バイト先の可愛すぎるアラサー店長について 作:社畜マークII
今回はアラサーはアラサーでも、酒カスの方のアラサーです。星歌さんは次出るから楽しみに待っといて❤️(強要)
廣井きくり、彼女を語る上で欠かせない要素として、まず「飲酒」と「ベース」が第一候補に出てくるだろう。
社会不適合者なのは間違い無いのだが、それを化け物じみたベースのテクニックと顔の良さで上手い具合に彼女の魅力的な人間性として確立している。まぁ、酒癖の悪さでその魅力も地に落ちてしまうのだが。
「りょうくーん!きくりお姉さんが来たよ!開けてよー!終電無くなっちゃったぁー!」
「うるせぇ…」
ガチャ、とドアを開けるとスタジャンを羽織り片手に鬼ころし、下駄を履きこなすその姿は、彼女と言う人間を如実に表している。
あ、今日は珍しくベースを店に忘れてないみたいだな、『スーパーウルトラ酒呑童子EX』をしっかりと背負っている。でへでへ、とだらしない顔をして僕の顔を見る彼女に、年上としての威厳は皆無だ。
「今日はもう店仕舞いです。閉店ガラガラ」
「あーん!そんなご無体なー!床で寝るから入れてよー!」
「てか、星歌さんの家には行かなかったんですか今日は、今まで僕の家に泊まりに来た事とか無いのに」
「うちは、ビジホでも漫画喫茶でもねぇ!って出禁にされちゃって…」
あらら…それで家知ってる僕のところに来たってことね。まぁ、僕一人暮らしだし
「とりあえず入ってください、女性がこの時間に1人は危ないっすから」
「へへ、私を女性扱いしてくれるのは、りょうくんだけだよ〜」
おじゃま〜、と言いながら部屋に入っていく廣井さん。顔は良いんだから女性として見てる人は結構居そうだけどな、と独りごちる。
遠慮のかけらも無くトテトテとリビングまで行き、ベースを下ろしてソファに座る廣井さんを見ていると、人の内側に入るのが相変わらず上手いな、とも感じる。これで特定の相手が居ないのだから、ほんとに不思議なものだ。
「ふー、疲れたぁ〜」
「お疲れ様っす、風呂場はそこの右手にあるんですけど、ちょっとお湯張るんで5分だけ待ってください。あ、着替えあります?」
「えっと、一応コンビニで下着は買ったんだけど、着替えは無いや…。え、お風呂浸かっていいの?」
「当たり前ですよ、僕のTシャツと短パン貸すので、嫌じゃなかったらそれに着替えてください。あと、洗濯機も自由に使っていいんで」
「神だぁ!君は神だよ〜!りょうくん!」
半泣きでそう言う廣井さんは、僕の腰にしがみつき離してくれない。まぁ、一度家に入れたからには責任は持たないとな。ところでご飯は食べたのだろうか、この人は。お酒は飲んだのはわかるのだが、この人はお腹に酒を入れて満腹にすることがしばしばあるので、一応聞いてみよう。
「廣井さん、ごはん食べました?」
「え?いや、食べてないけど…でも、お酒いっぱい飲んだからノープロブレム!」
そう言った瞬間。ぐぅぅぅ〜…、という音が部屋中に響き渡った。
「ぶふっ」
「ひぃ〜ん!笑わないでよぉ〜!折角我慢してたのにぃ!」
ポカポカと僕のお腹を叩いてくる廣井さん。いや、我慢する必要なんか無いだろうに。素直にお腹減ったと言われた方がこっちとしても、作りがいがあるというものだ。
「廣井さん、苦手な物とかあります?」
「へ?まさか作ってくれるの?」
「はい、そんな上等なものは出せませんけどね」
「…りょうくん、私のお婿さんになってぇ」
「それはちょっと…」
「フラれたー!!」
でも、ありがとー!と、泣きながらも感謝の言葉を伝えてくる廣井さん。そして、背後から聞こえてくる『お風呂が沸きました』という声でようやく廣井さんは再起動し、お風呂に入っていった。
「お風呂、あ、上がりました」
「はーい、ご飯できてます…よ?」
ん?なんかお風呂から上がってきたら、廣井さんの雰囲気が変わったな。大人しくなったというか、目が泳ぎまくってる。いつもの廣井さんなら「お風呂気持ちよかったー!りょうくん、お酒無いのー?」とか聞いてきそうなもんだけど。
「あの、さっきはごめんね?へ、変な絡み方しちゃって…」
「誰ですか、アンタ」
「へ?」
いや、人格変わりすぎで怖いよ。なんとなくだけど、お風呂入ってお酒が多少抜けたんだろうなとは予感してたんだけど、ここまで変わるのかこの人。
「ひどい!きくりお姉さんだよ!」
「あぁ、それです。そのテンションです」
まぁまだ顔は赤いし、完全に抜けたわけでは無いんだろうけど、落ち着きのある廣井さんってなんか落ち着かないな。
なまじ顔が良いだけに、年上の物静かなお姉さんって感じになるのが憎い。髪を完全に下ろしてるっていうのもあるのかもしれないけど。
「ご飯できてるので食べましょう。和食だから全体的に薄味ですけど、大丈夫でしたか?」
「全然大丈夫だよー!むしろ、和食大好き!」
今日の献立はネギ入りだし巻き卵、鮭の西京焼き、ナスの味噌汁、ほうれん草のカツオ和えだ。
自分1人の時は、ネギだけの味噌汁と適当なメイン料理だけで済ますことも多いのだが、人が来るとなるとついつい気合が入ってしまう。口に合えば良いんだけど。
「こんなまともなご飯、一ヶ月ぶりくらいだよ〜。それじゃ、いただきます!」
「どうぞ〜、納豆もあるので言ってもらえたら出しますよ」
やった〜!と言って、大喜びする廣井さんを横目に、自分も「いただきます」と、手を合わせて食べ始める。
お、新しく買ったお味噌美味しい、リピートしようかなこれ。そう思っている横で、廣井さんは卵焼きを一口食べると、ワナワナと震え始めた。
「うっっっま」
「ははっ、そりゃ良かったです」
「いや、ほんとに!めちゃくちゃ美味しい!お店できるよ、これ!」
興奮気味にそう言ってくる廣井さんに、微笑ましくなってしまう。料理を作る人間ならわかってくれるかもしれないが、自分の作ったものを美味しそうに食べてくれる人のことは無条件で好きになってしまうのだ。
バクバクと掃除機のように料理を吸い込んでいく廣井さん。そんな急いで食べなくても、料理は逃げないというのに。
「はい、お茶です。ゆっくり食べないとダメっすよ」
「あ、ありがとう…ごめんね、はしたなくて…」
「全然良いですよ、それだけ美味しかったってことですよね?」
うん!と満面の笑みで答える姿は、既に年上としての威厳はマイナス株に達している。…あ、卵焼きが無くなってめちゃくちゃ残念そうな顔してる。あのスピードで食べてたらそりゃそうなるよ。…しょうがないなぁ。
「はい、卵焼き半分あげます」
「えぇっ!?いいよ!りょうくんの分無くなっちゃう!」
「廣井さんが食べる姿を見てたら、嬉しくてお腹いっぱいになっちゃったので。良かったら食べるの、手伝ってください」
「りょうくん…その歳でそれ言えるのは、あまりにもカッコ良すぎでしょ君…。じゃあ、ありがたくいただくね!」
そう言ってモリモリ食べる廣井さんを見ていると、普段何を食べているのかが気になるのは必然だろう。
お酒はよく飲むし、お金が無いっていつも言ってる。それに、明らかに「やせ」の部類に入るであろうその身体から考えると、まともなものは食べていないように感じられる。
「廣井さん、いつもご飯ちゃんと食べれてます?」
「っ!?いや、まぁ、私にはおにころがあるから…」
「お酒も良いですけど、ちゃんとご飯は食べないと。身体壊しちゃいますよ」
「…うん、そうだね〜」
うーん、説教くさくなっちゃったかな。でも、言ってることは間違ってはないし、実際知り合いがお酒の飲み過ぎと栄養失調で倒れる寸前、とかってなったら心配だしな。
そう思っていると、廣井さんは何かを言おうとして2、3回躊躇した後、こちらに問いを投げかけた。
「あのさ、りょうくんは、私が居なくなったら寂しい?」
「当たり前ですよ」
「…へへ、そっか」
照れくさそうに笑う廣井さんは、無垢な少女のようで、僕を見惚れさせるには充分な破壊力を持ち合わせていた。そして、こっちをパッと見て、目を合わせてきた。
「ね、きくりって呼んで?いつまでも上の名前だと、他人行儀だからさ」
「きくりさん、で良いですか?」
「いいよ。…ははっ、いざ呼ばれると照れるなぁ…。まぁでも、ちゃんと即答で呼んでくれるのはポイント高いよ」
学校でモテモテでしょ、と揶揄うように言ってくる。蠱惑的にも感じるその目に、吸い込まれそうになってしまう。
しかし、その程度で動揺していたら、女性社会至上主義である現状のSTARRYでは生きていけないのだ。僕は気を引き締めて、努めて冷静に自分を落ち着ける。
「そっち行ってもいい?」
「え、あ、はい」
ちょうどご飯が食べ終わったのか、「ごちそうさまでした」と言って、こちらに近づいてくるきくりさん。僕のTシャツを着ているので胸元も少し危ない、頼むから胸元の自衛をしてくれ、きくりさん。
お酒の匂いと、ボディーソープやシャンプーの匂い、あときくりさんの匂いがする。ある程度女性に免疫があるとはいえ、このシチュエーションは少しばかりクラクラとしてしまうのも、それはしょうがないことだろう。
「…バンドメンバーとか星歌先輩とか、みんな、ほんとに優しいんだけどね。やっぱり、私が馬鹿なせいで呆れられてるっていうか、りょうくんみたいに本気で諭してくれた人は久しぶりでさ」
「…僕は普通のことをしただけですよ。特別なことは何も」
「そうかもね、でも私にとっては
まぁ、きくりさんがそう思ってくれたのは喜ばしい事なんだろう。でも、星歌さんのあの態度も、見方によったら愛情だと思うけどな。まぁ、それも承知の上で、今回の僕の対応が新鮮だったのかもしれない。
「なんか、私にできる事あったら言ってねぇ。今ならなんでもしちゃうよ?」
「女性がそんな事、軽々しく言っちゃダメですよ」
「…軽々しく言ってるように見える?心外だなぁ〜。私、男の人にこんなこと言ったの人生で初めてだよ」
ふと、きくりさんの顔を見ると耳まで真っ赤だった。てっきりお酒で赤くなっていると思っていたのだが、どうやら違うらしい。
…ここで乙女を見せてくるのも、この人のずるいところだと思う。無意識に男のツボを刺激してきている。
「…じゃあ、とても魅力的な提案なので、一つだけ」
「えっ、あっ、えっと、なに?」
「後で一緒に、コンビニにアイス買いに行きましょう。そこで奢ってください」
「…ほんとにそれでいいの?」
おい、僕の理性を削りにくるな。これでも結構我慢の限界に近いんだよ。これ以上は危険だと判断した僕は早々にご飯を食べ終え、お皿を洗い始める。
「あっ、私洗い物と片付けするよぉ。その間にお風呂入ってきなよ」
「ほんとですか?じゃあ、お言葉に甘えて行ってきます」
「うん、作ってもらったから、せめてこれぐらいはね」
いってらっしゃーい、と言いながらスポンジでお皿を洗うきくりさん。泥酔してる時はアルコールモンスターなのに、ある程度落ち着いてるとお皿洗いも出来るらしい。これは新発見だな。そう思いつつ、僕はお風呂に入るのだった。
「まさか、こんなことになるとはね〜」
廣井きくりこと私は、そう独り言をこぼす。先輩のところで甘えすぎた結果、追い出されてしまったので、ダメ元で知り合いの男の子のところに来たところ、びっくりするくらいの高待遇で出迎えられた。
「…正直、ちょっとはえっちなこと要求されると思ってたんだけどなぁ」
今まで彼氏もできた事ない私だが、年頃の若い男の子の家に押し掛けたらどうなってしまうのか、というのはある程度予想はしていた。しかし、野宿するリスクを考えた場合、土下座してでも泊めてもらう方が良いという結論に至ったのだった。
「ほんと失礼なこと、考えちゃってたなぁ」
というか、未成年の男の子の家にいきなり押しかける25歳のベーシストって、私の方がやばいのでは?最後の方に至っては私から
泥酔してたのであまり考えないようにしていたが、それを考えると顔が青ざめるのを感じる。
「み、未成年淫行…強要…」
ま、まぁ、まだ事に及んだわけではないし。2人とも清い身体のままなので、司法にはなんとか許してもらえるだろう。りょうくんがもし、私を訴えたら1発アウトだけど。
「とりあえず乾燥機にお皿セットして…と、よし完璧!」
あとは、りょうくんがお風呂から上がってくるのを待つだけだ。…アイス買いに行くの、楽しみだな。思えば、こんなふうに人と接するのはいつぶりだろう。
バンドメンバーと打ち上げで飲みに行ったり、ご飯を食べに行くことはよくあるが、人間らしい暮らしというか、そういうものを誰かと共有する事の幸せを、今久しぶりに噛み締めている気がする。
「お風呂上がりましたー」
「あっ、りょうくん!…って」
「ん?どうしました?」
「い、いや、なんでも…」
あの、ちょっと、色気がすごすぎませんかこの子。
前々から前髪上げたらいいのに、とは思っていたけど。お風呂上がりでオールバックみたいになり顔が全面に出ているその状態は、今の私にはあまりにも目に毒すぎた。
目がぱっちりとしているが鼻筋が通っている、彫りが深めな超がつくほどのイケメンがそこに立っていたからだ。
しかも、薄手のTシャツを着ているからか、ほどよく鍛えられた男らしい身体が隆起している様子が、はっきりと見て取れる。
「あの、ちょっと聞きたいんだけど…。なんでいつも前髪下ろしてるの?」
「あー、なんか虹夏ちゃんに前髪下ろして目隠した方が良いよ、って言われたんですよね」
虹夏ちゃん、独占欲が暴走してる…。まぁ、イケメンな幼馴染(自分の好きな男)がモテているのを見るのは嫌だろうしね。でも、どうしても私はもったいなく感じてしまう。
「私はそっちの方が好きだなぁ、りょうくんの顔がよく見えるしね〜」
「そうですか?じゃあ、きくりさんの前ではこれでいときますね」
「…ずるい!ずるいよ、りょうくん!」
私はそうゴネるしかなかった。こうなってしまったら、私が勝てる道理は全くと言って良いほどに皆無だからだ。
「じゃあ、コンビニ行きましょうか。僕M◯Wが食べたいです」
「あ、あれ美味しいよね〜。たまに、ファンがくれたちょっと良いブランデー垂らして食べてるよ」
「清々しいほどのお酒好きですね、きくりさん」
「ふふん、当たり前だよ!」
お酒は私の命の水だからね!と言うと、微笑ましいものを見る目で見てくるりょうくん。ああ、この時間がいつまでも続けば良いのにな、と私は切に願うのだった。
今回のきくりさんは6〜7割酔いくらいの設定です。なので、原作やアニメとは解釈違いが起きる可能性があるのであしからず。
あと、幸せスパイラルをせずとも幸せな空間にいるので、お酒を飲む描写はあまり入れてません。
次回、コンビニで待ち受ける刺客
3話は修羅場にすべき?
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ドロドロ濃厚豚骨一丁!
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