決してありません。

 その子を愛しているのなら目を背けないであげて、その子は必ずアナタに答えてくれる。

 毒に関しては食事で弱めることもできるから、そのこともしっかりと伝えて…………』

 

『その子が手に入れたのは炎を操る力だけじゃない。頭も凄く良くなっている。

 確かに炎は怖いかもしれないけれど、その子を怖がらないであげて。

 そして忘れないで。

 どれだけ姿形を変えようとその子はその子自身が受けたアナタの愛を忘れていないから………』

 

 このように、

 海に向かって沢山のビームを放ったその日からカミラはどんな内容でも細かく答えを返し続けていた。

 

 確かに生放送はメンバーに入らなければ見れない為有料制なので批判する側の「独占している情報を小出しにして儲けようとしている」という言い分も間違いではない。

 カミラもわざわざ元の世界と通貨が違ってお金がないから有料にしていると発言していないのでチャンネル登録者の数からして大金が入るだろうと想像できてしまうので守銭奴と言われてしまう。

 

 だがその配信で答えた重要だろうと判断した内容は必ず切り抜いて纏めた映像を誰でも見れるようにカミラ自らアップロードしている。

 その切り抜きの手間や、チャンネルにその都度上げられるポケモン界きのみの育成、周辺のポケモン生息域調査進捗等の配信外での活動内容の量。

 どう考えても一人でするにしては多すぎる量からカミラはSNSまで長くしていられる程の暇が無いというのは生放送常連者達にとって共通認識となっている。

 

 そんなカミラの行動は若い世代を中心に、僅かながらではあるが確かに受け入れられる方向へと向かっていた。

 その中でも家族がポケモンになってしまった者、カミラから助言を受け解決した者は特にだ。

 

 

 ペットがポケモン化する。 これは社会に大きな混乱をもたらしている。

 

 

 しかしそれによって奇跡をその目で見た者も中にはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、ココロ………」

 

 男子高校生である赤司が産まれた時に飼う事になった赤司と同い年の愛犬ココロが息を引き取った。

 16歳とココロは長く生きてくれた。

 

 正に家族同然であったココロをその日の昼頃に火葬する事になったののだが、

 

 火葬を行っている最中、奇跡が起きた。

 

 

 移動式火葬炉が火葬中に中から「ドン!ドン!」と音がしやがて中から扉が破られたのだ。

 

 

 周囲の大人は悲鳴を上げたりしたが事態は進んでいく。

 火葬炉の炎が獣の形を持ちはじめ、目映いほどに光り出す。

 

「……ココロ?」

 

 この時何故か赤司にはそれがココロなのだと、頭は混乱していたが自分の中のなにかがそうなのだと確信していた。

 

 やがて光が弾け、その姿を現す。

 

 生前はかわいらしい間抜け面だった。

 目の前にいるのは大きくて、どこまでも凜々しく美しいその姿はあまりにもココロとはかけ離れていた。

 

「ココロなのか?」

「わん!」

 

 だというのに、知れば知るほどコイツはココロだった。

 癖や、どこを撫でられたら喜ぶか、イヤイヤする時にせっかく美人になれたのに不細工になったり。

 

 こうなれば当然、何故ココロがこうなったか調べ、その手の専門家らしき人は簡単に出てきた。

 

「考古学者のポケモントレーナー……あ、カミラさんってニュースに出てきたあの人………」

 

 7匹の強大な力を持つポケモンを従えた、

 この世界で唯一のポケモントレーナーの存在を赤司は知ることとなった。

 

 ニュースの取材を受けていた時の物腰柔らかではあるものの、つかみどころのわからない女性という印象は一瞬で崩れ去った。

 どこまでもポケモンと向き合い、何年も共に戦ってきたと感じさせる強すぎるその存在感は、海にビームを放ったどのポケモンより彼女自身の方が大きく強かった。

 

 多種多様なポケモンを従えたその女性はポケモンに関する知識を教えると言っている。

 

 高校生である赤司でも今の世間の混乱はよく知っているし、そういった貴重な情報は国の組織が整理とかしてから発信されるモノではないのかと思い至る。

 

 赤司ですらそういう考えに至るのだから学者だというカミラさんはよほど悩み抜き、その果てに答えると決めてくれたのだろう。

 自分の身内が今正に、その混乱の結果、奇跡が起きてポケモンとして蘇った。

 嬉しいことだが凄く悩んだ。

 これまでの学生生活、高校の進路の選択を含めた何よりも悩んだ。

 それでもポケモンとは何か、今のココロはポケモンの何なのか答えが出ない。

 

 

 縋るように相談を動画と共に送り、その想いはすぐにカミラの眼に入る。

 

 

『「死んだ愛犬のココロが火葬の際に炎の体になって光り始めたら蘇りました?これはポケモンでしょうか?」えっと?ゴーストタイプって事???

 う~ん……あぁ、悩む前に動画を見ないと話にならないよね。

 ……………え?わっ!すご、凄いよ!この子はね!ウインディって言ってね!

 でんせつポケモンなんて言われるほど多くの伝承があるんだよ!

 流石に死んでからウインディになって蘇ったという話しは初めて耳にしたけれどこのポケモンなら嘘だと言い切れない強い説得力があるし合成じゃ無ければ間違いなく歴史に残る新発見で凄く価値の高い映像だよコレ!!!凄い!凄いっ!!凄いよ本当に!!!』

 

 異世界人でありこの世界で唯一無二のポケモンの専門家といえるカミラさんは合成である可能性を口にしていたが、誰がどう見ても興奮を抑えきれないといった様子で絶え間なくウインディに関する伝承をまるで呪文の詠唱かのようにスラスラと語り、視聴者を置いてけぼりに何度も何度も再生を繰り返し、スロー再生、拡大し逆再生するといった事をしていた。

 

『あっ…………コホン、いくら貴重な映像であったとはいえ、大切なご家族の火葬の映像を食い入るように見てしまい親族の方々にご不快な思いをさせてしまったこと、深くお詫びします。

 誠に申し訳ありませんでした』

 

 絶え間なくウインディに関連する伝承の詠唱をしていたが、30分程して冷静さを取り戻したカミラさんはカメラの前で姿勢を正すと深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

 

 その後ウインディの習性などを細かに説明し、すぐに見返せるように切り抜きを用意する約束と、アーカイブも残す予定なので口にした伝承に関しても後で確認することができ、気になった部分があるなら遠慮せず聞いてほしいと優しく語りかけてくる。

 

 そして最後に赤司の中にあった突っかかりを取り除いてみせた。

 

『ここに書いてあるけど、コレって要するに動物がポケモンにしんかするなんて知らない状態だったのに、なんとなくウインディが、この子がココロくんだってわかったって事だよね?

 ああ、疑っているとかじゃないよ。

 ウチにも覚えがある。 それは優れたポケモントレーナーなら誰しも経験することだからね。

 うん、わかるよ。怖いんだよね。 自分が自分でなくなる感覚。

 自分と親しいその存在と本当に繋がってしまったかのような、自分とパートナーの境界線というか、自分自身の存在に矛盾を感じるあの感覚は誰だって怖いし意味のわからないものだもの。

 けれど、だとすればアナタとココロくんの絆は唯一無二、何が起ころうと断ち切れるものではありません。その子の事、大切にしてください。ココロくんもアナタの思いに全力で答えてくれるはずだから』

 

 驚く事に、あの時感じた謎の直感を言語化され、不思議なくらいストンと自分の中に収まってしまった。

 そして何故自分がこうまで今のココロを知ろうとしたか理解した。

 怖かったんだ。

 カミラさんが言ったようにあの現象が全く訳がわからなさすぎて、ココロが蘇ったという希望の光が強すぎて隠れてしまっていた正体不明のソレが『恐怖』という感情であったことにすら気付けず何で自分がこんなにも必死になっているのかもわからないでいた。

 

 そして同時に理解した。

 ココロが何で奇跡を起こしてポケモンになってまで蘇ったのか。

 

「お前は……俺が心配だったのか………」

 

 あの時確かに赤司とココロは繋がっていたのだ。

 そしてココロの魂から感じたのは強い心配の気持ち。

 自分だけ先に大人になり、これからようやく赤司が大人になろうとしている大切な時期に残してしまうというその心配、愛情がココロを『しんか』へと至らしめ奇跡を起こした。

 

 全てでは無いにしろ、何故奇跡が起きたのかなんとなく理解しスッキリとした気持ちとなった。

 

 スッキリとしたものの、赤司とココロは新たにポケモンとパートナーという関係のスタートラインに立ったばかりだ。

 それからほぼ毎日ココロと些細な謎に直面しその度に質問を送るようになっていた。

 

 

 カミラの配信は1つがポケモンの勉強、もう1つがロトムアプリというモノで質問をある程度厳選し、その中から優先度の高い内容を選んで答えていくという2種類となっていて、現状全ての配信のアーカイブが残っている。

 

 ココロの事を答えてもらってから現状出ている全てのポケモンの知識を覚え、その後の配信も必ず見るようにし1つでも多く今のココロの事を、ポケモンの事を理解できるよう努めた。

 

 当然配信を待つだけじゃない。ココロと話し合い沢山のことをした。

 リードを付けて散歩コースにある公園まで行き炎を吐く練習をさせたら本当に出たり。

 流石にココロが大きすぎるのでモンスターボールを探しに少し遠いがチャリで行ける一番大きな公園を探し回り、配信で見た特殊な『きのみ』や『きずぐすり』ばかり見つかり、これらが見つかるならと本気で探し回り家の近所のポストの下に何故かポツンと置いてあったモンスターボールを発見したりといろいろあった。

 

 そんな時、SNSでとある書き込みを目にすることになった。

 

 それはポケモンバトルをしてみないかという内容だった。 

 場所は2時間ほどかかりほどほど遠い。どうやら牧場の動物がポケモン化しているらしく、その中の1匹が特に力を使う欲求が強いらしく困っているのだと記されていた。

 そこには具体的にどんなポケモンなのかも複数の動画と一緒に記載されていて、

 

 2足歩行している牛っぽいポケモンに混じって牧場を走り回っている2足歩行の頭と尻尾の先に赤いしんじゅを付けた黄色いポケモンの動画。

 

 牧草を他の牛に配るのを手伝いつつもつまみ食いをする黄色いポケモンの動画。

 

 牛っぽいポケモンが自分で乳を搾り自分で置き場に持ってくるのを整理している黄色いポケモンの動画。

 

 怒っている様子ではないが力を持て余しているらしくドシドシと何もないところで電気を放出しながら地団駄を踏む黄色いポケモンの動画。

 

「なあココロ、どうする?」

「はっ、はっ、はっ」

「そっか、わかったけど重いって」

 

 目をキラキラとさせ、前足でポカポカと行きたいと訴えかけてくる。

 やっぱりバカっぽい感じなのだけど、こう見えてポケモン化してとても頭が良くなった。

 まず普通に文字が読め、だからか文字を読んでその先で何が起こるか悟ってイヤイヤしたり。

 会話の内容を理解し今の自分の立場を把握し俺の側を離れようとしなかったりいろいろだ。

 

 そんなココロの意見を尊重して行く事に決めた。

 

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