ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性   作:メリルメリルメリル

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ポケモンの縄張り

 

 警察関係者達が努力して作った境界線、ガードフェンスの先へとウチとイオリは足を進める。

 

 並んで歩いている訳だけれどウチとイオリは対照的で、ウチはリラックスしている状態で、イオリはキョロキョロと周囲を見渡してポケモンが隠れていないかと探している。

 しかしこの辺りには見張りだろうヤミカラス達しかいなさそうでイオリが望むような子をいくら探そうが出てこない。

 あのポケ災の経験から身を守る為にもう一匹くらいゲットしたいらしく、どうせゲットするならエモンガのトビくんと友達になってくれそうな可能性が高く、トビくんと同じ食事で問題無い『でんき』タイプの子をお探し中な訳だ。

 

 ここで「そこにはいないよ」と教えてあげるのは簡単だけれど、自発的にポケモンを探そうとしているのだからそれを邪魔するのはしてはいけない。

 見つけるまでのワクワクはポケモントレーナーとして育つのにとても大切なモノだとウチは考えているから、暖かな気持ちでイオリの事を眺めていたらイオリの視線がウチへと、正確にはウチが転がしているボールへと向く。

 

「ねえカミラ。カミラのイリュージョンってそんな長い時間維持できないって話しだったよね。

 なのにどうしてそのハイパーボールはずっとモンスターボールの姿を維持出来ているの?」

「そりゃ~モンスターボールはポケモンとポケモントレーナーの象徴であり、ポケモントレーナーにとってモンスターボール程頭の中で思い浮かべるのが簡単なモノなんてこの世に存在しないからだよ。

 ポケモントレーナーがポケモントレーナーであるのにモンスターボールを扱えないなんてあり得ないし、一流トレーナーであればあるほどボールは体の一部として扱えるようになっているものだよ」

 

 ボールを肩へ落とすと体をなぞるように転がしていき足の先へと滑らせ蹴り上げて宙へと浮かせ、蹴り上げる時の勢いを利用しそのままバク転、先に着地したウチの手の甲へボールが落ち右手の甲から肩を転がり、指一本の上に回転させて支える。

 唐突に行った曲芸に驚いていたけれど素直に「凄い!」と賞賛し拍手をくれるもので気分が良い。

 

「ありがとう。 それでね、ウチはこうやって毎日欠かさずボールに触れているわけだけれど、いったい1日平均何時間ボールに触れていると思う?」

「え?何時間って……………あれ?言われてみればいつも触っているような……3時間くらい?」

「平均7時間くらいだよ。 最低でも1日5時間は触るようにしている。

 これはね、たったの3日でも触らないでいると触れた時の感覚に違和感を覚えてしまう程だから疎かにしてはいけない事なんだよ」

「はぇ~……最低5時間。 なんか凄くプロっぽい」

「プロっぽいじゃなくてプロだよ」

「そうだった」

 

 イオリの言葉に少しムッとして「そうだったって酷くない?」と口にすると「ゴメン。でも今のカミラさんかわいいから」なんて言われて自分の尻尾へと目をやり今の姿を思い浮かべ「確かに」と反論の余地が無いと心の奥底から認めてしまい物凄く複雑な気分だよ。

 

「コホン。まあそんな訳で一部例外を除いて殆どの一流トレーナーはボールを毎日触れるというトレーニングは欠かせない。

 コレだけトレーニングしているものだよ?

 触れなくても触れた時の感触すらも簡単にイメージできてしまう物なのだから、いくらイリュージョン素人とは言ってもこれくらいの完成度は維持できるよ。

 維持できるのだから使い続ければ練度が上昇しできる事が増えるしエネルギーの抑制方法なんかも上達すればヒメリのみを食べ続ける必要も無くなるだろうから素晴らしいね」

「なるほど………ヒメリのみ、もう一個貰って良い?」

「良いよ~」

「ありがとう。……………うん、最初からこういう味ってわかってれば悪くないね。

 コレ単品で食べ続けたいかって言われたら話が変わるけど」

「やっばりカレーに使うのが一番だよカレーにさ~」

 

 

 

 

 工場地帯の入口が見えるところで皆をボールから出す。

 公園とかじゃなくてアスファルトの上に全員纏めて出すなんてウチの世界にいた頃でも一斉に出す事はないので新鮮な気分だ。

 この場所で出した事に皆もだいたい理解しているようだからさっさと要件だけ伝えよう。

 

「それじゃあランクルスとダイケンキはウチとイオリのボディーガードをしてもらうとして他の皆は……ピジョットとグレイシアはココドラのおもりをしつつになるけれど、あとは好きなように過ごしていいから。解散!」

 

 パンッと手を叩くと元気良く返事を返しグレイシアがココドラを背中に乗せると木々の多そうな方向へ、リザードンとドサイドンは広そうな場所に……たぶん殴り合いしてても平気そうな場所に向かうのだろうね。

 そんな感じに各々自分が向かいたい方に進んでいく。

 

「えぇ……行っちゃった。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。この場所は、この世界に来てから一番ウチの世界と似た匂いがする」

「匂い?」

「うん匂い。気配って言った方が良いかもね。

 なんとなくだけど、もうこの場所はポケモンの場所なんだって肌でわかるんだよ」

「経験による勘って感じ?」

「そんな感じ。それよりイオリもトビくんを出しても良いんだよ」

「あ、そっか。よし、出てきてトビくん!」

「エモッ!」

 

 出てきたエモンガがイオリに飛びついて甘えて………いいなあ~。

 ウチの子達ココドラちゃんを除いてみんな立派な大人だし男の子だから甘えてくれないんだよね〜。

 

「………おいでランクルス~」

「ランクル~」

「歳考えろっていくらなんでも酷くないかなあ!?」

「ラ~ン」

「あ、うん。そっちか。まあお兄ちゃん35だしね」

「ラン」

「え?……………えっ!?35歳なの!?」

「そうだよ~。まあ年齢なんて大した問題じゃ無いから恥ずかしがらなくて良いんだよ~」

「グルゥ」

「え?ちょっ!やあ無理ぃ!……あれ?意外といける?」

 

 ランクルスを迎え入れるように開いた両手にダイケンキが入り込んできたもので同じハグする形でも完全に踏ん張りを入れる感じに受け止めた。

 今のウチの身長を考えたらダイケンキとの大きさの差はあまりにも大きくて無理だと思ったけれど案外ちゃんと支えられていてダイケンキも驚いている。

 ダイケンキの事だからウチが倒れるところで捕まえてしまおうなんて考えでの悪ふざけだったのに意図せず計画を破綻させてしまった。

 

「グルルゥ……」

「乗せてくれるの?ありがと」

 

 抱き合いながら二人の間でしかわからない微妙な空気の中、先に離れたダイケンキが乗りやすいようにしゃがんで促してくるのでそれに甘えて背中に乗る。

 

「そうだイオリ、念の為にこれ受け取って」

「これは……モンスターボール?この中にはどんな子が入ってるの?」

「ん?どんな子っていうか、ピッピ人形だけど?ほらボールにPマーク付いてるでしょ?」

 

 イオリに投げ渡したのはピッピ人形入りのボールであり、万が一も起こすつもりは無いのだけれど、それはそれとして備えを用意しておくのは大切だからね。

 

 ピッピ人形は本当に凄い。

 普通の旅じゃまずお世話になる事なんて無いけれどウチの同業者は皆口を揃えて断言するくらいには『ピッピ人形は凄い』本当に凄い。

 ウチも何度このピッピ人形に助けられたかわかんないくらい凄いんだよ。

 

 実際この前のポケ災の時も数百のヤミカラス達の視線を一身に集めてくれて、その隙にレッドフラットくんにチョップするだけの時間確保できるくらいには凄い存在感を放つ逃走用道具だと力説し先へと進むことにした。

 

 

 

 

 ドンカラスに連れられ大きめな建物に入る。

 オフィスという感じの複合機やパソコンが並んでいるが現在は使われていない部屋を通り過ぎ、更衣室や談話室、会議室なんかが並ぶ廊下を通る。

 

「ん?ここの自販機見たことないのばっかり」

「クワワァ!」

「あぁ、ごめんよ。帰りに見る事にするよ。

 ………ちょっとせっかちな性格なのかな?」

「せっかちっていうか、当然の事だと思うんだけど」

「う~ん…それは人間の価値観だと思うな~」

「クワァ!」

「ほら、黙って歩けって怒られてるよ」

「ん?イオリ、ポケモンの言葉がわかるのかい?」

「言葉はわからくても今のはわかるじゃん。あ、ごめんなさい静かにしますね」

 

 ウチとイオリはお迎えが来たので後ろを付いて歩いている。

 いるのだけど、最初のお迎えはドンカラスではなくヤミカラスだったらしい。

 

 皆と別行動をすることにしてからブラブラと歩きながらポケモンを観察したり、観察されたりしているといい匂いがしてそちらへ向かうとメガニウムがいたんだよ。

 そこはアスファルトを抉って作られたスペースで、ここが工場地帯だという事を忘れてしまいそうなほど綺麗な草花の空間になっている。

 1本の大きな木の下で休んでいたメガニウムはコチラに気付き起き上がるも敵意が無いと理解すれば特に警戒もしてこなくなる。この辺りはメガニウムという強いポケモン故だろうね。

 

 問題はこの草原にメガニウムの他にも沢山のポケモンがいたことで、その中にはコロトックやチルットなんかもいたこと。

 コロトックの姿を確認して笛を取り出しコミュニケーションを図ろうと演奏を始めたのが全ての始まり。

 ウチの奏でる海の神たるルギアへと捧げる為のメロディーをコロトックが再現し、チルットが歌い、バタフリーが曲に合わせ舞い、メガ二ウムも乗ってきたのか首を上下に優しく揺らし、ロゼリアが草笛を吹き、チルタリスが乱入し輪唱をし、ココドラを担いだ見覚えのあるグレイシアも乱入し輪唱をして、ワンパチ、ヤミカラス、ドレディア、ツボツボ、クチート……多種多様なポケモン達が側により曲に合わせ体を揺らす。

 歌ったり踊ったり、ポロックやポフィンを提供したりきのみやあまいミツを貰ったりして7曲くらい終った頃だろう。

 ドンカラスがやってきてお開きとなり、見覚えのあるグレイシアも素知らぬ顔でどっか行った。

 

 途中でやってきたヤミカラスの誰かがお迎え役だったのだろうけれど、ドンカラスの下っ端をしているヤミカラスは集団心理なんかに物凄く弱い子が多い。

 規模は小さいけれどお祭り騒ぎになってしまえば楽しい雰囲気を壊すなんてとても勇気が必要になる行動を取れる子がいなかったのは仕方ないし、叱らないであげてほしいけど無理だろうなぁ……

 

 それより溜め込んでいたポロックを一気に放出したからその溜め込み作業もしなくちゃ。 

 

「クワァ」

 

 ポロック作成の為にきのみを安定して確保できる手段を考えながら進んでいたら目的の場所に辿り着いたようだ。

 

「………驚いた。本当のボスは別の子だと思っていたけれど、まさか色違いだったなんて」

 

 ポケ災の時の彼等はあくまでも部隊長とかそんな感じの立ち位置であり、予め指示役の変更タイミング等を決めておいたからスムーズにできたのだと納得しながら部屋を軽く見渡す。

 

 部屋はお客様対応用の会議室といった感じの部屋でいかにも極道といった感じで、窓はカーテンで閉ざされているのだけど、そのカーテンにデカデカと彼等が作ったであろうエンブレムが黒で描かれており人間に対しての威嚇方法をよくわかっている。

 普通のドンカラスなら威嚇の際に声と広げた翼の偉大さで敵を威嚇するモノなのだけれど威嚇をせずにこちらにプレッシャーを与えに来ている。

 

「ん?………大丈夫だよ」

 

 チャンピオンのエースポケモンから放たれる威圧感を肌で感じ、命を磨り減らすかのような極限の集中状態で行われる激戦を経験したことのあるウチからしてみればこの程度の威嚇なんてそよ風程度の影響も受けないのだけれどイオリは別だ。

 

 全く効果の無いウチとは対照的にイオリは完全に萎縮してしまい、ウチが気軽に色違い云々なんて話しをしたものでウチらに突き刺さる視線が、ライボルトが、ストライクが、ドリュウズが、4匹のドンカラスが襲いかかってくるんじゃないかと不安になり服を引っ張ってきた。

 ランクルスとダイケンキがいるから大丈夫と伝えておいたんだけどな。

 気持ちはわかるけれど。

 

「ウチが話しをするから。ほら行こう」

 

 イオリの手を引き、正面のソファーの真ん中にイオリを座らせる。

 

「よっこいしょっと」

「え、ちょっと?」

「ふふ、ウチもほんのちょっぴり怖いからイオリに甘えさせてもらうよ?」

「え、えっと……えぇ?」

 

 イオリの膝の上にウチが座り、その両手をウチのお腹、抱きつかせる形にしてからウチらしくない事を口にした。

 正直、この体になってから不便な事ばかりで嫌になってきていたところだったのだけれどこの1回だけでコレまでの不都合を全て帳消しにしても良いと思える働きをしてくれている。

 あまり認めたくないけれど、今のウチはどれだけオブラートに包んでも幼いとしか言いようがない見た目をしている。

 だからこそこんな手段が使える。

 前の姿じゃここまで距離を縮めて友達を安心させるなんて真似恥ずかしすぎて出来なかったよ。

 流石に話しが長くなるようならイオリの足がしびれちゃうし退くけれど、それまでは気が紛らわせられるだけ存分に抱きしめるなり好きにして欲しい。

 

「それじゃ話しをしようか。まずは自己紹介からで良いかい?」

 

 ウチの言葉を受け、この位置からでは机が邪魔で見えないが色違いのドンカラスが足でキーボードを叩く音がして、机の上のノートパソコンから言葉が再生される。

 

『必要無い。敵であるお前達は一体何をしに私達の世界に来たんだ?』

 

 その声は子供っぽい高めの声であり、この場にはあまり似つかわしくない声質だと感じた。

 おそらくだけど、嘗められたらいけないと考えこのような部屋を用意したがこの場所で争うつもりも無いのだとわかりやすくする為にわざと今の音声ソフトを選んだのだろうね。

 警察署で見せられた映像の時に使われていた音声ソフトは男性の、それも力強いと感じる声質だった事を考えればまず間違えないだろうね。

 

 そう考えた時だった。

 

 イオリの抱きつく力が強くなり、何故強くなったか理由があまりにもわからず、とりあえず落ち着かせようとイオリの手をきゅっと両手で包む。

 本当に何で急に力を込めてきたかわからないのでそんな事しかできない事に心の中で謝罪して話を続ける。

 

「ウチがここに来たのは、ウチ個人は君らの敵になるつもりが無いからだよ」

『ほう?』

「まず今回の事柄でウチは人間にもポケモンにも味方しないし敵対するつもりも無い。

 ウチの望みはポケモンと人間の共存であり、どちらかが攻めればどちらかを止める為に動くつもりでいるし、どちらかが情報不足で空回りしそうなら渡すなんてことをするつもりでいる。

 だからあの日はポケモン達を止めた。

 その事に関してはは伝えているのだけれど認識にズレは無いかな?」

『いや、そのように聞いている。その上で何をしに来た?』

 

 やはりというか、この子達は動物からポケモンになった影響なのか、単純に日が浅いからか自分達の可能性を正確に理解していない。

 ドンカラスの『こわいかお』が発動し、ウチの中にある何かが弱まった感覚がある。

 可能性を正確に理解するなんて誰にも出来ないのは確かだけれど、そもそも出来る事すらわかっていないようじゃ本来見えてくる可能性に気付くことすらできない。

 

 だから今された『こわいかお』は別に意図してしたわけじゃないのだとわかるから見逃す。

 しかしこの行動にウチの後ろ、邪魔にならない位置で座り込んでいたダイケンキが反応しほんの僅かに後ろ足に力を込め気付かれぬよう最小の動きで最速の『メガホーン』を放てる体制へと入るのを察し「オホン!」と大きめに喉の調子を整える感じにすると意図を察して止めてくれる。

 大切に思っているからこそなのだろうけれどこれくらいは抑えて。

 

「君達は、元々はこの世界の動物からポケモンに進化したのでしょう?」

『なんのことだ?』

「なんのこともなにも、君達はポケモンのタイプ相性すら知らないじゃないか。

 だからウチは君達にとって有用になるだろう知識を渡そう思ってこの場所に来たんだよ。

 今から書類を出すから目を通してもらえるかな?」

 

 タイプ相性やポケパワーの事と、この場所に訪れる以前に見かけた事のあるポケモンが覚えやすい技や戦い方の参考等が纏められたもの。

 人間達との交渉に有利に働きそうな事等を纏められたもの。

 ホウエン神話におけるディアルガ様とパルキア様について纏められたもの。

 全部で7冊あるけれどメインとなるのがこの3つ。

 

 受け取ると目を通しはじめ『しばし待て、お茶を出させる』と再生させ少しすると工場の人だろう。

 四十代程の男性が入ってくるといろいろと言いたそうな表情をしていたが、ポケモン達が怖いのか特に何も言わずウチとイオリの前にお茶と羊羹を用意してくれる。

 

「ある意味予想通りなのたけど、予想以上にマトモな生活していそうだね」

 

 男性の服装等から清潔さを感じられる。

 四十代の人が3日もお風呂入らないと臭うからわかりやすいし、むしろ香水をつけているのか良い匂いまでして見栄の張るためにつけたのか判断に困るけれど予想を超えて生活環境が良い可能性が浮上した。

 

『当然だ。畑も用意し私達の力ありきではあるが自給自足もさせている』

「メガニウムやダグドリオもいたし確かに可能そうだもんね。

 まあマトモな人間がいないと抑止力として弱いと考えてそうしているんだと思うのだけど」

 

 ちょっと突付いてみたらチラッとウチの方へ視線を移し、すぐに資料の方へと戻したのを見てウチもイオリの膝からすぐ隣に座り直してからお茶を飲む。

 イオリもウチがお茶を口にしたのを見て自分のお茶に手を伸ばした。

 

 時間をかけてしっかり羊羹を味わい食べ終えた頃に声をかける。

 

「どう?君達の足しになるような情報はあったかい?」

『ああ、あった。確かに役に立つ。

 おかげで今の私達がどのような存在なのか言語として知ることができる……………「グア、グアアアァ(それでもお前は人間だ)」』

 

 どうせ通じないだろうと思って口にした言葉だったのだろう。

 だが、あまりにも怒りや憎しみが強くの込められているその言葉には確かに魂が宿っていて、元から相性の悪いタイプが相手だろうと魂のこもった言葉はなんとなく理解出来ていたのが、この体になったからかハッキリとその拒絶の言葉を聞き取ることが出来てしまった。

 利害でわかり合うことはできても心で彼とわかり合うには膨大な努力と時間が必要なのだと理解した。

 

「…………………………耳が痛いなぁ」

「……ん???」

「後で説明するね」

 

 まさか見抜かれるとは思っていなかったので苦笑いしかできず、イオリはドンカラスの言葉が理解出来ないのでウチと音声ソフトの文脈が噛み合っていない事に首をかしげる

 

 実際に見抜いたのか偶然だったのかはわからない。

 けれどその言葉は他人好きだが人間嫌いなカミラからしてみればとても痛いものだった。

 

 カミラはカロス地方でフレア団が起こした世界を終わらせる最終兵器の出来事を知らないし、仮に知っていたならば「極端すぎだよ。それじゃあ思考を放棄して逃げ出したのと何も変わらないんじゃないのかい?」という評価をしていただろう。

 

 犠牲が多すぎるので許容できない。

 しかしフラダリの選民思想事態には強く肯定できてしまう。

 

 カミラの場合フラダリと違い善悪云々よりもポケモン達に見限られた時が人間の終わりだと過去の歴史から確信しているため、マグマ団等を含め思想はともかく過激なポケモン犯罪を犯す組織が短い期間にあまりにも多く続出している事に強い危機感を持っていた。

 だからこそフラダリの思想は肯定できてしまう。

 

 今のカミラは友人家族といった存在がいないため受け入れる姿勢を前面に出しているが、そういった理由から、相次ぐポケモン犯罪の数々から人間嫌いと言っても過言ではない状況になっている。

 自分から話しかけるのは問題ないが他人から声をかけられたときは柔らかな笑みの裏で何事も見落とさないよう警戒してしまっているほどに。

 

 そうなってしまったのは大の他人好きだから。

 他人の事が大好きだから信じた分だけ傷付いてきたから。

 

 どれだけ傷ついても根っこの部分で他人が大好きだからこそ愛想良くできてしまい、今でもイオリのように誰かを愛することも受け入れる事も出来るが、他人を否定する時に「人間だから」という言葉で片付けてしまえる程の大の人間嫌い。

 

 以前イオリとの会話で何気なく旧友がロケット団に所属していたと語ったが、その出来事こそがカミラの人間嫌いになった最初のきっかけであり………『ポケモン犯罪対応許可証』の本当の重さを理解した瞬間だった。

 

 カミラはこの『ポケモン犯罪対応許可証』が必要なモノだと理解しているが大嫌いだ。

 細かい基準などがあるものの、言ってしまえば『ポケモン犯罪対応許可証』は国から与えられた『殺人許可証』だからだ。

 

 ドンカラスの言葉がカミラの何を指して言ったのかわからないが、同じ人間からではなく、愛しているポケモンの口から「お前は人間だから」と人間である事そのものを理由に拒絶された事はカミラ自身が思うよりも遙かに深く心に突き刺さる。

 

「ごちそうさま。さて、話したい事も済んだしウチ等は帰ろっか」

「えっ?」

『ほう?人間を返せとは言わないのか?』

「確かにウチも人間かもしれないけれど、自分の気分の為だけに略奪なんて恥知らずな真似はしないよ。

 ここはもうウチの目から見て君達の国なのだから、それが悪法でない限り従うし受け入れるのが筋合いというものだとウチは思うからね。

 ただ、せっかく資料を渡したのだし捕虜の人達の生活環境なんかをお礼に見せてくれるって言うなら見て帰るのも良いかな~。なんて考えているよ」

『良いだろう。見たらさっさと出ていけ』

「そうさせてもらうよ。 可能なら争いを止めに入ったり、必要な資料を届けに来たりとか、とにかく二度と会わないといけない事態が起きない事を祈っておくよ。その方がお互い平和そうだからね」

『………そうだな』

「それじゃ行こっか」

「う、うん」

 

 イオリの手を引き部屋を後にする。

 別に敵ではないのだから勝ち負け等は存在しないけれど先に重いパンチを入れら負かされてしまった。

 彼等がどの程度我慢できて理性的に対応できるかというのを見極めて人間側に渡そうとしていたのだけれどまさか先に泣かされそうになるとは。

 自分でも人間嫌いなのは自覚していたけれど、ポケモンに人間だからと拒絶された事にここまでショックを受けるとは思ってもみなかった。

 建物を出てから我慢が限界に達し、イオリの前だというのにほんの少しだけ涙を流すという情けない姿を晒して彼等との会談は終わった。

 

 その後捕虜の人達を見に行ったのだけれど大雑把に300人弱くらいで工場地帯の外に出れないのと食事の種類以外は割と自由を与えられているような印象を受けた。

 働かされている人もいるようだけれど報酬も与えられ労働者も1割で十分らしくシフト制で常に9割の人材が余る。

 外に出れずやることが無い人達は運動をしたり、ポケモンが技や種族特有の能力で急成長させ作った食料の研究を行い食事のレパートリーを増やそうと努力している。

 ドリュウズのアスファルトを容易く貫き粉砕する力、ダグドリオの土を耕す力、メガニウムの植物を急成長させる力等々、たった300人くらい増えたところで問題無いだけの力があるのであまり心配しなくても良さそうだね。

 

 労働をさせられていると言っても元々彼等がしていた仕事から大きく外れておらず、事務仕事のみをしていた人達は料理担当になりポケモン達からの仕事はしていない。

 ポケモン達からの仕事は必要な人数のみ指定され、シフトの決め方等は人間達に委ねられるくらいには緩く、人数が足りないと感じて進言すれば勝手に増やせと言い出す始末。

 そして真っ先に作らされたという物も人間が飲める水を作るための巨大な濾過器であり、現在は2台目の作成をしているらしい。

 

 これが万国共通の捕虜の扱いなら人間社会はどれだけ平和だろうかと思わず溜息がこぼれた。

 

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