ポケモンの無い世界に迷い込んだポケモン界の女性   作:メリルメリルメリル

8 / 27
ポケモントレーナー

 

 ユイナさんのお宅から歩いて10分程のところに少し大きめな公園があるというので移動する。

 

「こう……えん???」

 

 この場所が公園だと主張する看板とどこからどう見てもただの広場としか思えない場所を数度見返す。

 

「昔は遊具もあったんですけど今は危険だと撤去されたんですよね」

「そうですか……いえ、それなら都合が良いです。

 グレイシア、対戦相手よろしくね」

「グレ!」

 

 作戦会議……の前に話し合いというか相談があるからグレイシアには離れてもらってから出会った時と同じようにコウタロウちゃんの顔を両手で包み真っ直ぐと目を見る。

 

「良い子だね。人の目を真っ直ぐ見返せていて良く慣れている。

 君は少し前まで動物だったかも知れない。けれどわかるだろう?自分の中にあるその力が。

 その力と向き合わなければ君はいつか必ず大切な家族を傷つけてしまう。

 ……うん、賢い子だ。ちゃんとウチの言葉を理解して悩む事ができる。

 その頭の良さも今の君の力だよ。悪いこと。良いこと。それらを自分でキチンと考えられる大切な力だ。

 けれど、今この時はそれを忘れても良い」

「グルゥ」

「ん?矛盾してるって?

 確かに矛盾はしているけれどソレが必要な時もある。

 その力はいつまでも溜め込み続けられるものじゃない。だから発散させなければならない。

 これから君はウチと一緒にポケモンバトルを行う。

 その力を使う間は本能に従い、それでいながら頭は冷静に」

「ガウガウ!」

「また矛盾しているって?

 うん。けれどそれが必要なんだよ。

 君は、君だけが特別な力を得たなんて勘違いしちゃいけない。少なくとも……」

 

 風が吹く。強い冷気がウチの髪を撫でる。

 そちらをチラリと見れば、周囲に被害が出ないように形成された氷のフィールドが存在している。

 

 そして、その中心にはちょこんと静かに、それでいて何者よりも強大な威圧感を放つグレイシアが鎮座している。

 

「あそこにいるのは7年以上その力で磨き、戦い続けた大ベテランだ。君の勝てる相手じゃない。

 しかし間違いなく君と同じ力を使っている存在だ。学ぶ事は沢山あるだろうね。

 今、この世界にはその力を使う者達で溢れている。

 その力が、もしかしたら家族に向いてしまう時があるかもしれない」

 

 その言葉に怯えた様子でグレイシアを見つめていたコウタロウちゃんの目に力が宿る。

 良い子だ。本当に良い子だねこの子は。

 

 ポケモンは、強い分良い意味でも悪い意味でも純粋だ。

 純粋だからこそポケモンの在り方がパートナーの本性の映し鏡になってしまう。

 この子は、家族の愛の為に死地へもいける、そんな強い目をしている。

 

「あの氷の世界を創った存在が怖いかい?

 安心して、あそこまでできる存在なんてめったにいない。

 そしてソレができてしまう存在は君が力の使い方を覚えることに協力してくれると言っている。

 どうする?怖いのなら逃げても構わないよ?」

「ガウガウ!」

「決まりだ。なら共に戦おう。ウチが君の力を引き出す。

 大丈夫、気軽に胸を借りていこう。野生を解き放ち、楽しく暴れよう」

「ちょ、ちょっと待ってください!コウタロウ本当に大丈夫なんです!?」

 

 本当に愛されている。

 だからこそコウタロウちゃんは戦おうと決めたのだろう。

 ウチの言葉を正しく理解し、その光景を見通して。

 

「大丈夫ですよ。これから行うポケモンバトルは確かに過激に見えるかもしれないですけど、それは人間の基準であってポケモンの基準では日常茶飯事。

 もしかしたら貴女たちの目にはコウタロウちゃんが可哀想な目にあっているように映るかもしれません。

 しかし、コウタロウちゃんはほのおタイプと言いまして炎の力を持つポケモン。

 その力の使い方を理解せず、いつの日か自分の力で家を燃やしてしまったなどとなってしまった時の方が、ウチにはよほどそちらの方が可哀想に思えます」

「それは……」

「コウタロウが嫌がってないんならやらせてみてもいいんじゃないか?

 あれだろ、プロレスみたいなもんなんだろ?」

「はい。噛み付いたり炎を吹いたりしますがポケモン同士の認識ではルールの違うプロレスやボクシングと違いありません」

「だってよ。それに火い吹くとこ見たからにはそのままにできないだろ」

「……わかりました」

「それではコウタロウちゃん、ちょこっと作戦会議」

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷のゲートを越え、ジャリジャリと地面を踏みならしながらコウタロウちゃんと並び進んでいく。

 

「配信よろしく」

「了解ロト!」

「さあて、おまたせグレイシア」

「グレイシィ」

「ふ~ん、ずいぶん嘗めた事言うんだね。

 まさか忘れてないよね?ウチが最も相性の良いタイプはほのおタイプだって事を」

「………」

 

 グレイシアの瞳がスッと細くなる。

 軽口を叩いていたけれど、負けてあげるつもりもなければ攻撃を受けてあげるつもりもないって顔してる。

 

「コウタロウ、ひのこ」

「グアァ!!!」

 

 走りながらひのこを放ち距離をつめる。

 

「グレィ」

 

 しかしグレイシアの周囲を撫でるような挙動でひのこが避けていき、通り過ぎたのを確認するとゆっくりと立ち上がり動き出した。

 前進しつつ右に跳躍するような挙動をしながら左に飛び、前足に力を込め距離をつめる。

 ように見せかけ、前に飛ぶような動きで後ろに、ほんの僅かに飛び、ワンテンポずらしてバネのように後ろ足の脚力だけで一気に距離をつめてくる。

 それら全ての動作が滑らかで美しい舞いのようにも見える。

 

 うん、こうして対戦相手としてウチのポケモンを見てみると中々に挙動がバケモノじみてて鼻が高いよ。

 

 今回はハンデとしてグレイシアには遠距離からの攻撃は禁止しているのだけど、こごえるかぜを纏ってひのこを無効化するのは禁止していない。

 本来はめったに使わない小技なのだけれど主力技殆ど禁止されている今防御手段として十分すぎるくらい強力だ。

 

 冷気の鎧に身を包んだグレイシアはこうそくいどうも使用し踏み込んだ事で砲弾のように接近し回転。

 

「(アイアンテールだけどこれは……)」

 

 素早く指を鳴らす。

 

 グレイシアのアイアンテールがデルビルの手前で地面抉るよう、キラキラと氷の混じった砂をデルビルへ巻き上げるもそれより早く地面に伏せる。

 

「(しっかり聞けている、初めてにしては冷静だね)しっぽにかみつく!」 

 

 間に合うと判断し、ウチの判断も鈍ってないのか的中する。

 ほんの少しでも遅れていたら間に合わなかったが尻尾の先に食らい付く事に成功する。

 

「グレイシ!」

「今!」

 

 そしてあっさり離させる。

 離れるのはグレイシアにとってお望み通りだったでしょうね。

 ただし、その振り払う力をそのまま後退に利用させてもらうし……

 

「スモッグ!」

「グレッ!?」

 

 視界を奪わせて貰うしあわよくばどく状態になってもらう。

 

「ほのおのうず!」

「グウゥ……ガアアアアアア!!!」

 

 タメが長いしとてもではないけれど渦などと呼べた形ではないものの、グレイシアの大きさなら十分飲み込める炎が放たれ、スモッグごと覆い尽くす。

 

「ガウ!?」

 

 しかしその炎は一瞬にして凍り付き、大きな音を立て粉々に砕け散る。

 キラキラと舞い散る氷の粒と共に不機嫌な様子のグレイシアが舞い降りた。

 

「……グレイシィ」

「ふふ。ねえ、グレイシア。貴方、久しく忘れていたでしょ?

 対戦相手にだけ本物のポケモントレーナーが付いている時の厄介さってモノを」

「グレ!グレイシィ!」

 

 それでも勝つのは自分だ!ね。悲しいけどそれはそう。

 

「けど、燃えるでしょ?これだけの力量差がありながらそこまで燃えてしまえている時点で貴方の負けよ」

「グレシィ!!!」

 

 変則的なこうそくいどうにかげぶんしんの合わせ技までしておいて「燃えないし!!!」じゃないよ。

 まったく、ウチのグレイシアは本当に素直じゃなくて負けず嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンバトルは無事に終わり、ポケモンの説明などをした後けっきょくユイナさんがコウタロウちゃんをゲットする事になった。

 お父さんの方は家で仕事する事が多いそうなので外に出る事の多いユイナさんが持っていた方が良いという判断から。

 ユイナさんのお母さんが帰ってきてお昼一緒に食べないかと聞かれありがたい申し出だったけれど、ウチはポケモンが多いからとお断りさせてもらった。

 

 現在はユイナさんの要件が済んで、砂浜へ戻って来ている。

 

 夏場であるが、僅かながらに雪がつもり周囲には何本も氷柱針が立ち、今もなお雪が降り続けている。

 

「……なんだろうね、今、すごく不思議な気分だよ」

 

 立ったまま祈るようにボールを額に当てて呟く。

 

 周囲は寒く、白い息が漏れるというのに……

 どうしてか胸の熱いのが止まらない。

 

 この熱さがたまらなく懐かしくて、そう、この熱さ……

 

『ブラストバーン!』

『なに!?避けろ!』

『ピジョットーッ!!!』

『あんたらしくない!この距離で当たるわけがないだろ!

 ピジョット!ブレイブバード!』

『(そう、当たるわけがない。ブラストバーンやはかいこうせんは一度使うと硬直が長い。

 だからこそ外せば攻めてくる。この距離、この速度。正に反動技の回避に成功した時の理想的な動き)』

 世界がスローになっていく

 まるでコマ送りのように流れる世界の中、リザードンがゆっくりと背後に倒れる

『ッ!?』

『(だからこそ、この距離なら絶対に外さない!)

 ブラストバーンッ!!!』

『な…………』

 そのままだったらブレイブバードが直撃していた

 しかし、後ろに倒れるという回避行動などと言うにはあまりにもおこがましい行動によって稼いだ0.01秒、あるいはもっと短い時間により放たれた超近距離ブラストバーンの威力はブレイブバードをいとも簡単に弾き飛ばした

『……………はは、すっげぇ。スゲェよ!それでこそあんただ!

 全部見たと思っていたが、まだこんな隠し球まで!!!』

『(………出し切った。正真正銘、これが最後の札だった)』

『戻れピジョット!さあ!まだあるんだろ!見せてくれよあんたの力を!いけバンギラス!!!』

『えぇ、見せるとも。この先、楽に進めると思うんじゃない!』

 

 ウチの戦術をも取り入れ、全く新しい戦術として開花させたあの天才グリーン。

 最強の遺伝子を持つから、オーキド博士の孫だから凄いんじゃない。

 

 彼が、彼こそがグリーンだから凄いのよ。

 

 そんな天才を磨くための石になれた事に満足していた。

 

 超えられて、嬉しいと感じてしまった。

 

 きっとあの時、嬉しいと感じたその瞬間、トレーナーとしてのウチの進化は止まってしまった。

 負けて嬉しいと感じるトレーナーが最高のポケモントレーナーなわけがないのだから。

 

「どうやら、時間みたいだね」

 

 ダイケンキ・グレイシアペア、オーダイル・ランクルスのペアに分かれてサメハダー達を追い立てて砂浜の方へと誘導して貰っている。

 迷惑をかけるかもと市役所に一声かけてきた。

 そして、これから行う事の全てをライブ配信で中継する。

 もう言い訳はしない。ポケモンの事を何もわかっていない国に対応を任せきりにするなんてできない。

 ウチの力で広めていく。

 

 最後のポケモンを投げる時、必ずしていた動作。

 

 胸の辺りで固くボールを握りしめ魂を込め

 燃え上がる意思で居抜き貫き通せるよう、狙いを合わせるよう力の限り突き出し

 大きく振りかぶり、投げる!

 

「いっけぇリザードンッ!!!」

 

 キーストーンが輝き共鳴する

 

「吹き荒らせ魂の嵐!貫き燃やせェヤ!

 リザードン!メガシンカ!!!」

 

 高らかに上げた指で天を突き刺す

 

 胸の熱さが爆発して血が沸騰していると錯覚してしまうほどの昂揚感の中

 

 ウチの心を代弁するかのように

 リザードンの咆哮が世界に轟き強い日差しが雪の雲を貫き消し去る

 

「当たったらじゃない!当てるんじゃああァッ!

 ド派手にカマセィ!ブラ゛ァストバア゛―――――ンッ!!!!!!」

 

 轟音と共に、もはやレーザーとしか呼べないブラストバーンが着弾し、海が大きく盛り上がり、水蒸気爆発により海が弾けてしょっぱい雨が降り注ぐ。

 

「グアァ?」

「ん?あぁ、拡散ソーラービームの方が確かに良かったけど、やっぱりウチらといったらブラストバーン以外ありえへん。そうでしょう?」

「グウゥ。……グオアアアアアアアアアッ!!!」

 

 あーあ、やっちゃったなぁ。もう引き返したりはできない。

 

 ただただ突っ走れ、ポケモントレーナー

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。