ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性   作:メリルメリルメリル

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感謝の形

 

 警察署でのお話し合いが終わったのは夜10時頃だった。

 

 そのままお世話になるという選択肢もあったのだけれど……いや、衣食住の衣という意味では既にお世話になってしまっているか。

 衣じゃなくて住的な意味でお世話になるのは不味い。

 警察関係者が用意してくれる寝床で寝てしまうとそのまま済し崩しに組織行動に巻き込まれてしまい思うように動けなくなると考え、仕方ないので今夜は野営して明日ホテルに帰ろうと考えながら廊下を歩き窓口の方へと出る。

 

「ん?サンカク丸さん?」

「あ、カミラさん。無事に終わったんですね」

 

 窓口付近でエモンガと戯れて時間を潰していたらしく、エモンガを肩に乗せ小走りで近寄ってきたサンカク丸さんがウチと目線を合わせようと少し姿勢を低くしてくれる。

 おかしいな、推定でしかないのだけれど今朝までは彼女よりウチの方が大きかった筈なのに……なんて逃避をしたところで不毛なだけだね。早く受け入れよう。

 

「長かったから心配してて、解放されて良かった。

 ほら、私のせいでずっと捕まっちゃうのかと思ったりして、本当に良かった」

 

 近くに来たサンカク丸さんは心から安堵した様子で疲れは見えるものの柔らかくな笑みと同時に弱音を自然と漏らしてくれる。

 

 私のせいでというのは、たぶんウチがあの小さな島に残ろうとしていたところを彼女が一緒にいてほしいと頼み、それを了承したらだろうね。

 彼女にそんな気はなくても結果的に今まで警察署に拘束されていた訳だし。

 

「捕まっちゃうとは随分な言い方だね」

「え!?いや、今のは言葉のあやで……」

「ふふ、わかっているよ。ありがとう。待っていてくれていたのでしょう?」

「え、はい、どういたしまして……」

 

 照れているところ悪いけれど大人として、そして親しくなろうとしている相手だからこそ叱らなくてはね。

 過去の自分を棚に上げる発言になるけれど、それはそれ、待っていてくれた事が嬉しかったからこそ心配の気持ちは伝えるべきだ。

 

「嬉しいけれども、君は大学生であるようだけれど未成年だとも言っていたじゃないか。

 この世界の常識ではどうかはわからないけれど、こんな時間まで19歳の女性が1人でいるのはあまり感心しないよ? もしすれ違った時は1人で帰るつもりだったのかい?

 結果的にすれ違うことも無かったしウチが責任を持って送り届けるけれど、何かあってからじゃ遅いんだよ?」

「え……あ、はい。ごめんなさい」

「怒ってないよ。待っていてくれてありがとう。……もう一度言うよ。ありがとう、嬉しかったよ」

「え、えへへ……って、そうじゃない!それよりカミラさん!」

「……それより?」

 

 一緒に船に乗ったのは頼られたのもあるけれど彼女の身を案じてという部分が強く、同じく彼女を思って叱ったのを「それより」ねぇ。

 

「いや、その……」

「ふふ、なあに?」

「あの、カミラさんホテルとか取れてます?

 私の家、近い……訳ではないですけど徒歩1時間程度なんで場所が無ければ泊まっていきませんか? タクシー捕まえればすぐです」

「え?………それは助かるのだけど、まさかその為に残っていたのかい?

 警察が用意した場所で過ごすとは考えなかったのかい?」

「考えたけど、そうじゃなくて。えっと……だってカミラさん警察関係者ってそんな好きじゃないでしょ?

「いやそんな事はないのだけど???」

「あれ?そうだったんです???」

 

 耳打ちするかたちで小さくそんな事を言われたもので驚いたよ。

 詳しく聞いてみれば世間的印象としてあまりにも警察と協力しないものだから警察関係者と不仲説が出ていたらしくてコレにも驚いた。

 

 ウチが警察と協力しない一番大きな理由は彼等の命をウチの指示で奪う事になってしまうのを恐れたから。

 どれだけ丁寧に調査方法を教え、聞き飽きるほどに繰り返し禁止事項を伝えた所で危機に直面した素人はやらかしてくれる。

 ましてや小銃なんて物で武装している警察官が向かわせた場所で発砲しようものならポケ災に繋がる可能性が大きいからとてもではないけれど率先して指示を出したりしようとは思えない。

 ポケモンと接する時のコツなんかをマニュアルにして提出もかなり初期の頃にしたのだから少しは形として結果を見せてくれないとそんな気は起きないよ。

 

「他にも沢山理由はあるけれどね」と付け足しつつタクシーに乗るまでの間に説明を済ませると既に経験していたらしくウンウンと深く頷きながら納得した様子で口を開く。

 

「なるほどね~。うん、実際あの鳥ポケモン達に囲まれた警察の人がバンバン!って撃っていたみたいだしカミラさんの予想的中じゃん」

「えぇ?ヤア~ン、怖すぎるよ………本当にそんな事をしていたのかい?」

「見たわけじゃないけど銃声がしたんだよね。私銃声なんて初めて聞いたよ」

「ヤアーン……それ、彼等が銃を知っていたから助かったようなものだけど、そんな大きな音を出したら威嚇行為と判断されて袋叩きになっていても全然不思議じゃないし、最悪の場合死んでいたよ?」

「うわ、そんな危険だったんだアレ」

 

 その後何事もなくマンション住宅であるサンカク丸の家へと到着した。

 

「思っていたよりも大きなところだね」

「そうでしょ~。実は……その前にサンカク丸って呼ばれるのちょっと恥ずかしいから自己紹介。

 清水伊織です。私の事も気軽にイオリって呼んで」

「イオリさんね、わかった」

「さんはいらないんだけどなぁ……」

「じゃあウチもさん付けいらないよ」

「え?じゃあ……カミラ?」

「なあに、イオリ?」

「えっとね、ここで一人暮らしをしてると言っても元々は親が定期的にある2号店?の方に視察なんかをする時に使う場所だから使ってない部屋は資料とか凄いんだよね。

 今のところ一人なのだけど、そろそろ親が来る時期……だったんだけど、どうなっちゃうんだろうね~」

「土地が広がったしあんなにも派手に途切れた線路を数ヶ月で復旧させるなんて現実的じゃないからね」

「だよね~。これからもっと増える感じなこと言ってたし……

 はぁ~疲れた。早く寝たいけどお風呂は入りたい……お風呂入れてくるね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 使っていない部屋は資料が置いてあると聞かされていたので同室で眠るものだと思っていたのだけど別の部屋を用意してくれた。

 この部屋だけ畳になっており家具は最低限、価値はわからないが質素だが味のある絵が飾られている来客と話す為の場所という印象を受ける部屋で布団を敷き眠ることになり、朝を迎えた。

 

 リビングに出れば既にイオリが起きていて、エモンガのトビくんと一緒に朝食のパンを食べながらニュースを見ていた。

 ニュースは昨日のドンカラス達の襲撃や世界が広がる現象のことが放映されているようだ。

 

「あ、カミラさ……カミラおはよう。起こしちゃった?」

「おはよう。ウチはだいたいこんなものだけど……イオリの方こそ、また随分と早い起床だね。

 もしかしてちゃんと寝付けなかったのかい?」

「うん。ドキドキしてあんまり眠れなかった。あんな事があったすぐだし仕方ないと思うけど今は落ち着いてるし、今日はしっかり眠れると思うから大丈夫だよ」

「そっか。それなら良いのだけど」

 

 ウチから見ても無理をしている様子には見えないのでホッとするとウチの顔を見て何か思い出したのかイオリが立ち上がる。

 

「そうだ、昨日忘れてたから忘れないうちに渡しておこ」

「既に一泊分の恩を貰っているのだけど?」

「それが恩って……そんなの私の方が全然返しきれないって。

 どうやっても私じゃ返しきれないだろうけど……はい、これ、受け取ってもらえますか?」

「グラシデアの花……ん?渡したい相手ってウチの事だったのかい?」

「いやいや他に誰がいるの!?

 コホン、私はまずカミラさんにこの子の事で沢山助けられました!

 昨日、地震が起きた時に動けたのだってカミラさんだけで、一瞬でみんなを持ち上げて、氷の橋作って、落ちてきたのも全部止めて!

 その、こういうの恥ずかしいんですけど、凄く格好良かったです!

 カミラさんは体が変わって一番混乱していたと思うのに、それでもカミラさんが一番頼もしくて可愛いのに格好良くて、カミラさんがいなかったら本当にどうなっていたかわからなかった。

 元の世界からいきなりこっちに来て凄く大変だというのにカミラさんは沢山してくれて、それで、その……うぅ~…………………」

「……うん。そっか。その言葉、素直に嬉しいよ。ありがとうイオリ」

 

 恥ずかしさが勝って最後の最後で目線をそらし唸り始めてしまったものの、この世界に来てからここまでストレートに感謝の言葉を向けられたのは初めてで面食らってしまった。

 確かにこの子からは打算的の部分も感じ取れるけれど、それ以上に素直な感情を向けてくれているというのがわかる。

 

 本当に久しぶりだった。

 この世界の人間はある意味大人ばかりで嘘吐きで必要の無い事まで秘密にする秘密主義者ばかりだから。

 

 トップクラスのポケモントレーナーはね、目線や呼吸のリズム、指先の動き、汗のかきかた、喉仏の動き等、対戦相手のトレーナー1人にだけでもこれだけ多くの情報を読み取り、ここから地形や距離にポケモンの癖といった沢山の情報を実戦の中で把握し全ての流れを見通す。

 中にはそれを勘だけで全て解決してしまう信じられないバケモノもいるけれど、少なくともウチには勘だけで済ませられる程の才能がなかったので全て観察し読み取ってきた。

 できないじゃない、できるようになるまで続けるんだよ。

 そうやって勝ち取ったチャンピオンリーグベスト4の成績。

 

 その自慢の観察眼で見るこの世界は気味の悪いほどに本音を隠している。

 

 元の世界だって隠し事は誰にでもあるものだけれど、そんな言葉ではこの世界の嘘や秘密は擁護しきれない程に溢れかえっていて、自分が素直に感じた暖かな気持ちですら口にしない、口にできない者ばかりだ。

 ウチの世界とはあまりにも違う社会性から来る精神性には窮屈さを感じてしまう程だよ。

 

 そんな中で向けられたその素直な気持ちは、まだこの世界に来て半年すらも経過していないというのに酷く元の世界を思わせ懐かしさを感じて暖かな気持ちになった。

 

「あ、うん、どういたしまして。

 ……………えっと、朝ご飯コーンフレークとパンのどっちかだけどカミラはどっちが良い?」

「じゃあパンとモーモーミルク」

「ん?聞いたことないけどモーモーミルクって商品名だよね?

 もしかして東京の方限定商品?ごめん、美味しい牛乳しかないけど良い?」

「あっ……うん、そうだね、無いよね。なんか懐かしい気持ちになったばかりだからあると勘違いしてしまったよ。うん、美味しい牛乳で大丈夫」

 

 懐かしさのせいもあってコーンフレークにはモーモーミルクを使うものだという固定概念が出てきて失敗しちゃったよ。

 この世界ではモーモーミルクが一般流通する程ポケモンが浸透してないのにね。

 

『な、なにこれーッ!?』

「あ。ウチだ………本当に幼くなっちゃったねぇ」

 

 ニュース番組で氷鏡に張り付いて自分の姿を確認し叫ぶ様子が当然のように放送されていて、今更だし別に構わないのだけど、ニュースに流す許可を取ろうと声掛けくらいはしようよ。

 

「凄く他人事みたいだね。えっと、今のカミラ、凄く可愛いよ?お耳も尻尾も全部可愛い」

「うん知ってる。………自信過剰とかじゃなくて完全に他人目線で評価しているよ?」

「そりゃ昨日その姿になったばっかだもんね~うん、24時間経ってないって信じられます?」

「バッジ収集の旅でもここまで濃い24時間は経験したことがないよ」

「ですよね~………あの、後でブラッシングさせてもらえます?」

「ふふ、特別に許してあげるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 食器を洗い終えて外へ散歩に出ようと誘う。

 

「その前にカミラの服を買わなくちゃ」

「服を買う…………あのね、ウチ、近いうちにお金は入るのだけどね、残念な事に今はお金が無いんだよね~アハハハハハ」

 

 現在の服は上から下まで、それどころか下着に至るまでイオリの服を借りている状態だ。

 朝食前のやり取りでウチがイオリに恩があると言ったのは今のこのコーディネートが全ての答えと言っても過言ではない。

 この体になる前のウチは胸はそこそこ大きい方だったと思うのだけれど今は平らだ。

 胸以上にウチの引き締まった腹筋が無くなっていた事の方がショックだったなぁ……

 基本的にジャケット等の羽織る感じなのが好きで露出少なくしているから水着姿なんかの時に割れてる腹筋に驚かれることが結構あったのだけれど今はプニプニだぁ……

 プニプニではあるのだけれど力を込めると固くなるし何の確証も無い筈なのに、おそらく本能的に前の体より頑丈だという事がわかるから、その点は安心しているけれどそれはそれとして腹筋が見えないのがちょっと落ち着かないよ。

 

 話しが逸れた。

 胸のサイズがほぼ同じなのでスポーツブラを借りていて、ウチが身に付けてもキチンと下着としての役割を果たせている。

 流石にショーツまでは借りていないものの、こんなに良くしてもらっているのだから大きな恩を感じるのも普通だろう?

 今のウチはグラシデアの花の帽子を含めて全身イオリコーデだよ。

 

 帽子はイオリが作ってくれたんだ。

 原理はわからないけれどシルフカンパニー製の形状を保存することのできる道具があってね、ボール技術の応用で持ち運びやすく貴重な植物なんかを綺麗な形のまま持ち帰られるよう耐久性にも優れた特別製として用意してくれた物でこの機械のお値段は数百万は軽くする。

 この世界には無い技術でもう2度と手に入らない事を考えれば桁が1~3つ程増えても不思議じゃない。

 食品を食用として保存する等の使い方ができないと多くの欠点はあるけどフィールドワークでかなり重宝させてもらっていてね、それを使って保存していたらイオリが嬉しそうに中折れハットを持ってきて、それにグラシデアの花をくっつけてくれたので有り難くゾロア耳を隠す為に使わせてもらうことにした。

 

「あははって、笑い事じゃなくない?

 う~ん……まさかお金無い説が当たりだったとは…………それならしばらくうちで暮らす?

 その方が私にとってもかなり都合が良いから平気だよ」

「素直なのは美徳かもだけれど正面切って都合が良いなんて言われたのは初めてだよ」

「あっ、ごめん。言葉選び間違えた。

 えっとね、カミラの話すポケモンの歴史なんかが楽しいから一緒に住めば一緒に行動して沢山聞かせてもらえるかなって。

 昨日のシェイミってポケモンみたいに聞きたいし、何より今後大学行けなくなるだろうから暇で」

「アハハ………大学って何を学んでいるんだい?歴史とか鑑定士?」

「音楽大学だよ~」

「そうなのかい?ならウチも楽器は一通りできるから今度セッションでもする?」

「え?考古学者なのに?趣味とか?」

「趣味というのも間違ってないけれど、ウチは『ポケモン神話』専攻の考古学者だからだよ。

 神様の怒りを鎮めるために音楽を奏でるなんて内容もけっこう多くてね、そのメロディーが今の時代にも祭り事として残ってたりするから。ね、ロマンを感じるでしょ?」

「なるほど………うん、そうだね。楽しそう。

 けど、それより今は服買いに行こ。私が出すから」

「むぅ………」

 

 確かに金銭的に余裕がなくて助かる申し出ではあるものの、7歳……今年二十歳になるから6歳か。

 6歳も下の子に……今更な気もするけどウチにもプライドってものがあって………

 

「ただし!私が選んだ服を着てもらうで良いですよね」

「…………随分と楽しそうだね」

「凄く楽しみ」

「(そういえば昨日、今着ている服を用意してくれてる時も楽しそうだったっけ?)

 ………それなら、うん。そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「やった!」

 

 わりと軽い気持ちで了承したのだけど、後でほんの少し後悔することになった。

 ウチも楽しかったから良いのだけど、アレを思い出した。

 

 そう、アレはワタルさんのチャンピオン祝の場にイブキ経由で出席することになった時のこと、そのイブキに「これこそがリュウの一族の正装よ!」と騙されて着せられたのを思い出してしまったよ。

 アレは無……おかしな格…………な、こともないかもしれない以前に恥ずか……………………

 うん、ゴメン。ちがう、ゴメンとかじゃなく、そう、アレはね、イブキだから似合うんだよ。

 だからウチはもうアレは二度と着ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最寄りの駅ビルに向かったのだが物凄い人が押し寄せていたので断念し駅周辺の店で衣類を購入し終えた時には昼頃だった。

 少し外れたところにあるファミレリーレストランに入り、店員の人にお願いしたら周囲から見えにくい奥の方の席を座らせてもらえた。

 ……まあ、耳を中折れハットで隠してるだけで尻尾が丸出しだし、尻尾の感情の隠し方がわからないから自前だとバレバレで察してくれたんだろうね。

 ありがとう優しいたぶんバイトなお兄さん。

 

「ふう、楽しかったね~。私羊串と辛味チキンとサラダ、あと何にしよっかな~」

「楽しかったけど遠慮無く着せ替え人形にしてくれたね」

「……もしかして嫌だった?」

「んんにゃ~。普通に楽しかったのがちょっと悔しい。ウチはミックスグリルにしようかな。

 でもまさか店員からも着せ替え人形にされるとは思わなかったよ。する側だったらもっと楽しかっただろうに………って、どうしたの?」

「あ、いや、今更になって視線が気になるなって……」

「なんだそんなこと、こんなの慣れだよ慣れ」

「あぁ、帽子取っちゃった……」

「ウチの実家じゃ食事中は帽子外すのがマナーだから」

「それはどこだってそうだと思うけど……向けられてる本人なのに凄く堂々としてる…………」

「仮にもポケモンバトルという世界的競技のプロだからね」

「そうなんですね~……」

「声硬いよ~(ふ~ん、意識したらこうなっちゃうのかぁ~。 かなりガッツリ距離を縮めてくる子だからてっきり緊張知らずなのかと思っていたのだけど意外)」

 

 いくら奥の目立たない席でも白髪に白尻尾は目立つからね。

 席に着くまでの間に視線沢山集めて着席したら視線でめった刺しにされるのは当然でしょうに。

 

 注文を終えドリンクバーから飲み物を持ってくると荷物番をしていたイオリが駅ビルでの異様なの混みようについて調べてくれていた。

 どうやら非常食となる物や日用品なんかを買い込もうとスーパーなどに人が殺到していて一部では警察沙汰にまで発展しているらしい。

 ヤアーン、警察官と一緒にまたお役所さん達のお仕事も増えちゃうね~。

 

「これ、今から非常食だけでも買い込んだ方が良いと思う?」

「ウチはお金無いし決めるのはイオリだから好きに決めていいよ~…………なんて答えは望んでないよね。

 そうだね、ウチの経験上こういうのは必要になるだろうとわかったタイミングで集めようとしても大変な思いをするだけでろくな事にならないとだけ言っておくよ」

「やめときましょう」

「良いと思う。ウチらにはポケモンがいるのだから」

「ポケモンがいるから?………それ、非常食と何か関係あるの?」

「人間には不可能でもポケモンならどうにかできるってだけの話だよ」

「そういうものなの?」

「そういうものだよ」

 

 ウチのボール全てにポロックケースを押し当てポロックを皆に与え終えた頃に辛みチキンが2人分届いた。

 

「トビくんにもポロックあげたいからボール貸して。それともあげてみるかい?」

「やってみる。えっと…………これでポケモンにポロックが届くの?」

「そうだよ。ドサイドンなんかを町中で出すのは大変だから便利だろう?……と言っても、元の世界じゃそんなもの滅多に使わなくてあれば便利程度の認識でここまで多用するようなものじゃなかったんだけどね。

 人間の生活圏が広すぎて皆には不自由かけちゃって、はむ…………ねえちょっと待って、この辛味チキンっていくらだっけ?」

「え~っと……あった、290円だよ」

「安くない?この味と量でこの値段………ねえ、お酒頼んでも良いかい?」

「え?これから調査とかパトロールするつもりなんだよね?」

「いやさ、確かに今朝はそのつもりだったのだけれど、ウチさ、良く考えたらフィールドワークで約一ヶ月、そのままこの世界に来てポケモントラブル続きで休暇らしい休暇って1日もとってないんだよね」

「……………うわぁ」

「ウチは確かにポケモンの生息調査なんかをしていたのだけれど、別に誰かから言われてしている訳でもなければ給料が発生している訳けでもない。

 それってつまりする義務が無い。そうでしょう?」

「それはそうだけど……困っちゃうかな~、なんて………」

「困っちゃうか~。安心して、困らせるつもりなんて無いから」

「……でも、確かに国から給料が出てるって話しは聞かないよね。

 そもそもカミラがそういった人達に会いに行くのって何かしらの行動をする前に報告していただけだよね? ネットの話が本当ならだけど」

「ん?ネットの話って?そんな噂が立っていたのかい?」

「うん。ソースが何処から来てるかわからないけれど、カミラが役所に行って報告したり直談判したり封筒渡したりって話は有名だけど、その後カミラが誰かと一緒に行動していたって話は無いもん」

「おおっとお?思っていたよりずっとウチの行動が漏洩しているね。別に隠すこと無いから良いのだけど」

「良いんだ……えっと、協力して対応に回らないのは警察関係者と似た感じの理由だったり?」

「いんや。警察関係は単純に足が増えるから魅力的だけれど、お役所を側に置いたところで足枷にしかならないからね。

 ウチの世界も中々だと思っていたけれどこの世界の政治の様子を見ているとウチの世界がどれだけ可愛かったか考えさせられるよ」

 

 まあウチの方は可愛い以上にはっちゃけ過ぎたチャンピオンのやらかしの揉み消しをしてるって話しを聞くから苦労人という印象の方が大きいけど。

 人に向かって、それも室内で『はかいこうせん』はやり過ぎですってワタルさん。

 

「なるほど……だからって個人じゃ負担凄くない?

 義務じゃないし動画配信も企業じゃなくて個人でやってる事だからアカウントを消すだけで全部放り投げられるけど……」

「放り投げないよ。負担に関してもお役所様達と比べたらずっと楽だろうからね。

 それで、ウチのは義務じゃないのだから今までの全部が休暇を使った趣味の時間だという解釈も無理くりにできなくもないけどさ、せっかく友達ができそうなのだから、1日くらいその子を知る事を優先したって罰は当たらないでしょ?」

「…………あの、カミラ?いえ、カミラさん?」

「なあに?」

「カミラさん、じっと私の目を見て話すし、当たり前みたいきそういう事言ってくれて嬉しいけど、恥ずかしくない?」

「全然?イオリが恥ずかしがり屋さんなだけじゃないの?

 そんな恥ずかしがり屋なイオリがさ、ウチの世界の風習に習ってくれてさ、ウチのしてきた事にはちゃんと意味があったんだって形として渡してくれて、心の底から嬉しかったよ」

 

 そう真っ直ぐと伝えるとイオリはとてつもなく挙動不審になり「あ…」とか「その…」とか意味の無い言葉を漏らし、目を泳がせていて、その先に答えなんて出てこないのにね。

 やがて恥ずかしさを誤魔化すように「あ、あはは」と笑いを漏らした。

 

「そ、それなら良かった、です。頑張って渡した甲斐があって良かった。

 でも、カミラと同じくらい目を合わせて話すなんて現代日本人には少なそうですね……」

「なるほど。もしかして日本人はシャイな人が多めなのかも………ところでお酒、ダメかい?」

「えっと…………それじゃあ、とりあえずマグナム行く?」

「マグナム?……えぇ~?ちょっと1500は多過ぎるよ~、そんなに呑んじゃって良いの~?」

「嬉しそうだね。こっちの方が100円安くて持ち帰りもできるみたいだし」

「待って。それならさ、ワインは口に合う合わないあるから100円の両方頼んで比べちゃうとか~……ダメかい?」

「いいよ~」

「イオリちゃんありがと~」

 

 服でお金出してもらうの渋ってたくせに食事はガッツリ奢ってもらおうとしているけれど、ちょっと前まで本当に着せ替え人形扱いだったし許してほしい。

 というより普段から身に着ける衣類と食べたらおしまいの食事じゃ同じ奢られるでも完全に別枠だから。

 食事は完全な好意として受け入れられるけど、衣類は親戚や兄弟からのお下がり、何かの景品、そういう文化の地域、そして今回のような特殊過ぎるケースでもない限り無料でもらうなんてウチの価値観ではあり得ない。

 当然受けた好意はいずれ好意という形で返すし。

 

「あの、年齢確認のため身分証の提示を……」

「え?…………あ、ですよね。すみません、やっぱり無しで」

 

 身分証どころか戸籍すら無いウチには証明する手段がない。

 客観的に見て今の姿で飲酒するのは不味いだろうし、飲めたら嬉しいけど絶対に飲みたい訳でもないから仕方なく引き下がる。

 後で尻尾が絶望していたってイオリにからわれたけど……

 

 

 





 イオリのお家はお金持ちの部類です。
 珍しいペットを飼いながら余裕のある生活ができる時点で他より裕福であると言う考え。
 現実で大学が本当にこの辺にあるかは知らない。
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