バイト先の可愛すぎるアラサー店長について 作:社畜マークII
「大槻ちゃん、元気そうできくりお姉さんも嬉しいよ。あと、りょうくんも久しぶり」
「え?2人とも知り合いなんですか?あと、姐さんなんか雰囲気が…」
「いやー、先輩の経営してるライブハウスのバイトの子だからさ、その関係でりょうくんとは
「な、なるほど…」
ヨヨコに連れられるままにライブハウスに来たのだが、なんときくりさんがいた。前会った時よりも顔色も良さげだし、元気そうで何よりだ。
…というか、2人とも知り合いなのかってそれは僕のセリフだ。どういう偶然だよ、それとも僕はロックバンドのメンバーを引き寄せる特異体質なのか?
「お久しぶりです、きくりさんは今日ライブですか?あと、ヨヨコとどういう関係?」
「んーん?違うよ。暇だったからこの、ライブハウス「FOLT」店長の吉田銀次郎こと、銀ちゃんに話し相手になってもらってたんだ〜。あ、ヨヨコちゃんとは、友達兼後輩だよ〜。ライブハウス同じだからね」
「紹介にあがった吉田銀次郎よ、気軽に銀ちゃんって呼んでね」
「ご丁寧にありがとうございます。僕は、永岡涼介といいます」
「あら、礼儀正しくて良い子じゃない。ねぇ、廣井?」
「そうなんだよ〜、言ってた通りりょうくん良い子でしょ?」
おや、僕の話が話題にあがっていたようだ。僕自体は、そんなに面白味のある人間ではないと思うのだが、どんな話をされていたんだろうか。
まぁ、今の感じ的に悪口では無さそうなので、別に気にしてはいないのだが。
「と、こ、ろ、で、さぁ?大槻ちゃん?」
「は、はい!!?なんでしょうか!」
「りょうくんと仲良く入ってきたみたいだけど、どんな関係なのかなぁ?もしかして…付き合ってる?」
「い、いえ!!そんな、ただの友達です!!」
「んー…」
ヨヨコのその発言を受けて、少し考え込むような動作を見せるきくりさん。しかし、直後にパッと表情を変えて笑顔になった。
「うん!そっかそっか!なら良いや!!」
「は、はぁ…」
「りょうくんもりょうくんだよ!見ない間に、すぐ女の子ひっかけて!」
「あ、アンタ、いつもそんなことしてるの!?ハッ…私も狙われてる!?」
自分の身体を掻き抱くようにしながら、こちらをキッ!っと睨んでくるヨヨコ。僕の外聞がどんどん悪くなるからやめてくれ。
「人聞きが悪い」
「いーや!これはきくりお姉さんもおこだよ!」
ぷんぷん!と言いたげな顔でこちらに指を指すきくりさん。うーむ、独占欲や嫉妬心から来るものだろうから、こちらも反論し辛い。
全く、こんな男の何が良いのか、甚だ疑問だ。
「どうしたら許してくれますか?」
「えっ、えーっと…」
僕がそう言うと、モジモジと人差し指をツンツンとくっつけだす廣井さん。お?なかなかあざといなこの人も。まぁ、とても可愛いので許すとしよう。
そして、耳元まで駆け寄ってきたと思うと、ヨヨコや店長さんに聞こえないくらいの声量で、僕に話し始めた。
「また、家に泊めてよ。いつでもいいからさ」
「あっ、はい…」
うぉぉ、ゾクっとした。唐突なウィスパーボイスは心臓に悪い。僕はそういうのに弱い真性の童貞なんだ、勘弁してくれ。
少しパニックになりながらも、あくまでポーカーフェイスを気取る僕に不満顔のきくりさん。なかなかの攻撃力だ、褒めて使わす。
「そういえば、なんで今日は2人でここに来たの?あ、暇なら飲みにでも行く?奢るよー!あんまりお金無いけど、2人の分くらいなら出せるし!」
「アンタ、良い笑顔で良い大人が言うことじゃないわよそれ…しかも、相手は高校生よ?」
呆れ顔でそういう店長さん。へへへ、冗談冗談と笑うきくりさん。ほんとに冗談だったのだろうか。この人なら高校生相手にもお酒を勧めてきそうで怖い。
「でも、私今節酒してるからねぇ〜。あんまり飲まないようにしてるんだぁ。偉いでしょ?」
「そんなことも言ってたわね、まさかあんたの口からそんなことが聞けるとは…」
「えっ」
僕が驚いたように声を出すと、きくりさんはにへら、といつもの笑みを浮かべた。それを見た大槻さんも驚愕したように目を見開いている。
「ね、姐さんが節酒!?何か悪いものでも食べましたか!?」
「大槻ちゃん、なかなか言うねぇ。ちょっときくりお姉さんも傷ついたよ、それは」
禁酒や断酒では無いとはいえ、一度アルコール依存症になった人間が、急にお酒の量を減らすのは並大抵の覚悟じゃないと無理だ。
「大丈夫なんですか?きくりさん。ほら、禁断症状とか」
「まぁー、たまにキツイけどね〜。でも、やるって決めたからにはやらないとさ」
そう言うきくりさんはまぎれもなく「大人」をしていた。不必要に騒ぐことも無くなったみたいだし、これからは機材壊したりお金失くしたりもしなくなるのだろうか。喜ばしいことだが、ちょっと寂しいな。
「それに、大槻ちゃんとりょうくんがお酒飲めるようになるまでは生きてたいからね、必要経費ってやつだよ」
「きくりさん…」
「姐さん!感激です!」
そういえばさっきから、ヨヨコのこのきくりさんへの信奉はなんなんだ。ただの先輩後輩の関係じゃ考えられないくらい慕ってる様子に、少し引き気味になってしまう。
「そういえば、さっきも聞いたけど今日はなんの用事で来たの?」
「あっ、それなんですけど…店長、ちょっとレンタルスペース貸してもらっても良いですか?1〜2時間くらい」
「全然良いわよ、ちょうど暇してたし」
なんかとんとん拍子に話が進んで行っているが、何が始まるのだろう。僕だけが置いていかれてる感じがして少し心細い。ただでさえアウェイといってもいい環境なのに。
僕がそう思っていると、それを察知したのか、きくりさんがおもむろに頭を撫でようとしてきたが、思うようにいかなかったのか僕に屈むように促してきた。
「よしよし」
僕も特に抵抗しないのでされるがままに撫でられているが、本当にこれでいいのだろうか。だが、少なくともきくりさんは満面の笑みで満足そうなのでこれでいいのかもしれない。
「よし、いくわよ涼介…って、なに姐さんに無抵抗で撫でられてんのよアンタ!!甘え上手な柴犬か!!」
それを見て、怒髪天といった様子で肩をパシッと叩いてくるヨヨコ。うぎゃっ、結構強い。ギタリストは全員こんなに肩パンが強いのだろうか。まさかあの後藤さんも…!?
僕はそんな馬鹿なことを考えつつ、フン!っと言っているヨヨコについていく。僕の後ろを当然のようにきくりさんもついてきているが、ヨヨコは特に何も言わなかった。いつもこんな感じなのだろうか。
「なにするんだろうねぇ」
「僕もなにするか言われてないので、もしもの時は守ってくださいね」
「えぇ〜?私じゃ実力不足だよぉ」
「私のこと、猛獣か何かだと思ってます?」
そうは言っても、ガルルルル…と、こちらを威嚇する姿はまさに猛獣なのだが気づいてないのだろうか。
「せっかくどれぐらいギターを弾けるのか見てあげようと思ってるんだから、もうちょっと態度を改めなさい!」
「え!じゃあ、りょうくんのギターが聴けるじゃん!やったー!」
「おお、マジか」
ズビシ!とこちらに指を向けるヨヨコ。どうやら僕の稚拙なギターの腕前を見てもらえるようだ。でも、今日はあいにくギターを持ってきてない、どうするのだろうか。
あと、もうちょっと上手くなってから聴かせる約束だったのだが、このままではきくりさんに僕の初心者ギターを聴かせるハメになってしまう。
「ギターなら私のやつ置かせてもらってるから、それ使いなさい」
「置かせてもらってるっていうか、この前忘れて行っただけよね?ヨヨコちゃん」
「ゔっ…」
店長さんにそう言われ、痛いところを突かれたという顔をするヨヨコ。まぁ何はともあれ、練習に付き合ってもらえるなら願ってもない話だ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って僕は大人しく、少し苦々しい顔をしたヨヨコについて行くのだった。
「ギターをマジで愛してるんなら、指から血が出るまで弾き続けろ」とは、誰の言葉だったか。僕は別にギターを愛している訳ではないが、趣味と言えるものもあまり無いし、憧れの人がそれをしていたから真似てみただけだ。
だからそこに情熱とか、熱量のようなものが付随してくるはずも無く、ただただ練習したコードを指で弾くという行為のみをやって見せた。そうすると、ヨヨコは不可解なものを見る目でこちらを見てきた。
「いや、あんた
「だねぇ、…あとなんか、どっかで聴いたことある音してるんだけど、どこだっけ…?」
2人ともが特に問題なく弾けているという結論を出していた。でも、僕は自分のギターから出る音が『不正解』と思わざるを得なかった。
「いや、これは
「…なによそれ、言葉遊びか何か?」
「いや僕、
「あー…でも、それも含めて弾き始めて一ヶ月なら、結構上手な方だと思うけど」
そう言ってもらえるのは嬉しいのだが、なんだか上達してる気がしないのだ。特定のコードで指がつっかえたようになってしまうので、曲を弾こうとすると行き詰まってしまう。…星歌さんなら、もっと上手く弾けたはずなのにな。
「でも、音は全然おかしくなかったし!ギターの才能あるよ、りょうくん!」
「いや、無いですよ」
僕がキッパリとそう言うと、きくりさんは動きをピタッと止めた。僕が、次に何かを言うのを聞き逃さないためだろう。
「…僕は、ギターが好きだから弾いてるわけじゃないですし。たまたま弾いてみて、
「…んー、でも、ギター弾くの
僕の面倒くさいネガティブな発言に対しても、きくりさんは落ち着いて優しく言い聞かせるように、大人な意見を言ってくれた。
「そんなもんですかね」
「うん!そんなもんだよ。ね?大槻ちゃん」
「そうよ!…というか、そういう意見は曲の一つや二つ弾けるようになってから言いなさい!ふんっ!」
「これは、『折角ギター仲間見つけたのにやめちゃうのは寂しいから、一緒に曲練習しようよ!』って言ってるんだよ、りょうくん」
「勝手に翻訳するのはやめてください!姐さん!」
憤慨した様子のヨヨコを尻目に、僕は少し吹き出した。あまりにも不器用すぎるでしょ、この子。
「ちょっと!何笑ってるのよ!」
「いや、ヨヨコもきくりさんも良い人だなぁと思って」
「えー?いきなりだねぇ、きくりお姉さん照れちゃうよ〜」
「ふ、ふん!ちょっと飲み物買ってくるわ!…お茶とジュースどっちがいい?」
いや、練習を見てもらったしむしろ僕が奢るべきだろと思い、これで好きなの買っていいよ、残ったらあげる。と言い、ヨヨコに500円を渡し自販機に行ってもらった。
「大槻ちゃん良い子だよねぇ、りょうくんはああいう子がタイプなの?」
「ノーコメントで」
図らずも、きくりさんと2人っきりの空間になった。途端に急接近してくるきくりさん。僕は反射的にのけぞるようにして、その急接近を回避する。そして、きくりさんは僕を驚愕させる一言を口にするのだった。
「ねね、りょうくんってさぁ…
動揺、冷や汗、鼓動が跳ね上がった。
「っ!?い、いやなんのことだか…意味がわからないっすね…」
「ふーん…しらばっくれるんだ。でも、きくりお姉さん悲しいなぁ。最初はわかんなかったけど、ちょっと思い出してみたらほとんどそのままだったからさ。先輩のギターを頻繁に聴いたことある人なら、全員わかるよあれ」
獰猛な瞳、肉食獣のような笑み、その顔はたしかに笑顔だが明らかに『怒りと悲しみ』を孕んでいた。
「見せつけてきてんのかと思ったよ、こっちはこんなに我慢してんのにさ。あまりにも酷い仕打ちだと思わない?ねぇ?」
「…ノーコメントで」
「さっきもそれ言ってたね…。まぁいいよ、
少し離れ、真面目な顔に切り替えて、きくりさんはそう言った。なんだろうか、アドバイス?
「
それは、バッサリと切り捨てるような、音楽を真摯にやる人間としての意見だった。改めて、僕はギターを弾く才能の無い人間なんだと自覚した。しかし、そんな僕を見かねたのか、きくりさんは柔らかい雰囲気で再度話し始める。
「…別に、憧れを追いかけるのは悪いことじゃ無いんだけどさ、固執しちゃダメだよ。それは、自分の足を止めるに等しい行為だから。りょうくんはまだ若いんだから、むしろそれを
「そう、ですね」
星歌さんを、僕が超える?
ダメだろう、それは。僕が終わらせたんだあの人を。そんな人間が、あの人の先を行って良いわけがない。
ただ、でも、僕はもう一度聴きたかっただけなんだ。あの人の、魂が震えるようなギターを。
「むっ、さては難しく考えてるなぁ?うーん…あ、そうだ!今度私のバンドのライブ来なよ!色々、見えてくるものもあるかもだしさぁ〜」
きくりさんのバンド…「SICK HACK」か。まぁたしかに、ここでウジウジ考えてても仕方ないことだろう。今、いきなり解決するような話でも無い気がするし。
「じゃあ、チケット代払いますね。いくらですか?」
「そんなんいらないよ!私が出すからさ、気にしないで」
「いいんですか?きくりさん、いつもお金に困ってるイメージが…」
「さっきも言ったけど、節酒中だからねぇ。物は壊さないし、お酒に消えてた分のお金が余ってるんだぁ〜」
だから、遠慮せずに来てよ。とヘラヘラした顔で言うきくりさん。正直、僕も別にお金に困ってるわけでは無いのだが、そう言ってくれるならお言葉に甘えよう。
「…ありがとうございます」
「へへ、良いんだよぉ。この前泊めてくれたささやかなお礼とでも思ってよ」
「ただいま〜、コーラと紅茶と緑茶買ってきたけど何が…って、なにこの空気…!?」
あっ、ヨヨコのこと忘れてた。僕は驚愕した顔で入ってくる女友達に、少し救われたような気持ちになるのだった。
今回、書いててイライラするくらい涼介君がネガティブですごい書きにくかったです。
まぁ、ここでフラストレーション溜めといた方が爆発させるのが楽しいから仕方ないね。