ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性 作:メリルメリルメリル
ファミレスを後にし本屋、ゲームセンター、夕食の買い物、帰宅という流れになった。
本屋では特に欲しいものがあった訳ではなかったようだけれど、どういった本が好きかいろいろと話してくれた。
ウチと殆ど同じ方向性のジャンルが好きなようなのだけど、それまで上げていたのが歴史系だったのに唐突に学園恋愛漫画が云々でブチ抜いてきて変化球が過ぎないかとも思ったけれど、そのジャンルが偶然目に入ったのだから仕方ない。
イオリは何も購入しなかったけれど歯車というタイトルの小説を発見し、芥川龍之介とあるので当然ウチの知っている小説とは別物だろうけれど歯車はベスト10に入るお気に入り作品で同じタイトルとなれば気になるのは当然で購入することにした。
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ゲームセンターではこの世界の娯楽に対する情熱というものに驚きっぱなしで凄かった。
元の世界でもゲーム機はあったけれど家庭用が一般的で、よほど大きな都会にまでいかなければ業務用と言って良いサイズの物なんてそうそう目に入らない。
ポケモンが存在するかしないかの差はこういうところでも出るようだ。
ただ耳が痛くなりそうで慣れるまで大変だった。
慣れるまではゾロア耳をペタンと閉じてイオリの口の動き等で言葉を判断していた。
何度か「カミラ?」と返事が無い事に不思議に思って振り返る事があったけれど見慣れない物が多すぎてそっちに気が向いていたと誤魔化したりした。
イオリが好きなのは音ゲーというジャンルのゲームでプレイしているところを実際に見ていて楽しそうだと思えたよ。
この異様に優れた聴力でなければもっと純粋に楽しそうだと思えただろうに。
イオリのプレイを何度か見ていたのだけど、ハイスコアを更新したいらしく同じ曲を続けてしていたのもあり癖でパターンと体の動かし方を覚えてしまい、これならいけると確信してしまった。
ウチはトレーナーの中でも上澄みの実力者かつ楽器も一通り使いこなせるから曲に合わせるというのは得意だ。
パターンも把握し集中すれば周囲の音も気にならないだろうし、何より楽しそうだったから一度やらせてもらったんだよね。
そしたらまさか一回でイオリを超えてランクインするとは思わなくて悪い事してしまった。
しかし取られた本人は気にするどころか「撮影するからもう一回して!」と言ってきた辺りに音ゲーに対する愛の強さを感じたよ。
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そろそろ帰ろうとなった頃には非常食になりそうなものが売り切れたのか極端過ぎる程に人が減っていたので買い物をした。
途中で料理も得意だと話したら凄く驚かれたのだけどそんなに意外だろうか?
競技としてポケモンを鍛えているのだから栄養バランスの管理等で料理も自然と上手くなると説明すると「そっか、ポケモントレーナーも『トレーナー』だもんね」と驚いていた。
バトル方面のポケモントレーナーは物凄く華やかなモノでそんなところまで想像していなかったとも話してくれたのだけど、コレはウチの世界でも少なからずある勘違いだ。
むしろこの世界だとイオリのようなイメージを持っている人の方が多いのかもしれないね。
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「イオリ~、印刷機ってあるかい?」
帰宅し食材を冷蔵庫にしまったところで読書をしようとしていたイオリに声を掛ける。
イオリが手に持ってるのはウチの世界の方の歯車でオススメして渡した。
「料理している間にロトムに資料を印刷してもらおうと思って」
「あるけどどれくらいの量?」
「イオリが今読んでる本と同じくらいだよ。
最終的にはその本の数百倍になるとは思うけれど、今はそれくらいで十分かな」
「す、数百倍?………ならお父さんの資料室使った方が良いね。コッチ来て」
資料室に入って良いのだろうかと思ったけれど、イオリの様子から信頼されているんだろうなと感じ取れて信頼を裏切らないように努めようと思った。
あと単純にイオリには社会経験があまり無いのではとも。
「テッテレテッテッテ~!ぎょ~むよ~ふくご~きぃ~!
ふふふ、凄いでしょ?実はこ……」
「あぁなるほど!何で資料室が防音室になっているかと思ったけれど、夜中なんかで突発的に数百ページ印刷する必要が出る時があるわけだね」
「……カミラさん、知ってたけど状況判断能力?の高さとかさ、とにかく理解力凄過ぎない?」
これで沢山の資料が印刷できるのだけど、先ず印刷すべきは無限氷道だね。
ネットにも流すけれど、いずれネット環境が使い物にならなくなる時が来るかもしれない。
その事を考えたら可能な限り様々な内容の電子書籍を現物として残しておきたい。
なのでイオリに頼んでお父さんと電話を繋いでもらって重要性を説明したうえで見えないだろうけれど頭を下げ丁寧にお願いしたところ好きに使っても良いと有り難いお言葉を頂けた。
イオリは自分が良いと言ったのだから別に良いのにと若干拗ねてしまったけれど絶対に必要なところだよ。
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お風呂やら夕食を終え無限氷洞を読み終える。
「(流し読みだったけれど概ね記憶違いは無さそうだ。
そのせいで今まであまり深く考えないようにしていた仮説が濃厚になってしまった気がする……)」
カミラがカントー人やリュウの一族を人間だけれど別枠として考えるのには当然理由が存在し、その原因となった様々な事柄が脳裏に浮かぶ。
リュウの一族であり仲がとても良いイブキがいる。
イブキは別にカミラのように暇さえあれば自己鍛錬をしているわけではない。
仲が良いからこそカミラもその事を知っているのだが、ある日仕事の一環でフスベティ近くまで訪れ「リーグバッチの時期から外れて暇だから私も付いて行くわ」と言われイブキと共に行動し偶然にも密猟者を見つけた。
その時にイブキがとった行動は1秒も使わず木に登り枝から枝へと飛び密猟者を追い掛けるというもの。
イブキがジム運営なんかをしている間に単身危険地帯へ行けるようフリーランニング等で鍛えていたからこそ速度自体は並んでいたがカミラにはそんな真似できない。
そんなイブキからイッシュ地方にいる一族はもっと凄いと聞かされており、アイリスを目撃するまでは信じておらず事実だと知り驚愕する事となった。
カントー人に関しては、カミラの父方の本家にある倉に保管されている資料をシロナに見せていた時にナナカマド博士から連絡が入り、カミラが側に居るとシロナが漏らした事がきっかけで巻き添えを食らった帰り道の事だ。
偶然にも村興しで『くさ』『みず』『ほのお』の3タイプ限定の3対3のバトル大会が開かれているのを見かけ、昔から交流のある人が主催だったらしくナナカマド博士がデモンストレーションで参加しろと言いだし強制参加させられる事になった。
チャンピオンの安売りをするなと止めようとしたカミラだが、シロナはカミラの肩をつかみ滅多にお目にかかれない引きつった笑みで首を横に振るもので参加以外の選択肢が消滅し1日村で過ごすことが決定した。
とりあえずポケモンセンターへ行き食事なんかも済ませようとした時の事、参加者の一人であろう15歳程の少年が訓練場で訓練をしている様子が偶然目に入った。
なんとその少年は自らに向かい『フレアドライブ』を使わせ正面からぶつかり「いいぞブースター!絶好調だ!」と平然と言い出す光景にはカミラのみならず隣にいたシロナも目を丸くしていた。
そして大会が始まり「トキワシティのカズヒコ!」と例の少年が審判にそう呼ばれたのを聞き、カントー人がカミラの中で別枠になった瞬間であった。
以前から技として『こうそくいどう』を使用したりとそうなる要因が見受けられていたのだが、カントー人は別枠と決定付けたのがこの出来事である。
「(ウチの世界の人間は小さくなるというポケモンを象徴する特性を無くしたポケモンであるという仮説。
伝承の中にはポケモンとそういった関係性になるというモノもあるし、その中でもユキメノコの話しは子供への寝物語として有名だ。
子供向けと大人向けで印象が違いすぎるのだけど………大人向けの方、ポケモンと人間で子を授かることができるのを前提とするとして、ウチがゾロアになったのはあの光が切っ掛けだということは間違いないにしても、元々ゾロアとしての遺伝子を継いでいた必然であった可能性もあるということ?
突拍子も無い考えかもしれないけれど父方本家を考えてこの仮説を混ぜてしまうと的外れでなくなってしまう。
本家にはヒスイ時代のそういった書物も置いてあったし開拓団だったギンガ団の事を民間人視点から見た資料は大いに楽しませてもらってたのだけど、本家の大婆様(ウチからしたらお婆様だが従姉妹に子供できてからそう呼ぶように徹底させられた)が怖いから年に一度ある親戚の集まりかシロナさんを紹介した時しか見れなかったのが悔やまれる。
…………本当に怖いんだもん大婆様。
ウチは母親似でお母さんのこと、末っ子だったお父さんがイッシュ地方に行った時に引っかけられた女狐とか本気で言ってきてたし、ウチの事もシンオウチャンピオンから逃げてカントーリーグに行った根性無しとか言葉は違えど皮肉たっぷりに同じような事を笑ってないのに笑って言ってきたの本当に怖いって。
まあウチが成績残していってそれなりに有名選手になった頃にはひ孫がウチのファンになってくれたから大婆様の当たりがマシになったし、ひ孫が『でんき』タイプ捕まえたからレアコイル貸せって頼んでくるくらいには関係が緩和したからシロナさんを連れていく事もできてひ孫大興奮だったのが記憶に新しい……
じゃなくて!そう本家!あの本家の床の間に飾られていた、のろいぎつねの面!
小さい頃から見慣れすぎていて気にもしなかったけれど、先祖代々受け継いできたヒスイ時代の書物もそうだし、こうなってくると関係性を疑うなって方が無理な話では?
だとしたら父方家系のどこかしらでゾロアークの血が入っていて、それ故にウチの家系はポケモンと会話できる人が多く出ている。
ウチの家系でそれならカントー人やリュウの一族は…………)………あ、もうこんな時間だ」
思考しながら手に持った無限氷道をペラペラと読むわけでもなく、ただなんとなく捲っていると時計が鳴る。
23時。この体になり体力が異常なまでに増えたからか、或いは夜行性になったからか全然眠気を感じないがイオリが側にいるのだから人間らしく生活するべきだろう。
完全な人間?(今の考察で疑わしい)だった頃も楽しすぎて2徹3徹する事があったから今更な気もするけれど。
「そろそろ寝よっか。………って、イオリもけっこう読んだね」
「ん~?」
ソファーに並んで座っていたのだけれど流し読みという訳でもないだろうに3冊目に目を通している。
2冊目はウチが読んでいたからだろうか無限氷道に付箋が何個か付いている。
名前を呼ばれたから反応しただけで意識して返事した様子でなくて思わず苦笑しイオリを揺らす。
「ほらイオリ、イ~オ~リ」
「え?はい!何!?」
「集中しているところゴメンね。でも昨日しっかり眠れなかったのでしょう?なら今日はもう寝るべきだよ」
「あ、もう11時…………これがキリの良いところまで行ったら寝るからカミラは先に寝てて」
「わかった。イオリも早く寝るんだよ」
寝るにしても考察を続けるにしろ貸してもらっている部屋に行ってからにしよう。
昨日に続き生放送はしなかったが、代わりにゲームセンターでイオリが撮影していた音ゲーの様子をアップロードした。
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そして朝を迎える。
「………」
その光景は、まるで自分を見ているようで、ここまで類は友を呼ぶという言葉が当てはまるものかと呆れと感心が同時に来る。
「おはよう。イオリ~、冷蔵庫開けて勝手に朝御飯作らせてもらうよ~」
ヘッドホンを付けて聞こえた様子の無いイオリは置いて冷蔵庫を開き、昨日買っておいた豆腐とネギ、卵なんかを取り出し料理を始める。
汁と汁で被ってしまうけれど、ほぼ2日徹夜しているイオリにはおかゆと味噌汁にするかな。
一応オムレツも用意しておくけれど残してしまいそうならウチかトビくんにでも食べてもらおう。
「ん………あれ!?カミラさんもう起きたの!?」
「おはよう」
「お、おはようございます?………わぁ、もうこんな時間」
「よくあることだし気にしない気にしない」
興味深い知識を付けるのは楽しいから時間も忘れてしてしまうのも仕方ないと強く共感しつつ仕上げを済ませ朝食を並べるのだけれど、温かい内に食べてもらいたいからイオリには先に食べてもらいウチが席についたのはイオリのオムレツが半分程消えた頃だ。
「随分と熱心だけど何に興味が向いたんだい?」
「あのさ、この世界とカミラの世界って地形というか、大陸の形がそっくりって話してくれたじゃん?」
「そうだね。したね」
「無限氷道にあったゾロアとかの話、こっちの世界でも実際にあって、こっちだとキツネなんだけど、こっちのキツネの歴史と無限氷道に出るゾロアを照らし合わせて纏めるのが特に楽しくて」
「地形だけでなく似たような歴史を歩んでいる……へぇ~、それは凄い。そこまで気付かなかったよ」
「いやカミラは気付かない以前の状態じゃないの???」
「タブンネ」
「多分ねじゃなくていくらカミラでも無理でしょ」
「うん無理だね」
「それでさ……」
「ちょっと待った。その話し凄く興味深いけれど今は駄目。 その話題だけで1日使いかねない。
今日こそは今の体で前と変わらない動きができるか確認するためにトレーニングしないといけないから、その話はトレーニングが済んでからね」
「トレーニング……それってリザードンに乗って飛び回ったり飛び降りるアレ!?見たい!」
「構わないけれど……今日はちゃんと寝るんだよ?ウチも3徹とかした事あるから強くは言えないのだけれど、普通に心配してしまうよ」
「うっ………はい、そうだね。でも楽しかったから」
「うんうん、気持ちはよ~くわかるよ~」
朝食を済ませ洗い物をしている最中、イオリが本から顔を上げこちらを向く。
「そういえばカミラの世界って人間がポケモンになる事もあるって話しだけどカミラみたいなポケモンと人間の中間みたいな人って他にはいないの?」
「ん~?いな……」
『皆の者~! ドンナモンジャTVの時っ間だぞー!』
「………ちょっと待って」
「いたの?」
「いや、いないよ。ナンジャモちゃんはただレアコイルのコスプレだから違う……はず…………」
首を横に振り頭の中に一瞬過ったナンジャモちゃんを遠くへ追い払った。