バイト先の可愛すぎるアラサー店長について 作:社畜マークII
ID:you20190708
完熟マンゴーの化け物に関しては、最後まで説明は無かったものの、無事(?)に結束バンドのライブは終わった。とりあえず、2人にお疲れ様と言いに行くために、店の裏に回る。
…そういえば、なんかあの代理ギターの人の演奏に、違和感を感じたんだよな。もどかしいというか、出す音は綺麗なのに、絶妙に噛み合ってないような感じがした。まあ、いきなり代理で入れって言われたら、ああなってもおかしくはないのかもしれない。そう思いつつ、裏に続く扉を開ける。
「おつかr」
「つ、次のライブまでには、クラスメイトに挨拶ができるくらいになっておきます!」
「何の宣言だ…?」
うお、びっくりした。すごい大声で悲しいことを宣言してる人がいる。あ、あの人が完熟マンゴーの中の人か。ピンク髪でピンクジャージとは、なかなか個性的な見た目はしているが、虹夏ちゃん達と同年代くらいかな。なんであの中に入っていたのかは、ぜひ聞いておきたい。あまりにも尖りすぎてて、僕も店長も「なんだあいつ…」ってなってたからね。
「あ、涼介くん!ライブ前はありがとね!」
「全然いいよ。それよりライブお疲れ様、虹夏ちゃん、山田。あと、えっと…」
「ひぇっ、お、男の人…背が高い…」
おっと、どうやら初対面でバッドコミュニケーションしてしまったらしい。僕の無駄に高い身長は、変に威圧感を与えてしまうからな、申し訳ないことをしてしまった。
「すいません、怖がらせるつもりはなくて。僕は永岡涼介といいます。いちおう虹夏ちゃん達と同じ、下北沢高校2年生です。そちらも、お名前聞いても大丈夫ですか?」
「い、いえ…わ、私の方こそごめんなさい…。ご、後藤ひとりと申します…秀華高校一年生です」
ふむ、年齢は一個下か。あんなダンボールに入ってライブをするくらいだから、どんなはっちゃけた人間かと思ったら、大人しそうな普通の子じゃないか。
まさか、山田あたりが被らせたのか?まぁ、山田は本当に嫌そうにしてる相手には強要しないから、この子もある程度は、そういう演出だと受け入れてたんだろうけど。一応、聞いてみるか。
「そういえば、あの完熟マンゴーはなんだったの?僕も星歌さんも、出てきたときにびっくりしちゃったよ」
「あー…、あれはねー…」
虹夏ちゃんは言いづらそうにしていたが、ポツポツと話してくれた。どうやら、後藤さんは極度のあがり症で、観客でいる前でうまく演奏できないから、落ち着けるようにダンボールを被ったらしい。
ほー、なんかあの演奏も納得がいった気がする。そりゃあがり症で、しかも、ダンボールで前が見えないような環境だと、周りとアイコンタクトも取れないし、いくら上手くても、他の人と合わせて演奏なんてできないだろう。
「あと、ひとりちゃんことぼっちちゃんは、正式にバンドメンバー入りすることになったよ!」
「ぼっちちゃんって…ひどいあだ名だなぁ。後藤さん、このあだ名、嫌じゃないの?」
「い、いえ…!初めてあだ名をつけてもらって、むしろ嬉しいです…へへ…」
おおぅ、この子もなかなかクセの強い子だな。結束バンドは個性派バンドで行くつもりなのだろうか。虹夏ちゃんは、あれでなかなか破天荒なところあるし、山田は言わずもがなだしな。
「ボーカルはどんな個性的な人がくるか楽しみだなぁ…」
「ちょっと、考えてること丸わかりだからね。私はまだ常識人でしょ」
「(あ、暗に私に常識が無いって言ってる…!)」
「この前、僕の家のフライパンと鍋使ってドラム代わりにしてたよね?ドラムスティックは菜箸で代用してたし。これでもまだ、心の底から自分は常識人ですって言える?」
「ごめんなさい」
平謝りしてきたが、特に気にして無い。勝手に家に入り、勝手に冷蔵庫のものを使って、パラパラのチャーハンを作ってた山田よりは、だいぶマシだ。ちなみに、悔しいことに味は美味かった。無駄に器用なのがムカついたので、デコピンをしておいたけど。
なんか本人曰く、「涼介のチャーハンが家で食べたかったから、作ってるところ見て盗んだ」とのことらしい。才能マンめ。
「とりあえず、無事にライブ終わって良かったね。これから打ち上げでも行くの?」
「うん!そのつもりだよ!」
「あ、人と話し過ぎて疲れたので今日は帰ります…」
「眠い…」
「え?」
「し、失礼します!!」
「え!?」
あぁ…、虹夏ちゃんが哀れな事に…。すごいスピードで打ち上げが無くなった事にまだ理解が及ばないのか、呆然と立ち尽くす虹夏ちゃん。まぁ、あの感じだと、今の状況もわりといっぱいいっぱいだったんだろう。むしろ、よく耐えたと後藤さんを褒めてあげるべきなのかもしれない。
「家帰るのめんどくさい…。涼介、家泊めて」
「泊まるなら、虹夏ちゃん家にしときなよ。お泊まりセットとか置きっぱにしてるんでしょ?」
「って、ちょいちょーい!何でナチュラルに、リョウの宿泊先を私の家にシフトチェンジしてるのさ!最近ずっと私の家いるし、もう泊めないよ!」
「だってさ、涼介」
「かと言って、涼介くんの家に泊まるのも良くないよねぇ??リョウ」
「はい…」
詰められて怯えてる山田に、付き合ってもない男女が2人っきりでお泊まりなんて、不純だよ!と、プンスカしてる虹夏ちゃん。その言葉は僕に刺さるからやめてほしい。
「まぁ、とりあえず解散しよっか。山田もこんなんだし」
「…しょうがないか。じゃあ、打ち上げはまた今度だね」
「ん」
「涼介くん、改めてだけど本当に今日はありがとう。めちゃくちゃ助かったよ」
「2人のためなら別にいいよ。むしろ、ギター弾ける人を探すときに友達が増えたから、僕からお礼を言いたいくらい」
そう言うと、一瞬微笑ましいものを見る目をされたが、すぐにピクッと目が動いた。…どうしたんだろうか、別に変なことは言ってないはずだけど。おい山田、立ったまま寝てないで、なんかフォローしてくれ。
「良かったね〜…ところでさ、その友達って男の人?」
「いや、女の人だよ。新宿で練習やるって言ってたし、もしかしたらきくりさんと知り合いかもね」
「ふ〜〜〜〜ん、女の人ね……って、涼介くんいつのまにか、廣井さんのこと『きくりさん』呼びになってるけど、なんで?」
あっ、そういえば、虹夏ちゃんの前で呼び方変えて呼ぶの、これが初めてか。どうしたものかね、けど、なんかここで馬鹿正直に言うと死ぬ、っていう予感がビンビンするんだよな。
「えーっと、前に偶然町で会ってご飯一緒に食べてさ、そのとき仲良くなったんだよ」
「えぇ…廣井さんとご飯行くってなかなか怖いことしてるね、涼介くん」
「普通に話してたら良い人だよ、きくりさん」
「そうかなぁ?家にいきなり来て、お風呂入ってご飯食べていく人、っていう認識しかない…」
その評価はあながち間違いではないな、そう思いながら、俺はみんなの解散に合わせて、自分も帰路に着くのだった。
そして、ちょうど家に着いたときだった。いきなり、携帯の通知音が鳴った。画面を見ると、『大槻ヨヨコから一件のメッセージ』と表示されていた。おお、そういえば、最初のメッセージのやり取り以降、何も送ってなかった。
えっと、なになに…『明日、空いてる?良かったら、新宿案内してあげるわよ』って来てるな。
ちょうどよく明日は空いてたと思う、バイトも無いし。
「『空いてるよ、新宿はぜひ行ってみたい』っと、これでいいかな」
すると、即座に既読がつき。『じゃあ、明日新宿駅の東口出たところに11時集合にしましょ』ときた。
「『了解、じゃあまた明日』っと」
スタンプも送り、メッセージを閉じる。今日は何だか疲れたな、まぁあんだけ人探しして、駆けずり回ったら疲れるか。あんまり、知らない人に話しかけるのは慣れてないし。
「お風呂入って、適当にご飯食べて寝るかぁ」
僕はそう思い、タッパーに作り置きしてあるおかずをレンジでチンして、だしの素と味噌を茶碗に入れてお湯を注ぎ、具無しの味噌汁を作る。一人暮らしの夜ご飯なんて、だいたいこんなもんだ。
「…星歌さん、今日も可愛かったな」
諦めると決めた筈なのに今日も、喋ってる時は内心嬉しくてたまらなかった。
レンジから温め終わりを告げる音がする。その音が僕の虚しさを表してるような気もして、思わず笑ってしまう。僕は自嘲しつつ、1人だけの食卓につく。
「それはそうと、ご飯食べ終わったらギターの練習でもしようかな。きくりさんに聞かせてあげるって約束したし」
思った通りの音が鳴らず、ちょっと萎えてしまう気持ちを奮い立たせギターを握る。
「曲が弾けるようになってきたら、楽しいんだろうけどなぁ」
それまではわりと苦行でしかない、三日坊主にだけはならないように1日に1回は触るようにしているが、どうにも上達してる気がしない。
「うーん、なんかコツとかあるんだろうか。明日、ヨヨコさんに聞いてみようかな」
「反復練習あるのみよ!」とか言われそうだ。まぁ、何に置いても積み重ねに勝ることはない。努力し続けた人間が勝つのだ。
「そういえばヨヨコさん、新宿のどこ案内してくれるんだろ」
まぁ、変なところは連れて行かれることはないだろう。僕の周りの人間の中では、比較的に常識のある部類に入る人だと思うし。
僕は明日が初めてと言っても過言ではないほど、新宿に行く機会がなかったので、期待に胸を膨らませながら、ギターの練習に励む。
そんな時だった。プルルルル、と携帯に電話がかかってきた。
画面を見ると、『伊地知星歌』と表示されており、僕は飛び上がりそうになった。なぜ、何かSTARRYに忘れ物でもしてしまっただろうか。それとも、虹夏ちゃんに何かあったのか。とりあえず、緊張しつつも素早く電話に出た。
「は、はいもしもし」
『お、繋がった。今大丈夫だったか?』
「あっ、はい。ギターの練習くらいしかする事なかったので、全然大丈夫です」
『そっか、じゃあちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど』
え、何だろうか。なんか失礼なことでもしてしまったのか。それとも、バイトのシフトの話だろうか。声色的には普段通りなので、特に悪い話では無さそうだが。
「な、何でしょうか」
『涼介お前さ、廣井と付き合ってる?』
「は?え?」
頭が疑問符で溢れた。いや、まぁ、前にお泊まりした仲ではあるが。でも、それを星歌さんは知らない筈だし、きくりさんも言ってない筈だが。
何も間違いはなかったわけだし、きくりさんがうちに来たことを言っても良かったのだが、特に言う機会も無く今に至ったため、いきなりなことでとても驚いている。
「い、いえ…きくりさんとは、付き合ってはないですけど」
『ほー…、いやなんか、廣井の奴がお前の話を出した途端に、顔赤くしてキョドり始めたからさ、まさかと思って。あと今気付いたけど、お前も呼び方変わってるし』
なにやってんだ、きくりさん!!そう言いたくなった僕を、どうか責めないでほしい。
…いや、もう星歌さんは大人だし、正直に言おう。なんか、こんだけ色々察されて隠してる方が不健全だ、これは。そう覚悟を決めて、僕は口を開く。
「えーっと、星歌さん。この前きくりさんがですね…」
『おう』
「あの、僕の家に泊まっていって」
『は?』
「その時に打ち解けたというか、仲良くなって、そこから下の名前で呼ぶようになったんですよね」
『涼介』
「は、はい」
地獄の底から出したみたいな星歌さんの声が聞こえる。こわい。言わなければ良かったと思いつつ、星歌さんの次の言葉を待つ。
『ヤッタノカ?』
「うぇ!?いや、誓って間違いは起こしてないです!ほんとに!」
『うそつけぇ!あんなんでも、あいつ顔だけはいいんだから、何もなかったは通用しねぇぞ!未成年に手を出すとは…しかも、よりにもよって涼介だと…。殺す…、絶対殺す…』
「星歌さん、落ち着いて聞いてください。恥ずかしながら、僕は童貞のヘタレなんで、どんな状況であっても、そんな簡単に女性とそういうことはできません」
『な、何言ってんだ!いきなり!?ど、童貞とか…』
いきなり怒りが鎮火し、ゴニョゴニョ言い出したが、やったやってないはアンタから言い出したんだぞ。
そもそも、やったことよりやってないことを証明する方が難しいっていうのは、どんな事象でも言われていることだ。
だからここは、僕が多少恥をかいたとしても、パワープレイで押し通すしか方法はない。
『…まぁ、今のところはそれで勘弁しといてやる』
「良かった…」
『ただし』
「ん?」
『次、廣井が来た時は私に連絡しろ。見張り役として私も泊まるから』
「え」
嘘でしょ、じゃあもしきくりさんが泊まりに来たら「好きな人」と「僕のことが(おそらく)好きな人」に挟まれて過ごすってことか?何だ、その過酷すぎる拷問は。
そんなことになったら、お泊まりの後に、星歌さんときくりさんと会うのは、法廷になってしまうのではないだろうか。いや、もちろんそんな馬鹿なことはしないけど。その危険がゼロかと言われたら自信は無い。
『…なんだ、廣井は良いのに私は嫌なのか』
「い、いや、むしろ嬉しいというか。星歌さんだからこそ危険というか…」
あっ、完全に言葉選びミスった。
『い、いきなり何言ってんだお前!!バカ!アホ!変態!!』
そう言って電話は切られた。…次会う時どんな顔すれば良いのだろうか。なんだろう、この短時間ですごく疲れた。明日はちゃんと起きれるだろうか。
「もう、どうでもいい…。寝る…」
僕はそう言い、全てを諦め眠りにつくのだった。
ヨヨコは女友達くらいの距離で居るのが1番楽しそう。原作読んでる人なら、ヨヨコのめんどくさい女ムーブも知ってるからわかるはず。
毎回書きながら話考えてるから、ズレてるところもあるかもしれない。すまぬ。冨岡が腹を切ります。