ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性   作:メリルメリルメリル

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未熟なトレーナー

 

 炎を全身に纏い振り下ろした前足と鋼のように変化させた翼が空中でぶつかり合う。

 

 ポケパワーのぶつかり合いで発生した風を追いかけるように反発しあい着地するとお互睨み合う。

 

「グルルルル……」

「……クアァ?」

 

 ココロの言葉に相手が反応する。

 俺はココロから「どうしてもしなくては」という気持ちを感じていたのだが、この事件を起こした黒幕にやめるように説得しようとしていたのだと理解する。

 

 ココロの目的を理解してしまった事により(ここまでの事をしでかした相手に説得で解決しようとするとか流石に嘘だろ?)と赤司は自分の熱が少し下がり、下がった分だけ冷静な部分も現れて(あ、もしかしなくてもやっちまったか?)という気持ちが出てくる。

 出てくるが、ここまで来たからには見届けるべきだと見守る事にする。

 

「ガヴァ、ガウ」

「クアゥ……クワァー?」

「ガウァ!グァ!ガアア!」

「(………?)」

 

 言葉はわからない。けれどなんとなく、ココロが何を言おうとしているのかがわかる。

 わかるのだが……

 

「クワーッ!!!」

 

 ココロが鳥ポケモン達のボスを睨みつけながら投げかけたその言葉に対し怒りを見せた周囲の数百はいそうな配下達がこちらに攻撃を仕掛けようとした。

 それをボスは一声で抑えてみせた。

 

「クア、クワァ、クワクワァ」

「ガウ!?ガァ、グアァ!」

 

 ボスの言っている言葉は全くわからないのだが、ココロの話す言葉でどんな内容を会話をしようとしているのか察することはできた。

 

「(カミラさんの言っていたポケモンは強いけれどその反面純粋すぎるっていうのはこういう事か)」

 

 ココロの言い分は、持っている者、恵まれた者にしか通じない。

 持っていない者、貧しく奪う以外に手にする手段を持たない者にはその言葉は意味をなさない。

 

 いくら頭が良くなろうと知っている範囲でしか物事を考える事ができず、一緒に映画等を見て新たな価値観の存在というものも吸収しているだろうがそれでもポケモンになってから一ヶ月しか経っていない。

 高校生で経験も何もかも足りていない赤司の目線でもココロの言い分はあまりにも純粋すぎて、『こんな大それた事する必要なかっただろ』と叫ぶ様子は『そうするしかなかったからそうした』という可能性を思いつきもしてしない。

 

「(まさかゲームやアニメの知識がこんなところで役に立つとは思わなかった)」

 

 何のゲームだったか、それともアニメだったか?

 しなくて済むなら初めからしない

 同じ痛みを知らなければ本当の意味でわかりあえない

 それがココロにはわからない。

 

「レッフラくーん」

 

 そう考えていると背後で小さく石どうしをぶつけたような音がして振り向くと物陰に2人と警察官だろう人の姿があって呼びかけてくれていた。

 サンカク丸さんが小さな声だけれど『早く逃げてコッチ!』と必死に訴えかけてきている様子を見て逃げたいと思った。

 思ったのだが、ココロの様子を見る限り引き返すつもりは無いように思える。

 

「……先に行ってください」

「何言ってるの!?」

「……………行こう」

「え?ちょっと……」

「ある程度避難誘導できたら他にもつれてくる。耐えてくれ」

「ありがとうございます」

 

 ウサギ先輩さんが渋るサンカク丸さんの腕を引っ張り下がっていき、一番後ろを警察の人が拳銃をすぐにでも取り出せるようにしながら退避していく。

 

 戻って来るまでの時間稼ぎ。

 ありがとうと返事はしたもののそんな上手くいかないだろう。

 話し合いが終わったら何としてでもココロの背中にしがみついて全力で逃げてもらう。

 

 これだけ多くの鳥ポケモンがいなから皆を見逃したのだから、たぶんココロの足の速さ知ったら他の何かを優先して見逃してくれるかもしれない。

 彼らが何を目的にこんな事をしているかわからないという不安はあるが、そのためにもココロが手下からの不意打ちとかで怪我して走れなくなるなんて事にならないよう警戒しておく。

 

「クワァ、クワワァ」

「グルゥ……」

 

 ボスがココロへと近づく。

 突然敵意らしい敵意が引っ込んだ事に動揺しココロが一歩引きそうになるが踏みとどまる。

 そんなココロを気にした様子もなく近づき、語りかけながらすれ違い、ココロもボスを目だけで追いかける。

 

 その様子はまるで演説やプレゼンテーションといった様子で……

 

「(この雰囲気見たことある!アニメとかで敵の大ボスクラスが甘い言葉で勧誘する時のアレ!

 お前も鬼にならないか?とか、花京院くん、恐れることはないんだよ友達になろう。って感じの敵に力を認められて起こる超有名なアレだ!

 正直何を言ってるんだかサッパリわかんないけど間違いなくアレだ!絶対にそうだ!)」

 

 その演説はココロも思うところがあるようで、最初の威勢の良さが少しばかり鳴りを潜め警戒はしているが大人しく耳を傾けている。

 覚悟決まっている相手だから仕方ないだろうがちょっと弱すぎないかココロ!?

 

 話している内容がわならないので万が一ココロがボスの説得に応じたら最悪……かどうかは内容次第だが、時間稼ぎができるという意味ではこちらにとって都合が良いのでそのまま話を続けさせる。

 

 続けさせた結果、どうやら相手は自分達の生活圏を取り返すことを目的としているらしい。

 他にも多くの種類のポケモン達が向こう側の勢力にいるらしく、その事がとても衝撃的だったのかココロが復唱するように呟いていたので理解する事ができた。

 

「じゃあ何でお前達しか攻めてこないんだ?」

 

 そう疑問を投げかけるとボスはニコッと笑顔を見せ説明してくれるがやっぱり何を言ってるのかわからない。

 

 だが、ボスはその大きな翼を空へ向けたり、まるで劇でも演じているかのような動作を取るのでなんとなく把握する事ができた。

 

 たぶんだが、彼等は元々群れで活動する種族で同じ種族だけで行動するからこそ高い統率が取れ、目標である場所を奪い返すだけなら自分達だけで十分な数がいたから他の者には守りを任せているらしい。

 実際素人でこういった事に疎い赤司の目から見ても、現在自分のいる駅周辺は奪われたと言っても良い有り様である。

 

 彼等だけで行動した何よりの理由は空を飛べるため障害物が少なく、機動力に大きな差があるので他のポケモンを連れてくるとその利点を殺してしまうから……と、言っているのだと思う。

 

 何度でも言うが言語が理解できないから大まかにしかわからない。

 不便過ぎてヤバイ。

 

「クワァー!クワワァ!!!」

 

 ボスは正に「俺達の下へ来い!」という感じにココロへとその手、ではなく羽を向けてくる。

 

「グルルゥ……」

 

 相手の演説を聞き終え完全にやりにくくなってしまったのか、どうしたら良いのか迷ってしまっている。

 

 そんな中、一瞬だが僅かにボスの目線が動いた。

 

「(ん?……………っ!?)戻れココロ!」

 

 動いた目線の方向、空からボスと同じ姿をしたポケモンが見え咄嗟にココロをボールの中に戻した。

 

「ドリューッ!!!」

「………はぁっ!?」

 

 戻したのとほぼ同時、1秒でも遅れていたら地面から現れたポケモンの技が直撃していた。

 

 地中から現れたポケモンの横を通り過ぎ、一度高度を上げ直しボスと同じ姿をしたポケモンが降りて並ぶ。

 その3匹がじっとこちらを見る。

 

「逃げるぞココロ」

 

 ボールから出し直しココロと背中に乗り逃げると伝える。

 

 正直に言うと目の前にいるポケモンという生き物の頭の良さを赤司はまだ舐めていた。

 ココロが側にいて頭の良さを理解しているつもりだった。

 けれど、もしかしたら人間と同等に頭が良いのではとこのタイミングになって初めて気付く。

 

「(………まじかよ。

 ボスだと思ってたポケモンと同じポケモンがもう1体いて、それが空から奇襲を仕掛けてくるのをブラフにして地中から全く別のポケモンが……いや、あのポケモン知ってるぞ!

 モグリューさんのモグリューが進化したらああなって、確かドリュウズ!

 ドリュウズがアスファルト突き破って奇襲してくるってマジかよ!?)」

 

 ウインディであるココロの足の速さなら逃げられるだろうという考えは間違っていない。

 だからこそ心に余裕がありそんな悪態をつくが、赤司はこのポケモン達が人間と同等の頭の良さを持っていると気付いてしまって尚、彼等を舐めていた。

 

 いや、舐めていたというより考え至るだけの時間をポケモン達は与えるつもりがなかったと言う方が正しい。

 

「グルルルルッ!!!」

「どうしたココロ!?………3匹目、だと?」

 

 正に逃げようとした方向を塞ぐように3匹目のボスと同じ姿をした、周囲の無数の下っ端の進化形であろうそのポケモンが優雅に降りる。

 

「クアァ、クワァ?」

「クワッワッワッワ」

「ドリュ、ドリュゥーズ」

「クワァ……」

 

 下っ端だけなら蹴散らしながら進む事もできた。

 だが進化した存在が相手では難しい。

 その事を相手側も理解しているのか軽いやり取りが挟まれるがドリュウズが真面目な性格なのだろう。

 彼が何かを言うと完全に勝ち誇っていた様子が一変し目付きが鋭くなった。

 

「クワァ、クワー?」

 

 先程まで演説をしていた個体が一歩前へ出て再び翼を前に出し仲間にならないかと最後の勧誘を、脅迫をしてくる。

 

 時間をかける事で都合が良くなるのは赤司達だけではなかった。

 目の前のポケモン達も同じ目的で、一目でウインディというポケモンの強さを理解したからこそ仲間全体の消耗を可能な限り減らし、そして確実に倒す為の戦力を整える為にわざとベラベラ目的を話すような真似をしていたのだ。

 

 それも、本当の目的を話しながらその中に少しの嘘を織り交ぜて僅かでも有利に事を進めようと罠を張りながら。

 

「ココロ、大人しく……」

 

 これは無理だと、これまでのやり取りから十分に話の通じる相手だと考え降伏するべきだと提案しようとした。

 

「グルル……」

 

 しかし、背中から降りて見たココロの目はまだ諦めるなと言っている。

 

「ガウゥ、ガアア!」

 

 その手を取る事は別に構わない。

 だがその前に一騎討ちで闘いを申し込む!

 そう吠えると相手は味方になるのなら最後の意地くらいは受け入れてやろうと言いたげに、散々演説等をしてくれた個体だけが前に出る。

 

「待てココロ!」

「ガウガウ!!!」

「…………………わかった、頼むぞコ「ていっ!」イッタァ!!!」

「ガヴゥッ!?」

 

 いきなり俺の脳天に衝撃が入り、ココロが勢い良くコチラに振り向き、俺も頭を叩いた相手の方を見る。

 

「まったく、君はポケモントレーナーでしょう?

 トレーナーであるはずの君がポケモンに引きずられてどうするんだい?」

「グレシィ……」

 

 ソコにいたのは、ここ最近画面越しに散々見た顔の女性で……

 

「か、カミラさん!?」

「やあ。初めましてだねレッドフラットくん」

 

 カミラがおおよそどの辺を拠点にしているか配信で本人がポロッとこぼしていたのを覚えていたため、いるはずのない人物が唐突に現われ混乱した。

 

 ドンカラス達はさも当然のようにフヨフヨと浮かびこちらに笑顔で手を振りながら敵対している人間、赤司へと近付くと頭に手刀を叩き込んだ光景を見せられ、頭の良いポケモンだからこそ謎すぎるその行動に(浮遊してるし同族殴るし何なんだコイツ……)と困惑の極地へと思考が流れ何も行動が取れない。

 

「ふふ。しっかし君は本当、大した才能だよ。

 その才能のせいで君は君じゃなくて君のパートナーであるココロくんになってしまっている事に気付いていない。

 君のその状態は少々歪だけれど絆現象と言われてるんだ。

 まあ今はそんな難しい事は置いておくとして………

 ここから先は、先駆者であるカミラお姉さん達に任せなさいな」

「グレシィ」

 

 浮いていたカミラさんは地面に足を付けるとココロの背中を一撫でし、散歩でもするかのような足取りで前に出るとココロが一騎討ちをしようとしていた相手を真っ直ぐと見る。

 

「ドンカラスが3にドリュウズが1ってやっぱり中々の戦力だよね。

 君達が何でこんな事をしたかはわかる。 ただ、それでもやり過ぎだよ」

 

 空気が変わる。

 画面越しじゃない、本物の闘志を間近で感じ赤司は思わず息を呑む。

 

「ガァ!クワアァ!!!」

 

 その闘志を直接向けられたドンカラス達の変化は劇的で、叫ばずにはいられなかった。

 

「もしかして何で報告が無いかってことかい?そんなの決まっているでしょう?

 ウチ等を目撃した子達には悪いのだけど、ちょっとの間だけ氷漬けになってもらったからだよ」

「クワァーッ!!!」

「グレイシア、ぜったいれいど

 

 名前を呼ばれると同時に肩からグレイシアが降り、指示が出される。

 

 声色に変化は無い。だというのにその言葉には力があった。

 その言葉を聞いた赤司はゾクリと悪寒を感じ、これから何が起こるのか何故か理解できた。

 

 それは赤司だけでなく、怒りを見せて飛び掛かろうとしていたドンカラス達はカミラさんの指示によりグレイシアが全身からオーラのような白い煙を発生させたのを見ると、まるでビックリしたネズミかのような凄まじい勢いで飛び上がり、怒りなど完全に忘れ全力で距離を取る。

 ドンカラスやドリュウズだけじゃない、ココロも嫌な予感を感知したのか尻尾が既に弱気になり全身の毛が逆立って赤司の側へ逃げ寄る。

 

 そして、周囲にいた沢山のポケモン達が、木々が、車が、ビルの壁が凍り付いた。

 

 それは赤司の感じ取った予感の通りの光景。

 助かったのは危機を察知し逃げたドンカラスとドリュウズ、そして味方と判断された赤司とココロだけ。

 

「さっむ………発動まで4.08秒もかかってる。

 練度不足、とてもじゃないけど相手に当てる目的では使えそうにないね」

「グレ!グレイシィ!」

 

 夏の強い日差しで周囲の氷が眩しく光り、雪が舞い散るその中でカミラはドンカラス達へ笑顔を向ける。

 

「大丈夫。ただ凍っているだけだよ。

 夏場だし皆すぐ動けるようになるから手を引いてくれるならこれ以上は何もするつもりはないのだけれど、どうする?」

 

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