ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性 作:メリルメリルメリル
警察から連絡が入り占拠されているという工場地帯は予想以上に広く、ウチの世界の下手な○○タウンよりも広いその有様には「そりゃ野生動物なんて暮らせなくなるよねぇ」という感想が自然と出てくる程だった。
「むしろベトベターとかが沸いていないのが不思議だよね」
「ベトベター?」
「人を選ぶけれど慣れると中々かわいい感じのポケモンだよ」
空からリザードンの背に乗って工場地帯を軽く見渡して思った事を口にするとピジョットの背に乗ったイオリに聞こえたようだったので実際に画像を見せるとなんとも言えない表情をした。
「なんでさ。日本人はタコを可愛いって感じる人もいるじゃないか」
「あ、なるほど。ベトベターって外国人から見たタコって事か」
「むう、可愛いと思うんだけどなぁ~………さて、そろそろ降りよっか」
バリケードを作りつつポケモン達を刺激しないように気をつけながら工場地帯に少しでも近付こうとする努力が見える。
その場所を横目に警察の人達の後方、余計な混乱を招かないように少し離れたところに着陸して5分ほど歩いて到着し今の状況を聞いてみる。
聞いてみた結果見たとおりの返答しか帰ってこなかっただけでなく「どうしたら良いですか?」と口にはしていないけれど節々から助けを求めているのがわかる。
わかるのだけど……悪いけど彼等の事情を理解してしまっている以上、今回は君達がこの世界で散々支配者気取りしていたツケが回ってきただけとしか思えないんだよねぇ。
「なるほどね~、纏めてしまえばポケモンが多過ぎて入れないと……はむ、もぐもぐ」
「ちょっとカミラ、そんな他人事みたいに……」
「ん?他人事みたいじゃなくて他人事じゃないの?
今回のは管轄外だし、バリケードとか見るに境界線を作るのもしっかりやれているのに後からウチがどうこうするのは違うんじゃない?解決はしてないけれど実質終わってるのだからさ。
ただ、同時にこれは警察側は彼等がただ本能で動くだけの生き物ではなく理性で動く事のできる人間同等レベルの知的生命体を相手にしているのだということを言葉でなく行動で認めているのだと証明している。だから彼等も下手な真似はしてこないと察してある程度警戒をといているようにウチは感じるね。
だからさ、ここから先はウチじゃなくて~………たぶん、外交官辺りの仕事になるんじゃないかな?
ウチがこの場所に来たのはの様子を見に来ただけだし、可能ならほんの少し会話したら帰るつもりだよ」
現状は人間側が過剰なまでに警戒し過ぎているところに目を瞑るとして安定しているように思える。
「えぇ~……本当にそれで良いの?人質がいるのに……それにこの工場って止まってたら大変なんじゃ」
「言い分はわかるけれど……いや、そもそもの話として人質って言い方が間違いの可能性が高いと思う。 ウチの考えが的外れでなければの話だけどさ」
「えぇ?でも、実際に人質がいるって……」
「確かにあの場所に人はいる。けれど彼等は別に人質なんていらないんだよ。
人質なんていたところで何の利点があるの?彼等にとって必要なのは捕虜だろうから」
「捕虜?」
どうやらイオリは捕虜と人質を同じものだと勘違いしていたようなので簡単に説明する。
人質とは捕まえた人間を何かの交渉材料として使う事。
捕虜とはただ捕まえておくこと。
「彼等が欲してるのは金銀財宝なんかじゃなくて自分達が不自由無く暮らせる領土。
人間の定義で言えばあの工場は日本国内のものだけれど、彼等によってあの領土は占領を終えて普通に生活できているのなら……それはもうポケモンの国家と言っても過言ではないんじゃないかな?」
ポケモンの国家という言葉に目をパチクリさせ、思い付きもしていなかった様子なので飲み込むまで少し時間が必要そうだと思い間を置く。
この様子だと丁寧に説明しないと後で大きな認識のズレが発生しそうだし。
「基本的にポケモンは人間と違って貪欲な生き物じゃないんだよ。
不自由が無ければ現状で満足して自己完結できてしまい、強いからこそ沢山増えるなんて事もしない」
「はいはーい!でも沢山いますよね!駅周辺を襲ったヤミカラス達1000匹は越えていたと思います!」
「そうだね。でもヤミカラスはそんなに沢山いて、その進化先のドンカラスは何匹いたかイオリくんは覚えているかい?1000?800?500匹だったかな?」
「えっと、私の知る限りじゃ3匹です……」
「そうだね、3匹だったよね。
スタミナ切れを考慮しなければの話しになるのだけれど、あのドンカラス1匹で部下のヤミカラス1000匹全員戦闘不能にできるほどの隔絶した力の差があるんだよ?
鍛え方次第でそれも覆す事もできるのだけれど、単純なスペックでそれだけ強さの違いがあるからこそ数の違いが生じている。
さっきイオリも言っていたことだけれど、野生のヤミカラスはあれだけ沢山いたというのにドンカラスに至れたのは3匹、1000匹ピッタリならその中の0.3%しかなれなかったと聞いてイオリの感覚からしてそれは多いのかな?それとも少ないと思う?」
「それは……少ないかも」
ここまで丁寧に話しているのはイオリにだけ説明しているのだという体裁を作りつつ、周囲の警察関係者に聞かせるため良く聞こえるようにしているわけで当然大きめの声量にしている。
今回の事は本当に安定しているので必要以上に関わって、今もポケモン側から見られているというのと、トレーニングを減らす訳にはいかないからさ。
今の体のズレを修正し新たな力をコントロールできるようにならなければ訪れるであろう神話に名を残すレベルの逆境を乗り越えるなんてできない。
それはそれとして楽しむ事は忘れないけど。
「うん、少ないね。次はあの日駅の周辺を襲ったヤミカラス達と人間どっちが多かったと思う?」
「人間!たぶん何万人くらいいたと思う!」
「そうだね。駅周辺だけでそれだけの数の人がいた。でもね、たぶんだけれどヤミカラス達の数は日本全域を探して5000匹行くか行かないかだと思うんだ。つまり日本中の5分の1がここに集まっているわけになる」
「ん?その数字ってどこから出ているの?」
「ウチの世界がそうだったからこの数字を上げただけだよ。だからたぶんと付けたのだけど、今上げた数より少ない事はあっても多い事は無いはずだよ。
専門じゃないから詳しく説明できないのだけれど、ポケモンとは自然を操る力を持つ性質上世界のバランスを完全に無視する事ができない……だったかな?
ごめんね。本当に専門じゃなくて上手く説明できないけれど、この事は進化と魂、存在の位に関する学問で一定以上のバランスを保つために増えることができないと20年以上前に証明されている内容だから間違いないと思うよ」
このバランスに真っ向から喧嘩売った存在がグラードンとカイオーガであり、生態系が壊滅状態に陥ったらしく今でもその爪痕が残っているのは本当にヤバイって。
この2匹、シンオウ神話の神々と違って普通の生態系から自然と生まれたポケモンなの信じられる?
あくまでも一仮説でしかないのだけど昨今だとこの仮説が一番有力なの頭おかしくなりそう。
「話しを捕虜と領土についてに戻すとしよう。
さて、工場地帯には様々なポケモンがいるとして一番多いヤミカラスの数は1000匹だと仮定して、ヤミカラスを除いたその他ポケモン全て合わせた数をもう1000匹前後だと考えておこう。
基本的に野生のポケモンは野生動物より綺麗好きな事を除けば同程度の衣食住でも気にしない生き物であり、あの場にいる半数を占めるヤミカラス達が住む場所は工場地帯の高い場所で他のポケモン達の生活スペースと被る事はそうそう無い。
なので工場地帯の面積内で暮らす数からヤミカラスは除いても問題無い訳で実質1000匹分があれば十分なのだろうね」
「なるほど………じゃあ何で駅を襲ったのさ?」
「単純な食糧事情が一番大きいと思う。『でんき』タイプや『どく』タイプの中には変食な子がいるからね。
他にも色々とあるけれど、満足のいく環境ではないにしても十分妥協できる環境だったから現状維持へシフトした。
今後増えるだろうから他の事に労力を割かなくても良い間に領土を増やしておこう。
後は……駅周辺を襲ったのは自分達の武力の証明であり今までと同じように奪いに来るようならこの力で殺すという警告という側面が強いだろうね」
「まって、今までと同じようにって、私達別にヤミカラス達から何か奪ってないよね?」
「奪っていない?………あ、そっか。警察関係者には話していたけれどイオリにはまだ話していなかった。ごめんね。
実はね、彼等はイオリのトビくん同じ様に動物がポケモンに進化した存在である可能性が大いにある。 というよりウチの中ではもうそれで確定しているんだよね。
その根拠として……」
何故彼等が元々はこの世界の野生動物だったのかという自分なりの根拠を説明していく。
その中でも一番強い根拠と言えばやっぱり拳銃だろうね。
ポケモンに銃は極端に効力が無いからこそ、人間に対して有効だと気付けて、それもこんな短時間でなんてどんな確率だとうい話になってくる。
「なるほど……」
「認識の共有も済んだし領土と捕虜の話に戻るよ。と言ってももう残りの内容は纏めみたいなものだけどね」
「コホン。彼等が捕虜を抱える理由は自分達の領土を守る為。
彼等にとって領土はどんな金銀財宝よりも価値のあるものであり、その財宝を守るという意味合いで捕虜というものは置いておくだけで虫除け的な役割を一定以上してくれる。
きっと彼等はこの世界の人間が同族を盾にして立て籠もるなんて光景を過去に見たことがあり、そこから着想を得て捕虜という言葉は知らずとも手段を思い付き実行する事を決めたのだろうね。
だからこそ彼等が全ての捕虜を手放すなんてありえないし交渉材料に、つまり人質になんて使わないよ。
あるとすれば人間達によって最悪の状況に追い込まれそうになった時初めて捕虜から人質に変えるんじゃないかな?
そうでなければ彼等が捕虜を人質にする意味が薄すぎるもの。
他にも考えられる余地もあるけれど、その殆どが人質より捕虜として置いておいた方が良いという結論になってしまう。
だからこそ最初に言ったでしょう? 今回の事柄にウチは必要無いって。
此処から先はどう考えても日本側から交渉を持ち掛けなければ捕虜は………えっと、大丈夫?図式とか用意する?」
「うぅ~………大丈夫、ちょっと頭が痛くなってきただけだから…………あ、いや、別に付いていけないとかじゃないよ?
私が思っていたよりずっとポケモンが頭良くてビックリして、それに何でカミラが手を出さないかもわかったけど、カミラでもどうにもできないの?」
あらら、イオリが優しいのは知っていたけれどここまでだったとはね。
頭では理解できたけれど心で割り切れていない様子でここら辺は社会経験の無さと、根っからの真面目さが出ていると感じる。
「できるかできないかで言ってしまえばできるよ。けどそれはしない。
今この場所は歪な形ではあるもののバランスが取れている。なのにここでどちらかにだけ味方をしてしまえば反対側と友好関係を築くなんてできなくなってしまうよ。
だからウチは何もしない。
それにさ、詳しくはないのだけど他国から捕虜の返還なんてそれこそ外交官とかの仕事じゃないのかな?」
「うん………そうだね、私もそう思うかな…………………」
「………………っもう!そんな風に返されたらウチがイオリに意地悪したみたいじゃないか!」
イオリの頬を両手でつまんでみょーんと引っ張ると「いひゃいです」と弱っちい抵抗をして、それでウチの顔を見てくれたので離して可能な限り柔らかく話しかける。
「ウチは確かに終わらせる事はできないけれど、この事態が円滑に収まるように両陣営に良い情報を提供する事は出来る。
あの中に入っても良いかという許可は警察側からはもうもらっているから、工場地帯を占拠している彼等も敵意が無ければ……というよりウチのことは覚えているだろうから余計な波風を立てないようにしてくるだろうしお話ついでに彼等の生活環境とかも見せてもらおうよ。ねっ?」
「……うん、そうだね」
「そうだ。さっきからウチばっかり食べてたけどイオリもさ、コレ食べる?」
「…………もしかしてさ、カミラ、私の事子供扱いしてない?」
「そうだね。無意識にしてるかも。
だってさ、一番下の従姉妹が丁度イオリくらいだし可愛いなと思うよ。イオリ美人さんだし」
「カミラに美人って言われたら嫌みにしか聞こえないんだけど……」
「まあまあ、これ食べて落ち着いて」
「……ありがとう」
イオリがヒメリのみを取ったのでウチはポーチに入れていた半分程呑んでしまった午後のミルクティーを取り出しシャカシャカと振り、自分の口角が僅かに上がっているのをごまかす。
「パフッ!~~~~~~~~~ッ!!!」
「ウチの飲みかけだけどミルクティーいるかい?」
ヒメリのみを噛んだ事によってイオリは口元を押さえ、口から空気が漏れ出すような変な音を出した後苦しそうにし涙も浮かべはじめる。
背中をさすりながら差し出すとそれをひったくりミルクティーでヒメリのみを流し込んで、口の中をミルクティーを転がすように含み口直しを行う。
「か、かっら~!!!しぶ!えっ!?甘すっぱいしナニコレ!?」
「あっはははははははは!」
「ちょ、ちょっと確信犯!?悪質すぎじゃない!?」
「ふ、ふふふ、そんなになるなんて予想していなかったよ……ふふ」
「むぅ……カミラのほうが子供っぽいじゃん」
「知らなかったのかい?考古学者なんてロマンを追い求めてるヤツが大人なわけないじゃないか。
という冗談は置いといて、ふふ、ごめんごめん。ウチがコレ食べ続けなくちゃいけないからちょっとウチの気持ちを知ってもらいたかったんだよ」
「え?あっ。そういえばイリュージョンのコントロールの為に食べ続けるって……」
「ふふふ、存分に同情してくれたまえ。はむ、もぐもぐ」
「うわぁ……てっきりサクランボみたいな味だと思っていたのに」
「好き嫌いかなり分かれる味だよね。
コレを使ってカレーの隠し味とかにすると美味しいのだけれどそのまま食べるのはウチもちょっとだけ辛い。 さ~て、気を取り直してポケモン達の秘密基地にレッツゴー!」
我ながら手荒い手段だったけれどイオリも今のやり取りである程度回復してくれたようだしコレなら大丈夫。
さっきの状態のまま向かってしまえば純粋な生き物であるポケモン達は少なからず影響を受けてしまうからね。
頭良くないなりに必要な話しだったので頑張った。