ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性 作:メリルメリルメリル
車に乗せられホテル従業員のユイナさんのお宅へやってきました。
2階建ての一軒家で、駐車スペースに小さいながらも庭があり、物干しができて花壇もあり犬小屋も置いてあるしこの世界で見てきた家の中では大きめで裕福な方なのかなと感じさせる。
親御さんと暮らしているようで例のデルビルのお腹をなで回してる。
「あらら、デルビルは種族として仲間意識が強くて認めた相手にはとても寛容になる。
とは言っても知的生命体であるからよそ者のウチが側に居ると認識しながらも恥じらいも無く甘やかされた姿を晒せるなんて凄いお坊ちゃまですね」
「外国の人?んん?どっかで見たような……」
「お父さん!ポケモンの専門家連れてきた!」
「初めまして、山口カミラと申します。名字では呼ばれ慣れていないのでカミラと呼んでください」
「ああ!テレビでキャモメを語ってた先生だ!コウタロウはやっぱりポケモンだったのか!?」
「ウチが見る限り間違いなくデルビルというポケモンですね。
すこ~し失礼、コウタロウ君ちょっとお口あ~んってして」
ウチがコウタロウ君の顔を両手で包み真っ直ぐ見つめると「クゥーン」と甘えの混じった困った声でお父さんの顔を伺い、「言う事を聞きなさい」と言われてお口をあ~んってしてくれます。
その様子を見て念の為横にグレイシアを出しておいてからする事にした。
「先に言っておくけれど、ごめんねコウタロウ君」
何のことと疑問符を浮かべている隙に舌の奥の方グイッとし、背中前足寄りの辺りをちょっと強めにポンとしてあげると予想通りむせるようにしてひのこを吹いた。
「……はあっ!?」
「コウタロウが火い吹いた!?」
「あ~……何かの間違いで見た目デルビルで中身ジャーマンシェパードのままって可能性も考えていましたが出ましてねひのこ。この子は生物学的には完全にポケモンの中のデルビルです。
……と言うことはこの子メスですよね?コウタロウちゃん???」
「ソイツはコウタロウ2世だからな」
「お父さんがコウタロウ以外認めなかったんですよ」
「ああなるほど」
ふむふむ……なんで???????
ダメだ、動物がポケモンになる事例なんて初めてでこれ以上のことが何もわからない。
こういった事はポケモンのゴーストタイプや進化といった存在そのものや魂の進展に関する学問、進化と変態の違いを証明した学科の分野で全くわかんない。
デルビルにひのこ吐かせたのはあくまでもトレーナーとしての技量であってポケモン神話専攻の考古学者としての技術や知識じゃない。
そのトレーナーとしての知識と経験から言ってこの子にデルビルじゃない要素が見当たらない。
「申し訳ありませんがウチにわかるのはこの子がデルビルだという事だけですね。
どういう原理でジャーマンシェパードがデルビルになったかわかりませんし、今回の事柄に関して前例がございませんので専攻の違うウチではこれ以上のことはどうも……」
「そうですか……」
「あの、前例は無いって、最近SNSでペットが突然変異したという話しは多いですよ?」
「え?そうなのですか?」
そう言って見せてくれたSNSに投稿されている動画の中の一つに光り輝きながら体を大きくさせていき、やがてイキリンコへと姿を変えた様子がバッチリ映されていた。
「あらら、イキリンコに進化しましたね。ウチの地方にはいないから久しぶりに見ましたね。
この子は緑色で最も数の多いと言われている色で他に青や黄色、白の子なんかもいます」
「へ~」
「この映像昨日からニュースに上がってるやつだな」
「そうだったのですか?ニュース見てはいるのですがどうも時間の確保が難しくて十分に見れていませんね。
今ウチの手持ちにはポケモンのあかちゃんがいる状態で世話しつつ見回りなどしている状態でして……」
「いろいろしてくれているのは知っていましたけど赤ん坊がいる状態でしてたんですか!?」
「他に対処できそうなトレーナーがいませんのでコレばかりは仕方がありません」
「……あの、失礼ですけど国とかからちゃんとお給金は貰っているんですよね?」
「あははははははは」
「貰っていないんですね……」
「……ウチは、ポケモンの事が大好きなので」
それに、今の人類ではポケモンには絶対に勝てませんから~なんて口が裂けても言えませんね!
最低限科学技術で時間と空間という概念に干渉する技術力を持ち得ないと戦いの土俵にすら立てません。
もうコレはポケモンの脅威を知っている唯一のトレーナーとして生涯かけて成し遂げなければならない事柄だと覚悟している。
この覚悟をした時、ポケモン犯罪の抑止力。
ポケモン社会の顔とも言えるチャンピオンという名の重さを本当の意味で理解しました。
彼等は涼しい顔をしてこんなにも重いモノを背負っていたのだと考えると尊敬の念しかわかない。
「今はまだ、これだけ大きな事件ですので揉めているのか国から何か言ってくれることはありません。
しかしウチは、人間とポケモン達の架け橋にならなくてはならない。
ポケモンは恐ろしい生き物です。人間も、悪辣で残酷な恐ろしい生き物です。
ですがお互い受け入れあい生きていくことができ、実際ウチの世界ではそれが普通でした……」
というよりも受け入れなければ人類は滅びる。
ポケモンはポケパワーというエネルギーで身を守られているのでポケパワーを宿した武器でないと殺すなんてそうそうできないし、致命傷を与える事ができてもポケモンは目に見えないほど小さくなって消耗を減らして回復した頃に元の大きさに戻ることができ、それにより人間の脅威を学習した個体が増える一方になってしまう。
ポケモンからしてみれば人類はあまりにも弱い。
弱いが同じ知的生命体として共存を許され、弱い生き物だから我が儘だろうと可愛いモノだと許してくれる。
そんな彼等の事をこの世界の人達は何も知らない。
やはり、ウチがやるしかない。
「グレイシィ」
「グレイシア……」
そんなウチの悩みに対し、「一緒にいるよ」とだけ一言告げてくる。
海岸で初心者用モンスターボールを拾ったのは偶然だろうか?
もしかしたらウチは何かに監視されていて、このタイミングでボールを拾わせる事で積極的に情報を広めさせようとしているのかもしれない。
………そうだね、だからどうした。
ウチは確かに、チャンピオンじゃない。
チャンピオンになれなかった。
届かなかった。
ウチは特別だった。けれども普通の特別で、正真正銘唯一無二の特別ではない。
アイリスちゃんのようにポケモンと精神そのものと常に繋がり続ける事なんてできない。
シロナさんのような全てを見抜くような洞察力もない。
計算し尽くし場を整える技術も後輩であるグリーンの糧にされ、追い抜かれて
悔しい以上に
追い抜かれたというのに
その戦い方に、確かにウチの影があった事が嬉しかった……
ウチの特別、ウチができることのその全てに上位互換と言っても良い存在がいる。
けれどウチはウチだ。
グレイシアに言われ、腰のボールから通じるこの気持ち。
どんな場所でも共に行くと叫んでみんながウチの背を押してくれる。
覚悟はしていた。けれど、その覚悟はあまりにも温かった。
今、ハッキリと自覚した。覚悟し直した。
燃えるような熱い覚悟を。
「……一番下の癖に生意気」
「グレッ!?」
なんていうか、忘れていたな。この無鉄砲さ。
危険地帯には足を踏み入れるけれど、いつの間にか経験からここまでと決めている部分を作って、それが調査に限らずどんな物事にも一定のラインを作るようになっていて。
考えることは大切だけれど、国からの対応だけ待って全てが後手に回っているこの現状はどう?
ウチは何を寝ぼけているんだ?
情報の出し惜しみなんて悠長なことをしている暇は無いだろう。
「グレ!グレイシィ!」
「あかちゃんのココドラを持ち出す時点で心が末っ子だって自覚しようね?」
「グレイ!?………グレシ?」
「うん、マジで」
結果を恐れて足を止めるな、突っ走れ。
知っているだろ。ポケモンに滅ぼされた村や町の伝承の数々を。
ここで走らなければいつか必ず伝承の再現が、いや、それをも超えた悲劇が現実として起きてしまう。
『吹き荒らせ魂の嵐!貫き燃やせェヤ!』
腕に付けたキーストーンが焦げるように熱い。
ありがとう、みんな。ウチは考古学者である以前に、
ポケモントレーナーだ。
「コウタロウちゃんの親はユイナさん?」
「え……いえ、お父さん、です」
「では、お父さんにこのボールでコウタロウちゃんを捕まえて貰う方向で行きますが、その前に知っていてもらわなければいけないことがあります」
「……なんでしょう?」
「ポケモンは、本来人間の手に収まるような存在ではありません。
その体の中に一体どれ程のエネルギーを秘めているかは熟練のトレーナーでもなければわかりません。
そのエネルギーは自然そのものと言っても過言ではなく、天候すらも操作してしまいます。
それだけの力を持っている彼等はその力を使えない事にストレスを感じてしまうので発散させてあげる必要があるのです。
そうですね、コウタロウちゃんがデルビルだという事は非常に都合が良い。
ポケモン同士の力の発散方法、ポケモンのスポーツの一つ、ポケモンバトルを実際に見て貰いましょう」