◆◆◆おにいちゃん   作:叶斗

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[想い]

「おはよう」

 

 最近気がついたことがある。それは、◆◆◆おにいちゃんは起きた直後に関しては非常に寝ぼける度合いがとんでもないこと。

 それはそれは、きっと寝起きで目の前にいるわたしの存在はいつも、何か幸せな夢の中の、幸せな住民の一人として映っていることだろう。全く知らないけれど。

 

 そう、そして今日は、念願の遊園地に行く日でもある。それはつまり、すごく早く起きないといけないわけで、先に起きた私は……◆◆◆おにいちゃんの寝ぼけた姿をじっくり観察することができた。

 

 ◆◆◆おにいちゃんが少し起きる。

 

「ふぁああ、おはよう……」

 

 ふにゃふにゃしている。

 

「美味しいご飯作ってくれるの〜? 作ってくれるって言ってくれたよね〜? やったぁ?」

 

 そして、わたしが喋るでもなく、◆◆◆おにいちゃんは幼児退行して喋る。

 

「美味しいから好きだよぉ〜、いつもありがとう」

 

 そして、唐突に現れた「好き」で、わたしの気分は有頂天である。

 

 え、え、「好き」って今、「好き」って言ってくれた! わたしの(料理の)ことを好きって言ってくれた!

 すごい、録音しておけばよかった…………。

 

 そうして少し時間は過ぎ、寝ぼけタイムは終了し、わたしの作った朝ご飯を二人で食べて、◆◆◆おにいちゃんは一旦自分のお家へと帰って、それぞれ支度をする。

 

 心の中はるんるん気分で、支度を終えて、◆◆◆おにいちゃんのところへ行く。

 

「いこっか」

 

 手を繋ぎ、駅に二人で歩き始める。

 念願の遊園地に。

 

 

  ……………

 

 

 遊園地は、大きかった。

 

「すご……」

 

 思わず声が漏れてしまうほどには、迫力があった。

 

 開園十分前。

 

「行こ! 行こ!」

「引っ張らなくていいから、ゆっくり行こう」

 

 完全にはしゃいじゃってるなぁ〜。入ってもないのにすごい楽しい。これからここに行くんだっていうわくわくもとっても大きそう。

 

 開演時間になって、入園する。

 

「はい、こちらが、本日の行程表になります!」

 

 そう言って、◆◆◆おにいちゃんにメモを送る。

 行程表といっても、これの次にこれに乗るとかちゃんとした計画があるわけでもなくて、◆◆◆おにいちゃんが乗りたいもの、わたしが乗りたいもの、見たいものとかを書いたりしたもの。

 

 遊園地の地図を開く。今いるここから近そうなのは……――

 

「まずは、車のアトラクションに乗ろうよ!」

 

 車がテーマの、大きい絶叫系アトラクション。遊園地の敷地をサーキットに見立てて、ぐるっと周るアトラクション。

 

「はしゃがない、落ち着こうか、危ないから」

「はい……」

 

 ぴしゃりと◆◆◆おにいちゃんは言う。

 危ない危ない。

 

「こほん……では、行きましょう」

「はいはい」

 

 そのアトラクションは、色々な車がレースをするもの。

 屋根のないスポーツカーや、フォーミュラカーや、車ですらなさそうな戦闘機みたいなのもあり、二人で乗ったのはスポーツカー。

 

「わくわくだね!」

「そうだね」

 

 横にいる心なしか、◆◆◆おにいちゃんも目をきらきらさせているような気がする。

 

 車はゆっくりと動き、三台が横に並ぶ。

 

「絶対に勝つ」

 

 アトラクションなので、操作はできないけれど。

 

 エンジンの音が鳴り、前方上のバーにかかる赤いライトが灯る。

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……――

 

 消灯。

 

「きゃあああああああぁぁぁ」

「うおおおおぅぅ」

 

 車が急加速をする。

 座席の前のスピードメーターを見れば、あっと言う間に時速三〇〇キロメートルを表示する。

 誰が勝っているとかを見る余裕はなく、超高速で車は進む。

 そうして車は直線区間を抜け、くねくねとした区間に入る。

 

「死んじゃう、飛ばされちゃうっ、きゃあああぁぁ」

「わあああああぁぁ」

 

 隣の声も聞こえない。上に下に右に左に前に後ろに引っ張られる。

 突然コースが分かれて、わたしたちの車は地下に突っ込む。

 

「ぶつかるぶつかるぶつかるーー!!!!」

「あははははっ!! はははは…………!!」

 

 綺麗な景色を楽しむ余裕もなく、ただただ叫ぶ。

 

 そして、地下を抜け、再び直線区間。他の車と合流し……二位くらいでチェッカーフラッグを受ける。

 

 そうして車は速度を落として、止まり、車を降りる。

 

「…………」

「…………髪乱れまくりだね……ははは!」

 

 ◆◆◆おにいちゃんは楽しそうに笑う。

 

「本当に……ぶつかるかと思った!! 最初の加速もすごかったし、飛ばされるかと思ったよ!! 死ぬかと思った」

「ね! 本当にいろんなものがびゅんびゅん通り過ぎていったよね!」

 

 初めて見る、子供のような顔をする◆◆◆おにいちゃんが、なんだかとっても心にくるものがある。

 

「景色は見れた? わたし全然見れなかった」

「あんまり……? でも、地下は綺麗じゃなかった?」

「ぶつかるかと思って、目、閉じてた」

「もったいない」

 

 感想を語り合う。

 そしたら、次なるアトラクションに行こう!

 

「次は何乗りたい? わたしはゆったりしたやつに乗りたい」

「さすがにそうだね次は……この、ゆったりしてそうなボートはどう?」

「いいね、行こう!」

 

 ◆◆◆おにいちゃんが地図で指差したのは、ゆったりしてそうなボートのアトラクション。色々なキャラクターと、色々な音楽が楽しめるもの。

 

 歩いて、そのアトラクションのところに着く。

 

「わぁ、おもちゃみたいな建物なんだ……」

 

 おもちゃのような建物、屋内のボートのアトラクション。

 

 建物に入ると、色々なものが大きくなっていたりして……――

 

「ちっちゃくなっちゃったみたいだね!」

「そうだね〜」

 

 扉、ボール、人形、トランプ……色々なものが大きくて、わたしたちがちっちゃくなってしまったように感じる。

 

 しばらく歩いて、乗り場に着く。

 ボートはがちがちに固定される座席ではなく、横に長い座席なので、なるべくくっつくように座る。

 

 ボートが動き出し、おもちゃの世界に出発。

 

「わぁ……」

 

 そうして、見えたのは、たくさんのお人形のキャラクターが楽しげに動き、暮らす世界。

 

「綺麗……」

「綺麗だね……」

 

 感嘆する。きらきらの世界が、楽しげな音楽が、わたしたちの心に伝播してくる。

 

「あ! あのきつねさん!」

「きつねさんがどうしたの?」

「可愛いなって、ずっと思ってた子!」

「そうなんだ、可愛いね」

「これ乗り終わったら、あのきつねさんのぬいぐるみさんをお迎えしにいこう!」

「そうだね、早いけどお土産も少し買いたいし……ご飯も食べようか」

「そうだね!」

 

 ボートは進んでゆく。色々な音楽、色々なキャラクター、いろいろな世界をゆっくりと巡り、ボートは最初の乗り場に帰る。

 

 降りて、外に出ると、周りのものは普通の大きさで、おもちゃ世界を離れてしまったんだなと思わせる。

 

「ふっふーん」

 

 きつねさんをお迎えできる! と心を弾ませて、一番大きなお土産屋さんに二人で向かう。

 

「きつねさんのぬいぐるみさんと、カチューシャ、パーカーと、たくさん手に入れる!」

「いいね! ……くまさんとか、お迎えしてみようかな」

 

 何を買う、何がお気に入りなんて話をして、お土産屋さんに入る。

 

 ◆◆◆おにいちゃんとは分かれて、もふもふのきつねさんのいるところに辿り着いて、あれこれグッズも買う。

 

 すっごい可愛い! もふもふちゃん! お洋服もたくさんあるんだ?! 一着買ってあげないと! あと、パーカーも買おう、カチューシャも買って、しっぽ! 今日一日、わたしはきつねさんだ!

 

 きつねさんグッズをたくさん買って、◆◆◆おにいちゃんと合流する。

 

「きつねさん一色だね」

「◆◆◆おにいちゃんこそ、くまさん一色!」

「★★★は、パーカーにカチューシャをつけてるの? 耳六個あるじゃん」

「細かいことはいーの! ◆◆◆おにいちゃんだって、カチューシャつけて、耳四個あるし!」

 

 わたしはパーカー(フードにお耳つき)、カチューシャ、きつねさんぬいぐるみを抱えた格好、◆◆◆おにいちゃんはくまさんカチューシャをつけて、ぬいぐるみを抱えたを格好で、お互い笑い合う。

 

 そんな時間が、過ぎてゆく。

 

 

  ……………

 

 

 夜、花火が打ち上がり、色々なショーが終わったあとで。

 綺麗にライトアップされた、この遊園地のシンボルのようなお城の前に行く。

 

「◆◆◆おにいちゃん」

「なぁーに?」

 

 深呼吸。

 

「こっちを見てください」

 

 向き合う。

 

 なんとなく、違う空気を察してくれたのか、ぬいぐるみさんを抱えながら真面目にこちらを見る姿は可愛い。

 

 深呼吸。

 

「――……わたしは、◆◆◆ ◆◆◆くんのことが、好きです」

 

 前置きなんて要らない。

 素直に伝える。

 

 この近くだけ、ひどく静かだ。そんな気がする。

 

 続ける。

 

「昔から昔から、◆◆◆おにいちゃんのことが好きでした。今でも、今この瞬間も、◆◆◆おにいちゃんのことが好きです」

「………………」

「昔からわたしに優しくしてくれたこと、昔から遊んでくれたこと、お料理を作ってくれたこと、◆◆◆くんがしてくれたたくさんのことが嬉しかったです」

「………………」

「したいことのために、外国にだって行けてしまうまっすぐな姿、それでいて、弱音なんて言わないで、頑張り続けられるその姿に憧れました」

 

 本心を、ただただ本心を伝える。

 ◆◆◆おにいちゃんと一緒にいることができた十何年。

 大事な大事な告白で、「◆◆◆おにいちゃん」と言ってしまうことは、もう、その関係性が、きょうだいみたいな関係が固定されそうなので、避けた。

 

「わたしは本当に、本当にその姿に憧れることができて、その憧れで、そのおかげで、お料理も、ヴァイオリンも、色々なことを折れずに、し続けられているんです」

「………………ありがとう」

 

 涙が溜まって、すぐにこぼれていく。

 何十年の関係を、変えてしまうこと。その覚悟は並じゃなかったし、いざ言うとなると、何かが本当に色々なところに訴えかけてくる。

 

 実を言うと、お出かけをすると決まったとき(病院のとき)から、その時に「好きだ」と言おうと考えていた。

 ロマンチックな、素敵な場所を考えた。

 二人で楽しんだ後に告白をしたかった。ちょっと成功しやすくなるかもしれないし。

 

「それで、それで、そんな、わたしの希望の◆◆◆くんのことを、今までは憧れの、頼れる年上の子だって思っていました。でも、◆◆◆おにいちゃんが日本を離れてから、色々考えて、考えて、思ったんです。横に並びたいって、そう思ったんです。だから、だから、頑張って頑張って、色々なことを覚えたんです。これからも覚えていくんです。だから……――」

「………………」

 

 少し思考が冷静だ。目の前にいるその人を決して逃すまいとして、体を近づける。

 

「――……わたしのことを、◆◆◆くんの横に立たせてはくれませんか?」

「……………………………………………………」

「好きだから、横に立てるように頑張ったんです。今のわたしは、◆◆◆くんの横に立てますか?」

「……………………………………………………」

 

 涙が止まらない。それでも、嗚咽をこらえて、用意していた台詞を、五割ほどは全うして、言いきった。

 でも、五割だけ。だから、台詞なんて用意したって、やっぱり上手くは言えないものなのだろう。

 

「……答えてほしいんです」

 

 できるなら、今すぐに。

 きっと、わたしの好意を、◆◆◆おにいちゃんが感じて、考える時間は、たくさんあったはずだと思う。その好意を口に出しているだけ、自分で言ってみただけにすぎないかもしれない。

 でも、わたしにとっては本当に大事なことで、だから、逃さない。答えてほしい。

 

 無言の時間が少し続く。答えに期待して、でも、聞きたくない答えかもしれないという不安も抱え、きつねさんを強くだきしめる。

 

「……………………………………………………」

 

 ああ、なんてかっこよくて、可愛いんだろうと思う。

 そして、頼りたくなってしまう。

 

 そんな、◆◆◆おにいちゃん。すきを見せることのない◆◆◆おにいちゃん。見せるすきがあったとして、それすらも完璧な◆◆◆おにいちゃん。いつか、◆◆◆おにいちゃんに頼られる日が来るのだろうかと、思いたい。

 

 「◆◆◆おにいちゃん」と呼んでいることとか、対等じゃないとか、考えないことにしたのだ。

 逆に、中身から、好きだっていうことで、先に対等な関係であり続ければ、自然と対等になれるかもしれないとも思ったし、もう倒れたくはない。それに、抜け出す意志だけはしっかりと表明しておくべきだとも思った。

 わたしの、だめだめな哲学。論理も何もないけれど、わたしのことを震わせるには十分なでたらめだった。

 

 …………ついに、◆◆◆おにいちゃんは口を開く。

 

「★★★の気持ちは、とっても嬉しい。★★★は昔から、世話の焼ける子で、でも、頑張り屋さんで、おてんばで、頭の良い子だった」

 

 恥ずかしいことを言う。先に昔の話を持ちだしたのはわたしだけれど。

 

「子供とか、思っていたことも昔はあったと思うし、懐かれていると感じられて、嬉しかった」

 

 分かっている。改めて言われると、そりゃあそうだろうなとも思う。だから、それから抜け出すために頑張ったのだ。その覚悟を決めて、作戦を結構したのが今日なのだから。

 

「でも、今は少し違う。三年間日本を離れて、戻って、実際に会って、しばらく過ごしたとき、『★★★はすごい子なんだ』って思った。料理も頑張って、ヴァイオリンも頑張って、今もしっかりと頑張り続けている。頑張り続けられるすごい子なんだって思った」

 

 ◆◆◆おにいちゃんに見てもらいたくて、自分の好きなもの、やりたいことを見つけたくて始めたことが、◆◆◆おにいちゃんの中で、どう映っていたのかを今初めて聞くことができて、嬉しく思う。

 

 頑張ってきてよかった。

 

「そんな、★★★が、たくさん、『好き』を伝えてくれていたのは、薄々気づいてはいた。薄々どころではないね。それが、年上のきょうだいに向けるような親愛とかとは、もう、今は違うんだってことにも、なんとなく気づいていた」

 

 ひと呼吸。

 

「★★★は『◆◆◆くんの横に立てますか?』と訊いてくれた。……色々なことを頑張って、こっちだって尊敬したいくらいになった、健気で可愛い子に、こんな素晴らしいことを訊かれて、答えられる答えは一つ」

 

 大言壮語、だけれど、きっと、◆◆◆おにいちゃんの、◆◆◆くんの想いがここには詰められている。

 

 ◆◆◆くんもまた、一歩近づき、そしてだきしめてくれる。

 

「大好きだよ。一緒に、手を繋いで、歩き続けよう」

 

 ◆◆◆くんの胸元で泣き崩れかけるも、◆◆◆くんはわたしを離そうとはしなかった。

 

「ありがとう……ありがとう……」

「こちらこそ、ちゃんと言ってくれて、すごく嬉しかったよ」

 

 泣き続ける。

 

 しばらく泣き続ける。

 

 でも、段々と、嬉しさが、「好きだ」って言われた嬉しさが心の中に湧いてくる。

 

 もう、一人じゃなくて、願いは叶って、折れることはないんだって、体中で理解する。

 本当に本当に今は嬉しい。

 

 しばらくして……閉園の時間が迫っていることを告げる鐘の音が響く。

 

「……いっしょに帰ろう、◆◆◆くん」

「もちろん」

 

 

  【終】




本作は、夢小説と恋愛物語がくっついた、やや特殊な作品です。どうだったでしょうか。

少し解説をすると、一、二が妄想(夢)、三が過去(夢)、他が物語の部分になります。

思ったままの評価を、いただけると嬉しいです。

本作は、実験的に作成しました。自身の文章を書くペースや、どのような文章を書くことが得意かなど。また、夢小説というジャンルは、なぜ純文学などで流行らなかったのだろうということも実験としてありました。得られることは多かったです。

本作を制作し始めたのは、十二月二十一日、書き終えたのは本日の十二月二十五日という、突貫工事の作品でもあり、最終確認の段階で多くの拙さが見受けられました(実験作品ですから当たり前ではあるのですが)。ただ、この作品自体が誰かのインスピレーションとなれば幸いです。また、本作自体を作品としての完成度の高いリメイクにすることも予定していますので、見かけたら、見てみてください。ありがとうございました。
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