バイト先の可愛すぎるアラサー店長について   作:社畜マークII

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日間2位ってマジ?(戦慄)


3話

 

もう夜も更けてきたというのに、外の気温はとても過ごしやすいものとなっている。春の陽気は時間に関係無く、僕達の歩みを促してくれていた。

 

きくりさんも僕の横をウロチョロとして楽しそうにしている。街灯が照らす住宅街を歩く姿は、きくりさんにとても似合っているように感じた。

 

「ねね、コンビニでお酒買っても良い〜?」

 

「飲み過ぎない範囲なら良いですよ。でも、家で吐くのはやめてくださいね」

 

「わ、わかってるよ!流石に私もそこまで恩知らずじゃないから!」

 

もう!と言って怒っているが、普段の行いを鑑みるとわりと妥当な言われようだと思う。ライブ終わりとか、本当にとんでも無いことになってるというのに。

 

でも、あれでベースを弾く指の精度だけは外さないのだから、この人は魂の底からベーシストなのだろう。思考するよりも先に、染み付いた動作を身体が選択するレベルの。

 

「そういえば、りょうくんって楽器弾かないの?あ、ベースだったらきくりお姉さんがマンツーマンで教えてあげるよ〜!」

 

「あー…一応ギター弾いてますね。STARRYに置かせてもらってます」

 

「え〜!聞きたい!今度聞かせてよ!」

 

「うーん…もう少し上手くなってからでもいいですか?」

 

「良いよ!でも、ちゃんと聞かせてねぇ〜!楽しみにしとくからさ!」

 

いつになるかはわからないが、もう少しマシな演奏ができるようになったら聞かせてあげよう。そう思いつつ、僕らは家から徒歩10分ほどのところにあるコンビニに着いたのだった。

 

「最近のコンビニってすごいよねぇ、化粧道具とかモバイルバッテリーとか売ってるし。私はよく酔っ払って物失くす癖あるからさぁ、助かってるんだぁ」

 

「それは、その癖を根本から治さないとダメなのでは…?」

 

「あっはっは!無理!」

 

そう言って、2人で店内をグルグルする。「なんでもカゴに入れて良いよ〜」と言われたが、特に欲しい物も無いので、目当てのアイスだけ入れておいた。

 

きくりさんはというと、ガリ◯リ君とストロングチューハイ、適当なおつまみを選び、大層満足そうな表情をしている。幸せそうでなによりだ。

 

「このチューハイにアイスぶち込んで飲むと、めっちゃ美味しいんだよね〜!」

 

「小学生が考えた最強の飲み物、みたいな発想っすね」

 

「それ、褒めてる?」

 

「はい、褒めてますよ」

 

ならいっかぁ、とレジに行き会計をするきくりさん。ふむ、どうやら今日はまだお金に余裕があるみたいだ。特に躊躇いもなく、あっさりと支払いをしているところを見ると、そう思ってしまう。

 

「はい!買えたよー!帰って晩酌だぁー!」

 

「ありがとうございます。あ、袋持ちますね、貸してください」

 

「良い男かよ〜!じゃあ、頼んだ!」

 

そう言うと、きくりさんは僕にズイっと袋を渡してきた。テンションが上がってきたのか、コンビニから出た後、僕を先導するように歩くきくりさんに、少し呆れつつも笑みが溢れてしまう。

 

「ん?なんで笑ってるのさ」

 

「いえ、なんか可愛いなと思って」

 

「…も、もー!いきなり何言ってるのさ!年上を揶揄っちゃだめだよ〜?」

 

口ではそう言いつつも嬉しそうにしているところを見るに、言われ慣れてないのかもしれない。顔も良いし、飲み過ぎなければこんなに可愛いのに。

 

「いえ、家に来た時に「誰も女性として見てくれない」、って言ってましたけど、きくりさんなら引くて数多でしょ」

 

「…ん〜、まぁ?そういう目を向けられたことは、今まで無いことは無いけどさ〜…」

 

そう言うと、僕を先導していた足を止めて僕の目の前に来るきくりさん。その距離の近さにびっくりしつつ、彼女の雰囲気が変わったことを察知する。なにか、不快なことを言ってしまっただろうか。

 

「女の子として、ちゃんと対等に接してくれたのは君が初めてだよ」

 

そう言うと、おもむろに腕を組んでくるきくりさん。おおう、これはまずいぞ。何がまずいかと言うと、慎ましいながらも確かにある、女性特有の柔らかさが僕の理性を再度削り始めている。お風呂に入る前にした、きくりさんとのやりとりの時と同じように。

 

「…へへ、家帰るまでこうしてて良い?」

 

「き、きくりさんが良いなら良いですけど。どうしたんすか、寒いんですか?」

 

ダメだ、冷静になれ僕。星歌さんの顔を思い浮かべるんだ、いつだって僕の心の中にはあの人がいるんだから。

 

ほら、星歌さんが前に言ってたじゃないか、「お前…ベーシストだけは本当にやめとけよ?」って!いや、でも星歌さん違うんです!この人、なんか全然思ってた感じと全然違うから!

 

「んーん、寒くはないんだけどね。こうしたくなっちゃったからさ」

 

「そ、そうっすか…」

 

健全な男子高校生にはあまりにも辛すぎるそのシチュエーションに、僕は「煩悩退散…煩悩退散…」と、心中で唱えることしかできないのであった。

 

 

 

 

 

 

「廣井の奴め、どこに行ったんだあいつ…」

 

私の名前は岩下志麻、廣井から「志麻ぁ〜!伊地知先輩に追い出されちゃったぁ〜!下北沢まで助けにきてぇ〜!」とメッセージが来ており、いつも通り無視していた。

しかし、普段かかってくるはずの追い電話が一切かかってこないので、少し胸騒ぎがし、こうしてわざわざ車で捜索しているというわけだ。

 

まだSTARRYの近くにいるはずなんだけどな…、と思いながらも「お前今どこにいる?」とメッセージを送る。酔い潰れているのだろうが、今まで自分に電話をしなかったことが無かったので、少し心配ではある。

 

「珍しく機材を破壊しなかったと思ったら、こんなめんどくさいことしやがって…」

 

会ったらゲンコツだな、と独り言を言いながら、近くのコンビニに車を停める。運転は嫌いではないが、あいつの為となると億劫になってしまうのも仕方がないと思う。

 

まぁ、変な男に引っかかるタイプではないだろうし、近くの公園で倒れてるのだろうか。コーヒーでも飲んだ後に探してみるとするか。そう思ってコンビニの入り口を、ふと見た瞬間だった。

 

『…へへ、帰るまでこうしてていい?』

 

なんか、見覚えのある顔がそこにいた。しかも、馬鹿みたいにメスの顔をさせながら男に纏わりついている。

 

『き、きくりさんが良いなら良いですけど。どうしたんすか、寒いんですか?』

 

……ん?ちょっと待ってくれ。男の方も雰囲気違うからあんまりわからなかったけど、伊地知先輩が可愛がってるって言って、写メで見せてきたあの子じゃ…

 

『んーん、寒くはないんだけど、こうしたくなっちゃったからさ』

 

胃がキリキリする、吐き気もしてきた。現実逃避したい。

 

私は、こういう場合はどうすべきなんだ。伊地知先輩に伝える?いや、ダメだろ、どう考えても。とりあえず、安否確認はできたし、帰っていいかな?私。いいよね?

 

過ぎ去っていく2人の後ろ姿を死んだ魚の目で見ながら、私はそう思った。

 

「何やってんだよ廣井…マジでぶっ飛ばしたい…」

 

しばらく放心状態だったが、とりあえずコーヒーをコンビニで購入し、車のエンジンをかけた。

 

そして、もう帰ろう…と、思っていた矢先だった。プルルルル、と電話がかかってきた。私は嫌な予感がし、携帯の画面を見る。

 

『廣井』と表示されているその画面を見て、さっきまで、あんなに電話がかかってくることを望んでいたことが嘘のような気分になった。しかし、しょうがないので、一旦電話には出ることにし、通話ボタンを押した。

 

「あっ、志麻〜?ごめんね、連絡くれてたのに。知り合いの子が泊めてくれるらしくてさ、バタバタしてて返信するの忘れてたよぉ」

 

「…あぁ、ちゃんと携帯は見とけよ」

 

「ん?なんか元気無い?」

 

「今、わざわざ下北沢まで来てたんだよ、お前のために」

 

「えぇ〜!ごめんー!返信無かったから見捨てられたと思って…」

 

「いや、これに関しては私も返信しなかったから、責任は私にもある」

 

「え、なんか今日は優しいねぇ、志麻」

 

聞くべきだろうか。いや、正直言って聞きたく無いけど、どんな関係なのかは知りたい。けど、これで恋人だって言われたら、どう反応すべきなのだろうか。果たして、私は「おめでとう」と真っ直ぐに言えるのか。

 

伊地知先輩の、「こいつはさ、弟みたいな奴で、私を真人間に戻してくれた恩人なんだ」って言ってた時の顔が思い浮かぶ。

 

「…そんなことないよ、何もないならそれでいい。じゃあな」

 

「はいはーい!またねー!」

 

結局、私は何も聞けなかった。神様、私は弱い人間です。どうかお許しください。

 

 

 

 

 

 

 

「んー…志麻、なんかおかしかったなぁ」

 

少し考えてみたが、特におかしくなるような要因もなかったので、「ま、いっか!」と呟き、コップを用意してくれているりょうくんを見る。そして、さっきは結構大胆なことをしちゃったな、と思い返す。

 

けど、溢れる気持ちを抑えられなかった。25年間生きてきた中で、1番勇気を出したかもしれない。あんな心臓の鼓動の速さは、初ライブの時並みだ。

 

「このコップ使ってください。氷は、アイスがあるからいらない感じですか?」

 

「うん!アルコールも薄まっちゃうからね〜!ほりゃ!」

 

「うわ、ガリ◯リ君がチューハイに浸かってる…」

 

私がコップにアイスを入れ、その上からチューハイをかける様子を、りょうくんは興味深そうな顔で見ていた。そんな彼を、好奇心旺盛な大型犬のように思って、愛おしく感じてしまう。

 

「美味しい〜!コンビニ酒と言えば、おにころとこれだね〜!」

 

「そういえば、鬼ころしは買わなくて良かったんですか?」

 

「んー、りょうくんと一緒にアイスを楽しみたい気分だったからさ」

 

「それは、アイスと言えるんですか…?」

 

大人のアイスの楽しみ方の一つだよ〜、と私は言いながら、りょうくんがつけてくれたテレビを見る。どうやら、週1で夜にやってる連続恋愛ドラマみたいだ。ストーリーはよくわからないけど、幸せそうな男女が画面に映し出されている。

 

そこで、私はふと、思い立ったようにりょうくんに聞いてみた。

 

「…ね、りょうくんは彼女とか作らないの?」

 

「んー…、今のところは考えてませんね」

 

そもそも相手が居ませんから、と笑いながら言ってくる。いや、その顔面偏差値なら、君は作ろうと思えばいつでも作れるでしょと思うが、口には出さなかった。

 

そして、どうしてかはわからないけど。私は、そんな彼を少し困らせてみたくなった。

 

「…じゃあ、私とかどうかな!こう見えて、きくりお姉さんは尽くすタイプだよ!」

 

「またまた、ご冗談を」

 

「当然のようにスルーされたー!」

 

くそう、傷つくぞ流石に。私の数少ない乙女心に傷つけた罪は重いよ、りょうくん。そう憤慨しつつ、彼の顔をジトーっと見る。

 

「ふんっ!りょうくんにすっかり弄ばれたよ私は!」

 

「はいはい、まだお酒残ってますよ。ストローつけてあげますから、早く飲んでください」

 

「もう!もはや3歳児に対する対応だよ、それ!」

 

ぷりぷり怒りながらストローでお酒を飲む私。

 

こんな対応をされても嬉しくなってしまうので、私はもう重症なのだろう。

 

…でも、それでもいいと思ってるんだろうな私は。この今の私の感情が、依存なのか、親愛なのか、情愛なのかはどうでも良くて。ただ、そこに居て、私の『今』を認めてくれる存在がただただ、心地よかった。

 

だから、今はこれでいい、これでいいんだ。

 

「今日はこのくらいで我慢しといてあげるよ、りょうくん!」

 

私は、笑いながらそう言う(宣戦布告する)のだった。

 

 

 

 

 

 

 

きくりさんとの晩酌が終わった後も、ベッドをどっちが使うか、というので一悶着あったり、顔が真っ赤なきくりさんに「一緒に寝る?」とか聞かれるイベントがあったが、ここでは割愛する。

 

そして、無事、朝に家から出ていったきくりさんを見送り、学校の用意を終わらせ特に問題もなく登校をしたのだが、昨日の気疲れからか、1時間目は眠気が限界に達し、ほとんど寝てしまっていた。その影響で、昼休みの始まりを告げるチャイムが、いつもより嬉しく感じてしまう。

 

「おつかれ〜、今日は疲れてるみたいだね。昨日なんかあったの?」

 

「いや、ちょっと昨日夜更かししちゃったから眠たくて…」

 

「珍しい、涼介はいつもお爺ちゃんみたいな暮らししてるのに」

 

「誰がお爺ちゃんだよ、毎朝ラジオ体操してねーわ」

 

「そこまでは言ってない」

 

…流石に、昨夜きくりさんから向けられていた感情に対して鈍感になれるほど、僕はギャルゲー主人公をしてないので、大体はわかったうえで、昨日はとぼけたふりをしていたところもある。

 

しかし、流石にお互い知らないことが多すぎると思うのだ。僕もきくりさんも。だから、これからどんな関係になるにしろ、もっと彼女のことを知りたいと僕は思っている。

 

「今日、バイトは行けそう?」

 

「余裕だよ、2人に迷惑はかけないから」

 

「別にバイト中寝てくれてもいい、私も寝る口実が出来てWin-Win」

 

「いや、そうなったとしても、リョウにはしっかり働いてもらうからね?」

 

「やだ…」

 

相変わらずだな山田は、怠惰という文字が似合う人間であることは間違いないのだが、こいつも顔面の良さでカバーをしている節がある。

ベーシストはそんなんばっかか。…いや、きくりさんはお酒抜けたら、普通に内面も可愛かったけどさ。

 

心の中でそう思ってると、何やら僕達に近寄ってくる人達が見えた。

 

「ねぇ、君が涼介くん?」

 

「え、あ、はい。そうですけど…」

 

「あっ、私達、隣のクラスなんだけど、涼介くんにちょっと話があって…」

 

うーん、何だろう。見たこともないし、喋った記憶もない人達だ。委員会の人でも無いだろうし、この学年で今更部活の勧誘という訳でも無いだろう。なんかしちゃったのかな。

 

「ここでは出来ない話ですか?」

 

「うん。ちょっとついてきてほしくてさぁ…」

 

「「…」」

 

「ひぇ…」

 

虹夏ちゃんと山田には悪いけどちょっと離れようと思い、声をかけようとしたが、虹夏ちゃんのあまりの眼光に、思わず小さい悲鳴を上げてしまった。山田は呆れたような目を虹夏ちゃんに向けている。

 

「ごめんね、涼介くんは私達と大事な話があるから」

 

「え、でもちょっとくらい…」

 

「今日のバイトの事だから、どうしても外せないんだ。また今度にして?」

 

「…わかった〜、いきなり来てごめんね?」

 

涼介くんも、ごめんね?と言って肩をポンと触られ、教室から出ていった。中々距離感が近いな、この人。きくりさんとはまた違う距離の詰め方で、僕は少し苦手かもしれない。なんか邪な感情が見え隠れしてる気がする。

 

「…何だったんだろあの人」

 

「もう、涼介くんは隙がありすぎるよ!」

 

「…まぁ、それには同感。そのうち変な女に絡まれるようになる」

 

ぷぷぷ、と山田が笑っているが、虹夏ちゃんは目が笑ってない。まぁ、なんかよからぬ事を考えてる人だったんだろう。そうでもないと、虹夏ちゃんがあんな顔するわけないしな。

 

「やっぱり、私達でちゃんと見といてあげないとだめだよ!」

 

「それは、虹夏がそうしたいだけでしょ。あんまり干渉し過ぎるのも良くない」

 

「…ぐっ、そうだけどさぁ!」

 

なんか教育方針で揉める夫婦みたいだな、この2人。今日も仲が良さそうで何よりだ。

 

他人事のようにそう考える僕だが、この時はまだ、自分がどれだけ馬鹿だったのかを、よくわかっていなかったのであった。

 

それについて後悔をするのは、もう少し先の話である。

 

 




ここで修羅場を爆発させるのは勿体無いので、3話では下地を作る作業としました。何事も助走って大事だよね(白目)
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